放射線とノーベル賞の深い関係
 放射線とノーベル賞の関係は深い。まず第1回目のノーベル物理学賞受賞者が、X線を発見したレントゲンである。第3回物理学賞受賞者は、ウランの放射線を発見したベクレルと、放射性物質、ポロニウムとラジジウムを発見したキュリー夫妻だ。

 ノーベル賞の中には残念ながら、原子爆弾の開発に繋がった研究もある。しかし、大半は人類の発展に貢献したすばらしい業績に贈られている。

 現在まで、原子力・放射線にかかわる主なノーベル賞受賞者は、ラザフォード、ラウェ、ブラッグ父子、プランク、アインシュタイン、ソディ、ボーア、コンプトン、ウィルソン、ド・ブロイ、ハイゼンベルク、シュレーディンガー、ディラック、ユーリー、チャドウィック…そして日本の湯川秀樹など62名にものぼる。

 第43回ノーベル化学賞者もその1人、ハンガリーの生化学者、ゲオルク・ド・ヘヴェシー(George de Hevesy)。受賞理由は「化学反応研究におけるトレーサーとしての同位体の応用研究」である。


 同じ元素で中性子の数が違う核種の関係を同位体と呼ぶ。同位体は安定なものと不安定なものがあり、不安定なものは時間とともに放射性崩壊して放射線を発する。これが、放射性同位体だ。

 ヘヴェシーは、植物の中の水や水に含まれる放射性物質が移動する様子を捕らえることによって植物中の水の動きや植物中の微量元素の動きやはたらき知る方法を開発した。この放射生物質を放射性トレーサーという。

 ヘヴェシーは、世界で初めて放射生同位体を使ったトレーサー技術を開発した。また、X線分析法を使って、ハフニウムを発見したことでも知られている。ハフニウムは天然元素としては最後から三番目に発見された微量元素である (二番目はレニウム、最後はフランシウムであり、その後発見された元素は全て合成されたものである)。


 ゲオルク・ド・ヘヴェシー
 ゲオルク・ド・ヘヴェシー(George de Hevesy1885年8月1日~1966年7月5日)はハンガリー生まれの化学者、1923年ハフニウムを発見した。1943年化学反応研究におけるトレーサーとしての同位体の応用研究でノーベル化学賞を受賞した。

 ブダペストで生まれ、エトヴェシュ・ロラーンド大学、ベルリン大学、フライブルク大学の各大学で学んだ。フライブルク大学、ストックホルムの有機化学研究所につとめた。フローゲン大学の、ディルク・コスターと共同してX線分析法を使って、ハフニウムを発見した。

 ヘヴェシーはハンガリー人でコスターはオランダ人であるが、助言をうけたニールス・ボーアの研究所のあるコペンハーゲンのラテン語名ハフニアにちなんでハフニウムと名づけた。(Wikipedia)

 ノーベル賞の受賞には、受賞者の推薦が必要であるが、ヘヴェシーは多くの著名なノーベル賞受賞者に師事した。1918年ノーベル化学賞のF・ハーバー、2008年ノーベル物理学賞のラザフォード、2022年ノーベル物理学賞のボーア…と錚々たるメンバーを師に持つ。このことが彼の成功の要因になった。

 1911年ラザフォードから課せられた研究は鉛から“ラジウムD”を分離することであった。後にラジウムDの正体が鉛の同位体であることがわかり、分離に成功しなかった。

 しかし、この時の経験が鉛の放射性同位体を使った同位体トレーサー技術に結びつく。1923年トリウムから得られる鉛の放射性同位体をふくむ水で植物を栽培し、放射線を測定して、鉛の吸収と分布の状態を調べた。

 また、1923年にはボーアから示唆を受け、D・コスターとともに、ジルコニウム鉱物のX線分析によって72番元素を発見した。コペンハーゲンをラテン式に読んだハフニウムと命名した。(日外アソシエーツ:ノーベル賞受賞者業績辞典)

 これらの業績により、1943年ノーベル化学賞を受賞する。受賞理由は「化学反応研究におけるトレーサーとしての同位体の応用研究」。こうしたノーベル賞受賞者の業績を知ると、いかに人と人のつながりが大切か思い知らされる。我々もそれぞれの道で、プロとして師事する人を持ちたいものだ。


 放射性同位体(RI)とは何か?
 同じ元素で中性子の数が違う核種の関係を同位体と呼ぶ。同位体は安定なものと不安定なものがあり、不安定なものは時間とともに放射性崩壊して放射線を発する。崩壊する確率は放射性同位体によって異なる崩壊定数に比例し、崩壊定数が大きいほど高い確率で崩壊する。これが放射性同位体(RI)である。

 これが放射性同位体である。放射性同位体の例としては、水素3、炭素14、カリウム40、ヨウ素131、プルトニウム239などがあげられる。放射性同位体の崩壊は核種の変位法則に従い、アルファ崩壊により原子番号と質量数の異なる核種へ、またはベータ崩壊により同質量数で原子番号の異なる核種へと放射性崩壊を起こす。

 ガンマ崩壊ではでは質量数も原子番号も不変である。一部の超ウラン元素等は自重に耐えられずに自発的に核分裂を起こして崩壊し、中性子を出すこともある。

 元素の中には放射性同位体しか持たないものもある。このような元素を放射性元素と呼ぶ。放射性元素に該当する元素は、テクネチウム、プロメチウム、およびビスマス(原子番号83)以上の原子番号を持つ全ての元素である。

 自然界に存在する元素を分離することで発見された放射性元素は天然放射性元素または天然放射性核種と呼ばれる。(Wikipedia)


 放射性(RI)トレーサーとは何か?
 トレーサー(tracer)とは、液体など流体の流れ、あるいは特定の物質(代謝などで化学変化する場合を含む)を追跡するために使われる、微量添加物質である。追跡子ともいう。

 トレーサーには色素や薬品が使われるが分子に取り込まれ、生化学反応を調べるためには放射性同位体(RI)が利用されることが多く、放射性トレーサーといわれる。

 放射性トレーサーを使うと、植物における水や水に含まれる元素が移動する様子を捕らえることができ、植物中の水の挙動や植物中の微量元素の挙動を知ることが出来る。

 放射性同位体(RI)をトレーサ(Tracer)として用い、放射性物質の検出感度が極めて大きいことを利用してある系内における物質の移動や分布、化学反応の過程などを調べる方法を放射性トレーサー法(RIトレーサ法)という。

 トレーサー技術は、わが国では昭和25年ごろから研究に取り入れられるとともに、生物学、農学、林業学、水産学、畜産学、栄養学、環境科学などの基礎的、さらには応用研究に幅広く用いるようになっている。


 放射性(RI)トレーサ法の利用法
 放射性同位体(RI)は、その量が極めて微量であっても、放射線を検出することにより高感度でその存在と量を知ることができるため、さまざまな分野で利用されてきている。

 理工学分野では、流速や流量の測定でのほかに混合、漏れ、摩耗などの測定に対して、物理的トレーサとして利用されると共に、化学反応中の原子・分子のトレーサとして拡散現象や吸着反応による表面現象、化学工程中の反応機構の解明などに化学的トレーサとして利用されている。また、以前には金属中の拡散や合金の研究にも多く利用された。

 農業においては、養分の吸収がどのように行われているかをRIで調べ、植物の生育機能や効率的な施肥法の開発が行われている。

 医学、生物学の分野においては、動物や植物実験にRI標識化合物を用いて、機能や代謝を調べたり、オートラジオグラフィ(標本中のRI分布を、放射線の感光作用によって標本に密着させたフィルムに記録する方法)により、組織や器官での分布を調べるなどの利用が多く見られる。

 その他インビトロの検査(生体の反応や機能を試験管内で検査する方法)で行われているラジオイムノアッセイ法(インビトロ検査により生体中の物質挙動を調べる方法)もRIトレーサの原理によるものであり、核医学診断で行われているシンチグラフィ(体内のRI分布を撮影する方法)やポジトロンCT(陽電子の消滅放射線を同時計測することで体内の放射能分布を測定する方法)なども広い意味でのRIトレーサの応用である。

 特に最近目覚ましい発展を遂げつつある分子生物学、遺伝子工学への利用など、より複雑で高度な利用技術が開発され、関連産業の発展に大きく貢献している。


参考 Wikipedia:トレーサー 放射性同位体 ゲオルク・ド・ヘヴェシー ATOMICA:原子力・放射線にかかわるノーベル賞 放射線の利用 日外アソシエーツ:ノーベル賞受賞者業績事典 新訂第3版 全部門855人


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