透明な血液を持つ魚
 南極大陸周辺の海にすむ無色透明な血液を持つ、アイスフィッシュ(コオリウオ)という魚が、葛西臨海水族園(東京都江戸川区)で、世界で初めて孵化した。3匹の可愛らしい稚魚が5月23日から一般公開されている。

 透明な魚ならば、グラスフィッシュや、グラスキャット、ウナギの幼生レプトケファレスなどがいるが、最大の特徴は、脊椎動物で唯一、血液中にヘモグロビンをもたず、血液が無色透明で赤くない。このため、他のほとんどの魚の鰓(えら)は、ヘモグロビンによって赤色やピンク色をしているが、コオリウオ科の魚の鰓だけは、クリーム色をしているという。

 ご存じの通り、ヘモグロビンは肺や鰓で酸素と結合して、体内に運ぶ働きをする。なぜコオリウオ科の魚がヘモグロビンをなくしたのか分かっていない。葛西臨海水族園によれば「分かっていることは、コオリウオ科の魚は大きな心臓を使って全身に大量の血液を送り、その液体成分(血しょう)に酸素を溶かして運んでいること、さらに、鰓だけでなく体の表面からも酸素を取り入れていることだ」という。


 アイスフィッシュの稚魚公開
 葛西臨海水族園のアイスフィッシュは、日本の水産会社が南極周辺でナンキョクオキアミ操業を行った際に一緒に採集され、2011年8月19日に2匹(オス・メス)が搬入された。

 その後、水槽で飼育していたところ、12年12月から行動や体色に変化がみられ、今年1月12日深夜に数百個の産卵があった。卵は5月7日からふ化し始め、20日までに約20匹の稚魚(体長2.1-2.3ミリメートル)が生まれた。

 育成水槽の水温は2-3℃で、ふ化までに要した日数は最短で114日。生息海域での水温はさらに低いことから、自然状態ではふ化までの日数はもう少し長いと考えられている。

 稚魚たちの体は透き通っていて、背骨が見える。成魚での特徴である大きな口が開き、歯も確認できる。ほとんど水槽底にいることが多いが、時々水面まで泳ぎ上がる様子が見られる。アイスフィッシュについては、世界の水族館での飼育例がなく、分からないことが多い。葛西臨海水族園では、成魚になるまでの生態を詳しく観察していく。(サイエンスポータル 2013年5月22日)


 産卵からふ化までの経緯
 平成24年12月末、展示中のオスが水槽底の砂を尾鰭などで掘り、産卵床と思われるすり鉢状の窪みをつくり、また体の一部が黒く変化し、繁殖期に現れる「婚姻色」と思われたため、非公開の予備水槽のメスを同居させました。

 その後、両個体が一緒になって回転するように泳いだりする行動がみられたため、産卵が近いと判断し、夜間はビデオカメラで行動を記録しました。平成25年1月13日朝、水槽内に数百個の卵(直径4.4ミリメートル)を発見し、ビデオを確認したところ、1月12日午後11時13分に産卵があったことがわかりました(平成25年1月18日発表済)。

 オスを予備水槽へ取り出した後、メスは産卵床の中心で卵を保護していましたが、受精卵と未受精卵が混在していたため、卵の腐敗を避けるために全ての卵を水槽から取り出し、非公開の育成水槽で飼育を続けていました。育成水槽の水温はおよそ2~3度、ふ化に要した日数は最短114日でした。本種の生息海域の水温はもう少し低いことから、自然状態でふ化に要する日数はもう少し長いものと考えられます。

 仔魚はふ化直後から、成魚での特徴である大きな口が開いており、歯も確認することができます。腹部にはまだ大きな卵黄を持っており、しばらくはここから栄養を得てこれを吸収して成長するものと考えられます。

 本種のふ化初期の生態については研究例がないものの、体長34~56ミリメートルのやや成長した仔魚をプランクトンネットで採集した研究例では、胃の中から主に小型のオキアミ類が多く見つかっています。当園でも、アミ類やブラインシュリンプなど、小型の甲殻類の給餌を試みましたが、今のところ摂餌は確認できていません。

 現在、水槽底にいることが多いものの、時々水面まで泳ぎ上がる様子が観察されています。上述の研究では、大型の仔魚は表層から水深400メートルの広い範囲で採集されていますので、水底から離れ、浮遊生活を送るものと考えられます。(葛西臨海水族園)


 コオリウオの不思議
 コオリウオ科の魚には、ヘモグロビンがありません。そもそもヘモグロビンは、血の中にあって体全体に酸素を運搬する役割を担っています。したがってヘモグロビンが無くなれば、体に酸素を運ぶことができませんから、普通の生き物ならば死んでしまいます。

 余談ですが、血が赤いのは、ヘモグロビンには鉄を含むヘムという成分があり、それに酸素がくっ付くからなのです(鉄が酸素とくっ付くと錆びて赤くなるのと同じ理屈です)。

 ところがコオリウオの場合は、ヘモグロビンではなく、血漿という成分に酸素を溶かして運搬しています。そのためにヘモグロビンなしでも生きていけるのです。

 しかし血漿の場合、ヘモグロビンと比べて酸素運搬の効率が悪いので、量で勝負しなければなりません。つまり、たくさんの量の血液を循環させることで、運搬効率の悪さを補う必要があるのです。

 そのためにコオリウオの心臓は他の魚より大きめにできていますし、血液もたくさんあります。さらに良く循環できるように血液の粘度が低くなっています(ドロドロの血液よりも、サラサラの血液が良いのは、ヒトだけではありません!)。

 コオリウオが寒さ(マイナス温度)に耐えられる仕組みはなぜでしょう?コオリウオは、スズキ目コオリウオ科に含まれる魚の総称です。その名前が示しますとおり、水も凍る南極海に分布する魚たちです。今、水も凍ると言いましたが、コオリウオは凍りません。なぜなら血液を凍らせないような特殊なたんぱく質(不凍たんぱく質)が含まれているからなのです。寒冷地では自動車のワイパー液に不凍液を入れていますね。

 コオリウオを見る機会はあるのでしょうか?コオリウオ科の魚を日本の沿岸でみることはありませんが、意外にも食卓の上でみることが可能です。コオリウオ科の一種であるコオリカマスという魚は輸入されていますし、フライや唐揚げにすると美味とのことです。

 食卓の上やスーパーで切り身を見ただけではつまらない方は、東京海洋大学(品川キャンパス)にある水産資料館へ足を運ばれると良いと思います。コオリウオ科の魚類としては、スイショウウオ、クロスイショウウオなどの標本を見ることができます。(海洋政策研究財団研究員 福島 朋彦)


 オセレイテッド アイスフィッシュ(ジャノメコオリウオ)について
 学名は、Chionodraco rastrospinosus、英名 Ocellated Icefish。分類、スズキ目ナンキョクカジカ亜目カンニクティス(コオリウオ)科。

 分布は、サウスオークニー諸島、サウスシェトランド諸島から南極海大西洋区スコシア海域

 全長は、約55センチメートル。本種が属するコオリウオ科の魚類はわずか16種のみからなるグループで、南アメリカ南部(パタゴニア)近海に分布する1種以外はすべて南極大陸周辺海域の水深5メートル程度の浅瀬から1000メートルを超える海底に生息している。

 体表には側線部分以外に鱗が無く、頭部は扁平な形を呈する。最大の特徴は、脊椎動物で唯一ヘモグロビンをもたないため、血液が無色透明なことである。また、ほとんどの魚の鰓が赤色やピンク色をしているのに対し、コオリウオの鰓はクリーム色をしている。

 ヘモグロビンは、赤血球に含まれているタンパク質でヒトを含む全ての脊椎動物の血液中に存在する。鉄を含むヘムという分子をもっているため赤色に見える。ヘモグロビンは肺や鰓などで結合した酸素を体内の各組織へ運ぶ働きがある。


 【葛西臨海水族園
<開園時間> 9時30分~17時00分(入園は16時00分まで)
<休園日>  毎週水曜日(祝日のときは、翌日) ※開園日については東京ズーネットでご覧いただけます。
<入園料> 一般:700円、65歳以上:350円、中学生:250円 ※小学生以下及び都内在住、在学の中学生は無料


参考 海洋政策研究団のブログ:コオリウオの不思議 サイエンスポータル:血液が無色透明アイスフィッシュの稚魚が孵化


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