過去の遺物から正確に年代を知る方法
 過去の遺物からその年代を知る方法がある。それが、放射性炭素年代測定(radiocarbon dating)で、C14年代測定ともいう。

 自然の生物圏内では炭素14の存在比率がほぼ一定であり、動植物の内部における炭素14の存在比率は、死ぬまで変わらないが、死後は新しい炭素が補給されなくなるため、存在比率が下がり始める。この性質と炭素14の半減期が5730年であることから年代測定が可能となる。

 ところが、炭素14の生成量は地球磁場や太陽活動の変動の影響を受けるため、大気中の濃度は年毎に変化している。また、北半球と南半球では大気中の濃度が異なっている。このことから、通常のC14年代測定法は補正する必要があった。

 今回、その補正となる物差し「IntCal13」が、9月23日の「Radiocarbon」オンライン版(IntCal13特集号)に公開された。この制作者の一人が、英ニューカッスル大学の中川毅 教授。


 これまで過去をさかのぼるために放射線炭素(14C)年代測定が用いられてきたが、14C年代測定は基準となる値がバラバラであり、今現在がどの程度、ということが分かっても、元の値が不明なため、これまでは膨大な長さの対応表を作ることで補正を行い対応を図ってきた。

 中川氏は、「IntCal13とIntCal09の間には、決定的な大きな差がある」とし、「それは、今まで抱えていたあいまいな誤差を除くことに成功した点」と説明する。この精密で決定的な年代測定を実現した背景に福井県若狭町にある水月湖での調査結果が反映されたという。

 特に過去5万年というのは、人類の文明の発達を追いかけるのに重要な期間となる。14C年代測定の概要。14Cが測定されたからといって、それが人類の歴史にそのままあてはめられるわけではないので、較正を行う必要がある。また、14Cそのものにも誤差があるため、それで算出された年代の正確さは、時代によって疑問が残る場合があった。

 以下はマイナビニュース記事「約5万年前までの正確な年代測定が可能に!IntCal13公開」から引用する。


 約5万年前までの正確な年代測定が可能に - IntCal13が公開
 日英独を含む「水月湖プロジェクト」全体のリーダーである英ニューカッスル大学の中川毅 教授、鳴門教育大学の米延仁志 准教授らは9月30日、都内で会見を開き、同プロジェクトにて得た研究成果を反映した放射線炭素年代の新しい較正曲線「IntCal13」が9月23日の「Radiocarbon」オンライン版(IntCal13特集号)に掲載されたことを発表した。

 9月23日に発行された「Radiocarbon」オンライン版の表紙。今回の水月湖の成果から、日本風なデザインが採用されている。

 IntCalは、放射性同位体である炭素14(14C)をもとに、暦年代を特定するための基準である較正曲線を作成しようという取り組み。1998年に公開された「IntCal98」からはじまり、2004年、2009年とそれぞれ版を重ね、今回、最新版となる「IntCal13」が公開された。

 会見した中川教授は今回の成果について、「過去5万年の時間を測るための世界標準の"ものさし"が完成した」と表現。「ものさしは、誰かが膨大な時間と手間をかけて、その値を定義する作業を行うことで実現されてきた。これは長さ(メートル)でも重さ(グラム)であっても、時間であっても同様である。日々意識することはない、こうした基本的な文明の基盤となる量の意味づけを表せば"ユビキタス"であり、気づかないけど、間接的にその恩恵を受けている」とし、今回の成果もそうした基盤の1つになるとことを強調する。


 水月湖の約5万年分の物差し“年稿堆積物”
 水月湖の調査報告について、簡単に述べると、木の年輪が1年に1つずつ刻まれていくように、湖の堆積物も一定の期間で湖底に堆積していくこととなる(年稿)。環境の影響が少ないものであれば、そのサイクルが一定したものとなるため、年代を知るための手掛かりとして活用できるというわけだ。中でも水月湖における研究では世界最大ともいえる5万2800年前まで測定することに成功したという。

 これまでも、年稿の調査は世界各地で行われてきたが、これほどの期間のものが地殻変動の影響を受けず陸上で得られるのは稀有な例だという。従来、そうした長い期間の年稿は海の底から採集されたものが用いられていたが、海洋は古い水が含む古い炭素が影響をおよぼし誤差を生じやすいという課題があったという。

 また、IntCalは、一カ所のデータに依存することを嫌うため、水月湖のほか、バハマやベネズエラのカリアコ、中国の葫芦洞などの他の地点の測定データなども含まれているが、そうなると誤差が生じることになるため、その差をどう処理するかといった重みづけの中で、最も重視されているのが水月湖のデータになるという。

 IntCal13のうち、水月湖の貢献が特に大きいのが1~5万年前の部分となっている。


 福井県の水月湖が地質時代のグリニッジ天文台に
 今回、5万年前までの正確な年代データを提供できるようになったことで、中川教授は、「福井県の湖が地質時代のグリニッジ天文台になった」と表現したほか、米延准教授は、「これで正確な過去を知ることができるようになり、過去、どの時代にどういった気候変動が起こったのか、といったことも分かるようになる。

 これにより教科書が書き換えられる可能性もでてくる」とし、すでにこちらも発表済みのマヤ文明の起源に迫る研究では、従来の説から起源が200年さかのぼる紀元前1000年ころと、より詳細な年代測定を達成しているほか、2013年6月に発行された地学雑誌に掲載された「水月湖ボーリングコアを用いた天正地震(AD1586)前後の湖底堆積物の分析」という題の論文では、1586年に発生した天正地震の影響を調査。

 その結果、従来、東海から北陸地方にかけて発生したとされる揺れは、史実通り若狭湾沿岸に被害を与えたとしても、湾から4.8km以上内陸にある水月湖に影響を与えるほどの規模でばなかった可能性が示されるなど、こうした歴史の書き換えが生じてくる可能性が示されるようになっているとする。

 なお、会見には福井県知事の西川一誠氏も参加。水月湖が2013年9月に生じた台風18号による水害を受けたことを報告し、水月湖の研究成果を活用することで、そうした災害がどのくらいの期間ごとに発生しているのかを知ることができるようになるといった学術的の意義や、環太平洋の環境問題の解決にも寄与していくことを強調。

 今後、縄文時代発祥の地とも言われ、恐竜の化石も発見されていることなど含めた歴史の国として福井県を日本全国にアピールしていくとするほか、地元としてどのような手法があるかは今後の検討課題としながらも、今回の成果に対する価値の紹介や、環境保護に対する意識の向上に向けた取り組みを行っていきたいとした。


 放射性年代測定法とは何か?
 放射性炭素年代測定(radiocarbon dating)は、自然の生物圏内において放射性同位体である炭素14(14C)の存在比率が1兆個につき1個のレベルで一定に保たれていることを基礎とする動植物の遺骸を使用する年代測定方法である。無機物及び金属では測定が出来ない。

 C14年代測定、単に炭素年代測定、炭素14法、C14法などともいう。自然の生物圏内では炭素14の存在比率がほぼ一定であり、動植物の内部における炭素14の存在比率は、死ぬまで変わらないが、死後は新しい炭素が補給されなくなるため、存在比率が下がり始める。この性質と炭素14の半減期が5730年であることから年代測定が可能となる。なお、厳密には炭素14の生成量は地球磁場や太陽活動の変動の影響を受けるため、大気中の濃度は年毎に変化している。また、北半球と南半球では大気中の濃度が異なっている。

 放射性炭素年代は、BP (Before Present もしくはBefore Physics) で表記されるが、これは大気圏内核実験による放射線の影響をあまり受けていない1950年を起点として、何年前と実年代が表記される。
 
 炭素14の由来と、生物への移動
 炭素14は、大気上層で高エネルギーの一次宇宙線によって生成された、二次宇宙線に含まれる中性子と窒素原子核の衝突から、年間7.5キログラム程度生成される。また、核実験や核燃料の再処理によっても大気中に放出されている。生成された炭素14は直ちに酸素と結合し二酸化炭素になり、大気中に拡散する。

 炭素14(14C)は、約5730年の半減期でβ崩壊をして減じていく性質をもっているため、これを利用して試料中の炭素同位体12/14比から年代を推定することができる。測定限界が元の約1/1000である場合、約6万年前が炭素14法の理論的限界になる(実際の測定では、ベータ線測定法の場合は3 - 4万年程度、AMS法では4 - 5万年程度が測定限界)。

 二酸化炭素中の炭素14は、光合成によって植物に取り込まれ、食物連鎖で動物にも広まっていく。生物の細胞に定着した炭素14は、光合成で作られた時点から減じていくと見なす。つまり、光合成で取り込まれる二酸化炭素は大気中の炭素14量を反映しているが、生物の活動停止後は炭素14が新たに付加されない。従って、生物の遺骸から試料を得て測定した場合、その細胞に利用された炭素はいつ光合成が行われたかが分かる事になる。樹木の場合は、内側の年輪が古く、外側の年輪が新しく測定される。(wikipedia)


関西電力:水月湖の年縞 日本地球惑星科学連合:水月湖の年縞:過去7万年分の標準時計


年代測定概論
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東京大学出版会
年代測定 (大英博物館双書―古代を解き明かす)
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學藝書林

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