有毒の硫化水素、腎臓や脳に…組織保護に関与か
 毒ガスとして知られる硫化水素が、体内で生成され腎臓や脳などの組織の保護機能を担っている…。

 そんな研究が国立精神・神経医療研究センター(NCNP)で進んでいる。同センター神経薬理研究部の木村英雄部長らの研究グループは、硫化水素が体内でより効率よく生成される新たな経路を発見し、1月22日、英国のオンライン科学誌に掲載された。

 硫化水素が哺乳類の脳に存在することは、1989年にカナダの研究者により初めて発表された。この報告をきっかけに、当時、米カリフォルニア州の研究所にいた木村部長が、ラットの脳で硫化水素が生成され、海馬での記憶増強に関わっていることを突き止めた。

 現在進めている研究で、木村部長のグループは、腎機能に障害を持つマウスに、D-システインというアミノ酸を与えたところ、腎臓で硫化水素が生成され、症状が著しく軽減したことを発見した。

 これまで、体内でL-システインと呼ばれるアミノ酸から硫化水素が生成されることはわかっていたが、D-システインは、腎臓内でL-システインよりも80倍効率よく硫化水素を生成し、しかも副作用が少ないこともわかった。

 腎不全の重症化を防止し、人工透析の導入を遅らせる治療薬は世界的にもまだない。現在、L-システインを使った新薬開発が、オランダで進んでおり、昨年末に治験の最終段階が終了している。D-システインの臨床試験が始まれば、より有効な新薬開発への期待が高まる。


 すでに、カナダの腎臓移植の研究者から木村部長らの研究グループに共同研究の打診があったという。木村部長は「今後研究が進めば、慢性の腎不全や糖尿病による腎機能低下の治療薬、さらに移植される腎臓の保護薬としても応用できるはず」と自信を見せる。

 この成果について、硫化水素が心筋細胞の老化を抑えることを九州大の研究グループと共に解明した熊本大大学院の赤池孝章教授は「新しい経路が発見されたことで、(腎不全など)臓器の障害に対して、予防的な治療につながる価値の高い研究だ」と評価している。(2013年2月28日 読売新聞)


 硫化水素が細胞老化を抑制
 2012年7月4日には、熊本大大学院生命科学研究部の赤池孝章教授が、九州大などとの共同研究で、活性酸素が心不全を引き起こす仕組みと「硫化水素」が心筋細胞の老化を抑制することを解明したと発表している。

 以前から心筋梗塞を起こした心臓で活性酸素が多量につくられ、心不全を引き起こすことは知られていた。赤池教授らは、活性酸素の代謝過程で生じる「親電子物質」と特定のタンパク質が反応し、心筋細胞を老化させて心不全が起きることを突き止めた。

 さらに体内では、2種類の酵素が硫化水素を生成し、この親電子物質を分解することを発見した。猛毒で知られる硫化水素が、活性酸素を抑え老化防止効果があるとは驚きの実験結果である。硫化水素は火山ガスに含まれている。温泉の中にもある。将来温泉の健康成分の1つになるのだろうか?

 この研究は、心不全の予防や治療薬開発につながる可能性がある。 九州大の西田基宏准教授らと共同で研究している、赤池教授らは心筋梗塞状態にしたマウスを使って実験。体内で活性酸素が代謝される過程でできる物質と、「H-Rasタンパク質」という分子が反応することで、心筋細胞が老化し、心不全へと進行することを見つけた。  一方、マウスに硫化水素を投与すると、活性酸素やH-Rasタンパク質の働きが抑えられ、心臓の機能が改善したという。

 心筋梗塞を起こすと活性酸素が過剰に作られることは知られていたが、心不全の発症につながる仕組みや、硫化水素の投与で心機能が改善する効果を解明したのは初めて。

 硫化水素は温泉にも低濃度含まれ、ニンニクやネギを摂取すると体内でも生成されるという。赤池教授は「硫化水素は高濃度だと毒性がある。たくさん投与しても体に影響が出ない、毒性のない薬を開発することが課題」と話している。(kumaniti.com 2012.7.4)


 システイン(Cys)とは何か?
 硫化水素が、硫黄をふくむアミノ酸システインから生合成されるのは興味深い。また生体のアミノ酸は、L型で構成されているにもかかわらず、L-システインよりも、D-システインの投与で硫化水素が80倍も多く発生するのもおもしろい。

 システイン (cysteine) はアミノ酸の1つで、2-アミノ-3-スルファニルプロピオン酸のこと。側鎖にチオール基を持つ。チオセリンとも言う。略号は C あるいは Cys。酸性条件下では安定だが、中・アルカリ性条件では微量の重金属イオンにより容易に空気酸化されシスチンとなる。酸化型のシスチンと対比し、還元型であることを明らかにするために CySH と記されることもある。

 親水性アミノ酸、中性極性側鎖アミノ酸に分類される。含硫アミノ酸。蛋白質構成アミノ酸のひとつで、非必須アミノ酸。糖原性を持つ。

 少量ではあるが大部分の蛋白質にみられる。誘導体である N-アセチル-L-システイン (NAC)(N-acetylcysteine)は一般的なサプリメントであり、抗酸化剤のグルタチオンへと代謝される。システインの名はシスチンから付けられたが、これはギリシャ語で膀胱を意味する kustis に由来する。シスチンは腎臓結石から最初に単離された。

 赤唐辛子、ニンニク、タマネギ、ブロッコリー、芽キャベツ、オート麦、小麦胚芽に含まれる。体内ではメチオニンから作り出される。

 求核性が非常に高いチオール基を持つため求核性触媒として働く。システインを求核剤として含むタンパク質にユビキチンリガーゼがあり、これはユビキチンを結合するタンパク質に移動させる。カスパーゼはアポトーシスの際のタンパク質分解に関与する。インテインはシステイン触媒の補助によって作用することがある。これらの働きは、通常システインが酸化されない細胞内環境に限定される。

 システインはタンパク質を分子間で架橋させることができる。これにより、細胞外の厳しい環境での分子の安定性が向上し、タンパク質分解に対する抵抗性が与えられる(タンパク質の排泄にはコストがかかるので、その必要性は最小限に抑える方が有利である)。細胞内において、ポリペプチド中のシステイン間のジスルフィド結合はタンパク質の3次構造を維持する。インスリンはシステイン架橋されたペプチドの代表例であり、2つの独立したペプチド鎖が1組のジスルフィド結合によってつながれている。毛髪においては、システインによるジスルフィド結合の配列が巻き毛の度合いを決める。


 D-システインのメチル水銀、排出効果
 D-システインを調べてみると、有毒なメチル水銀を排出する効果のあることが、2006年名古屋女子大学の研究で発表されている。それによると、メチル水銀はシステインと結びつきやすく、L型では親和性があるので水銀とともに体内にとどまるが、D型では水銀とともに体外に排出されやすい。硫化水素の発生もD-システインの方が分解されやすいのかもしれない。以下は名古屋女子大学論文からの抜粋である。

 メチル水銀はグルタチオンなどチオール化合物と高い親和性をもつことが知られており、L- システインによって脳へのメチル水銀の運搬を増強することが報告されている。d.Krijgsheld らeは,消化管からの吸収はL-システイン、D-システインとも同様に直ちに行われるが、血清 システインレベルは各々200μMと1500μMとD-システインが高く、尿中への硫酸排泄量がそれ ぞれ投与量の33%、55%とD-システインはL-システインに比べて体内の利用がなく、短時間で 尿中に排泄されることを報告している。

 そこで著者らは、たん白質代謝にほとんど影響しなく てチオール基をもつD-システインによるメチル水銀の蓄積抑制効果について実験を行った。 D-システイン摂取量は水銀食‐D-システイン食群(1.0±0g)に対して、混合食‐普通食群(0.9± 0g)で有意に少なかった。飼料へのD-システインの添加割合は同じであるため、これはD-シ ステイン摂取の時期が水銀食‐D-システイン食群は飼育期間の後半2週間であったのに対して、 混合食‐普通食群では前半2週間であったことから、ラットの週齢による飼料摂取量の違いのた めに生じたと考えられる。

 体重増加率、腎臓体重比率、3日間尿量では、3群間に差はなかった。肝臓体重比率は水銀食‐ 普通食群に対して水銀食‐D-システイン食群で有意に低下し、混合食‐普通食群で低下傾向がみら れた。水銀を添加しない飼料を与え、同様の条件で飼育したWistar系雄ラットの肝臓体重比率 は水銀食‐D-システイン食群および混合食‐普通食群との差がなかった(データは示していない)。 従って水銀食‐普通食群の肝臓は、水銀解毒のために肥大したと推察される。

 体内のメチル水銀の濃度分布は、吸収初期に血液・肝臓に多く次第に脳に移行し、最終的に 肝臓、脳、腎臓、血液に落ちつく。本実験では肝臓、腎臓、血清において、水銀食‐普通食群 に対し水銀食‐D-システイン食群で総水銀量が有意に減少、または減少傾向を示した。

 一方、水 銀食‐普通食群に対し水銀食‐D-システイン食群で水銀の排泄経路である体毛中、3日間尿中、糞 中総水銀排泄量が増加した。このことから、水銀食‐D-システイン食群での肝臓、腎臓、血清に おける総水銀量の減少は、D-システインがすでに体内に存在するメチル水銀と結合し、そのま ま体毛への移行および体外へ排泄されたためと考えられる。

 Ballatoriらは、メチル水銀を腹腔 内へ注入して48時間後に鎮咳去痰薬として一般によく使われているN-アセチルシステインを飲 水中へ入れて投与した。その結果、著者らと同様に腎、肝中水銀量の減少と尿中水銀量の増加 を認めている。彼らの実験ではN-アセチルシステインの添加により脳のメチル水銀蓄積量が減 少していた。N-アセチルシステインと同様にD-システインも腸管からの吸収後、体内で利用さ れないまま排泄されるという代謝経路を示す。従って、本実験では脳中水銀量は測定していな いが、D-システインによるメチル水銀の脳への蓄積抑制が推察される。(名古屋女子大学)


参考HP 名古屋女子大学:D-システインによるメチル水銀の排出機能 国立精神・神経医療研究センター:毒ガス「硫化水素」の新たな生合成経路の発見


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