中国大気汚染 
 中国の大気汚染が酷い。先月は中国全土の4分の1、全人口の半数近い6億人に影響が出たという。中国で深刻化する大気汚染の根本的原因は、経済成長を優先し、環境対策を先送りしてきたことにある。

 中国環境保護省は1月30日、有害物質を含む先の濃霧について、日本の国土の3以上に当たる約143万平方キロメートルを包み込んでいると発表。これまで北京と天津市、河北と山東省で、6段階ある大気汚染指数で最悪の値である「深刻な汚染」となったと明かした。

 首都・北京はスモッグで覆われる日が続き、「北京ぜき」が流行語になった。しかし、観測体制は整っておらず、中国での詳細な汚染実態は分からない。在留邦人からは健康への影響を懸念する声が上がる。北京の日本大使館は説明会を開き、外務省も専門医を派遣する予定だ。

 ガソリンは低品質で、汚染物質の硫黄分の濃度は欧州や日本より格段に高い。石炭火力発電所の環境設備も貧弱だ。華北地方で続いた低温の影響で暖房用の石炭の使用量が増え、汚染に拍車をかけたという。

 中国政府はガソリンの品質向上などに乗り出したが、環境対策を怠れば、つけは国民に回り、経済成長も制約することを認識してほしい。日本と中国、韓国は毎年、環境相会合を開いている。中国からの越境汚染に悩んでいるのは韓国も同様で、3カ国は黄砂問題などで共同研究に取り組んでいる。越境汚染問題の解決は東アジア共通の利益になる。日本は、公害問題を経験した国として、環境分野の技術協力を促進すべきだ。


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 飛来する汚染物質
 汚染物質は偏西風に乗り、国境を越えて日本にも飛来している。特に問題となっているのが、肺がんやぜんそくを引き起こす恐れがある微小粒子状物質「PM2.5」だ。工場の排煙や自動車排ガスなどが発生源で、西日本各地で普段の濃度を超える値が観測されている。

 富山県立大学工学部の渡辺幸一准教授(大気物理化学)は「PM2.5の原因物質である二酸化硫黄の世界最大の排出国が中国で、被害が日本に及んでいる」と指摘する。

 中国大陸から日本に流れる気流について研究する渡辺氏は、日本海沿岸に近い富山県・立山で、雪山に付着した有害物質を観測。調査の結果、その多くが中国から流れてきたものだったことが判明した。

 「北京や上海、特に黄海沿岸域の工業地帯などを通過する大気が有害物質を運んできたとみられる。気流の流れをみると、この大気は、北海道や日本海沿岸域、太平洋岸にも達している」(渡辺氏)

 政府は、観測網の充実や日本への影響評価を盛り込んだ緊急対策をまとめたが、迅速な対応を求めたい。今のところ、汚染物質の飛来は健康に影響が出るレベルではないという。現時点での対策の基本は、モニタリング体制の整備と国民への適切な情報提供だろう。

 PM2.5は2009年に環境基準が策定された。地方自治体が常時観測しているが、全国の測定局は約550カ所で、国の目標の1300カ所には届いていない。データは自治体や環境省が設置するウェブサイトで公開されているものの、アクセス数の急増で、環境省のサイトはつながりにくい状況が続いている。(毎日新聞 2013年02月11日)


 微小粒子物質PM2.5とは何か?
 今回話題になったPM2.5とは何だろうか?PMとは、英語でParticulate Matter。2.5とは、直径が2.5μm以下の超微粒子のこと。微小粒子状物質という呼び方もある。

 大気汚染の原因物質とされている浮遊粒子状物質(SPM)は、環境基準として「大気中に浮遊する粒子状物質であってその粒径が 10μm以下のものをいう」と定められているが、それよりもはるかに小さい粒子。

 PM2.5はぜんそくや気管支炎を引き起こす。それは大きな粒子より小さな粒子の方が気管を通過しやすく、肺胞など気道より奥に付着するため、人体への影響が大きいと考えられている。

 代表的な微小粒子状物質であるディーゼル排気微粒子は、大部分が粒径0.1~0.3μmの範囲内にあり、発ガン性や気管支ぜんそく、花粉症などの健康影響との関連が懸念されている。

 大気中粒子状物質の発生源としては,ボイラー、焼却炉等のばい煙を発生する施設、自動車、船舶等、人為起源がある。また、火山の噴煙や黄砂、花粉など植物由来、海塩等の自然起源など多様な要因がある。

 日本では、平成21年9月に,環境基準が設定された。環境基準は、1年平均値が15μg/㎥以下であり、かつ、1日平均値の年間98パーセンタイル値が35μg/㎥以下であることとされている。


 微小粒子物質PM2.5と健康の関係
 代表的なPM2.5であるディーゼル排気微粒子は、大部分が粒径0.1~0.3μmの範囲にあり、発がん性や気管支ぜんそく、花粉症などの健康影響との関連性は多くの人が知るところにある。ほかにもさまざまな研究により健康影響との関連性が報告されている。短期曝露による健康影響については、世界中で100を越える研究の大部分で微小粒子濃度との関連性が示されている。

 例えば、PM2.5濃度が10μg/m3上昇すると事故を除く全死亡や呼吸器系、循環器系の死亡リスクが0.数%~数%程度増加すると推計されている。日本でも、全国20地域の死亡データを統合した解析結果では、呼吸器疾患死亡とPM2.5濃度の関連性がみとめられている。

 長期曝露による健康影響については、コホート研究による死亡との関連性が報告されている。最も有名で重要なコホート研究といわれているのは、米国ハーバード6都市研究と米国がん学会(ACS)研究と呼ばれるもの。

 これらの結果では、大気汚染濃度と死亡との間に有意な関連性が見られ、特に微小粒子との関連性が大きいとの報告がされているという。 しかし、PM2.5は多くの化合物から構成され、かつ様々な大きさを持つ粒子の混合体であることから、大気汚染物質の中でPM2.5をひとつのカテゴリーとして取り上げることはできても、それを構成する特定粒径の化学成分に分解して健康リスク評価を行い、再びそれらのリスクを統合してPM2.5全体のリスクとみなすことはできない。

 また、PM2.5はその特徴から同一質量濃度であっても成分が変動することもあり、疫学知見に基づく評価において、集団におけるPM2.5への曝露による健康影響に閾値の存在の有無を明らかにすることはたいへん難しいことだそうだ。

 昨年定められた日本の環境基準は、数多くの信頼性の高い科学的知見及び疫学知見を基につくられてはいるものの、依然疫学知見の持つ様々な不確実性に対して配慮し、不確実性を減らすための調査研究が重要な課題となっている。

 日本の大気汚染状況は、近年ほぼ横ばいからゆるやかな減少傾向が見られる。しかし、米国と比較したとき、PM2.5全体の濃度は日本の方が高い傾向にあり、成分としては硫酸イオンや元素状炭素が特に高くなっている。 空気はあるのがあたりまえのことで、見て触って確認するわけではないために、その質の重要性を私たちは往々にして忘れている。室内の空気環境により生じるシックハウス症候群はそんな無頓着さを示す例ともいえる。

 したがって、PM2.5を含む大気質はどこかの誰かの問題ではありません。家の中も外も清浄な空気質である環境づくりには、私たち一人ひとりが最新のデータや報告を正しく理解するよう努める必要があるといえる。


参考HP 100%自然素材主義:微小粒子状物質PM2.5の現状と今後の展望 EICネット環境用語集:PM2.5


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