ナトリウム・カリウムポンプ(Na+, K+ポンプ)とは何か?
Na+, K+ポンプタンパク質はデンマークのスコウ(Jens C. Skou)によって発見され、1997年のノーベル化学賞が授与されたほど重要な蛋白質。
すべての動物細胞では細胞の内と外でナトリウム(Na+)、カリウム(K+)、カルシウム(Ca2+)等のイオンに関し濃度差が保たれており、この濃度差が生命活動の原動力ともなっている。
例えば、「神経が興奮する」という現象は、細胞の外に多いNa+が、濃度差に従って細胞内に流入することで「活動電位」という電気信号が生じることがその実体である。
一方、興奮によって失われたイオンの濃度差をもとに戻すのがイオンポンプ蛋白質の働きである。これは、Na+, K+に対するポンプ蛋白質であり、ATPのエネルギーを利用してNa+を細胞内から外へ、K+を外から内へと運搬する。これをNa+, K+ポンプという。同様にCa2+ポンプも存在する。
今回、東京大学は、これまで考えられてこなかった光エネルギーを使ってナトリウムイオンを菌体外に排出する新しいタイプのタンパク質「ナトリウムポンプ型ロドプシン」を海洋細菌の一種「Krokinobacter eikastus」から発見した。
光と言えば光合成が有名だが、光エネルギーを利用した別の形の反応系があるのは珍しい。グループでは、新しい光エネルギーの利用法など、多くの新しい研究領域の開拓などにつながることが期待されるとコメントしている。
以下マイナビニュース記事「光をつかってナトリウムイオンを体外に排出するタンパク質を発見」から、引用する。
東大など、光を使ってナトリウムイオンを体外に排出するタンパク質を発見
東京大学(東大)は、これまで考えられてこなかった光エネルギーを使ってナトリウムイオンを菌体外に排出する新しいタイプのタンパク質「ナトリウムポンプ型ロドプシン」を海洋細菌の一種「Krokinobacter eikastus」から発見したと発表した。
同成果は、同大大気海洋研究所・地球表層圏変動研究センターの吉澤晋 特任研究員、木暮一啓 教授、名古屋工業大学の井上圭一 助教、神取秀樹 教授らによるもの。詳細は、「Nature Communications」に掲載された。
太陽光エネルギーを使って水素イオンを排出、あるいは塩素イオンを細胞内へ取り込むポンプは古くから知られていたが、これまで生体にとって重要な電解質の1つであるナトリウムイオンのポンプは見つかっていなかったため、細菌が太陽光エネルギーをナトリウムイオンの輸送のために使うということは従来考えられてこなかったという。
今回の研究のポイントとなった「ロドプシン」は、ヒトの目の視紅として知られる光受容性のタンパク質で、藻類や細菌の間にも分布し、水素イオンや塩素イオンのポンプなどとしても機能していることが知られている。
今回の対象となった海洋細菌では、KR1とKR2という2種類のロドプシンを有していることが判明。KR1は水素イオンを排出するポンプで、一方のKR2はナトリウムイオンを排出するとともに、イオン環境や増殖期に応じてリチウムや水素イオンも排出するポンプであることが判明したとのことで、研究ではKR2の立体構造を解析し、KR2におけるナトリウムイオンの結合部位や反応過程の詳細などの解析が行われたという。
今回の成果は、光エネルギーを使ってナトリウムイオンを排出する生物機能に関する初めてのものであり、研究グループでは、今後のロドプシン研究に新しい展開をもたらす可能性が高いと指摘。また、地球上の生物における光利用の進化の過程、光エネルギーの利用がもたらす優位性、海洋生態系への新たな光エネルギー流入の過程など、多くの新しい研究領域の開拓などにつながることが期待されるともコメントしている。(マイナビニュース 2013/09/27)
ナトリウム・カリウムポンプ(Na+, K+ポンプ)の働き
Na+, K+ポンプは1940年頃、存在が仮定され、60年頃に実体がNa,K-ATPaseであることが確認された。ほとんどの動物細胞が持っていて、生存に必須。
このポンプは、強心剤として200年以上前から処方されているジギタリス類の標的蛋白質であり、心不全に深く関わる他、高血圧やがんとの深い関わりも明らかになって来たため、新たな治療薬の標的としても注目されている。
Na+をくみ出し、K+を取り入れて細胞の浸透圧の調節をやっている。どうしてこれで浸透圧の調節ができるのかは、うろ覚えだったので、教科書を引っ張り出してきて読みかえしましたが、解ったことは、うろ覚えだったんじゃなくて、ちっとも理解していなかったんだと言うことで、調節の仕組みの方はやっぱりわかりませんでした。
教科書には書いてありますので読んでみてください。とにかく、できた濃度差は、浸透圧調節以外に、いろいろな物質の取り込み放り出しに使われますし、神経細胞では電流としてつかわれてます。
Na,K-ATPase(Na+/K+-ATPアーゼ)は、2種のサブユニットからなる細胞膜輸送系の膜貫通タンパク(EC 3.6.3.9)である。この酵素は、細胞内でのATPの加水分解と共役して細胞内からナトリウムイオンを汲み出し、カリウムイオンを取り込むのでナトリウム-カリウムポンプ(Na+/K+ポンプ)または単にナトリウムポンプ(Na+ポンプ)とも呼ばれ、ヒトのすべての細胞でみられる共通の構造である。
Na+/K+-ATPアーゼは1957年、イェンス・スコウがデンマークのオーフス大学の生理学部助教授として勤務しているときに発見した。1997年、彼はナトリウム-カリウムポンプの発見の功績によりポール・ボイヤー、ジョン・E・ウォーカーとともにノーベル化学賞を受賞した。
Na+/K+-ATPアーゼは1回毎に細胞から3Na+を汲み出して2K+を汲み入れるためその都度正電荷を1個細胞外に放出する電位発生的な対向輸送を行っている。脂質二分子膜は水を透過するため動物細胞はNa+/K+ポンプによって浸透圧と含水量を調節している。
Na+/K+ポンプによって作られる膜電位(Em)はニューロンでは神経刺激になり、また別の細胞ではグルコースやアミノ酸の能動輸送の自由エネルギーを供給する。すべての細胞ではNa+/K+濃度の維持に、合成したATPの30%(ニューロンでは70%)を消費する。(Wikipedia)
ロドプシン(Rhodopsin)とは何か?
ロドプシン(Rhodopsin)は、別名視紅(しこう)。脊椎動物の光受容器細胞に存在する色素である。網膜において光受容器細胞の形成と光の認識の初期段階をつかさどる。Gタンパク結合受容体ファミリーに属し光に敏感であり、夜間視力はこの物質のおかげで成り立つ。光を浴びると即座に退色し、その回復にヒトの場合は約30分かかる。
ロドプシンは2つの部分から成っている。オプシンと呼ばれるタンパク質部分と、可逆的に共有結合をつくる補因子のレチナール(レチンアルデヒド)である。
オプシンは7本のらせんが束になって膜を貫通し、中心のポケット内にクロモフォア(色中心)のレチナールが結合する。レチナールは網膜でビタミンAから作られる。
11-シス-レチナール (11-cis-retinal) が光によりオールトランスレチナール (all-trans-retinal) へ異性化するとオプシンは構造変化を起こし、会合しているGタンパク質を活性化させセカンドメッセンジャーカスケードを引き起こす。
ロドプシンが視神経に信号を伝えるのは、次の網膜でのメカニズムによる。βカロテンが鎖の真ん中で切断されると、二つのトランス型のレチノールというアルコール型のビタミンAが生成する。
レチノールは酸化されてレチナールというアルデヒドになる。このトランス型のレチナールを、シス型のレチナールに変化させ、オプシンに収納される。この状態が、ロドプシンである。
このロドプシンへ光が当たるとシス型のレチナールが安定なトランス型に戻り、トランス型レチナール分子は、オプシンに収まらず、はずれてしまう。この変化が細胞の中に伝えられ、化学的に増幅されて、光が当たった、という信号となって視神経に伝えられる。
トランス型レチナールは、再びイソメラーゼの働きでシス型に折り曲げられてオプシンに収納される。やがてレチナールは消耗するので、不足した分は、レチノールから酸化して補われる。このため、網膜にはレチノールをレチナールに酸化するためのアルコール脱水素酵素が豊富に存在する。
そのため、メタノールを飲んだ場合には、網膜でホルムアルデヒドが大量に作られ、ホルムアルデヒドの毒性で視細胞が死に、失明することになる。
桿体細胞にあるロドプシンは緑青色の光を最も吸収するので赤紫色に見えるのが視紅と呼ばれる所以である。そのために暗所での視界はモノクロに見える。
これと近縁なオプシンに、アミノ酸がわずかに異なり最大吸収波長が違うフォトプシン (photopsin) というグループが存在する。これらの色素は網膜の異なるタイプの錐体細胞に見られ、色覚の元となる。ヒトはロドプシンと他に最大吸収波長が黄緑 (photopsin I)、緑 (photopsin II)、青紫 (photopsin III) の3つのオプシンを持つ。
古細菌の中には光合成を引き起こすバクテリオロドプシンと呼ばれるプロトンポンプを発現するものがある。ロドプシンと同様に、バクテリオロドプシンもレチナールを持ち、7つの膜貫通αヘリックスを持つがGタンパクとは結合しない。また藻類は独自の光ゲートイオンチャンネルを含んだチャネルロドプシン2と呼ばれるオプシンを持つことが知られている。(Wikipedia)
参考HP 科学技術振興機構:光でナトリウムイオンを輸送するポンプ型タンパク質を発見 Wikipedia:ロドプシン ナトリウム・カリウムポンプ
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