氷河後退で400年前のコケが再生
 コケにどんな種類があるのか、知る人は少ないだろう。一般的に世界中でおよそ2万種ほどが記録されている。多くは緑色であるが、赤色や褐色の種もある。大きな群として、蘚類・苔類・ツノゴケ類の3つを含む。日本には約1800種のコケ植物が分布しており、そのうち200種以上が絶滅の危機に瀕しているといわれている。

 コケ植物は不思議な植物だ。一般的に乾燥して保存するが、乾燥しても虫がつくことが無く、観察したいときは水に戻すと、ほぼ元の形に回復する。生命力の強い生物である。シダや高等植物の押し葉標本が、放置すればあっと言う間にボロボロになるのとは大きな違いがある。

 そんな生命力のあるコケが、約400年ぶりに再生しているのが発見された。場所は、カナダ北極圏、エルズミーア島中部の山脈地帯にあるティアドロップ氷河(Teardrop Glacier)周辺地域で、カナダ、アルバータ大学の調査で判明した。

 地球温暖化のため、近年、後退しているカナダ氷河の下で、凍りついていたコケ植物が、400年ぶりに目覚めたのである。研究チームは、ティアドロップ氷河(Teardrop Glacier)周辺地域で、コケ植物や維管束植物の生物多様性調査にあたっていた。


 以下はナショナルジオグラフィックnewsからの引用である。

 「後退する氷河の端で、点在するコケ植物が氷の下から伸びているように見えた」と、プロジェクトリーダーのキャサリン・ラ・ファージ(Catherine La Farge)氏は語る。

 「黒く変色した中に緑色の部分が交ざっていたので、不思議に思ってよく観察した。コケ本来の色なのか、何世紀も前の藻が再生しているのか。思わず胸が高まった」。


 コケ植物の休眠
 研究チームはエドモントンにある研究室に戻り顕微鏡で観察。とてつもなく重い氷の下で過ごした後、目の前で小さな芽を出しているのは、やはり数世紀前のコケ植物だった。放射性炭素年代測定によると、400~600年の凍結期間と推定される。

 興味津々の研究チームは、採取した試料の一部から茎と葉の組織を取り出し、シャーレの栄養豊富な培養土に植え付けた。緑色の物体が出現したのは6週間後で、最終的に7つの標本から4種のコケ植物が確認された。

 再生を遂げたコケ植物は、1年後の今でも成長を続けているという。1550~1850年頃の小氷河期に氷河が拡大して凍結したとみられるが、長期間の休眠にも関わらず、一冬超した状態とほとんど同じ急速な再生能力を発揮した。氷河に覆われた生態系も、案外早く回復する可能性がある。


 古代から生育
 自然界の中でもコケは生存戦略に長けている植物で起源が古く、海から陸に上がった時期は4億年以上前に遡る。

 生育に都合の悪い時期には休眠して耐え、環境が良くなれば成長を再開するという特性を備える。しかもコケ植物の細胞は幹細胞のように分化可能で、どの細胞からも“クローン”を作成したり復活させることができる。

 400年以上の時を経て再生したコケ植物だが、まだ上手が存在する。昨年、シベリアの研究チームが発芽に成功した種子は、約3万2000年前の地層に埋もれていた。スガワラビランジ(学名:Silene stenophylla)というナデシコ科の被子植物で、永久凍土層から発見されたそうだ。

 「シベリアの場合は、かなり高度な技術を応用したと聞いている」とラ・ファージ氏。人工的に発芽させるには、子房中の胎座を抽出する必要があった。一方、まるで手間が掛からなかったのは、ティアドロップ氷河のコケ植物だ。培養土と親身な世話だけで見事再生を遂げたのである。(Roff Smith for National Geographic News May 30, 2013)


 コケ植物と地衣類
 コケ植物(Bryophyte)とは、陸上植物かつ非維管束植物であるような植物の総称、もしくはそこに含まれる植物のこと。コケ類や蘚苔類(せんたいるい)、蘚苔植物(せんたいしょくぶつ)などともいう。世界中でおよそ2万種ほどが記録されている。

 植物体は小型で、多くは高さ数cmまで。体制から茎と葉が明瞭な茎葉体と明瞭でない葉状体とに分けられる。茎葉体の場合、双子葉植物のように軸と葉の区別がつくが、構造ははるかに簡単である。いずれにせよ、維管束はないが、その役割を代用する細胞は分化している場合がある。

 胞子体の頂端の胞子嚢に作られる胞子によって繁殖する(ただし、コケ植物では胞子嚢を蒴(朔、さく)と呼ぶ)。蒴の形態や構造は重要な分類上の特徴である。

 なお、日常用語にて「コケ」というと、そのほかに地衣類なども含む。しかし、地衣類は、菌類(主に子嚢菌類)と藻類(シアノバクテリアあるいは緑藻)からなる共生生物であるので注意が必要だ。

 地衣類というのは、陸上性で、肉眼的ではあるがごく背の低い光合成生物である。その点でコケ植物に共通し、生育環境も共通している。それゆえ多くの言語において同一視され、実際に地衣類の和名の多くに「○○ゴケ」といったものある。

 しかし地衣類の場合、その構造を作っているのは菌類である。大部分は子嚢菌に属するものであるが、それ以外の場合もある。菌類は光合成できないので、独り立ちできないのだが、地衣類の場合、菌糸で作られた構造の内部に藻類が共生しており、藻類の光合成産物によって菌類が生活するものである。


 コケ植物の生活環
 生活環は、シダ植物などと同様に有性生殖で世代交代を行う。ただしコケ植物の場合、植物体は配偶体であり、核相は単相 (n) である。

 配偶体がある程度成長すると、その上に造卵器と造精器が形成され、それぞれ卵細胞と精子をつくる。雨などによって水に触れた時に、精子が泳ぎだし、造卵器の中で卵細胞と受精し受精卵(接合子)がつくられる。受精卵はその場で発生を始め、配偶体に栄養を依存する寄生生活の状態で発達し、胞子体を形成する。

 この胞子体は複相 (2n) で、長く成長することがなく、先端に単一の胞子嚢を形成するとそれで成長を終了する。先端の蒴(胞子嚢)の内部では減数分裂が行われ、胞子(単相 (n) )が形成される。

 胞子は放出されて発芽し、はじめは枝分かれした糸状の原糸体(げんしたい、protonema)というものを形成する。原糸体は葉緑体をもち、基質表面に伸びた後、その上に植物体が発達を始め配偶体となる。なお、一部に生涯にわたって原糸体を持つものがある。

 配偶体は雌雄同株のものが多いが、雌雄異株のものもある。雌雄異株の場合、外見上は差のない場合が多いが、はっきり見分けのつくものもあり、中には雄株が極端に小さくて雌株上に寄生的に生活する例も知られている。(Wikipedia)


参考HP Wikipedia:コケ植物 National Geographic news:氷河後退で400年前のコケが再生


コケ (フィールド図鑑)
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