人工光合成プロジェクトスタート
 夢の人工光合成への道がひらかれようとしている。これまで、植物だけのものとされてきた光合成だが、人類の手で、酸素をつくり出し、有機物をつくることが可能になる。

 2010年、触媒を使った有機化合物の反応でノーベル化学賞を受賞した、アメリカ・パデュー大学特別教授の根岸英一教授。受賞の翌年(2011年)、人工光合成こそ、日本が世界に先駆けて実用化すべきだと、国家プロジェクトの立ち上げを強く訴えた。

 根岸さんの提言を受けて、いくつかのプロジェクトが立ち上がった。その1つが去年(2012年)10月に発足した人工光合成プロジェクト。このプロジェクトは、10年という異例の長期にわたり、150億円もの巨額の予算が投入される。外国のプロジェクトは全部、大学関係、国の研究所関係がやっているが、日本のプロジェクトだけが、企業も一緒になって進める。


 植物の光合成の歴史は約30億年。一方光合成の研究は1910年頃から行われ、1956年にルドルフ・マーカスにより電子移動反応理論を発表。プロジェクトでは、2030年に人工光合成でプラスチックをつくりたいと考えている。

 植物が30億年かけて手に入れたものを、わずか100年ちょっとで人類は成し遂げようとしている。本当に可能なんだろうか?

 もちろん、植物と同じように探求したら30億年かかる。しかし、人類は鳥を見て飛行機をつくり、魚を見て潜水艦をつくった。同じ方法で光合成を行おうとしている。もうすでに半分は達成している、という研究者もいる。

 実は植物のエネルギーの変換効率は低い。例えば太陽光から100だけエネルギーが下りてくると、そのうち1%ぐらいのエネルギーしか利用していない。それは超えられる。すでに太陽電池ではエネルギー変換効率は10%を超している。人工光合成でも10%の変換効率をめざす。


 ついに光合成の全過程を解明
 光合成とは何か?そう光エネルギーを利用して、二酸化炭素と水から、酸素とでんぷんなどの有機物をつくる働きのことである。この働きは、明反応(光化学反応)と暗反応(カルビン回路)の2つの段階に大別される。

 明反応(光化学反応)は光エネルギーから酸素をつくり、NADPHとATPを合成する過程である。明反応は葉緑体の中のチコライドという円盤状の器官で行われる。クロロフィルが光エネルギーによって活性クロロフィルとなり、活性クロロフィルは水を水素と酸素に分解する。同時にADPからATPがつくられる。また、水素はNADPをNADPHに変える。

 暗反応(カルビン回路)ではNADPHとATPを使ってCO2とH2Oから糖を合成する過程である。カルビン回路による糖の合成は葉緑体の中にある、ストロマで行われる。明反応は光を必要とするが、暗反応では光がなくても進行するため、こう呼ばれる。ただし、暗所では炭酸固定活性が低下する。

 2011年、ある大発見が世界を驚かせた。植物の光合成の全貌が、ついに明らかにされたのだ。

 明反応で水が分解する過程は、19個のタンパク質でできた酵素が行う、光化学系IIと呼ばれている。しかし、どの構造が水を分解するのかよくわかっていなかった。その謎を解いたのが、大阪市立大学の神谷信夫教授と岡山大学の沈建仁教授のチーム。

 この鍵となる物質を探し続けて、10年以上成果をあげることができなかった。しかし、彼らは諦めなかった。

 そんな神谷教授らにチャンスが訪れた。世界最高レベルの分析装置が、日本で完成した。“スプリング8”のX線解析装置である。この装置で、それまで誰も見たことのない、植物内部の謎の仕組みが明らかになった。

 植物には、水を分解する重要な物質が潜んでいた。それは、マンガンやカルシウムが、ゆがんだ椅子の形でつながった物質だった。これこそが、植物の光合成を支えていたのだった。


 人工光合成に成功
 
2011年9月、トヨタ中央研究所では、太陽光エネルギーを利用して水と二酸化炭素(CO2)のみを原料に有機物を合成する人工光合成の実証に成功した。人工光合成の成功は世界で初めて。

 開発した技術は、1.水から電子を抽出する酸化反応、2.抽出した電子でCO2を還元して有機物を合成する還元反応、3.この二つの反応を組み合わせ、それを光エネルギーで促進させるもの。

 研究チームは、半導体と金属錯体から構成される新しいコンセプトのCO2還元光触媒を開発した。この触媒、および水を酸化分解して電子を抽出する光触媒を、プロトン交換膜を介して組み合わせることで、太陽光を利用して有機物であるギ酸を合成できることを実証した。

 この技術はカーボンニュートラルな社会の実現に向けて、大きな足掛かりとなるものである。今回は原理の実証を行った段階であり、この技術の実用化にはまだ多くの研究課題が残っている。本方式における太陽光エネルギー変換効率は現在0.04%であり、これは一般的な植物の光合成効率の1/5程度である。今後研究チームは植物を越える効率の実現と、メタノールなどのより付加価値の高い有機物の合成技術の実現に取組む予定だ。

本成果は9月7日付、米国化学会誌Journal of the American Chemical Society電子版に掲載された。(2011年9月20日 豊田中央研究所 )


 日本の人工光合成は世界のトップレベル

 人工光合成の実証実験の現状はどうなのだろうか?以下はNHK、クローズアップ現代ホームページからの引用である。

 人工光合成研究は、学術レベルでは、日本は世界のトップを走っているんですけど、今回は実用を目指して、実証研究的な視点も含めて、企業が取り組んで成功した、すばらしい結果を出されてますけれども、これは本当にすばらしいことですね。

 本当に、これは日本が誇ることだと思います。目指す頂からすると、完成、実現までを未到の山頂の頂に例えればですね、ようやく5合目ぐらいまで来た感じだ。ようやく、この辺がどうも頂上らしいというのが見えつつある。雲が晴れてですね、そういう現状かと思います。

 この研究分野で、日本が先頭を走っている強みは何だろう?

 1つは、約40年前に、日本人、本多・藤嶋効果っていいますけれども、二酸化チタンという物質に光を当てると、水が分解されて、水素と酸素が出ると、すばらしい発見をされたんですね。

 それで、世界中の人工光合成研究がスタートしました。それは日本の、ですから、日本から出発してるんですね。

 そうですね、実際に水が分解できたんですけれども、最初は太陽光というのは、紫外線と可視光がありますけど、可視光線がありますけれども、紫外線が有効だったんですけど、そういうきっかけを与えてくれました。

 それから2つ目は、光合成っていうのは光、合成っていうのはケミストリーなんですね。化学です。光化学というのは、実は日本がお家芸といいますか、非常に研究者の数も多いですし、質もトップレベルです(2010年、鈴木氏、根岸氏が、クロスカップリング触媒でノーベル化学賞)。

 そういう非常に幅広い基盤があったうえで、長年ずーっとみんなが研究してきて、こういう結果になってる。さらに、先ほどVTRにも出ましたけれども、非常に大型のすばらしい世界レベルの分析装置があります。ああいうものがあって、国のサポートがあったので、今回、現状、こういう形になってきてるというふうになっていると考えられます。


 世界的に競争激化する人工光合成
 世界的な人工光合成の研究競争を激化させるきっかけとなったのが、オバマ大統領の演説でした。

 オバマ大統領「我々は、さまざまな分野の中で、特にクリーンエネルギーに投資します。その中で、太陽光と水で自動車燃料を作る技術を開発しているのです。」

アメリカ政府は、人工光合成研究に、5年間で100億円以上を投じるというのです。国家プロジェクトとして、人工光合成研究の一大拠点がカリフォルニア州に作られました。

それが、人工光合成ジョイントセンターです。センターで研究を行っているのは、130人を超す研究者たち。触媒を専門とする化学者や、物理学者、さらに装置を作る機械工学者など、第一線のスタッフを集めています。

大きな目標を掲げ、集中的に多くの資金と人材を投入し、短期間で成果を出す。アメリカ得意の方法です。

人工光合成ジョイントセンター・サイエンス・ディレクター、ネイサン・ルイスさん「基礎研究から技術の開発まで、研究開発のすべてを一つ屋根の下で行っているのが、我々のセンターの最大の強みです。」

異なる分野の専門家が一体となった体制は、触媒の開発でも成果をあげています。研究員「これは、インクジェットプリンターをヒントにして開発した装置です。」

インクジェットプリンターが、インクを混ぜ合わせて色を作る仕組みを応用。さまざまな物質の配分を少しずつ変えて、1日に10万種類以上の触媒を作り出しています。出来上がった触媒は、分析の専門家が性能を直ちに調べます。

さらに、耐久性のチェックや試作装置のテストを並行して、一気に進めていきます。人工光合成ジョイントセンター・サイエンス・ディレクター、ネイサン・ルイスさん「我々は、今後2年で、植物の10倍以上の効率にすることを目指しています。ハードルが高すぎるとは思っていません。人工光合成は魔法みたいなものだという、これまでの考えを、現実的な技術だという考えに変えていきます。」

アメリカのほかにも、EUや中国、韓国でも国を挙げた研究が進められています。人工光合成に関する国別の特許出願数は、日本がリードしてきた分野ですが、今や、ほかの国々に急激に追い上げられています。(NHKクローズアップ現代)


参考HP NHKクロ-ズアップ現代: 二酸化炭素が資源に!夢の人工光合成 アイラブサイエンス: 世界初!人工光合成の実証実験に成功


人工光合成―生物学的基礎から工業技術的応用まで
クリエーター情報なし
エヌ・ティー・エス
人工光合成と有機系太陽電池 (CSJ Current Review)
クリエーター情報なし
化学同人

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