鉛中毒で毎年14万人超が死亡!

 鉛というと、釣りなどで用いられるおもり(シンカー)の材料として思い浮かぶ。しかし、近年鉛の毒性が問題となったために、鉛に代わるおもりの素材としてタングステンなどの導入が進められているという。

 その他には、鉛蓄電池の電極、鉛ガラス(光学レンズやクリスタルガラス)、美術工芸品(例えばステンドグラスの縁)、防音・制振シート、銃弾、電子材料(チタン酸鉛)などである。また、放射線遮蔽材として鉛ガラスや鉛シートなどの形で用いられる。

 鉛に毒性があるとはこれまで聞いたことはあったが、世界保健機関(WHO)は10月18日、鉛中毒のために世界全体で毎年14万3000人が死亡しているとの推計を発表した。

 被害は低所得国や中所得国に集中し、脳や神経の発育を阻害する鉛の作用によって知的障害者となる子供が毎年60万人に上るという。


 発表によると、鉛は蓄電池の電極など広い用途があるが、主に健康被害を引き起こすのは、玩具や住宅、家具などに使われる鉛入り塗料だ。劣化して粉末になったものを吸い込む危険が大きいという。WHOは、各国が鉛入り塗料の生産・使用の早期廃止に向けて規制強化に取り組むことが急務だと強調した。(2013年10月19日  読売新聞)

 日本では1998年から切り替えが進み(ELV指令)、2007年にはほぼ無鉛塗料に切り替わっている。鉛による毒とはどのようなものだろうか?


 鉛の毒性

 鉛の毒は、鉛毒という。鉛または鉛化合物による中毒。急性中毒は大量の鉛の吸収によって起こり、胃腸炎、運動麻痺などを呈する。慢性中毒は鉛を取り扱う職場などで発生しやすく、職業病として重要で、近年ではガソリン添加剤の四エチル鉛による大気汚染が問題化した。 

 鉛化合物は、無機化合物は水に溶けにくいものが多いため急性中毒を起こす事は稀だが、テトラエチル鉛のような脂溶性の有機物質は細胞膜を通過して直接取り込まれるため、非常に危険である。

 長期的に見た場合、鉛は自然な状態の食物にも僅かに含まれるため常時摂取されており、一定量ならば尿中などに排泄されるので鉛に対して必要以上に神経質になる必要は無いとされる。しかし、有機化合物を摂取してしまったり、排泄を上回る鉛を長期間摂取すると体内に蓄積されて毒性を持つ。

 生物に対する毒性としては、体表や消化器官に対する曝露(接触・定着)により腹痛・嘔吐・伸筋麻痺・感覚異常症など様々な中毒症状を起こすほか、血液に作用すると溶血性貧血・ヘム合成系障害・免疫系の抑制・腎臓への影響なども引き起こす。

 遺伝毒性も報告されている。主に呼吸器系からの吸引と、水溶性の鉛化合物の消化器系からの吸収によって体内に入り、骨に最も多く定着する。生体に取り込まれた鉛の生物学的な半減期は資料によって異なるが、一例として生体全体で5年、骨に注目すると10年という値が示されている。呼吸器からの吸引に対しては、鉛を扱う工場や、鉛を含む塗料や顔料を扱う作業などに多く、職業病としての側面がある。


 鉛毒の症状

 鉛はヘモグロビン合成を阻害するために血液塗抹標本上では有核赤血球、好塩基性斑点が認められる。急性中毒では嘔吐、腹痛、ショックなどを示し、慢性中毒では主に消化器症状、神経症状、一部では貧血が認められる。

 肉眼的所見として脳水腫、大脳皮質の軟化、組織学的所見として脳回頂部における海綿状変化、血管内皮細胞腫大、星状膠細胞腫大、虚血性神経細胞死が確認される。肝細胞、尿細管上皮細胞、破骨細胞の核内に好酸性封入体が認められることがある。

 鉛中毒における毒性の原因は、酵素の働きを阻害することである。体内に入った鉛は酵素のチオール基(SH基)と強固に結合し、チオール基を有する種々の酵素の働きを阻害する。特に造血組織でアミノレブリン酸脱水酵素のSH基に結合して貧血を起こすことが典型例。また小児には少量でも神経障害の原因となる場合がある。

 造血組織でのアミノレブリン酸脱水酵素の阻害は、貧血症状とともに激しい腹痛や神経症状を示すポルフィリン症を引き起こすことが知られている。


 鉛摂取ルート

 野生動物や家畜、人間での鉛中毒は鉛含有のペンキ、鉛蓄電池、有鉛ガソリン、散弾などとの接触や摂取により発生する。野生動物などの場合は、また鉛に汚染された土壌で育った植物、それを食べた草食動物の肉や魚を食べた場合も発生する。

 狩猟で使われる散弾の鉛も弾が半矢状態で体内に残存した場合、また、鳥が小石と間違えて飲み込む場合(鳥は消化を助けるため、適当な大きさの小石を飲み込んで砂嚢に蓄える習性がある)、鳥が鉛中毒になる。さらにその鉛に汚染された鳥肉を食べることで人間にも中毒が広がる。近年、鉛を使った散弾そのものの規制やタングステンなどの他の素材への転換も議論もされている。

 水道管に鉛が使われていて(鉛管)その水道水を飲料水に用いている(いた)場合、鉛が鉛イオンとして溶け出し、その水道水を長期間飲むことで体内に鉛が蓄積され鉛中毒になる場合もある。日本においては、現在では新しい水道管に鉛管が使われることはない。

 過去ガソリンのオクタン価を高めるため、鉛化合物をガソリンに混ぜた有鉛ガソリンが広く出回っていたが、これはその危険性を示すために赤や緑に着色されていた。しかし無鉛化の動きにより、日本国内においては1980年代後半までに全て無鉛ガソリンに置き換わっている。この無鉛ガソリンが、現在ガソリンスタンドで給油できる「ガソリン」である。ただし航空機用ガソリン(AvGas)では今でも有鉛ガソリンが使われている。

 このように鉛の対策は各国で議論されており、現在、鉛を含んだ塗料や有鉛ガソリン、鉛管の使用が規制されている国は多い。


 ローマ帝国における鉛中毒

 ローマ帝国では水道管に鉛が使われていたため、慢性的に鉛中毒者を発生させ滅亡の遠因になったという説があるが、現在では正規の学説としては取り扱われてはいない。主な理由は二つある。一つは、水道内部に分厚く沈着したカルシウム炭酸塩が鉛管の内側にも付着して、鉛と流水を効果的に隔離したこと。もう一つは、ローマ水道における鉛管部分はごくわずかであり(総延長のほとんどは石造だった)、また現代と違ってローマの水道には蛇口の栓というものがなく常時垂れ流しだったため、鉛の溶出が問題になるほど長時間に渡って水と鉛が接触することはなかったことである。

 だが、古代ローマではサパと呼ばれる酢酸鉛を主成分とした甘味料が多く摂取されていたことから、鉛中毒が多く発生したと考えられている。なお、この時代からすでに鉱山などの事例により、鉛が健康被害をもたらすということは知られていた。


 鉛入り塗料 

 米国では鉛を含む塗料は、1960年まで広く、1970年代初期まではある程度用いられ、1978年にほぼ排除された。したがって、かなりの数の古い家屋で、鉛を含む塗料は今なお何らかの危険を引き起こしている。鉛中毒は通常、鉛を含む塗料の小片(割れてはげかけた塗料)の直接的な摂取によって引き起こされる。患者は、家の改装時の再塗装の表面処理の際に、こすり取りややすりがけにより生じた粒子の形態で、エアロゾル状の鉛に大量に暴露する場合がある。

 不適切な鉛の釉薬をかけた陶磁器は米国以外では一般的であり、特に酸性物質(例、果物、コーラ飲料、トマト、リンゴ酒)に接触した場合、鉛を浸出させうる。

 鉛を含む密造ウイスキーおよび民間療法、ならびに、胃または組織中に時々みられる鉛を含む異物(例、弾丸、カーテンまたは釣りのおもり)も、有力な原因候補である。

 軟組織中にとどまる弾丸は血中鉛濃度を上昇させる場合があるが、この過程には数年を要する。職業暴露は、乾電池の製造および再利用、銅像制作、真鍮製造、ガラス製造、パイプ切断、ハンダ付けや溶接、溶錬、陶器または色素の制作の際に起こりうる。

 一部の民族的な化粧品ならびに輸入のハーブ製品および薬用草は鉛を含み、移住民社会において鉛中毒の集団発生を引き起こしたことがある。加鉛ガソリン(米国以外の国において)の蒸気を、中枢神経作用を求めて娯楽的に吸入すると、鉛中毒を来す場合がある。

参考 Wikipedia: 鉛中毒


急性中毒診療レジデントマニュアル 第2版 (レジデントマニュアルシリーズ)
クリエーター情報なし
医学書院
鉛中毒予防規則の解説
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中央労働災害防止協会

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