イルカの知性
 イルカは体重に占める脳の割合(脳化指数)がヒトに次いで大きいことから、イルカの知性の潜在的可能性が古くから指摘されており、世界的にも数多くの研究者の研究対象になり、世間一般からも興味の対象とされてきた。

 ただし、イルカの脳はサイズは大きいものの、グリア細胞の割合が多く、ニューロン自体の密度はそれほど高くない。だがニューロンの密度をもって知性が劣ると言い切れるのかは定かではない。従って、脳のサイズのみから知性のレベルを判断するのは早計である。

 イルカの知性はどのようなものだろうか?最近イルカの能力について、驚くべき研究が発表された。


 アメリカ、シカゴ大学の動物行動学者ジェイソン・ブラック(Jason Bruck)氏は、20年ぶりに再会した仲間の鳴き声を記憶しているハンドウイルカを実験で確認。人間以外の動物では最も長期にわたる記憶力だという。個体ごとに異なるイルカの鳴き声が名前の役割を果たし、群れの結束力を維持していると考えられている。

 また、イルカの行動を研究するカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のホイットニー・フリードマン(Whitney Friedman)氏によれば、自分の鳴音と同じ音に反応し、「ここにいるよ。誰か呼んだ?」とでも言うように、同じ音を繰り返すという。

 少しずつであるが、イルカの能力がわかってきた。以下はNational Geographic newsの記事「イルカの記憶力、20年前の仲間を認識」「イルカは名前を呼ばれたら反応する」からの引用である。


 イルカの記憶力、20年前の仲間を認識
 ブラック氏が動物の記憶力を試す実験の着想を得たのは、兄の飼い犬と4年ぶりに再会したときだった。見知らぬ人間に対しては常に警戒心をあらわにするその犬が、同氏を素直に迎え入れてくれたのだ。「動物は、いつまで仲間の記憶を保持しているのだろうか」と、当時のきっかけを話してくれた。

◆驚くべきイルカの記憶力
 実験対象は飼育下のイルカを選んだ。群れの結束力が非常に重要で、多くのデータが期待できる動物だからだ。

 ブラック氏は、アメリカやバミューダ諸島にある6カ所の飼育施設のハンドウイルカ、計43頭分のデータを収集。これらの施設は互いに連携し、数十年前から飼育するイルカを交換しながら、各個体とその所属集団の仲間について綿密なデータを記録し続けている。

 ブラック氏はまず、実験対象のイルカにとって聞き慣れない鳴音(ホイッスル)をいくつか選び、水中スピーカーから再生した。イルカたちは最初こそスピーカーをしきりに詮索するが、やがては興味を示さなくなる。その状態になるのを待って、今度は彼らが聞き慣れている鳴音を再生した。

 するとイルカたちの行動に活気が出始めた。彼らはスピーカーに近づきながら自分の名前をホイッスルで表し、応答がないかどうか聞き耳を立てるという行動を見せた。

 各実験を通じて、無作為に選んだ個体よりも、数十年も前に同じ群れにいた個体のホイッスルに、より大きな反応を示した。この結果は、個々のパターンの記憶を保持していることを示唆している。

◆思いがけないイルカの行動
 ブラック氏によると、イルカのように高い知能を持つ動物は実験に対する反応が良すぎるため、かえって実験がやりにくいという。今回も、イルカたちがあまりに頻繁にスピーカー付近を通過するため、音声が遮断されてしまうケースもあった。

 「中には、私に向って呼びかける個体もいた。私が彼らのホイッスルを理解できると思っているのだろう」とブラック氏。

 また、威勢の良い若いイルカの一群が近くにやって来て、群れの有力なオスの名前をその序列順に呼び始めるという場面もあった。同氏は、その名前の主たちの応答を彼らは期待しているのではないかと考える。

◆記憶は複雑な認知能力の源
 野生のイルカの平均寿命は約20年と言われているが、その期間を上回る記憶力を必要とする理由は不明。ただ、群れは分裂と再形成を頻繁に繰り返すので、長期の記憶力は集団内における個体間の関係維持に深い関わりがあるのではないかという見方もある。

 こうした集団のあり方は“離合集散型”と呼ばれ、高い知能と社会性を備えるゾウやチンパンジーにも見られる。

 これは果たして偶然だろうか。そうではない、とブラック氏は語る。「複雑な認知能力は、自分の仲間が誰なのかを記憶しようとするところから生まれてきたように思う」。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the Royal Society B」誌に8月7日付けで掲載されている。(National Geographic:イルカの記憶力、20年前の仲間を認識


 イルカは“名前”を呼ばれたら反応する
 過去の研究から、イルカは個体ごとの「シグネチャーホイッスル」という鳴音で識別していることが示されている。多くの場合、複数の群れが遭遇したときなど、大きな集団の中で使用される。

 イルカは“名前”を呼ばれたら反応する
 この鳴音の変調パターンは、それぞれの“名前”を表していると1960年代から考えられてきた。捕獲したイルカは、知っている個体の鳴音に反応することがわかっている。

 そして最近、この説をさらに一歩進めた研究結果が発表された。研究には参加していないが、ナショナル ジオグラフィック協会の助成金を得てイルカの行動を研究するカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のホイットニー・フリードマン(Whitney Friedman)氏によれば、自分の鳴音と同じ音に反応し、「ここにいるよ。誰か呼んだ?」とでも言うように、同じ音を繰り返すという。

 研究論文は、イルカが実際に音を名前として使用する“有力な証拠”だと述べている。 ボートでスコットランド東部の海にこぎ出した研究チームは、野生のイルカの群れに近づいて、1頭のイルカのホイッスルを録音した。仮に“ジョーイ”と名乗ったことにしよう。

 その後、“ジョーイ”と名乗ったイルカに録音を聞かせた。すると、しばらくたってから、まるで「ここにいるよ」とでも言うように同じ音を返してきた。

 このイルカに同じ群れの仲間の音を聞かせると、少し反応した。しかし、違う群れの知らない個体の音には全く反応しなかった。

 この研究結果は、シグネチャーホイッスルは何らかの合図であり、それにイルカたちが反応することを示している。イルカのコミュニケーションの解明にとって“素晴らしい貢献”だと、フリードマン氏は評価している。

◆うわさ話も?
 結び付きの強いコミュニティーで複雑な関係を築いているイルカにとって、アイデンティティーの重要性を証明する結果ともなった。

 例えば、オスのグループ間で争いが勃発、片方のグループのメンバーが行方不明になったとき、個体を名前で呼ぶことが極めて重要になる。ホイッスルで呼べば、その個体を助け出す必要性が皆に伝わると、フリードマン氏は説明する。

 さらに、UCSDでイルカのコミュニケーションを研究するジェレミー・カーノウスキー(Jeremy Karnowski)氏も第三者の立場で、雑音が溢れた海中は視界も悪いので、個体のアイデンティティーを示す音の必要性は大きいと指摘する。

 「個体群内での識別信号があれば、メンバーの居場所をいつでも把握できる。また、相手が誰なのかはっきりわかる」。

 「私にとっては別の興味もわいてくる」とカーノウスキー氏は話す。イルカは、どのような場合に、そして日常的に鳴き交わしているのだろうか? 仲間同士でうわさ話をしているとすれば、身を乗り出して聞いてみたいものだ。

 今回の研究結果は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版に7月22日付けで発表された。(National Geographic: イルカは名前を呼ばれたら反応する


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