二酸化炭素だけではなかった気候変動

 梅雨が終わったと思ったら連日、日本列島を猛暑が襲っている。8日には東海から九州の各地も梅雨明けした。各地で今年一番の暑さになった。気象庁の927観測点のうち、30度以上の真夏日になったのは616地点。このうち、95地点は猛暑日となる35度以上を記録した。

 地球温暖化の影響だろうか、関東地方は平年よりも15日も早い梅雨明けだった。北極では氷が溶け、北極海航路が開けたという。北極海にある地下資源も利用できる可能性がある。これから地球温暖化のために、驚くべき現象がいくつも起きるのだろうか?

 だが、一方で、地球は寒冷化するかもしれない…という、もっと驚くべき調査結果を、海洋研究開発機構の中村元隆主任研究員が発表した。にわかには信じがたいが、北大西洋を中心に、約70年周期で寒冷化と温暖化が繰り返される傾向があるのだという。


 グリーンランド海の水温が海水の大循環を通じて、北半球の気候に影響を与える可能性が指摘されてきた。1957年以降の海水温度を解析した結果、グリーンランド海の水温が70年周期の気候変動の先行指標になる可能性が示された。現在の温暖化は1979年にグリーンランド海の水温が2度上昇したことがきっかけで始まったとみられ、2015年前後には寒冷化が起こる可能性があるという。

 そういえば1970年代、私が小中学生のときはやたらと寒かった記憶がある。冬には水道管が毎日のように凍った。道路の水たまりも毎朝凍っており、バリバリ割りながら登校した記憶がある。霜柱も凄かった。毎朝10cmぐらいにのびた。あの寒さが再びやってくることがあるのだろうか?


 北半球が2015年以降に寒冷化!?

 「2015年ごろから数年のうちに北半球が寒冷化するかもしれない」との予測結果を、グリーンランド海付近の観測データを解析した海洋研究開発機構・地球環境変動領域の中村元隆主任研究員が米国気象学会誌『Journal of Climate』に発表した。1980年代以降の北半球の温暖化をもたらした“1979年の大転換”とは逆の現象が2015年ごろに起きる可能性を指摘したもので、北大西洋近辺の変動を注意深く観察する必要があるという。

 大西洋の熱帯域から北緯70度付近までの海域では、海面水温が約70年周期で上昇・下降を繰り返す「大西洋数十年規模振動」という現象が過去1000年以上にわたって見られ、これが北半球のほぼ全域の気候にも影響していると考えられている。この現象により北半球の平均気温は1980年ごろから約35年間温暖化するとされるが、現行の気候モデルでは、増加しつつある二酸化炭素による影響とは明確に区別されていない。

 中村主任研究員はヨーロッパ中期予報センターや米国海洋大気庁、英国気象庁の1870年から現在までの全球海面水温データを基に、大気下層部の温度勾配と大気・海洋の状態と関係を解析した。その結果、とくにグリーンランド海付近の水面温度が大西洋の大気に強く影響し、水面温度の高低によって大西洋の南北での気圧差の変動が起きていることをつかんだ。さらに、過去の1979年の2月から3月にかけてグリーンランド海付近では平均海水温が急激に2℃近く上昇し、これが周辺の大規模な大気の流れを引き起こすことで、北半球中高緯度域の気候変化をもたらした可能性のあることが分かった。

 こうした“1979年の変化”は、1940年代から70年代にかけての北半球の寒冷化から1980年代以降の温暖化への大きな転換点となったとみられ、日本付近でも1979年以降、月平均気温の年ごとのブレ幅が増大するような極端現象が、高い頻度で起こるようになったという。

 中村主任研究員は「2015年前後にグリーンランド海において1979年に起こったのとは逆の現象が起こると考えられる」と指摘。最近10年ほどの地球温暖化の停滞の傾向は「大西洋数十年規模振動」の周期から推測される傾向と一致しており、数年間で北半球が寒冷化へ移行する可能性もあると述べている。 (サイエンスポータル 2013年7月2日)

以下は、海洋開発機構記事「グリーンランド海の急激な変化がもたらした北半球の気候変化」からの引用である。


 大西洋熱塩循環環流

 近年の研究で、メキシコ湾流、黒潮・親潮、アガラス海流等の温かい水と冷たい水の境界を生み出している中高緯度域海流の変動が、大規模な大気循環に影響を与えることが確認されてきました。それによって、従来の気候シミュレーションモデルでも中高緯度域海流の変動が大気に与える影響を正確に再現できるようにモデル精度の向上が求められ始めています。

 グリーンランド海も、北極海の冷たい水とメキシコ湾流を源とする温かい水の境界になっており、海流・海氷・海水温の変化・変動が激しい海域です(図1)。グリーンランド海は、フラム海峡を通路として北極海から大西洋へ輸送される海氷の通り道となっており、グリーンランド海からラブラドール海にかけての北大西洋北部で大気に冷やされた海水が深く沈み込むことで励起される大西洋熱塩循環流と密接に関係しています。

 大西洋熱塩循環流は、熱帯・亜熱帯域の温かい表層水が北大西洋北部で冷やされて沈み、沈んだ冷たい水が深層を低緯度に向かって流れながら風力によって熱帯・亜熱帯域で再び表層に引きずり上げられるという、表層で北向き、深層で南向きのループ流です。

 大西洋熱塩循環流は、熱帯域から北大西洋北部への莫大な熱輸送によって北半球の気候に強い影響を及ぼしています。1940年代以降に地球の平均気温が下がって1960年代から1970年代にかけて「地球寒冷化」や「氷河期到来」が騒がれたのも、この大西洋熱塩循環流の変動が原因ではないかと考えられています。

 グリーンランド海は、小さい海域ながらも大西洋熱塩循環流に強い影響を与えることで北半球の気候に強い影響を与える可能性がありますが、過去の研究ではこの海域の水温変動が北半球の気候に及ぼす影響はよく分かっていませんでした。

 また、グリーンランド海の水温変動が起こり、それが大西洋熱塩循環流に影響を与え、さらに北半球の気候にも影響が及ぶプロセスは、現在一般的に使われている気候シミュレーションモデルでは全く正確に表現されておらず、それらのモデルでは大西洋熱塩循環流に伴う劇的な変化・変動は正確に表現できていません。


 大西洋数十年規模振動が温暖化の原因か?

 過去1000年以上にわたって約70年周期で北半球に長周期気候変動をもたらしてきた「大西洋数十年規模振動」は、フラム海峡経由の海氷輸送とそれが大西洋熱塩循環流に与える影響がメカニズムの根幹であると考えられており、したがってフラム海峡経由の海氷輸送に強い影響を持つと同時に影響も受けるグリーンランド海水温の変化・変動は、大西洋数十年規模振動に伴う変動に大きく関与していると考えられます。

 過去のデータから推測される大西洋数十年規模振動に伴う北半球平均気温の長周期変動は、1980年頃から約35年間の温暖化を予測しており、現存の気候モデルでは1980年代以降の北半球平均気温上昇が二酸化炭素増加によるものなのか、大西洋数十年規模振動によるものなのかは明確に判断できません。

 さらに、進行する二酸化炭素増加が大西洋数十年規模振動にどのように干渉するのかも予測することはできません。つまり、このような地球環境に内在する長周期変動と関連するプロセスの発見と理解は、信頼度の高い気候変動予測システムの構築に必要不可欠です。

 そこで、本研究では北半球長周期気候変動の鍵とも考えられるグリーンランド海の変化・変動が気候にどのような影響を及ぼしているのかを、メキシコ湾流、黒潮・親潮、アガラス海流に関する同様の研究で構築した新しい手法を用いて解析しました。


 グリーンランド海の水温が気候変動を起こす

 上記のEOFを利用した解析の結果、グリーンランド海付近の大きな傾圧性変動は、グリーンランド海の水面温度の偏差によって引き起こされて大気に強い影響を与えており、グリーンランド海の水面温度が高い状態では北半球に強い影響を持つ「北大西洋振動」と呼ばれる変動パターンの正の状態に、逆に水面温度が低い場合は北大西洋振動の負の状態になることが分かりました。

 この結果に基づき、グリーンランド海の月・領域平均水面温度をグリーンランド海水面温度指標(Greenland Sea surface temperature index、略してGSSTI)として定義し、1957年9月から2002年8月までの時系列に見られる変動と、それに伴う大気の変化・変動を分析しました。

 その結果、グリーンランド海、特に温水と冷水の境界付近の平均海水温の基本値が1979年の2月から3月にかけて急激に2℃近く上昇し、大規模大気場に力学的強制を与えることで北半球中高緯度域の気候変化をもたらしたことが見出されました。

 ちなみに、他研究によって、1977年~1979年頃にフラム海峡経由の南への海氷輸送が大幅に減り、グリーンランド海周辺の海氷南限が大きく北へ移動したことが分かっており、この急激なグリーンランド海の水温上昇は、温かい海水と海氷を伴う冷たい海水との境界が移動したことを反映するものと考えられます。この水面温度の基本値変化でその付近の傾圧性の基本値が変化して、大気の温度や風等の気候値が変化しただけではなく、経年変動すなわち年々の気候値からの標準偏差のパターンも大きく変化したことが判明しました。

 分かりやすく言うと、「月ごとの平年並みの天気と起こりやすい異常気象が変わった」ということです。

 気候変化・変動では、平均値がどの程度変わるのかが注目されがちですが、実は平均からのズレがどう変わるのかも人間社会や生態系にとっては非常に重要です。例えば日本付近では、1979年以降、8月平均気温の平年値からのブレが大きくなっています。

 つまり、毎年8月に期待される「平年並み」の気温から外れる度合いが大きくなり、猛暑や冷夏が起こりやすくなったというわけです。これらの変化が顕著なのは北緯45度から北ですが、北緯30度付近でもある程度の変化が見られます。また、このグリーンランド海の急激な水温上昇とほぼ同時に、オホーツク海の海面水温が、冬季に限ってではありますが、基本値が大きく下がったことも分かりました。これはグリーンランド海の通年変化とは違い、大西洋数十年規模振動に伴う季節風の変化による大気主導の変化であると考えられます。(海洋開発機構)


新しい地球学 ―太陽‐地球‐生命圏相互作用系の変動学
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