シャーガス病、なぜ?国内初確認
  世の中にはまだ知られていない病気がある。シャーガス病(Chagas' disease)は、原虫 Trypanosoma cruzi の感染を原因とする感染症。熱帯性の病気で日本ではほとんど心配がない病気だ。それが、日本で問題になっている。なぜか?

 厚生労働省は8月14日、中南米で流行しているシャーガス病が国内の献血で初めて確認されたと発表した。

 中南米出身の40歳代の男性から今年6月に採られた血から、シャーガス病を起こす病原体への感染でできる抗体や、病原体の遺伝子が検出されたという。

 同省によると、今回の献血分は出荷を差し止められたが、男性は昨年10月までに少なくとも9回献血しており、保存分を抗体検査したところ、いずれも陽性だった。


 9回分の献血は、赤血球製剤9本と血漿けっしょう製剤2本などに使われたといい、同省は日本赤十字社を通じて11本の製剤の使用実態を調べている。

 シャーガス病は、日本にはほとんど生息していないカメムシの一種のフンが傷口に入るなどして病原体に感染するといい、最大3割の患者は、10~20年後に重い心疾患や消化器疾患を発症するという。(2013年8月15日 読売新聞)


 シャーガス病とは何か?
 シャーガス病(Chagas' disease)は、原虫 Trypanosoma cruzi の感染を原因とする人獣共通感染症。アメリカトリパノソーマ病とも呼ばれる。病原体は、属する鞭毛虫で、哺乳類に広く感染する。

 米国南部、中南米において発生する。哺乳類吸血性であるオオサシガメ亜科のサシガメをベクターとする。感受性動物はヒト、イヌ、ネコ、サルなど150種以上の哺乳類。日本への中南米からの出稼ぎ者の中に、シャーガス病陽性患者が見つかっている。輸血で感染することもあり、陽性の人は絶対に献血しないよう厚生労働省では呼びかけている。(Wikipedia)


 「シャーガス病」を献血で初確認 血液は赤血球製剤などに使用
 最悪の場合は死に至るという、この病について、専門家に聞いた。順天堂大学熱帯医学・寄生虫病学の奈良武司准教授は「主に中南米に分布していて、HIVのように恐れられている病気です。10年から20年かけて、ゆっくりと組織が破壊されていって、最終的には死に至る病気です」と話した。

 中南米出身の40代の男性が、6月に献血した血液から、抗体陽性が確認されたシャーガス病。これは、中南米で流行している感染症で、およそ1,000万人の感染者がいるといわれている。

 日本国内の献血で確認されたのは、今回が初めてのこととなる。そのシャーガス病とは、いったい何なのか。

 順天堂大学熱帯医学・寄生虫病学の奈良武司准教授は「心臓の細胞を破壊していきますので、いわゆる心臓のリズムが狂ったりとか、心臓が肥大して、心不全を起こしたりということで、それが急性期であれば、数カ月で発症。突然死の1つの原因になっていると考えられています」と話した。

 感染源は、南米に多く生息するカメムシの一種、サシガメ。人間の血を吸った時に出す排せつ物の中に寄生虫が含まれていて、傷口などから、人体に入り込むという。

 このシャーガス病がやっかいなのは、重症化することだけではない。順天堂大学熱帯医学・寄生虫病学の奈良武司准教授は「シャーガス病というのは、なかなか決まった病気、症状というのがないのが特徴。感染しても、感染したことには、大抵の方は気がつかないと思います。

 (日本では)個別にそれぞれ検査ができる所で、大学の研究機関で検査を受けるしかないと思います」と話した。
男性は、これまでに少なくとも9回、献血をしていて、全て陽性だったという。

 9回分の血液は、赤血球製剤や血しょう製剤に使われていて、厚生労働省では、日本赤十字を通じて、使用実態を調べている。(Fnn news 2013/8/16)

 次に「政府開発援助(ODA)白書 2007年版」の記事「コラム13:声なき感染症シャーガス病との戦い」から引用する。


 声なき感染症、シャーガス病との闘い
 「シャーガス病」という名前の感染症を聞いたことがあるでしょうか。この病気は、サシガメという虫によって媒介される寄生虫症です。治療を怠ると、10~20年後には心臓疾患等で死に至ることもあります。日本では余りなじみのない病気ですが、実は中南米ではマラリアに次いで危険な熱帯病といわれています。現在中南米全体では約1,000万人が感染しているほか、毎年約20万人が新たに感染しており、中南米諸国の多くの国民が今後の感染のリスクにさらされているといわれています。

 シャーガス病の最大の問題は、病気が進行すると治療法がない、ということです。また、自覚症状のないまま慢性期に移行することも多く、命を落とす人がたくさんいます。特に、サシガメが生息する土壁や萱葺き屋根の家で生活する貧困層の人々がかかりやすいため、「貧困層の疾病」とも呼ばれています。

 このような深刻な病気に対して、1998年に開催された第51回国連世界保健総会において、「2010年までにシャーガス病の感染中断を達成させる」ことが決議され、米州保健機関や中米の国々では様々な取組が実施されています。日本もJICAを通じて専門家や青年海外協力隊員を派遣し、シャーガス病への取組を率先して行っています。

 現地の保健省と協力しながら、サシガメを駆除するために家屋内の殺虫剤散布を粘り強く行った結果、2000年から2007年の間に、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスの3か国で、47万2,000件の家屋においてサシガメが駆除され、230万人を超える人々が感染のリスクを回避できました。


 「サシガメTシャツ」で啓蒙活動
 また日本は駆除活動に加え、専門家や協力隊員による住民に対する啓発活動にも力を入れてきました。2004年から2006年まで、ホンジュラスに派遣されていた青年海外協力隊員の山内志乃さんもこれに貢献した一人です。山内さんは、殺虫剤散布だけではなく、シャーガス病そのものを住民が理解する必要があると考え、プロジェクトの合間に奥地の村々を訪問し、シャーガス病についての説明を行いました。

 山内さんは自分でデザインしたTシャツを着て村を歩き回り、現地の住民と積極的に話をすることで、住民自らが病気に関心を持つように工夫をしました。「実は、サシガメを拡大した絵を見せたら、『こんな大きな虫がいるのか。見たことがない』と言われ、びっくりしたんですよ。

 それで、Tシャツをつくったときに、『サシガメはどこにいる?』と胸に書いて、実物大のサシガメを腕部分にプリントしたら、面白がってみんなが話しかけてくれたので、シャーガス病について話す良いきっかけになったんです」と山内さんは当時を振り返ります。現在も、このTシャツは一緒に活動した現地の保健ボランティアや他の協力隊員が着用し、シャーガス病の説明をするときに利用されています。

 山内さんは、プロジェクトが終わった後も住民自らがシャーガス病に向き合っていけるような活動をすることが大切だ、と感じたといいます。「私たちはずっと現地にいて、援助をすることはできません。ですから、一人でも多くの人が病気に対して理解するのを助け、私たちがいなくなった後は、自分たちの力で病気を撲滅していこうとする環境をつくることが大切です」と山内さんは訴えます。

 こうした地道な努力の成果は、対象国や他の援助国からも高く評価されるものとなっています。山内さんが活動している様子が切手の図案になったことからも、ホンジュラスにおけるその評価の高さがうかがえます。現在、山内さんは日本に帰国していますが、山内さんの熱意を引き継ぎ、次の隊員が現地で積極的に活動を行っています。シャーガス病が中南米からなくなる日を目指し、今日も彼らの活動は続いているのです。(政府開発援助(ODA)白書 2007年版 声なき感染症シャーガス病との戦い


しのびよるシャーガス病―中南米の知られざる感染症 (慶應義塾大学東アジア研究所)
クリエーター情報なし
慶應義塾大学出版会
Communicable Diseases: A Global Perspective (Modular Texts)
クリエーター情報なし
CABI

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