神経細胞と電気信号
 神経細胞は神経組織を構成する細胞。例えば、脳を構成するのが「神経細胞」である。神経細胞は、電気信号を発して情報をやりとりする特殊な細胞だ。その数は大脳で数百億個、小脳で1000億個、脳全体では千数百億個にもなる。

 一つの神経細胞の「細胞体」からは、長い「軸索」と、木の枝のように複雑に分岐した短い「樹状突起」が伸びている。これらの突起は、別の神経細胞とつながり合い、複雑なネットワーク「神経回路」を形成している。神経細胞は、細胞体と軸索と樹状突起で一つの単位として考え、「ニューロン(神経単位)」とも呼ばれる。

 細胞体の大きさは、大きいものでは10分の1mm以上あるが、小さなものではわずか200分の1mmしかない。大脳では1立方mmに10万個もの神経細胞が詰まっている。そして脳全体の神経細胞から出ている軸索や樹状突起をすべてつなげると、100万kmもの長さになる。 この複雑で巨大な神経細胞のネットワークを電気信号が駆け巡り、高度な機能が生まれてくるのである。


 今回、神経細胞を電気信号が伝わる速度を測定したところ、同じ細胞内でも、一様ではなく部位ごとに大きく異なることがわかった。

 研究したのは、東京大学先端科学技術研究センターや理化学研究所、スイスのチューリッヒ工科大学の研究チームは、2ミリメートル四方に1万個以上の電極をもつ微小電極アレイを用いて、神経細胞から出た神経信号が軸索に沿って伝わる様子を可視化することに成功した。

 以下はサイエンスポータル記事「神経信号の速度は変化する」から引用する。


 神経信号の速度は変化する
 東京大学先端科学技術研究センターの高橋宏知講師や理化学研究所生命システム研究センターのウルス・フレイ国際主幹研究員、スイスのチューリッヒ工科大学のダグラス・バックム研究員とアンドレアス・ヒールマン教授らの研究チームは、2ミリメートル四方に1万個以上の電極をもつ微小電極アレイを用いて、神経細胞から出た神経信号が軸索(じくさく)に沿って伝わる様子を可視化することに成功した。その伝わる速度は一定ではなく、部位ごとに大きく異なり、時間ごとに変化していることなどが分かったという。

 人間の脳には1000億個もの神経細胞があり、それらが結びついて複雑な神経回路網が作られている。神経細胞から出る神経信号(活動電位)の観察に電極アレイが用いられるが、従来のアレイの電極配置は2ミリメートル角に100個ほどしかなかった。活動電位が伝わる軸索は、直径1マイクロメートル(1000分の1ミリメートル)以下と非常に細く、複雑に曲がりくねっているため、伝わる活動電位の可視化は技術的に困難だった。

 今回の微小電極アレイはチューリッヒ工科大学が開発したもので、電極の先端の大きさは神経細胞とほぼ同じの10マイクロメートル、約18マイクロメートルの間隔で整然と並び、これら多点で神経細胞集団の活動を同時計測できる。さらに各電極から、電気刺激を加えることもできる。

 研究グループは、微小電極アレイの表面で神経細胞を培養し、糸状に伸びた軸索でつながった神経回路網での神経活動を計測した。その結果、軸索内を伝わる活動電位の速さは毎秒0.2~1.5メートルと測定された。その速度は、同じ軸索内でも場所ごとに大きく異なり、神経細胞体付近の太い部分では、軸索末端の細い部分よりも平均で3.7倍程度も速いことが分かった。さらに長期間の計測により、軸索の同じ部位でも、日によって活動電位の伝わる速度が変化した。その速度は、薬剤による刺激でも変化することが分かったという。

 こうした活動電位の伝わる速度のばらつきや変化は、「軸索が電気回路のような単なるケーブルではなく、“能動的な素子”として脳内の情報処理に大きな影響を及ぼしていることを強く示唆するものだ」と研究グループ。脳の新たな情報処理メカニズムの解明につながる可能性や、軸索が創薬における新たな標的になる可能性があると述べている。

 研究の成果は、JST 戦略的創造研究推進事業・個人型研究(さきがけ)「脳情報の解読と制御」研究領域の研究課題「情報理論と情報縮約による適応的デコーディング」、科学研究費補助金事業・若手研究A「高密度CMOS電極による培養神経回路のネットワーク構造の解明」、日本学術振興会・外国人特別研究員事業の研究課題「培養神経回路のための刺激用光アドレス電極と計測用電極アレイの統合インターフェース」、(株)デンソーとの東京大学 社会連携講座「機械の将来技術の創出」、スイス国立科学財団(Ambizione grant)、欧州ERC グラントの研究課題「NeuroCMOS」の一環として得られた。(サイエンスポータル 2013年8月22日)


 神経細胞のつくり
 神経細胞(neuron)は、神経系を構成する細胞で、その機能は情報処理と情報伝達に特化しており、動物に特有である。なお、日本においては「神経細胞」という言葉でニューロン(neuron)ではなく神経細胞体(soma)を指す慣習があるが、本稿では「神経細胞」の語を、一つの細胞の全体を指して「ニューロン」と同義的に用いる。

 神経細胞の基本的な機能は、神経細胞へ入力刺激が入ってきた場合に、活動電位を発生させ、他の細胞に情報を伝達することである。ひとつの神経細胞に複数の細胞から入力したり、活動電位がおきる閾値を変化させたりすることにより、情報の修飾が行われる。

 神経細胞は主に3つの部分に区分けされ、細胞核のある「細胞体」、他の細胞からの入力を受ける「樹状突起」、他の細胞に出力する「軸索」に分けられる。樹状突起と軸索は発生的にはほぼ同じ過程をたどるため、両者をまとめて神経突起(neurite)とも言う。前の細胞の軸索終末と後ろの細胞の樹状突起の間の情報を伝達する部分には、微小な間隙を持つシナプスと呼ばれる化学物質による伝達構造が形成されている。

 神経細胞の中には、光や機械的刺激などに反応する感覚細胞や、筋繊維に出力する運動神経の細胞などもある。

 なお「ニューロン」とは、「神経元」とも訳され、神経系の構成単位を意味する語として生み出された造語である。神経の構造に関する論争の中で作られた。詳細は歴史の節を参照。現在においては、単に細胞の名前として「神経細胞」と同義的に用いられる。


 細胞体
 細胞体(cell body, soma)は神経細胞の中で細胞核などの細胞小器官が集中し、樹状突起と軸索が会合する部位である。神経細胞内でのタンパク合成など、一般的な細胞としての機能はほとんどここで行われる。細胞体の大きさはヒトでは直径3~18マイクロメートル程度だが、無脊椎動物の中には1ミリメートルに達するものもある。

 細胞骨格には中間径フィラメントの一種であるニューロフィラメントが高密度で分布する。細胞体には神経細胞以外の細胞に存在する微細管に相当する神経細管が存在し、細胞体と樹状突起や軸索間の物質輸送に関連していると考えられている。また、核の周辺部には粗面小胞体の集塊であるニッスル物質が存在し、ニッスル染色によって染色される。このことから、細胞体ではタンパク合成が盛んであることがわかる。

 軸索
 軸索(axon)とは、細胞体から延びている突起状の構造で、神経細胞において信号の出力を担う。神経細胞中では長さが大きく異なってくる部分であり、ヒトの場合、隣接する細胞に接続するための数ミリメートル程度のものから、脊髄中に伸びる数十センチメートルのものまである。軸索は基本的に一つの細胞体からは一本しか伸びていないが、しばしば軸索側枝(axon collateral)と呼ばれる枝分かれを形成する。

 軸索は、その細長い構造を維持するために長い細胞骨格を有する。この細胞骨格は、細胞体で合成された物質を軸索の先端まで輸送するためのレールとしても振舞う。また軸索は、細胞内外のイオンの濃度勾配を利用して情報を伝達するが、そのため軸索表面には多くのイオンチャネルが存在する。軸索が細胞体から伸び始める場所は軸索小丘(axon hillock、または軸索起始部、axon initial segment)と呼ばれており、イオンチャネルが高密度で存在する。

 軸索の一部には、グリア細胞が巻きついて出来た髄鞘(ミエリン)と呼ばれる構造を持つものがある。髄鞘を構成する細胞は、中枢神経系ではオリゴデンドロサイト、また末梢神経系ではシュワン細胞である。髄鞘は脂質二重層で構成された細胞膜が何重にも巻きつく形で構成されている。脂質は絶縁体の性質を持つため、髄鞘は、イオン電流の漏洩を防ぎ、電気的信号の伝導速度を上げる効果を持つ跳躍伝導にも寄与している。髄鞘のある軸索を有髄線維、ない軸索を無髄線維と呼ぶ。髄鞘に対して核の存在する外側の部分を神経鞘といい、髄鞘を持たない神経を無髄神経という。ここで注意したいのは無髄神経も神経鞘は持っているということである。

 軸索の先端は他の細胞と接続してシナプスを形成する。軸索のシナプス結合部はやや膨大しており、これをシナプス前終末(presynaptic terminal)と呼ぶ。シナプス前終末には神経伝達物質を貯蔵しているシナプス小胞、電位依存性のカルシウムイオンチャネル、神経伝達物質を回収するためのトランスポーター、およびシナプス後細胞からのフィードバックやシナプス前抑制などの役割を受け持つ各種の受容体が存在し、これによって軸索はシナプスを通じて他の細胞に信号を伝達する。

 樹状突起
 樹状突起(dendrite)は、細胞体から文字どおり木の枝のように分岐しながら広がる構造であり、他の神経細胞などから信号を受け取る働きをする。一つの神経細胞に、軸索は基本的には一本しかないが、樹状突起は何本もありうる。小脳のプルキンエ細胞のように、樹状突起が特徴的な形を示す神経細胞も少なくない。

 樹状突起には、他の細胞との間のシナプスがたくさんある。ニューロンの種類によっては(大脳新皮質の錐体細胞 (神経細胞)や、線条体の中型有棘ニューロンなど)、樹状突起の上に小さなとげ状の隆起である棘突起(スパイン、spine)が無数にあってシナプス部位として機能しており、神経活動などに依存して棘突起の形態が変化し、電流の流れ方が変化したり、シナプスそのものが形成・消滅したりすることが神経可塑性のメカニズムの一つだと考えられている。

 軸索との区別の一つの指標として、樹状突起には小胞体やリボソームが存在するが、軸索にはほとんど無いことがあげられる。


 活動電位
 一般に、動物の体液には多量のカリウムイオン、ナトリウムイオン、塩化物イオンなどが含まれているが、細胞外液と神経細胞の細胞質のイオン構成は通常大きく異なっており、細胞内外で電位差がある。

 微小電極を用いて細胞内外の電位差を測定すると、細胞内は細胞外に比べ-60~-70mVほど負の電位を示す。これを静止膜電位と呼ぶ。これらのイオンは細胞膜を透過して拡散するため、神経細胞の膜貫通タンパクのナトリウムポンプなどによりATPを利用してエネルギーを消費しながらイオンを輸送し、濃度差を維持している。

 活動電位は非常に短時間の電位変化であり振幅は一定している。これを計って時間を軸にグラフを描くと、活動電位は針のような急速な電位変化として描画されることが多い。このため電気工学的にインパルスと呼ばれることもある。(Wikipedia)

参考HP Wikipedia:神経細胞 東京大学プレスリリース:脳内の神経信号の伝播速度は時々刻々と変動していることを明かに


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