クローン動物の問題点を克服
 1998年4月、世界初のクローン動物として生まれた、ヒツジの「ドリー」が妊娠、子羊「ボニー」を出産した。ボニー出産の翌年にも3頭の子供を出産したが、2001年末にはヒツジの「老化現象」といわれる関節炎を後ろ足におこしていることがわかった。

 「ドリー」は、染色体の中のテロメアとよばれる老化とかかわりの深い部分が、同年齢のヒツジよりも約20%短い。そのため、早期に老化してしまうこととの関係性が指摘されていた。2003年2月14日、ドリーはウイルス性の肺癌が悪化し、回復がみこめないため安楽死させられた。ヒツジはふつう11~12歳まで生きるが、ドリーは6歳7カ月だった。

 このように、クローン動物には染色体の末端にあるテロメアという部分が短くなるという現象が起き、どうしても世代を重ねると寿命が短くなる欠点があった。

 ところが、理化学研究所は、2005年末から1匹のマウスをもとにクローンマウスを代々作り続け、現在、26世代、計598匹の再クローンマウスを誕生させていることを明らかにした。すなわち、クローン卵細胞を初期化することに成功し、クローンを長寿化させることが可能になった。いったいどうしたのだろう?


 研究グループは、1998年に最初のクローンマウス作出に成功後、初期化の促進や核へのダメージを最小限に抑える技術的改良などに取り組んだ。2005年には、「トリコスタチンA(TSA)」という薬剤を核移植後の培養液に加えると、初期化異常を改善し、クローンマウスの出産率が約6倍に高まることを発見した。

 哺乳動物のクローン作出は、優良家畜の大規模な生産や絶滅危惧種の保全を可能にする技術として期待されるという。iPS細胞では、遺伝子を導入することで細胞の初期化を図ったが、今回はクローン卵細胞を薬剤につけることで初期化させることに成功した。TSAが初期化遺伝子を活性化させたことは予想できる。すばらしい研究成果だ。


 26世代のクローンマウス計598匹
 理化学研究所発生・再生科学総合研究センターのゲノム・リプログラミング研究チームの若山照彦チームリーダー(現・山梨大学生命環境学部教授)や東京医科歯科大学難治疾患研究所の幸田尚・准教授などの共同研究グループは、2005年末から1匹のマウスをもとにクローンマウスを代々作り続け、現在、26世代、計598匹の再クローンマウスを誕生させていることを明らかにした。

 哺乳動物のクローン作出は、優良家畜の大規模な生産や絶滅危惧種の保全を可能にする技術として期待されるという。 クローンマウスは、元になるマウスの体細胞の核を、別のマウスの核を除去した卵子に移植し、さらに雌のマウスの子宮に入れて作る。

 こうしてできた1世代目のクローンマウスから再びクローンマウスを作り、さらに代々のクローンマウスを作ろうとすると、従来のクローニング技術では、核移植を繰り返すごとに出産率は低下し、マウスでのクローン化は最長6 世代が限界だった。

 またウシとネコでは2 世代まで、ブタでも3世代が限界だった。原因は、核の遺伝子の働きを細胞分裂が始まる前の初期状態に戻しきれなかったことで生じる、クローン技術特有の「初期化異常」が代々の核移植のたびに蓄積するためと考えられていた。

 研究グループは、1998年に最初のクローンマウス作出に成功後、初期化の促進や核へのダメージを最小限に抑える技術的改良などに取り組んだ。2005年には、「トリコスタチンA(TSA)」という薬剤を核移植後の培養液に加えると、初期化異常を改善し、クローンマウスの出産率が約6倍に高まることを発見した。

 これを用いて同年末から、1匹のドナーマウスをもとに再クローニングの継続に挑戦していた。 その結果、現在は26 世代目、598 匹が誕生した。核移植の出産率は1 世代目の7%から上昇傾向を示し、最高で15%を達成した。さらに、これらの繁殖能力、寿命、細胞年齢の指標となる染色体末端の「テロメア」の長さなどに異常がないことを確認し、初期化異常も蓄積しないことが明らかになったという。 研究論文は米科学雑誌「セル・ステム・セル(Cell Stem Cell)」(オンライン版、7日)に掲載され、マウスたちの写真が表紙に採用された。(サイエンスポータル 2013年3月11日)

 次の文章は理化学研究所のプレスリリースからの抜粋である。(1匹のマウスから500匹以上のクローンマ作出に成功


 クローンの歴史
 西遊記の孫悟空は自分の毛を引き抜き、そこから自分の分身を大量に作って敵と戦わせました。これはクローンという概念が人類史上初めて表現された物語だといわれています。

 英国のジョン・ガードン博士は1962年にカエルのクローン技術を考案し(2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞)、1997年には英国のキース・キャンベル博士らが哺乳類初のクローン羊「ドリー」を誕生させました。しかし、核移植した卵子のうち出産に至る割合が低かったため、孫悟空のように分身(クローン)を大量に作るのは不可能なうえ、そのクローンが死ぬとそこでドナー動物の遺伝情報は途切れてしまいました。

 この課題を解決するために、ドナー動物から作り出したクローン動物を再びドナー動物として利用してクローン動物を作出する「再クローニング」が考え出されました。この方法が実現すると、たとえ最初のドナー動物が死んでも、そのクローン動物が次世代のドナーとして機能するため、その遺伝情報は永久に存続することになります。

 つまり、永続的な優良家畜の大量生産や絶滅動物のクローン復活(注1)(Wakayama etal., PNAS,2008)と保全へ応用できると考えられます。しかし、研究チームがこれまで取り組んだ再クローニングでは、クローンマウスから生まれてくるクローンマウス(再クローンマウス)の出産率は世代を経るたびに徐々に低下し、最長で6世代目までが限界でした(図1B緑・赤)(Wakayama et al.,Nature,2000)。

 他の動物でも再クローニングは試みられていますが、ウシとネコでは2世代目まで(Kubota et al., Nature Biotechnol., 2004, Yin et al., Theriogenology,2008)、ブタでは3世代目まで(Cho et al., Dev. Dyn., 2007, Kurome et al., J. Reprod.Dev., 2008)が限界です。これらのことから、再クローニングはクローン技術特有の「体細胞の遺伝子発現を細胞分裂が始まる前の受精卵の状態に戻しきれなかったために生じる異常(初期化異常)」が核移植を繰り返すたびに蓄積し、それが出産率を引き下げるため再クローニングの回数を有限にしていると考えられていました。

 研究チームは、1998年に最初のクローンマウス作出に成功後(Wakayama et al.,Nature,1998)、初期化の促進や核へのダメージを最小限に抑える技術的改良などを重ねてきました。2005年には、トリコスタチン A(TSA)という薬剤を核移植後の胚培養液に加えると、クローンマウスの出産率が約6倍に改善することを見いだしています(注2)(Kishigami et al., BBRC ,2006)。

そこで、こうした知見とノウハウをもとに、2005年末から、1匹のドナーマウスをもとに再クローニングの継続に挑戦しました。


 研究手法と成果
 2005年末に、まず1匹の雌のドナーマウスを選び、卵子の周りに存在する卵丘細胞から核を取り出しました。この核を、別のマウスの核を除いた卵子へ核移植してTSAを投与しました。生れてきたクローンマウスを第1世代とし、成体(3カ月齢)に成長した後、その卵丘細胞の核を取り出して第2世代の再クローンマウスを作出、それ以降、再クローニングを繰り返しました。2012年12月の論文提出時には、25世代で合計581匹の再クローンマウスが生まれ、現在は26世代目、598匹の再クローンマウスが生まれています。1世代目のクローンマウスの出産率は7%程度でしたが、TSAと実験条件の改善によりその確率は徐々に上昇し、現在は15%程度を達成しています。

 クローン動物特有の現象に胎盤の形態異常があります。クローンマウスの場合、自然妊娠に比べ胎盤が2~3倍に巨大化します。今回の実験でも、1世代目の胎盤は約3倍に巨大化しましたが、その後26世代まで胎盤重量がそれ以上増加する傾向はなく、出産時の体重もほぼ一定でした(図1C)。生まれた再クローンマウスは大部分が健康な成体へ成長し、ランダムに選んだ4個体を雄マウスと交配して繁殖能力を調べたところ、どの再クローンマウスも自然マウスと同様平均60日程度で自然分娩し、正常な繁殖能力を持っていることが明らかになりました。

 再クローンマウスの寿命については、現在17世代まで(論文では16世代まで)調べており、ほとんどの世代の平均寿命は自然マウスと変わらず2年以上で、世代が進んでも短命になる傾向はありませんでした(図1D)。また、細胞の年齢を調べるマーカーとして一般に用いられている染色体のテロメアの長さについても、各世代の再クローンマウスで調べたところ、世代を経てもテロメアが短くなる傾向はなく、再クローニングごとにドナーマウスと同程度の長さに戻っていることが分かりました。

 TSAの効果を確認するために、21世代目の再クローンマウスの一部はTSAを加えずに作出したところ、やはり出産率は有意に低下しました(図2A)。また、1世代目のクローンマウスで発現異常を示した遺伝子の多くは、20世代目の再クローンマウスでも同程度で異常のままでした(図2B)。さらに、DNAマイクロアレイ※6を用いて、自然マウス、1世代目のクローンマウスおよび20世代目の再クローンマウス間で網羅的に遺伝子発現の様子を比較したところ、自然マウスと1世代目の間および20世代目の間には明確な違いが生じたものの、1世代目と20世代目の間には差がありませんでした(図2C)。これらの結果は、TSAを投与した核移植で作るクローン動物の遺伝子にはある程度の発現異常が生じますが、その異常は再クローニングによって蓄積するものではないことを示しています。また、健康な再クローンマウスが多数生まれていることから、これら発現異常は、生体には影響しない限定された一部の遺伝子だと考えられます。(理化学研究所)


参考HP 理化学研究所:1匹のマウスから500匹以上のクローン作出に成功


クローン動物はいかに創られるのか (岩波科学ライブラリー (56))
クリエーター情報なし
岩波書店
生物改造時代がくる―遺伝子組換え食品・クローン動物とどう向きあうか
クリエーター情報なし
共立出版

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ ←One Click please