あのBSE(狂牛病)騒動を振り返る
 最近の牛丼は安くて美味しいので、よくお弁当を買いに行く。しかし、覚えているだろうか?数年前、BSE(狂牛病)発生により、米国産牛肉の輸入禁止され、吉野家は牛丼を2004年から2年以上販売中止するなど長期に渡り影響が出ていた。

 その後、日本や海外で、BSEの原因タンパク質プリオンを含む、牛の脳や脊髄などの組織(特定危険部位:SRM)を食肉から取り除き、家畜のえさに混ぜないといった規制が行われた結果、世界中でBSEの発生は激減した。

 結果、輸入が再開され、安くて安全な牛肉が食べられるようになった。しかし、BSEの病原体が細菌やウイルスではなく、タンパク質の異常という非常に珍しいケースであり、根本的な治療法は何も確立されていない。現在でも病理学的には諸説あり、各国で研究が進められている。


 BSEが怖いのは、BSEに感染した牛の神経組織にある、異常プリオンを食べると感染し、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病になる危険があることだ。また、ヤコブ病の人から輸血によって作られた医薬品が原因で感染することもある。

 今回、英国で行われた調査で、驚いたことに英国内にはで最大3万人が、牛海綿状脳症(BSE)との関係が指摘される変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に感染している疑いがあるという調査結果が、医学誌BMJに発表された。英国の人口比で換算すると、およそ2000人に1人の割合で未発症の感染者が存在する計算になる。

 2000人に一人というとRH-AB型の血液型の割合である。私の父がそうなので、以外に身近にいる感覚だ。以下はCNNニュース記事「BSE由来疾患、英で3万人が感染の疑い」より引用する。 


 BSE由来疾患、英で3万人が感染の疑い 献血で拡散の恐れも
 
英国で最大3万人が、牛海綿状脳症(BSE)との関係が指摘される変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)に感染している疑いがあるという調査結果が、10月15日の医学誌BMJに発表された。

 英国でこれまでにvCJDの感染が確認された患者は177人のみ。世界保健機関(WHO)によれば、英国以外の11カ国では49人の感染が報告されている。

 これまでの研究では、vCJDの原因となるプリオン蛋白(たんぱく)に感染しながら発症していない人は英国に4000人に1人の割合で存在すると考えられていた。

 しかし英神経病理学研究所のセバスティアン・ブランドナー氏のチームが3万2441人の虫垂組織を調べた結果、16人からvCJDの陽性反応が出た。

 英国の人口比で換算すると、およそ2000人に1人の割合で未発症の感染者が存在する計算になる。

 英国でこれまでにvCJDの感染が確認された患者は177人のみ。世界保健機関(WHO)によれば、英国以外の11カ国では49人の感染が報告されている。

 これまでの研究では、vCJDの原因となるプリオン蛋白(たんぱく)に感染しながら発症していない人は英国に4000人に1人の割合で存在すると考えられていた。


 感染しても潜伏期の長いヤコブ病
 しかし英神経病理学研究所のセバスティアン・ブランドナー氏のチームが3万2441人の虫垂組織を調べた結果、16人からvCJDの陽性反応が出た。

 英国の人口比で換算すると、およそ2000人に1人の割合で未発症の感染者が存在する計算になる。

 ブランドナー氏によると、BSEのピークは1992年、ヒトのvCJDのピークは2000年だったことから、vCJDの潜伏期間は8年と考えられていた。

しかし同氏の研究で、vCJDの原因となるプリオン蛋白は少なくとも3種類あることが判明。こうしたプリオンの感染者が、さらに長い潜伏期間を経て発症する可能性もあるとしている。

 同氏によれば、vCJDは血液検査では検出できないことから、感染者が献血などを通じて知らないうちに他人を感染させてしまう恐れもある。プリオン蛋白は医療器具に対して通常行われている滅菌処理では破壊されないという。

 感染症専門家のローランド・サーモン氏はBMJに寄せた寄稿で、vCJDは過去の疾患ではないと警告し、今回の研究により、これからも発症者が出る恐れがあることが分かったと解説。献血などを通じた感染を防ぐための措置を講じる必要があると指摘している。(CNN.co.jp 2013.10.16)


 BSEとは何か?
 牛海綿状脳症(Bovine Spongiform Encephalopathy, BSE)は、牛の脳の中に空洞ができ、スポンジ(海綿)状になる病気である。「ぎゅう かいめんじょう のうしょう」と読む。一般的には狂牛病(きょうぎゅうびょう,Mad Cow Disease)として知られている。

 羊のスクレイピーや、鹿の慢性消耗病 (CWD)、他、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病 (Creutzfeldt-Jakob disease, CJD) などを総称して伝達性(伝染性)海綿状脳症(Transmissible Spongiform Encephalopathy, TSE)と表記される場合もある。

 家畜伝染病予防法によって指定されている監視伝染病の一つ。この病気が発症した牛は、当初は痙攣を起こしたりする程度で目立った症状は現れないが、やがて音や接触に対して過敏な反応をするようになり、病状がさらに進むと運動機能に関連する部位も冒されて立てなくなるなどの症状を示す。

 イギリスで発生したのは、飼料として与えた汚染肉骨粉が感染源と考えられている。なお、日本での発生原因は完全には解明されていないが、肉骨粉と同時に牛用代用乳がその原因として疑われている。


 BSEの原因
 ウイルスなど核酸を有した病原体による病気ではなく、プリオンと呼ばれる蛋白質のみで構成された物質が原因だとする見解が主流であるが、有力な異論・異説も少数ながらあり、プリオン原因説は完全な定説とはなっていない。健康体の牛などの体内には正常プリオン蛋白が発現しているが、BSEの原因となるプリオンは、正常プリオン蛋白とは立体構造が異なる異常プリオン蛋白から構成されている。

 異常プリオン蛋白は、二次構造や細胞内局在において、正常プリオン蛋白とはかなり違った性質を示す。たとえば、正常なプリオンにはαヘリックス構造が多く含まれるのに対して、異常プリオンではβシート構造が多くなっている。この異常プリオン蛋白により構成されたプリオンが人工飼料などを介して牛などの体内に入ると、徐々に正常プリオン蛋白が異常プリオン蛋白に変えられていってしまう。この仕組みについては未解明な部分も多い。

 2008年9月11日、米国農務省(英語略:USDA)動物病センター(英語:National Animal Disease Center/UADC)で研究を行ったカンザス州立大学のユルゲン・リヒト(Jurgen Richt)教授はBSEの病原体である異常プリオンは外部から感染しなくとも牛の体内での遺伝子の異変によって作られ、BSEを発症する例につながると発表した。この発表は2006年アラバマ州でBSEを発症した約10歳の雌牛の遺伝子の解析から異常プリオンを作る異変が初めて見つかったことによる。人間でも同様の異変が知られ、クロイツフェルト・ヤコブ病を起こす。


 輸血により感染拡大する可能性
 本疾病に感染した牛については回復させる治療法は存在しない。日本国内で本疾病について検査により陽性が確認された場合、家畜伝染病予防法に基づいた殺処分命令が出され、当該患畜は速やかに殺処分される。この場合、殺処分にした後、焼却処分が行われる事が多い。

 また、飼料を介した感染が疑われる疾病であるため、当該患畜と同一の飼料にて育成された可能性があるものについては、本疾病について陽性である可能性が考えられるため、本疾病についての調査が実施される。

 狂牛病と変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は、非常によく似ていることから、同一病原体によるものと現在のところ結論されている。

 イギリスにおいて1993年5月に15歳の少女の発症例が報告され、クロイツフェルト・ヤコブ病は中高年や感染された人から作られた医薬品が原因で発症する病気という従来の常識を覆して、医学界に衝撃を与えた。変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病による死者は1995年を皮切りに、死因がこの病気であると確認された人数は117名。推定を含めると死者は169名に達している(生存者は4名、2010年7月5日現在)。


 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)の原因
 当初人間には、経口感染しないとされた。しかし、狂牛病に感染した獣肉で作られたキャットフードを食べた猫が死に、解剖したところ海綿状脳症であったことから、食物から感染した疑いが非常に高くなり、牛同士以外でも牛肉を通じての感染が疑われた。

 1990年代前半までにイギリスを中心に発生していた変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(異型クロイツフェルト・ヤコブ病とも呼ばれる)が、その後の調査で、牛海綿状脳症が食物を通して感染したことが疫学的に高い確率であることが証明された。

 政治的には、1996年3月20日、英保健省大臣が英下院議会において、「クロイツフェルト・ヤコブ病患者10 人の発病の原因が狂牛病に感染した牛肉であることを否定できない」と狂牛病は、ヒトに経口感染するらしいとの見解を明らかにしたのが初めである。

 ただ、どの様な経緯で感染し発病するのかは、現在でも病理学的には諸説あり、各国で研究が進められている。原因が明らかでなく、プリオンは熱に極めて強いため、広く規制する措置がとられている。牛の検査や特定の国からの輸入停止、飼料や加工過程についての規制など、感染した牛からの肉や牛乳など直接(肉など)、間接(原料として生産された加工品)に人間にわたらないように、世界各国で配慮がなされているが、畜産業界などの政治的圧力の高い国では、政治的な問題となり、必ずしも解明に積極的ではない。また、当事国内では解決されたとみなされても、国際的には汚染地域として輸出の制限を続けられる場合もある。

 変異型クロイツフェルト・ヤコブ病は英語の "variant Creutzfeldt-Jakob disease" で vCJD と略記される。


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