「プラナリア」はいくつに切っても再生する
 2012年のノーベル生理学・医学賞の受賞者はもちろん、京都大学の山中伸弥教授であるが、受賞理由は「成熟した細胞に対してリプログラミングにより多能性(分化万能性)を持たせられることの発見」つまり、細胞の初期化に対する技術に対して贈られた。

 iPS細胞は、DNAに新しい遺伝子を組み込んで、初期化した。山中教授はマウスの皮膚、ついで人の皮膚を初期化した。通常、哺乳類などの皮膚の細胞は、皮膚にしならないが、初期化すると心臓の細胞や肝臓の細胞など何にでも変わった。これを万能細胞という。最近ではES細胞にも万能性が認められ注目されている。

 人の細胞は各組織に分化するに従って、万能性がなくなるが、他の動物では事情が異なる。例えばトカゲはしっぽを切り取ってもまた再生する。プラナリアは体長10~30ミリ程度の大きさの、一見なめくじのような扁形動物であるが、体をいくつに分断しても再生する動物として有名だ。

 京都大大学院理学研究科の阿形清和教授(発生生物学)らのグループが、この「プラナリア」の再生の仕組みを解明した。体内にある2種類のタンパク質の濃度により、形成される器官や組織が決まることを突き止めた。英科学誌・ネイチャーのオンライン版に7月25日掲載された。


 プラナリアは、さまざまな器官に分化することができる「幹細胞」が全身に存在しており、体を切断されても正しい場所に頭や尾などを再生する「極性」を持つことで知られる。ただ、その詳しい仕組みは分かっていなかった。今回の研究成果は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)による再生医療などでの応用も期待されるという。

 阿形教授らは、体長1センチ程度のプラナリアを使って研究。特定のタンパク質の働きを抑える物質を注入するなどしたところ、「ERK」というタンパク質の活性が高い部分は頭に、「βカテニン」というタンパク質がよく働く部分は尾になることが判明。この2種類のタンパク質の濃度によって幹細胞が分化する器官が決まることがわかった。

 人でも同じことが起きるのだろうか。だとするならば面白い。阿形教授は「どの場所にどの器官や組織が形成されるのかという位置情報は、あらゆる生物にとって不可欠。iPS細胞で立体的な臓器を作る場合も同様だ」と話している。


 「プラナリア」の謎、解明される
 阿形清和 理学研究科教授、梅園良彦 徳島大学ソシオテクノサイエンス研究部学術研究員(2013年3月まで理化学研究所)らのグループは、100年来の謎であった「プラナリアの再生の仕組み」をついに分子レベルで解明しました。さらには、プラナリアの再生原理を理解することによって、もともと再生できないプラナリア種の遺伝的原因を解明し、世界で初めて人為的に再生を誘導することにも成功しました。

 本研究は、2013年7月25日午前2時(日本時間)に英国総合科学誌「Nature」のオンライン速報版で発表されました。体をどんなに切られても、再生できる不死身で不思議な生き物「プラナリア」。プラナリアには幹細胞が全身に存在し、体の位置情報に従って失われた器官や組織を正しく再生することができます。

 特にナミウズムシは再生能力が高く、例えば、体を前後に切られても、頭部からは首と腹と尾が、尾部からは頭と首と腹が再生し、その結果、完全な2匹のプラナリアとなります。

 いまから100年以上も昔に、トーマス・ハント・モーガン(1933年にショウジョウバエ遺伝学でノーベル生理学・医学賞を受賞)は、このプラナリアの再生の謎解きに挑みました。そして、モーガンは、何らかの「物質の濃度勾配」が体の前後の位置情報をコードしているのではないかという仮説を提唱し、その後、この発想はあらゆる生き物の形づくりを理解するための基本概念として世界中の研究者に支持されてきました。

 一方で、プラナリアの再生の仕組みにおいて、モーガンの仮説が正しいかどうかは未だ謎のままでした。今回、本研究グループは「プラナリアの再生の仕組み」を分子レベルで解明しました。


 研究手法と成果
 2011年、梅園研究員らは、プラナリア幹細胞が未分化状態からはずれて、さまざまな細胞種へと分化するためにはERK蛋白質の活性化が必要であることを明らかにしました(梅園研究員ら、Development 138, 2011)。一方で、Wnt/β-カテニン経路が後方化シグナルとして働き、プラナリア尾部再生に必要であること(β-カテニン遺伝子をRNA干渉法(RNAi)によって機能阻害すると、本来の尾部が頭部へと運命転換する)が報告されていたため、この二つのシグナル経路の組み合わせで「プラナリアの再生の仕組み」が説明できるのではないかと推測しました。

 そこで、梅園研究員らは、ナミウズムシ再生過程の詳細な解析をおこないました。その結果、ERK蛋白質とβ-カテニン蛋白質は体の前後軸に沿って相反する活性勾配を形成し、その結果、体の異なる領域(頭、首、腹と尾)が再生できると結論づけました(図1)。この仕組みにおいて、同研究グループが2002年に報告したnou-darake(ノウダラケ)遺伝子(この遺伝子をRNAiによって機能阻害すると、脳が頭部を超えて過形成する)も関与することがわかりました(Nature 419, 2002)。これらの結果から、プラナリアの幹細胞はERK蛋白質の活性化によって、もともと頭部の細胞に分化するように指令されますが、nou-darake遺伝子やWnt/β-カテニン経路がERK蛋白質の活性化レベルを抑制することによって、その指令を首や腹や尾部の細胞へとそれぞれ運命転換させていると結論づけました。

 さらに、梅園研究員らはナミウズムシの再生原理にもとづいて、別種のプラナリアであるコガタウズムシ(もともと尾部から頭部を再生できないプラナリア)では、Wnt/β-カテニン経路が過剰に働くことが頭部再生不全の原因であることを実験的に証明しました。β-カテニン遺伝子をRNAiによって機能阻害されたコガタウズムシ尾部断片は、完全に機能的な頭部を再生することができました。

 今回、本研究グループは100年来のモーガンの仮説の大枠を分子レベルで実証したばかりでなく、再生できないプラナリアの遺伝的原因を初めて明らかにし、再生できない生き物でも、実は再生できる能力を十分にもっていることを初めて実験的に証明しました。プラナリア幹細胞において、どのようにしてERKシグナルが活性化しているのか、また、どのようにして、nou-darake遺伝子やWnt/β-カテニン経路がERKシグナルに対して抑制的に働いているのかを明らかにすることが今後の課題です。(京都大学プレス 2013年7月25日)


 プラナリアとは何か?
 プラナリア(Planaria)は、扁形動物門ウズムシ綱ウズムシ目ウズムシ亜目に属する動物の総称。広義には、ウズムシ目(三岐腸目)に属する動物の総称。さらに、渦虫綱に分類される動物の総称とする説もある。体表に繊毛があり、この繊毛の運動によって渦ができることからウズムシと呼ばれる。淡水、海水および湿気の高い陸上に生息する。Planariaは「平たい面」を意味するラテン語planariusに由来し、plain「平原」やplane「平面」と語源が共通である。

 腹面中央に咽頭があり、消化管は体内で前後に伸びて、分岐しながら体の隅々に至る。イトミミズやアカムシ(ユスリカの幼虫)を食べさせると、全身の消化管に入ってゆく様子が見え、全身に消化管が分岐していることを観察できる。消化管は前に1本、後ろに2本伸びており、これが三岐腸目の名前の由来となっている。肛門はなく、出入り口が一緒である。脊髄のないかご状神経系を持ち、目は杯状眼でありレンズがない。光を感じることはできる。ナミウズムシの場合眼は1対だが、カズメウズムシ等たくさんの眼を持つものもいる。

 著しい再生能力を持つことから、再生研究のモデル生物として用いられる。進化的には前口動物と後口動物の分岐点に位置し、三胚葉性動物・脳をもつ動物としてもっとも原始的であることから、比較発生学・進化発生生物学でも用いられる。雌雄同体である特性から生殖生物学でも扱われる。水質の変化に著しい影響を受けることから指標生物でもある。

 生物学でプラナリアという場合、日本ではサンカクアタマウズムシ科ナミウズムシ属のナミウズムシであることが多い。有性生殖と無性生殖をすることができる。 水質や水温などの生息環境が悪化すると、次第に腹部がくびれてきて自ら2つに分裂してしまう。
 
 再生能力について
 プラナリアの再生能力は著しく、ナミウズムシの場合、前後に3つに切れば、頭部からは腹部以降が、尾部側からは頭部が、中央の断片からは前の切り口から頭部、後ろの切り口から尾部が再生される。このような各部から残りの部分が正しい方向で再生されるのを、極性があるといい、具体的には何らかの物質の濃度勾配ではないかとされている。再生が秩序正しく行われるための体内の濃度勾配を司る遺伝子としてNou-darake遺伝子が同定されている。

 頭に切れ込みを入れ3等分にすれば、3つの頭を持つプラナリアに再生する。ある学者がメスを使い100を超える断片になるまで滅多切りにしたが、その全ての断片が再生し100を超えるプラナリアが再生したという逸話がある[1]。プラナリアが再生できる栄養環境さえあれば可能であるとされる。

 切断実験をする際は、1週間前から絶食させておかないと、切断時に体内の消化液で自身の体を溶かしてしまい、失敗する。

 プラナリアは日本中の川の上流に生息しており、石や枯葉などの裏に張り付いている。主にカゲロウの幼虫などの水生昆虫を餌としている。 また、アクアリウムなどではプラナリアが大発生し、害虫として嫌われている。体が柔らかく、ピンセットでつまむとちぎれることがあるので、筆を使って撫でるように除去するとよい。(Wikipedia)


参考 Wikipedia:プラナリア 京都大学:「プラナリア」の謎、解明される


身近な動物を使った実験〈2〉プラナリア・モノアラガイ・ナメクジ・ミミズ
クリエーター情報なし
三共出版
切っても切ってもプラナリア (科学であそぼう (4))
クリエーター情報なし
岩波書店

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please