動物園の小鳥大量死!
 ちょっと聞いたこともない細菌が検出された。名前は「エルシニア・シュードツベルクローシス菌」。調べてみると、食中毒の原因となる菌として紹介されていた。有名なペストの病原体であるペスト菌(Yersinia pestis)が、このなかまだと聞くと、ちょっと怖い。何が起きたのだろう?

 広島市安佐動物公園(安佐北区)は2月4日、園内の「ぴーちくパーク」の小鳥舎で飼育していた小鳥49羽が1月中旬から相次いで死に、うち2羽の肝臓から人に食中毒を起こす「エルシニア・シュードツベルクローシス菌」が検出されたと発表した。

 同公園は、2月1日から小鳥舎への入場を中止しているが、来園者の健康被害の報告はないという。

 同園によると、小鳥舎では13種類、約300羽の鳥を飼育しているが、17日~29日にジュウシマツ32羽、カエデチョウ科の17羽の計49羽が死んだ。解剖でも明確な病変がなく、当初は冷え込みが原因とみられたが、28日に菌が検出された。

 舎内のウズラやハトなどに異常はなく、同園は餌や水を介した感染ではなく、菌を持った野ネズミなどが入り込んだ可能性があるとみている。

 小鳥舎は、来園者の通り抜けが可能の施設だが、通常は鳥に直接触れることはなく、人が感染するのも飲み水を介したケースが多いことから、同園は「小鳥舎を訪れただけで感染する可能性は低い」としている。ただ、念のため2週間程度、入場を中止し、床や巣箱の消毒などをするという。(2013年2月4日 読売新聞)


Yersinia enterocolitica

 エルシニア・シュードツベルクローシス菌
 エルシニア菌は、グラム陰性の桿菌で腸内細菌科に属しており、冷蔵庫内温度である4 ℃でも発育できる。11種類に分類される。この中に「エルシニア・シュードツベルクローシス菌(Yersinia pseudotuberculosis)は存在する。

 エルシニア感染症は、エルシニア属の細菌による感染症。エルシニア属には、Yersinia pestis (ペスト菌)、Yersinia enterocolitica、Yersinia pseudotuberculosis などが属する。

 ここでは、食中毒の原因ともなるエルシニア(Yersinia enterocolitica 、Yersinia pseudotuberculosis)について話題とする。

 エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)は、下痢や腹痛をともなう感染症を引き起こす。急性腸炎が多いが、急性虫垂炎様、敗血症、髄膜炎、ポリオ様、腎炎、結節性紅斑や関節炎まで多彩である。

 エルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)は、乳幼児に多くみられ、発熱は殆ど必発であり、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐、発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観察される。川崎病と同じ症状を示す例などがある。

 感染経路は、汚染された飲み水(井戸水)、ミルク、ブタ肉、食物を介して経口的に感染する。保菌動物はブタ、犬、猫、ネズミ、白鳥など。ブタの小腸を扱った母親から赤ちゃんに感染した例もある。季節は夏より冬に発生しやすい。潜伏期間は、4〜6日。

 日本での集団発生としては、1972年に下痢症患者から初めてYersinia enterocolitica 菌が分離されてから現在までに、14例の集団食中毒の発生が確認されている。

 患者数が最も多かったのは1980年に発生した沖縄県の事例で、1,051名の報告がなされた。最近では1997 年に、徳島県の病院や学校の寮で患者66 名発生。ペストは大正以来日本で発生はない。


 主な流行事例
 エルシニア(Yersinia enterocolitica 、Yersinia pseudotuberculosis)は、0-4度の冷蔵庫内の温度でも増殖可能です。このように寒冷に強いため、エルシニアは好冷菌と呼ばれることもあります。アメリカ合衆国での統計によれば、食中毒の病原体の分離件数について、月別に見てみると、6-8月の3ヶ月間で年間の45%を占める腸管出血性大腸菌O157、38%を占めるサルモネラ、37%を占めるカンピロバクター、37%を占める赤痢菌と、夏に発生が多い食中毒菌が多い中で、エルシニアについては、1月をピークとして、1、2、12月の3ヶ月間で年間の47%を占めていて冬に発生が多いです。

 アメリカ合衆国における、原因食品が確定した最初のエルシニアの食中毒事件は、1976年9-10月のことです。ニューヨーク州のOneida郡での学校のカフェテリアのチョコレートミルクによる食中毒事件です。Yersinia enterocolitica(O8群)によるものでハイスクールで228人の患者が発生しました。36人の子供たちが入院し、16人が虫垂切除の手術を受けました。チョコレートシロップと牛乳を混ぜ合わせた際にエルシニア(Yersinia enterocolitica)が混入したものと考えられました。エルシニア(Yersinia enterocolitica 、Yersinia pseudotuberculosis)について、アメリカ合衆国のFDA(食品医薬品局:Food and Drug Administration)が調査・研究を始めるきっかけとなった事件です。

 1981年7月にはアメリカ合衆国ニューヨーク州Sullivan郡での夏のダイエット・キャンプで239人の患者が発生したYersinia enterocolitica(O8群)による食中毒事件が起こっています。ダイエット・キャンプには、参加者とスタッフで合計455人いました。症状は、腹痛・発熱・下痢や吐き気・嘔吐でした。7人が入院し、エルシニア症と判明する前に5人が虫垂切除の手術を受けました。粉乳から作られたミルクか七面鳥のヤキソバを食べた人で発病が見られました。調理の段階でミルクとヤキソバにエルシニア(Yersinia enterocolitica)が混入したものと考えられました。

 1995年10月、アメリカ合衆国東部のバーモント州とニュー・ハンプシャー州でYersinia enterocolitica(O8群)による食中毒事件が起こっています(参考文献14)。生後6か月から44歳までの10人の患者が発生し、3人が入院し、1人が虫垂切除術を受けました。A乳業の瓶詰の殺菌済み牛乳がYersinia enterocolitica(O8群)によって汚染されての食中毒事件と考えられました。牛乳の殺菌過程には問題はありませんでした。A乳業には牛と豚の家畜小屋があり、Yersinia enterocolitica(O8群)が便から検出された豚がいました。牛乳瓶はリサイクルで機械による洗浄が行われていましたが、仕上げの洗浄水には、敷地内の未処理の井戸水が使われていました。仕上げの洗浄水には、熱処理あるいは化学処理された水を使うことが推奨されています。また、家畜の世話をする従業員は、牛乳の殺菌過程には関わっていませんでしたが、リサイクルの牛乳瓶は取り扱っていました。仕上げの洗浄水に使われる敷地内の未処理の井戸水がYersinia enterocolitica(O8群)で汚染して、殺菌済みの牛乳を入れる前に牛乳瓶が汚染されてしまった可能性があります。また、家畜の世話をする従業員が、出荷前の牛乳瓶を取り扱うことで牛乳瓶の外側をYersinia enterocolitica(O8群)で汚染した可能性もあります。

 日本では、1997(平成9)年6月22日に、徳島県徳島市川内町で66人の患者が発生したエルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica 、03群)による食中毒事件が起こっています。6月19日の仕出し弁当が原因と推定されました。仕出し弁当は、病院・学校の寮で食べられました。摂食者数230人(発病率28.7%)、死者数0人(致死率0.0%)でした。弁当屋が原因施設とされました。施設内の冷蔵庫・冷凍庫内は整理整頓ができておらず、雑然とした状態であり、保管中に相互汚染され、不十分な加熱調理により事故に結びついたと推察されました。(横浜市衛生研究所)


 予防のためには・・・
1. 冷蔵庫を過信しないようにしましょう。エルシニア(Yersinia enterocolitica 、Yersinia pseudotuberculosis)は、冷蔵庫内でも増殖可能です。冷蔵庫内は、整理整頓し、期日が過ぎたものは処分しましょう。エルシニアは、冷凍された食品中でも、長期にわたって生存可能です。
2. 生の肉や、加熱不十分な肉は、食べないようにしましょう。
3. 牛乳は、殺菌済みのものを飲みましょう。生水を飲まないようにしましょう。未消毒のミルクから作ったソフトチーズを食べるのは控えましょう。
4. 料理前、食事前は、手をよく洗いましょう。
5. 動物と接触した後、生の肉を扱った後、トイレの後は、手をよく洗いましょう。
6. 肉用のまな板と、他の食材用のまな板とは、別にしましょう。
7. 動物の糞は、衛生的に処理しましょう。(横浜市衛生研究所)


参考HP 横浜市衛生研究所:エルシニア感染症について


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