有人火星旅行の搭乗者募集のお知らせ
 【求む】男女各1名。50代初め~半ばで、夫婦が望ましい。冒険を楽しみ、ともに長期間を同じ空間で、例えば501日間を0.93立方メートルのカプセルおよび居住空間で過ごせる人。さらに火星に興味がある人。

 【応募者への警告】かつてないリスクにさらされ、長期的に健康を害するおそれあり。それでも計画が実現し成功すれば、深宇宙へ旅行し、火星を間近に見た初めての人類になれる。

 有人火星旅行の募集のお知らせ広告は、こんな風になるのだろうか?

 世界初の宇宙旅行者で大富豪のデニス・チトー(Dennis Tito)氏は米国時間2月27日、同氏が新たに設立した非営利団体「インスピレーション・マーズ財団(Inspiration Mars Foundation)」が火星に初めて人類を送る計画を進めていることを、ワシントンD.C.において正式に発表した。

 「過去40年間、人類は月より遠くへ行っていない。そろそろこの空白期間を終わりにすべきだ」とチトー氏は記者会見で述べた。


 インスピレーション・マーズ財団
 インスピレーション・マーズ財団では、火星と地球が15年ごとに大接近するタイミングに合わせて、2018年1月のミッション打ち上げを目指している。計画では男女各1名をカプセルに乗せて火星の近くまで送り込み、アポロ計画の有人月面着陸に先がけて行われた月探査と同様のフライバイ(接近通過)ミッションを遂行する。

 なぜ男女1名ずつなのか? チトー氏らによると、このミッションに使用する予定の宇宙船には2名の宇宙飛行士しか搭乗できないからだという。定員が2名と決まると、一方の性別だけでは人類を代表しているとはいえないという理由により、男女両方を地球から深宇宙へ送る初の“使節”に採用することになった。

 NASAの有人ミッションと違い、何かトラブルが起こった場合に宇宙飛行士を救出するためのバックアップ計画などはない。第一、地球に接近しているときでさえ火星は1億2000万キロ以上も彼方にあるのだ。

 「多くの人から、これはかつてアメリカが得意としていたが、今ではリスクを恐れてやらなくなった種類の大胆なアイデアだと言われる」と、インスピレーション・マーズ財団の最高技術責任者を務めるテーバー・マッカラム(Taber MacCallum)氏は述べる。マッカラム氏は、極限環境における生命維持システムの開発を手がけるパラゴン・スペース・デベロップメント(Paragon Space Development Corporation)社の最高経営責任者(CEO)で共同創設者でもある。

 「カプセルとミッションは可能な限り安全なものにするつもりだが、それでも間違いなく史上最大のリスクが伴う。前へ進むにはそれしかないと考えている」とマッカラム氏は言う。

 宇宙へ飛び出し、地球へ帰還することの避けられないリスクに加えて、宇宙飛行士たちは潜在的に有害なレベルの宇宙線と太陽放射にもさらされることになる。

 そのため、財団の研究開発における最優先事項の1つとして、放射線を可能な限り遮断する方法の開発が進められる計画だ。水の入った容器や特殊アルミニウム製の外装、またおそらくは打ち上げロケットの上段を使ってカプセルを保護するという。さらには、放射線が健康に及ぼす影響を軽減する薬品の評価も行う計画だ。

 それでもなおリスクは大きい。経験を積んだ50代前半の宇宙飛行士を募集するのは、それも理由の1つだとマッカラム氏は言う。統計上、年配者は若年者に比べて帰還後の生存年数が短く、そのぶん放射線の影響による癌の発症率が低いからだ。


 狭い空間を2人で過ごす
 マッカラム氏は、狭い空間に2人きりで閉じ込められる精神的ストレスについても熟知している。1990年代の2年間、アリゾナ州ツーソン郊外に設けられた閉鎖空間「バイオスフィア2」で生活した経験があるのだ。そのとき大半の時間をともに過ごした女性が、のちの妻でパラゴン社の共同創設者であるジェーン・ポインター(Jane Poynter)氏だ。ポインター氏は、インスピレーション・マーズ財団のミッションで乗組員サポートと生命維持システムの開発を指揮する予定だ。

 501日間の宇宙飛行が実現、成功すれば、人類が宇宙に滞在した最長時間記録を大幅に塗り替えることになる。周囲から隔絶した閉鎖環境で最低6カ月間過ごした経験があるというのが募集条件の1つになっているのも不思議ではない。

 「火星に行くような状況下では、同行する相手が何らかの意味でパートナーでなくてはならない。そうでないとプレッシャーに耐えられない。夫婦が望ましいと考えているが、募集はカップルだけに限定しない」とマッカラム氏は述べている。


 実現は可能、問題は宇宙線と時間
 有人火星飛行とは実に野心的な計画だが、決して実現不可能ではない。少なくともロケット科学の観点からは単純なミッションだからだ。

 チトー氏が今週末にモンタナ州で開催される航空宇宙会議で発表予定の論文によると、打ち上げが計画通りにいけば、宇宙船がコースを変更するのに必要なロケット噴射は1回だけだという。宇宙船は適切な軌道に乗って火星まで飛び、火星表面から数百キロの範囲を通過して火星のそばに引き寄せられ、重力アシストによって地球にUターンする。

 現在計画されている飛行軌道では、カプセルが火星から10万キロ以内の領域に滞在する時間は10時間ほどになるという。

 「われわれがやろうとしていることは、レベルの高さでは火星探査車キュリオシティ(マーズ・サイエンス・ラボラトリ)の足元にも及ばない。人間を2人乗せるという意味で違うリスクはあるが、飛行そのものはいたって単純だ。それがこの計画の魅力だ」とマッカラム氏は述べている。

 今回のミッションはNASAの後援も監督も受けないが、マッカラム氏によるとNASAはこの計画に大きな関心を示しており、既に宇宙飛行士の選考や宇宙船の居住環境改善に関してかなりのサポートを提供しているという。またインスピレーション・マーズ財団はNASAエイムズ研究センターと国家航空宇宙法に基づく契約を結んでおり、ミッション最後の地球への再突入計画に関して協力を得ることになっている。

 「NASAの比類ない専門知識を活用できるのに活用しないのは愚かだ。それにわれわれは自分たちの計画を、いずれ火星に人類を着陸させるというNASAの、ひいてはアメリカの取り組みの一環ととらえている。NASAは一切資金を提供しないが、今回の計画が実現すれば、そこから多くのものを得られるだろう」とマッカラム氏は述べる。

 今回の飛行計画について財団が正式な承認を得なければならない連邦政府機関は、すべての宇宙船の打ち上げと帰還を規制するアメリカ連邦航空局だけだ。

 しかしマッカラム氏によると、火星へのフライバイ計画が技術的に妥当だとの最終判断を下すのは、NASAの有人宇宙飛行部門トップだったジョセフ・ローゼンバーグ(Joseph Rothenberg)氏を筆頭とする財団の専門家委員会だという。そこでゴーサインが出なければ、チトー氏の計画は火星と地球が次に大接近する2032年までお預けになる。

 チトー氏はミッションにかかる推定費用を明らかにしていないが、最初の2年間は個人的に資金を拠出することを約束している。しかし、チトー氏らは既に資金集めも開始しており、それはかなりの成功を収めていて、特に今回の計画のうわさがインターネットに流れたここ数週間で多くの資金が集まっているという。

 ナショナル ジオグラフィック協会は、2018年のミッションへの参加に関してインスピレーション・マーズ財団と協議中だ。マッカラム氏によると、財団は他の団体や企業とも同様の話し合いをもっているという。(Marc Kaufman for National Geographic News February 28, 2013)


 火星ミッション、課題は乗組員の精神面
 服を“借りて”も返さない兄や弟。使ったホッチキスを元の場所に戻さない同僚。夫の靴下を片付けようとしない妻。これらは誰にでもあることだ。では、このような人と2人きりでRV車ほどの狭い部屋に閉じ込められ、17カ月を過ごすとしたら?

 非営利団体、インスピレーション・マーズ財団(Inspiration Mars Foundation)は2018年、男女2人搭乗の火星接近飛行を計画している。乗組員は長い行程中に、数々の精神的な問題に直面することになるだろう。プライバシーはその1つだ。

 世界初の宇宙旅行者デニス・チトー(Dennis Tito)氏率いる同財団は2月27日、アメリカ、ワシントンD.C.で記者会見を開き、計画を正式に発表した。

 乗組員はアメリカ人の男女1組で構成される。現行の装備で浴びる飛行中の放射線量を考慮し、出産可能年齢を過ぎていることが条件となる。また、記者会見に出席したジェーン・ポインター(Jane Poynter)氏によれば、技術的な制約のため、ミッションの参加人数は最大限2人になるという。

 ポインター氏は、ミッションで使う生命維持装置を開発するパラゴン・スペース・デベロップメント(Paragon Space Development)社の共同創業者で、「バイオスフィア2」の最初の実験にも参加している。バイオスフィア2は、アリゾナ州の砂漠につくられた自給自足型の居住地で、地球のさまざまな環境をシミュレーションし、人類が地球外に移住する際、閉鎖された狭い生態系で生存可能か検証する目的で計画された。

 人類は有史以前から未知の世界に挑み続けている。とはいえ、月軌道はまして地球低軌道を越える宇宙旅行は未知の領域だ。それに伴う乗組員の精神衛生の問題も同様だ。

 フロリダ州にあるエンブリー・リドル航空大学の研究者ジェイソン・クリング(Jason Kring)氏は、「技術的な課題より大きいと思う」と話す。クリング氏は過酷な環境に置かれた人間の行動を研究している。

 孤独感や退屈、はるかかなたの故郷という認識、いつ終わるかわからない閉塞感。研究者たちは乗組員の精神的な問題としてこれらを挙げている。


 乗組員に必要な資質とは?
 国際宇宙ステーション(ISS)をはじめとする地球周回軌道のミッションでは、宇宙飛行士は友人や家族、地上のチームとリアルタイムで交信できる。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の名誉教授で、NASAの宇宙飛行士の精神的な問題を研究するニック・カナス(Nick Kanas)氏によれば、ISSには訪問者があり、乗組員は好きな食べ物を補給してもらうこともできるという。「これが火星となれば、リアルタイムの交信などは望めない」。

 前述のポインター氏によれば、バイオスフィア2の生活で最もつらかったのが孤独感だという。

 エンブリー・リドル航空大学のクリング氏とUCSFのカナス氏は、2人という乗組員の数に疑問を感じている。「さまざまな問題を招く可能性がある。1カ月くらいであれば、誰とでもうまくやっていくことができる。しかし、1年半やそれ以上となれば話は別だ」とカナス氏は話す。

 クリング氏は、万一仲がこじれた場合、間に入る者もいないし、停滞した作業は誰が引き受けるのかと指摘する。

 ポインター氏によれば、バイオスフィア2で暮らしていた18カ月、内部運営に不可欠な用件を話す以外はまったく口を利かないメンバーもいたという。

 ただし、適切な人選を行い、きちんと訓練すれば、乗組員の精神的な問題はいくらか回避、軽減できるという指摘もある。

 カナス氏によれば、一般的に乗組員に向いているのは、単独作業と人付き合いの両方をエンジョイできる人物だという。ほかの乗組員から離れて1人になることもあれば、皆で食事をとったり、問題の解決にあたったりする場面もあるからだ。「内向的か外向的か。偏ったキャラクターは向いていない」とカナス氏は話す。

 クリング氏は、状況の変化に上手に対応し、仕事やライフスタイルに関する違いを柔軟に受け止められる資質も必要だと言い添える。

 パラゴン社のポインター氏は、理想的なのは仲の良いカップルだと考えている。「互いを知り、信頼し合う相手は、計り知れないほどの助けになる」。ポインター氏は、バイオスフィア2で長い時間をともに過ごしたテーバー・マッカラム(Taber MacCallum)氏と結婚している。マッカラム氏はパラゴン社の共同創業者であり、インスピレーション・マーズ財団の最高技術責任者を務めている。(Jane J. Lee for National Geographic News February 28, 2013)


 技術と費用の壁、火星旅行計画の変遷
 人類が火星旅行を夢想するようになってから1世紀以上が経過している。米国時間2月27日、実業家のデニス・チトー(Dennis Tito)氏が新たに設立した非営利団体「インスピレーション・マーズ財団(Inspiration Mars Foundation)」は、2018年に火星への有人フライバイ(接近通過)を目指す計画を発表した。

 現在一般的な火星のイメージが初めて登場したのは1870年代のこと。イタリアの天文学者ジョバンニ・スキアパレッリが、望遠鏡での観測により、火星の地表に複雑な線状の模様を発見し、溝(イタリア語:canali)と呼んだ。これが英語圏では「運河」(canals)と誤訳されたため、アメリカの天文学者パーシバル・ローウェルは、数十年にわたる火星観測の成果として“火星の運河システム”の詳細な地図を作成した。

 ローウェルの業績によって、火星の乾いた大地にはかつて高度な文明が存在し、極冠(両極にある氷)の水を運河によって分配していた、という見方が一般に広まった。

 このイメージに刺激され、H・G・ウェルズ『宇宙戦争』(1898年)などの多くのSF小説が誕生した。しかし20世紀になると、こうした空想よりも、人類が実際に火星に到達できるかどうかを問う科学的研究のほうが優勢になっていく。

 火星旅行の実際的なプランを最初に策定したのは、ロケット開発の先駆者の1人で、ドイツからアメリカに亡命したベルナー・フォン・ブラウンだ。1950年代初頭、フォン・ブラウンは4000トン級の宇宙船10機で70人の宇宙飛行士を運ぶ大規模な探査計画を提案した。

 フォン・ブラウンは火星旅行のみならず、有翼のスペースシャトル、軌道を周回する宇宙ステーション、月面基地などといった数々の壮大なアイデアを公表した。フォン・ブラウン協力の下、ウォルト・ディズニーによって、人類が月や火星を目指す宇宙旅行の様子を描いたテレビ映画シリーズが制作された。

 それから半世紀以上が経過したが、今なお人類の火星旅行が実現していないのはどういうわけだろう。技術と費用が2つの大きな障壁となっている。

 フォン・ブラウンの計画は、無重力状態で長時間過ごす影響や、太陽フレアの放射線など、多くの障壁を見過ごしていた。それに火星の大気は薄く、フォン・ブラウンが考えていたよりはるかに苛酷な環境であると分かった。

 こうした問題を解決するには莫大なコストがかかることから、これまで火星旅行は実現していない。それでもフォン・ブラウンのアイデアを出発点として、これまで各国政府や企業、非営利団体などがさまざまなスキームを打ち出して火星到達を目指してきた。以下にそのハイライトを紹介しよう。


 火星旅行、これまでの計画
 1962年、エンパイア計画: NASAと外部の提携機関が一連の研究の末に打ち出した火星へのフライバイ・ミッションで、往還には約500日かかると見込まれていた。後にこの計画は拡大され、「ノバ」(Nova)と名付けられた巨大ロケットを使って全長137メートルの宇宙船5機を軌道上に打ち上げ、15人の乗組員を火星に運ぶ構想となった。

 1964年、マリナー4号: 初めて火星フライバイを成功させた無人探査機。これによって、火星の大気が予想よりも薄く、放射線量も高いことが明らかになった。ローウェルの主張した火星の運河や、かつての文明の痕跡は確認できなかった。マリナー4号により、人類の火星旅行には非常な危険が伴うこと、自動化された探査機でもさまざまな観測を行えるうえ、有人ミッションよりコストも安いことが確認された。

 1966年、JAG有人フライバイ計画: 4人の宇宙飛行士による有人ミッションで火星フライバイを行うNASAの計画で、1976年に原子力ロケットによる打ち上げが予定されていた。フライバイの際には自動化された探査機を火星地表に下ろし、土壌サンプルの回収後に上空の有人宇宙船まで戻ってこさせる計画で、往還には667日が予定されていた。ベトナム戦争の費用の増大でこの計画は頓挫したが、着陸船(ランダー)に自動で調査を行わせるという構想は、無人ミッションであるバイキング計画に引き継がれ、バイキング2号は1976年に火星へのタッチダウンを成功させた。

 1969年、アポロ11号以降: この年、人類初の月面着陸を成功させたNASAは、引き続き野心的なプログラムを提唱した。この計画にはフォン・ブラウンも一部関わっており、有翼のスペースシャトルや宇宙ステーション、火星への大規模な有人飛行など、フォン・ブラウンのかつてのアイデアを彷彿とさせるものだった。ベトナム戦争による出費と、大衆の宇宙への関心の低下を理由に、この計画は退けられた。

 1989年、月・火星有人探査構想(SEI): この構想によって、宇宙ステーションの完成、月面への探査拠点の設置、2010年をめどに火星探査を実施、などの枠組が定められた。しかしその費用は5000億ドル超と試算され、構想は尻すぼみに終わった。

 2004年、ブッシュビジョン(宇宙探査のための大統領ビジョン): この宇宙探査計画には、アポロ計画とスペースシャトル計画の中で開発された技術をもとに、新たな有人宇宙船とブースターロケットを開発し、2015年にも大重量物打ち上げロケット(HLLV)を用いて有人月ミッションを再開するなどの目標が含まれていた。月ミッションを通じて新技術やアプローチを実験した後、2030年をめどに有人火星ミッションを行う意気込みであった。費用の関係でほとんどのプログラムは撤回された。

 2012年、レッド・ドラゴン: イーロン・マスク(Elon Musk)氏がCEOを務めるスペースX社の計画。同年に国際宇宙ステーション(ISS)とのドッキングを成功させた「ドラゴン」宇宙船を、2018年にも火星に着地させるというもの。これを足がかりに、将来的には人類の火星着陸も視野に入れている。

 2013年、インスピレーション・マーズ: 世界初の宇宙旅行者として知られるデニス・チトー氏の提唱によるもの。2018年に火星と地球が大接近するタイミングを捉えて有人火星ミッションを計画している。(Bill Douthitt for National Geographic News March 1, 2013)


参考HP National Geographic news:有人火星ミッション、計画の詳細発表 火星旅行計画の変遷 火星ミッション課題は乗組員の精神面


2035年 火星地球化計画     (角川ソフィア文庫)
クリエーター情報なし
角川学芸出版
最新探査機がとらえた火星と土星―水と生命の証拠を求めて/タイタンとリングの謎に挑む (ニュートンムック)
クリエーター情報なし
ニュートンプレス

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