不規則な生活は肥満になる可能性大
 よく生活のリズムは大切だというが、寝る前に何かを食べたり、不規則な生活をすると太りやすくなることが、時計遺伝子を使った実験でわかった。

 時計遺伝子(clock gene)は、体内時計をつかさどる遺伝子群を指す。動物では period (per), Clock (Clk), cryptochrome (cry) などが知られている。時計遺伝子に変異が起こると、生物は生活のリズムが保てず、行動にも変化が起きる。

 今回、肝臓の糖・脂質代謝の中核的な役割を担うカギ分子である「C/EBPα」が存在することが見出された。C/EBPαは、生化学的解析によると、肝臓で24時間活動している遺伝子の産物であり、肝臓におけるグリコーゲン合成や糖新生、脂肪の蓄積などに関わるさまざまな遺伝子の発現をコントロールする因子である。

 時計遺伝子が働くと、「C/EBPα」がつくられ、これがグリコーゲン合成や脂肪蓄積する酵素ができるのを制御。その結果、糖や脂肪が代謝されるつまり太りにくい体質になるのである。時計遺伝子が働かないと、C/EBPαもつくられず、糖がグリコーゲンとして蓄積されたり、脂肪が蓄積されたりする。

 発見したのは、産総研 バイオメディカル研究部門の石田直理雄 上級主任研究員らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、現地時間3月11日付けで米オンライン科学誌「PLoS ONE」に掲載された。また、2013年6月25~30日にアイルランドで開催される第22回国際行動学会議で発表される予定だ。


 代謝制御因子「C/EBPα」の発見
 産業技術総合研究所(産総研)は3月26日、体内時計に制御される分子で、代謝の中核的な役割を担う転写を制御する因子の「C/EBPα」をマウスの肝臓で発見し、夜中の飲食や不規則な生活が肥満につながるのは経験的に知られているが、分子生物学的にも関わりがある可能性があると発表した。

 現在、日本を含む先進諸国ではメタボリックシンドロームが問題視されていることは多くの人がご存じのことだろう。日本ではその主要因として、これまでは食生活の西洋化による摂取カロリーの増加が唱えられてきた。しかし最近の研究によると、それだけでは説明できないことも明らかになってきている。日本人のメタボリックシンドロームの主要因として、現在、最も注目されているのは「生活の夜型化による生活リズムの乱れ」だという。

 今回、網羅的遺伝子解析と生化学的分析から、体内時計を構成する遺伝子にコードされる転写因子の「時計タンパク質」と、一時的に肝臓で蓄積しておくためにグルコース(ブドウ糖)が重合した「グリコーゲン」の合成酵素の間に、肝臓の糖・脂質代謝の中核的な役割を担うカギ分子であるC/EBPαが存在することが見出された。C/EBPαは、生化学的解析によると、肝臓で24時間活動している遺伝子の産物であり、肝臓におけるグリコーゲン合成や糖新生、脂肪の蓄積などに関わるさまざまな遺伝子の発現をコントロールする因子である。

 そしてその上流に、時計遺伝子の1つである「Clock」の産物である制御タンパク質が結合する配列が発見された。この発見が示すのは、体内時計が肝臓でのグリコーゲン貯蔵や脂質代謝制御と関係がある可能性だという。なおClockは、体内時計を構成する複数の時計遺伝子の1つだ。制御タンパク質CLOCKを生産し、「E-ボックス」と呼ばれるDNA配列に結合させることで、その下流の遺伝子の発現を制御する仕組みを持つ。

 マウスの肝臓における分子C/EBPαの発現の経時的な変化を示したものだ。正常なマウスでは、遺伝子発現に明らかな日内リズムが見られ、日中は発現率が高まっている。一方、Clockに変異のあるマウスでは、1日を通じて発現にほとんど変動がなく、平坦な発現パターンが見られ、発現率も低いことが確かめられた。これが意味するものは、肝臓の代謝を担うC/EBPαの発現が時計遺伝子に制御されている可能性だという。


 時計遺伝子と代謝制御因子「C/EBPα」の関係 
 そこで研究グループは、C/EBPαの遺伝子配列を調べることにした。その結果、E-ボックスが2つ、C/EBPαの遺伝子発現の制御領域に存在することを発見した。さらに、C/EBPαの制御領域の下流に「リポーター遺伝子」(プロモータの下流に結合させて、そのプロモータの働きを調べることを目的とした遺伝子)を連結し、リポーター遺伝子の発現が、培養細胞中で時計遺伝子の発現と同様に24時間周期で振動することも確認された。

 一方、2つのE-ボックス配列に変異を導入し、制御タンパク質「CLOCK」(遺伝子Clockなど体内時計を構成する遺伝子にコードされる転写因子)が結合できなくなるようにしたところ、24時間周期の振動が見られなくなることが判明(画像3の2)。これらの事実から、時計遺伝子はE-ボックスを通じてタンパク質の生産を促進し、C/EBPαの発現を制御していることが確認できたというわけだ。さらに、CLOCKがC/EBPαの発現パターンと同期して、これらE-ボックスに直接結合することも確認されている。

 C/EBPαを正常に機能させる必須条件は、それを制御する時計遺伝子を正常に機能させることだ。それには体内時計のリセットが必要だが、朝、光を浴びることでリセットされるという事実は、「起床時に頭をスッキリさせる手法」という健康情報として知っている人も多いだろう。C/EBPαが肝臓で制御する遺伝子の中には、朝は食物を分解してエネルギーを得るように機能し、夜は逆にエネルギーを肝臓内に蓄積するように働いていると考えられるものがある。よって、リズムが逆転してしまったり不規則になれば、エネルギーを余計に蓄積してしまったりすることにつながる可能性があるというわけだ。要は、朝にきっちりとリセットする健康的なリズムで生活を送ることで、肝臓などの臓器がそのリズムに伴って働き、体内でも健康的な活動が行われるのである。

 今回の発見は、肝臓で代謝の中核的な役割を担う分子C/EBPαが、時計遺伝子によってその発現を制御されていることが、初めて実証されたというものだ。夜中の飲食や不規則な生活が肥満の原因になるということは経験的に知られているが、これが分子生物学的にも関わる可能性があることがわかったのである。つまり、エネルギーを蓄積するよう代謝が働く夜間に食事を摂れば太りやすくなり、体内時計の変調もまた代謝に悪影響を与えるということだ。

 以上のことからC/EBPαが正常に機能しなくなると、メタボリックシンドロームや肝硬変などの影響を与える可能性があると、研究グループは述べている。なお今後については、代謝を制御するカギとなるC/EBPαと肝臓の働きについての研究を進め、関係性を明らかにしていく計画としている。


 時計遺伝子とは何か?
 時計遺伝子(clock gene)は、概日リズム(体内時計)をつかさどる遺伝子群を指す。動物では period (per), Clock (Clk), cryptochrome (cry) などが知られている。

 時計遺伝子に変異が起こると、モデル生物では恒常条件下(恒常的な暗黒や連続照明)概日リズムが保てず、活動にリズムがなくなったり(無周期)、短い、あるいは長い周期(短周期、長周期)で行動するようになる。

 時計遺伝子(Clock gene)とは、概日リズムの発生に必要な遺伝子の一群を指す。ただし、正式に定義されたものではない。 時計遺伝子は発現に顕著な 24 時間リズムが見られるものが多い(例外もある)。一方で、時計遺伝子以外でも時計による支配を受け 24 時間リズムで発現振動する遺伝子も多く見られ、それらは Clock controlled gene(CCG, 時計制御遺伝子、時計被制御遺伝子)と呼ぶことも提唱されている。

 なお、イタリックで Clock gene と記載された場合は時計遺伝子全体ではなく、特定の Clock (circadian locomoter output cycles kaput) 遺伝子を指す。

 最初の概日リズム変異動物は、ベンザーとコノプカにより 1971 年に報告された period 変異体である(Konopka and Benzer 1971 PNAS)。遺伝子は 1984 年に同定された。

 ほ乳類での最初の時計遺伝子は、日系アメリカ人であるタカハシらが報告した Clock である。1994 年に変異体が、1997 年に原因遺伝子が報告された。なお、ほ乳類で最初の概日リズム変異はハムスターで 1988 年に tau 系統が見つかっていたが、その原因遺伝子の特定は 2000 年であった。


 遺伝子発現のしくみ
 遺伝子発現のネガティブフィードバックループが提唱され、それが根幹と考えられているものがある。動物では正の転写因子である CLOCK/BMAL 複合体が E-Box 配列に結合して、負の転写因子である Per, Cry の転写を活性化する。作られた PER/CRY 複合体が核に移行して、CLOCK/BMAL 複合体を抑制して Per, Cry の転写が減少する。ただし、キイロショウジョウバエでは CRY ではなく TIMELESS (TIM) が PER とともに核に移行する。

 概日リズムの形成のためには、これらコア時計遺伝子以外にも多くの遺伝子が関与している(動物の時計遺伝子を参照)。 植物やアカパンカビでは、動物とは異なった時計遺伝子が働いているが、同様の転写フィードバックループが示されている。

 リン酸化によるリズム形成も報告されている。シアノバクテリアでは、転写フィードバックループに依存しない、リン酸化のみによる24時間リズムの維持が報告されている(名古屋大学)。時計遺伝子産物である KaiC のリン酸化には 24 時間リズムがあるが、そのリズムは試験管内で、KaiA, KaiB, KaiC のたんぱく質と ATP を混合することでも維持されることが示されている。

 動物でも時計遺伝子産物のリン酸化リズムが知られており、時計遺伝子のリン酸化酵素の変異や、PER などのリン酸化標的アミノ酸の変異は周期の異常を起こすことが報告されている。(Wikipedia)


参考HP マイナビニュース:就寝前の食事や不規則な生活は肥満につながる Wikipedia:時計遺伝子


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