DNAの構造とはたらき
 DNAというと、正式名は、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid、DNA)のことで、核酸(細胞の核にある物質)の一種である。DNAで重要なことは、地球上の生物において「遺伝子」と呼ばれる、遺伝情報を担う物質となっていることである。その構造はどうなっているのか?

 DNAはデオキシリボース(五炭糖)とリン酸、塩基 から構成される核酸である。塩基はプリン塩基であるアデニンとグアニン、ピリミジン塩基であるシトシンとチミンの四種類あり、それぞれ A, G, C, Tと略す。このデオキシリボースとリン酸、塩基が結びついたものを「デオキシヌクレオチド」という。「デオキシヌクレオチド」は核酸の最小単位である。

 このデオキシヌクレオチドが、多数集まってできる高分子を「ポリデオキシヌクレオチド」という。DNAはこの鎖状ポリデオキシヌクレオチドが2本つながって一組となっている。このとき2本のDNA鎖は、塩基どうしの相補的な結合 (A/T, G/C) によって緩やかな水素結合をしており、全体として二重らせん構造をとる。

 今回、理化学研究所では、自然界には無い人工塩基を天然のDNAに組み込むことで、DNAの機能を向上できることを発表した。DNAの塩基というとこれまで、アデニンとグアニン、シトシンとチミンの四種類(A, G, C, T)であったが、理化学研究所の研究グループは「Ds」「Px」という2つの人工塩基の作製・組み込みに成功していた。


 DNAには、塩基の配列をもとに、相補的に対応するアミノ酸を結合させ、タンパク質を合成する働きがある。今回理化学研究所は、組み込んだ人工塩基「Ds」「Px」をもとに、タンパク質を100倍の効率で合成させることに成功した。

 自然界に存在するものよりも、人が造った物の方が優れているということは、人がいよいよ新しく生命をデザインする時代が近づいたということだろうか?次の文章は、理化学研究所の4月8日プレスしリースからの引用である。


 DNAに人工塩基を組み込み、DNAの機能向上を実現
 理化学研究所(理研)と理研ベンチャーのタグシクス・バイオは4月8日、自然界には無い人工塩基を天然のDNAに組み込むことで、DNAの機能を向上できることを証明したと発表した。

 同成果は理研生命分子システム基盤研究領域 核酸合成生物学研究チームの平尾一郎チームリーダー(現 ライフサイエンス技術基盤研究センター 構造・合成生物学部門 生命分子制御研究グループ 合成分子生物学研究チーム チームリーダー)らによるもので、詳細は米国の科学雑誌「Nature Biotechnology」に掲載された。

 遺伝子の本体であるDNAは、塩基、リン酸、糖で構成されている核酸で、すべての生物の遺伝情報は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)の4種類の塩基を組み合わせた配列としてDNA上に記述されており、AとT、GとCのそれぞれが塩基対を作ることで二重らせん構造を形成している。

 塩基対の法則とDNAの構造は、1953年にジェームズ ワトソンとフランシス クリックによって発見されたが、その後、1962年に、タンパク質合成に関わるtRNAの立体構造を米国のアレキサンダー リッチが解明し、「もしDNAの塩基の種類を増やすことができれば、DNAの情報や機能を拡張できる可能性がある」といった仮説を提唱していた。しかし、この仮説の証明には、塩基の種類を増やしたDNAが正確に複製されるように第3の塩基対を人工的に作り出す必要があり、その実現に向けた研究がこれまで世界各地で進められてきた。

 研究グループも2002年に最初の人工塩基対を開発して以降、2006年には複製で機能する人工塩基対の作製に成功したほか、2009年には試験管内でDNAを複製させる手法「PCR」を用いて、天然型塩基対に近い精度で複製する「Ds-Px(ディーエス-ピーエックス)塩基対」の作製に成功している。


 複製が可能な人工的に作り出した第3の塩基対Ds-Px
 これらの成果から、果たして塩基の種類の増加がDNAの機能向上につながるのか、という疑問が課題として存在するようになっていた。例えば、数十塩基から構成されるDNAを用いた抗体(DNAアプタマー)は、標的となる分子だけに結合する能力を持ち、短時間に化学合成が可能なうえ、作用機序が単純なほか、通常の抗体はタンパク質から合成されるため、体内に投与したときに異質な物質と認識され治療薬を排除する抗体が産生されることがあるが、そうした心配もないという利点があることから、次世代の分子標的医薬として注目を集めるようになってきた。

 従来のDNAアプタマーを作製手法「SELEX法」は、4種類の天然型塩基をランダムに配列させた10~100兆種類のDNA断片群をライブラリとして用い、この中から標的タンパク質に結合する断片を選別し、選別したDNA断片をPCR法で増幅することを繰り返すことでDNAアプタマーを得るといったもので、さまざまな研究から、標的タンパク質に対する結合能力や選択性を高めるために、従来の天然型塩基だけのDNAを用いる方法に加えて、天然型塩基を修飾する方法などが報告されているが、いずれも実現はされていなかったという。

 そこで共同研究グループは今回、DNAを用いた抗体(DNAアプタマー)に人工塩基を組み込み、塩基の種類を増やすことで、標的とするタンパク質との結合能力を向上させる試みとして、天然型塩基だけで構成される従来のDNAアプタマーではタンパク質の疎水性の部分と結合しにくいという欠点(DNAは水に溶けやすい性質(親水性)を持つが、タンパク質は親水性の部分と疎水性の部分からなるため)を克服するために、ランダム配列のDNA断片に疎水性の人工塩基Dsを組み込むことで5種類の塩基からなるライブラリを合成し、これを用いて標的タンパク質に結合するDNAアプタマを作製する新たなSELEX法(新SELEX法)を開発した。

 選別されたDNA断片は、天然型塩基に人工塩基DsとPxを加えたPCR用の基質を用いてPCRで増幅され、その増幅された二本鎖DNAからDsが組み込まれた一本鎖DNAを単離し、選別・増幅を繰り返してアプタマーを得た。この得られた塩基配列に対し、次世代シーケンサーを用いて網羅的解析を実施し、アプタマー中のDsの位置も特定できるようにしたとする。


 標的タンパク質との結合能力100倍達成
 実際のモデル実験として、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やインターフェロン-γを標的タンパク質として、新SELEX法でそれぞれのDNAアプタマーを作製したところ、天然型塩基だけで合成された従来のDNAアプタマーと比較して、標的タンパク質との結合能力が100倍以上向上していることが確認されたという。これらのDNAアプタマーは、40~50塩基の長さを有していたが、その中の2カ所あるいは3カ所にだけ人工塩基Dsが組み込まれており、標的タンパク質に対する選択性も高いことが確認されたという。

 研究グループでは、高い結合能力を有したDNAアプタマーが得られた理由として、人工塩基Dsの疎水性が高いため標的タンパク質上の疎水性領域との結合能力が高まったことと、人工塩基DsをDNAライブラリーに組み込むことによりDNAの構造の多様性が増し、標的タンパク質との結合に適した立体構造を有するDNAアプタマーが得られたことによるものと説明している。

 この結果、人工塩基を含むDNAアプタマーの活用により、従来の抗体技術に代わって診断・検出・医薬品開発分野での応用が期待できるようになるという。また、作製されたDNAアプタマーはドラッグデリバリーシステム(DDS)や新規バイオマーカーの探索にも利用できると考えられるほか、新SELEX法を従来のDNAアプタマー改良法と組み合わせることで核酸触媒の作製やDNAやRNAの新たな機能創出にも応用できるという。さらに、アプタマーなどの応用だけでなく、従来の組換え技術に代わる次世代の遺伝子操作技術としても、人工塩基対の今後の進展を期待させるものとなることも期待できると研究グループでは説明している。 (理化学研究所 2013/04/08)


参考HP 理化学研究所:人工塩基を用いてDNAの機能向上を証明


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