統合失調症の要因
 統合失調症とは、日本国においては、2002年(平成14年)まで精神分裂病と呼ばれていた。発病率は全人口の約1%程度と推計されている。この症状の担当科は精神科であり、精神科医が診察に当たる。

 今回、科学技術振興機構(JST)、藤田学園(藤田保健衛生大学)、生理学研究所(生理研)らの研究チームは、遺伝子操作により脳内で軽度の慢性炎症を起こさせたマウスは、脳の一部が未成熟な状態になっており、その結果、「作業記憶」の低下や巣作り行動の障害が引き起こされていることを明らかにしたと発表した。

 成果は、藤田保健衛生大 総合医科学研究所の宮川剛教授、生理研の高雄啓三特任准教授らの共同研究グループによるもの。研究はJST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の一環として行われ、詳細な内容は、米国東部時間2月6日付けで米国神経精神薬理学会誌「Neuropsychopharmacology」オンライン版に掲載された。

 統合失調症は、あらゆる人種や地域において、総人口の約1%で発症するが、未だに十分な予防・治療法が確立されていない精神疾患であり、近年、その原因遺伝子探索に向けた大規模な「ゲノムワイド関連解析」が実施されている。その結果、統合失調症は単独の遺伝子変異で引き起こされることはごくまれで、多くの場合は複数の小さい効果を持つ遺伝子多型による遺伝的要因とさまざまな環境要因の組み合わせによって発症するものであると考えられるようになった。


Schizophrenia

 また、複数の信頼性の高い大規模解析により、免疫に関わる遺伝子情報が多く含まれる領域である「主要組織適合遺伝子複合体(MHC)」において、統合失調症に関連する遺伝子多型が多数同定されており、そのMHC領域と統合失調症との関係が注目されるようになってきており、研究グループも発足された2003年から、160を超す遺伝子改変マウスの系統に対し、「網羅的行動テストバッテリー」を用いた行動調査を実施してきており、今回、それらの中から「Schnurri-2欠損(Shn-2 KO)マウス」が、顕著な行動異常を示す系統であることを見出したという。ちなみにShn-2は当初、MHC領域に結合する分子として発見されたが、現在ではMHC領域にある遺伝子の発現制御に関わっているものであると考えられるようになっているという。


 Shn-2遺伝子ノックアウト(KO)マウス 
 今回の研究では、Shn-2 KOマウスは、野生型マウスに比べて作業記憶(状況の変化や作業の進行に応じて、必要な情報の処理と保持を行う一時的な記憶機能)が悪くなっていたほか、「プレパルス抑制(PPI)」の障害、社会的行動の低下、巣作り行動の障害、快楽消失など統合失調症とよく似た行動異常のパターンを示すことが網羅的行動テストバッテリーによる解析で明らかにされた。

 PPIは、強い刺激、例えば大きな音をヒトや動物に突然与えると驚愕反応が引き起こされるが、その刺激の直前に微弱な刺激(小さな音)を提示すると驚愕反応が抑制されること現象であるが、統合失調症の治療薬として使われている「ハロペリドール」の投与で改善することが確認されたとのことで、同マウスで見られた一連の行動異常が統合失調症患者で見られる認知障害や陰性症状などに相当するものと考えられたことから、行動レベルで統合失調症患者にそっくりなマウスを同定することに成功したことが示されたこととなった。

 そこで、このShn-2 KOマウスの前頭皮質の遺伝子発現変化を「ジーンチップ(ガラスや半導体の基板の上にDNAを貼り付けたもので遺伝子がどのように発現しているかを網羅的に調べることができるチップ)」で調査を行い、遺伝子の発現パターンをバイオインフォマティクス的手法で解析した結果、Shn-2 KOマウスの脳で発現量が変化している遺伝子の多くは、統合失調症患者の死後脳(前頭葉)でもほぼ同様に変化していることが確認された。これは、同マウスの脳と統合失調患者の死後脳の遺伝子発現パターンの間には類似性があることが示されたことを意味する。

 さらに同マウスの脳を調べたところ、「パルバルブミン陽性細胞(パルバルブミンは細胞内シグナル伝達に重要なカルシウムイオンに結合するタンパク質の1つ)」の減少、「GAD67(グルタミン酸脱炭酸酵素の1つで、この酵素の働きにより、グルタミン酸からγ-アミノ酪酸(GABA)が作られる)の発現低下」、「大脳皮質の薄化」、「脳波の内のガンマ波の低下」など、統合失調症患者の脳で報告されている特徴が多く見られ、特徴という点においても統合失調症患者と似ていることが確認された。

 加えて、同マウスの海馬歯状回の神経細胞が、発達期に一度、成熟細胞マーカー「カルビンジン」を発現しながらも、その後、成育するに従ってほとんど発現しなくなり、逆に未成熟細胞のマーカーであるカルレチニンの発現が増加し、電気生理学的な性質も未成熟な神経細胞に似ていることも明らかになったという。

 これは、同マウスでは、成育するに従って再び未成熟な細胞の特徴を持つようになり(脱成熟)、成体ながら歯状回全体がいわば未成熟な状態(未成熟歯状回)であることを示すもので、統合失調症の発症が青年期以降であることと一致するとする。ちなみに、統合失調症患者の死後脳で海馬の歯状回が未成熟な状態にあることはすでに研究グループの別の研究から明らかにされているという。

 このほか、同マウスの脳では、神経炎症の特徴の1つである「アストログリア細胞」の活性化が顕著であることが確認されたほか、発現が変化している遺伝子群と、炎症を引き起こす典型的な状態で発現が変化する遺伝子群に高い共通性が見られることが確認された。

 研究グループでは、これらの遺伝子群の変化は、典型的な炎症で変化する場合と比較すると小さいことから、同マウスの脳では、慢性的で軽度な炎症が起こっていると考えられたことから、抗炎症作用を持つ薬物である「イブプロフェン」と「ロリプラム」を同マウスに3週間にわたって投与。その結果、海馬歯状回で増加していた未成熟細胞マーカーのカルレチニンの発現が低下し、正常な状態に近づいたことが示されたほか、作業記憶の障害と巣作り行動の異常も改善することが確認されたという。


 遺伝的要因が統合失調症の原因
 これらの結果から、研究グループでは、同マウスでは遺伝的な要因によって脳内に慢性的な軽度の炎症が生じ、それが海馬歯状回の脱成熟を引き起こすことで、統合失調症に似た行動異常の内作業記憶の障害や巣作り行動の異常を引き起こしているのではないか、その考えを示しているほか、ヒトでも何らかの遺伝・環境要因により脳内に慢性的で軽度な炎症が起こることで、海馬歯状回の脱成熟などの現象が生じ、その結果として統合失調症が発症するというモデルが想定されることから、同モデルに基づく新たな予防・診断・治療法が開発される可能性が出てくることが期待できるとしている。

 統合失調症は慢性化する症例が多く、治療効果は十分とはいえないことから、効果的な治療法の研究開発が求められることとなる。Shn-2 KOマウスはそうした意味ではかなり統合失調症患者と似た行動や脳の特徴を示すことから、これにより統合失調症に対する新しい予防・診断・治療法の開発や創薬につながることが期待できると研究グループは説明する。

 また、実験では抗炎症作用を持つ薬物を投与することで、神経の炎症の指標であるアストログリア細胞の活性化が抑制され、歯状回の神経細胞で増加していた未成熟細胞のマーカーが低下し、作業記憶の障害と巣作り行動の異常が改善されることが示されたものの、パルブルブミン陽性細胞数の低下や、GAD67の発現低下については改善されていないことが確認されている。

 さらに行動レベルでは、プレパルス抑制の低下や活動性の増加などには抗炎症薬投与の効果は見られなかったため、統合失調症で見られるさまざまな症状には、脳内の慢性炎症や未成熟歯状回が関係しているものと、そうでないものに分類できる可能性があるとしており、統合失調症の予防・治療には既存の抗精神病薬と抗炎症作用のある物質との組み合わせが有効であることが示唆されたとするほか、食物の成分にも炎症を抑える作用を持つものがあることが確認されていることから、そうした物質の中から統合失調症の予防・治療に使えるものが見つかる可能性もあるとしている。

 なお研究グループでは今後、これらの抗炎症作用を持つ物質と既存の抗精神病薬とを組み合わせた投与の効果を同マウスで検討を進め、効果があった組み合わせを用いて実際の統合失調症患者の症状が改善するかどうかを調べることで、統合失調症の新たな治療法の開発を進められるようになるとの期待を示している。


 統合失調症とは何か? 
 統合失調症(schizophrenia)とは、19世紀の脳病学者エミール・クレペリンが複数の脳疾患を統一的な脳疾患カテゴリーとして取りまとめた「早発性痴呆症」をスイスの精神科医オイゲン・ブロイラーが、その症状群の形容から1911年の著書「"DEMENTIA PREACOX oder GRUPPE Der SCHIZOPHRENIEN" (E.BLEULER 1911):早発性痴呆症あるいは精神分裂病群の集団」の中で定義・呼称した精神疾患(精神障害)群の日本語名称である。この症状の担当科は精神科であり、精神科医が診察に当たる。

 ブロイラーは当該症候群の特徴は「精神機能の特徴的な分裂」を基本的症状として有するとしてSchizo(分裂)・Phrenia(精神病)と呼称した。ここで「精神機能」とは、当時流行した連合主義心理学の概念で、「精神機能の分裂」とは主に「連合機能の緩み」及び「自閉症状」を意味する。

 主要な症状は、基礎症状として「連合障害認知障害」「自閉症(自生思考等)」であり、副次的に「精神病状態(幻覚妄想)」など多様な症状を示し、罹患者個々人によって症状のスペクトラムも多様である。クレペリン、ブロイラー、シュナイダーが共通して挙げている特徴的で頻発の症状は「思考途絶(連合障害)」と「思考化声(自生思考)」である。

 日本国政府には独自の診断・統計基準は無く、行政処分においてWHO国際疾病分類第10版 (ICD-10) を用いて診断・分類しており、当該マニュアルではF20になる。日本国においては、2002年(平成14年)まで精神分裂病(せいしんぶんれつびょう)と呼ばれていた。発病率は全人口の約1%程度と推計されている。

 上記のとおり当該疾患グループは、精神障害の診断・統計カテゴリーの一つで、自閉症状と連合障害(認知障害)を基礎障害とする複数の脳代謝疾患群と考えられている。この精神疾患のグループが同根の神経生物学的基礎を有するか否かは現在のところ全く不明である。クレペリンは死後脳解剖から前頭葉に類似の細胞変性を観察しているため早発性痴呆群を一つの統計カテゴリーとしたが、ブロイラーは相当多数の疾患群の寄せ集めであろうと予測しており、現在までに決着はついていない。

 当該疾患群に共通する症状は精神分裂症(精神機能の分裂症)と呼ばれる状態で、思考や感情がまとまりにくくなり、罹患者が本来有している知的水準や身体能力から期待される役割遂行能力が顕著に障害され、回復のために治療や社会的な援助が必要となる。本来当該疾患は疾患概念であるが回復の困難性・長期性から保健福祉行政上は(自己申告により)障害者概念が適用され得る。

 根本的な原因は不明であるが、神経伝達物質のインバランス等の脳の代謝異常と心理社会的なストレスなど環境因子の相互作用が臨床的な発症の発端になると推測されている。

 心理社会的な因子としては「分裂病者の母親(ダブルバインド)」や「HEE(高い感情表出家族)」などが注目されている。発症率は約1%弱と推計され、日本全国では約79.5万人が罹患していると予測されている。

 自閉や連合障害、あるいは易疲労性からくる脳の疲弊によって、一部の患者では特徴的な幻覚や妄想を発症する頻度が少なくない。この妄想および幻覚症状は脳内の伝達物質のインバランスの可能性が強く主にドーパミン遮断剤の適量の投与によって高い確率で症状の抑制が可能であるとされる。

 近年では遮断剤(抑制剤)のみでなくドーパミン安定剤も開発され認知障害や陰性症状などの基礎障害への効果も期待されている。脳に器質的な障害が発生することによるかどうかは両論ある。病因については、神経伝達物質の一つであるドーパミン作動性神経の不具合によるという仮説をはじめ、様々な仮説が提唱されている。しかし、明確な病因は未だに確定されておらず、発病メカニズムは不明であり、いずれの報告も仮説の域を出ない。

 一卵性双生児研究において一致率が高い (30~50%) が100%ではないことなどから、遺伝的要因と環境要因両方が発症に関与していると考えられている。遺伝形式も不明で、信頼できる原因遺伝子の同定もされていないが、約60%が遺伝によるとの報告がある。


 ドーパミン仮説
 中脳辺縁系におけるドーパミンの過剰が、幻覚や妄想といった陽性症状に関与しているという仮説。実際にドーパミンD2受容体遮断作用をもつ抗精神病薬が陽性症状に有効であるため提唱された。しかし、ドーパミン遮断剤投与後効果が現れるのが長期修正を暗示させる7日から10日であること、ドーパミン受容体は後方細胞だけでなく前方細胞にも存在すること、またドーパミンD2ファミリーに異型が発見されたこと等により臨床医や神経生物学者からは批判も多い。生物学研究では皮質下のDA受容体密度の増加による受容体感受性の高まり(ドーパミンの過剰ではない)を暗示する研究も存在するが、むしろ前頭葉や前部帯状回などでドーパミン受容体結合能の低下を示唆する研究の方が多い。(アメリカの研究者の中にはドーパミン仮説は許認可の為の製薬会社のマーケティングにすぎないという研究者もいる。)近年、ドーパミンをコントロールする抗精神薬の副作用で、脳が萎縮するという研究結果が開示された。


 アドレノクロム仮説
 現在、日本の精神医学会では否定的であり、前述のドーパミン仮説が通説となっているが少数の症例はある。アドレノクロム(英語版)が過剰という仮説でナイアシンを多量に摂取する治療法である。統合失調症の患者の八割程度が良くなると記述してある出版物もある。原因として食物をあげている。ビタミン、ミネラルなどの不足によりアドレノクロムを代謝できなくなるという。血液検査でビタミン・ミネラルの量を検査する病院もある。このことは糖分の多い清涼飲料水などを多飲するようなペットボトル症候群において低血糖症が誘起されて、体内でアドレノクロムが産生される。過剰な糖分の摂取により体内中のビタミン・ミネラルが排出され、アドレノクロムを代謝できなくなくなり、脳内のアドレノクロムが過剰になって統合失調症の症状を呈するとする文献もある。副腎髄質より分泌されるホルモンであり、また交感神経の末端から出される神経伝達物質の変異は、脳内でチロシン→ドーパ→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン→ストレスや過度な運動により酸化してアドレノクロムとなる。低血糖症や糖尿病の症状を統合失調症と誤診する医療機関もある。


 グルタミン酸仮説
 麻酔薬として開発され、のちに精神異常の副作用の為使用が断念されたフェンサイクリジンを投与すると、統合失調症様の陽性症状及び陰性症状がみられたこと、フェンサイクリジンがグルタミン酸受容体(NMDA受容体)の遮断薬であることがのちに判明し、グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の異常が統合失調症の発症に関与しているという仮説。

 実際に欧米を中心に従来の抗精神病薬とグルタミン酸受容体(NMDA受容体)作動薬であるグリシン、D-サイクロセリン(英語版)、D-セリンを併用投与すると抗精神病薬単独投与より陰性症状や認知機能障害の改善度が高くなることが報告されている。将来的に、グルタミン酸受容体に作用する抗精神病薬の開発が期待されている。 2012年、神経伝達物質受容体サブユニットのタンパク質を変化させる遺伝子変異が発症に関与することが理化学研究所において発見された。


 カルシニューリン系遺伝子の異常
 カルシニューリンは中枢神経系に多く発現している酵素で、グルタミン酸やドーパミンによる神経伝達を調整する作用がある。統合失調症には、複数のカルシニューリン系遺伝子の変異が関与している可能性があることが発見された。


 遺伝的な要素
 統合失調症患者と対照群の脳内で別々の働きをする49種類の遺伝子の状態を比較した研究では、統合失調症患者に脳細胞間のシグナリングに欠陥が確認され、ドーパミンやミエリンを生成する遺伝子の働きには、統合失調症患者と対照群の間に差異は確認されていない。

 アラキドン酸などの脂肪酸を脳へ取り込むタンパク質Fabp7が、遺伝的に脳への脂肪酸取り込みの弱い患者と統合失調症との関連性が発見されている。プレパルス抑制(英語版)が弱いと、統合失調症の患者はささいな小さな音で驚くような傾向が見られる。

 ある特定の遺伝子の欠損や入れ違いで環境とは無関係に遺伝するタイプと、食生活や運動不足といった環境と遺伝の両方とが関係して起きるタイプの2つの疾患がある、後者のが統合失調症患者の大多数を占めるとされる。

 なお、びっくり病との差異および関連性にも関与していることから正確な診断が必要である。また稀ではあるがナルコレプシーに付随する情動脱力発作 (cataplexy) との混同例もある。生理的に重要な脳内の脂質に関与する遺伝子が症例と関係する所以は、脳内の非極性脂質は電気絶縁体として有髄神経線維の速やかな興奮伝達を可能にしていることにある、すなわち脳内の信号が適切に伝達すればよいことであって、絶縁されていない場合は脳内の信号が適切に電導せずに異常を来たすという仮説である。(Wikipedia)


参考HP 生理学研究所:統合失調症の症状を持つマウス Wikipedia:統合失調症


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