オゾンホールの意外な影響力
 オゾンホール(Ozone hole)というと、南極や北極上空の成層圏のオゾン層における春期のオゾンの濃度の減少を指す。有害な紫外線をさえぎるオゾン層が破壊されて穴があいたような状態になる。

 今回、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究チームは、アフリカ南部の地域社会に大きな影響を及ぼしている近年の地上気温上昇の原因について、過去30年の観測データを解析したところ、南極上空のオゾンの減少がアフリカ南部でアンゴラ低気圧を強化させた結果、この地域の夏季の気温を上昇させていることを世界で初めて明らかにした。


 研究によると、南極ではオゾンホールの拡大により、成層圏での紫外線の吸収が減少して、上空の気温が低下していた。これにより、赤道と南極の温度勾配が強まり、偏西風が強化された結果、アフリカ南部周辺の高気圧の南下を生じさせたと考えられ、気温の上昇につながるという。

 発見された当初は南極上空だけに発生するとされていたが、最近では北極上空にもオゾンホールが出現していることが話題になっている。その原因は北極上空の寒冷化。

 2012年3月、北極上空に、突然オゾンホールが現れたが、北極上空の成層圏の気温変化をみると、1月頃から気温が急激に下がり、4月にかけて―80度を下回った。平均気温から10度も低く、今まで見られなかった現象だった。専門家は、この極端な気温低下がオゾン層の破壊を生んだと考えている。

 海洋開発機構プレスリーリース「南極のオゾン減少とアフリカ南部の気温上昇の関係を初めて解明」から引用する。


 南極のオゾン減少がアフリカ南部を温暖化
 独立行政法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)地球環境変動領域及びアプリケーションラボと東京大学、ビンドゥラ大学(ジンバブエ)マナツサ研究員の共同研究チームは、アフリカ南部の地域社会に大きな影響を及ぼしている近年の地上気温上昇の原因について、過去30年の観測データ及びNECP(米国立環境予測センター)/NCAR(米国大気研究センター)の再解析データを解析したところ、南極上空のオゾンの減少がアフリカ南部でアンゴラ低気圧を強化させた結果、この地域の夏季の気温を上昇させていることを世界で初めて明らかにしました。

 近年の地球温暖化は、産業革命以降の温室効果ガスの増加によるものと考えられており、アフリカ南部における地上気温の上昇傾向についても、人為起源による温暖化との関係が調べられてきました。しかし、気温上昇を生じさせる原因は地球温暖化だけではなく、地域ごとに異なる原因が存在する可能性も考えられています。例えば、アフリカ南部を含む南半球では、近年の南極におけるオゾン減少もまた、南半球の大気の循環を変化させていると報告されています。このため、アフリカ南部の気候にも影響することが考えられます。

 そこで、本研究では、過去のデータから南極のオゾンホール面積の変化に着目し、アフリカ南部における夏季の気温上昇を引き起こすメカニズムを調べました。


 過去30年のデータ解析により相関関係発見
 本研究では、まず、過去30年の南極のオゾンホール面積とアフリカ南部における地上気温のデータを解析しましたが、その結果、両者の間には強い相関関係が存在することが分かりました。

 1979年から2010年まで10-12月について平均した南極のオゾンホール面積とアフリカ南部における地上気温の平年値からのずれ(振幅)を表していますが、1993年頃からオゾンホールは拡大し、アフリカ南部の地上気温も上昇していることが分かります。

 そこで、1993年以降をオゾンホール拡大期、それより以前をオゾンホール縮小期と名付け、両者の期間で大気の循環に違いがないか調べました。


 南半球環状モードが関係
 その結果、オゾンホール拡大期では、アフリカ南部でアンゴラ低気圧が強化され、北側の熱帯域から暖かい空気をより多く運んでいることが分かりました。また、このアンゴラ低気圧の強化は、南大西洋のセントヘレナ高気圧が西側に偏り南下するとともに、南インド洋のマスカリン高気圧が東側に偏り南下した結果、アフリカ南部が両高気圧の狭間になったことに伴うものでした。これらの高気圧の変化には、南半球の中高緯度に存在する大気の変動現象「南半球環状モード」が関係していました。

 実際に、南極ではオゾンホールの拡大により、成層圏での紫外線の吸収が減少して、上空の気温が低下していました。これにより、赤道と南極の温度勾配が強まり、偏西風が強化された結果、中緯度には高気圧性の循環が、高緯度では低気圧性の循環が平年に比べ強くなる正の環状モードが現れていました。こうしたプロセスが、アフリカ南部周辺の高気圧の南下を生じさせたと考えられます。

 この正の環状モードには、成層圏のオゾンの減少と温室効果ガスの増加が関わっているとこれまで報告されています。この両者がどの程度環状モードに影響を与えるかについては、明らかではありませんが、本研究により、オゾンの減少が、正の環状モードを発達させた結果、アンゴラ低気圧が強化され、アフリカ南部で夏季の気温を上昇させていることが世界で初めて明らかになりました。


 地域固有の温暖化原因の解明
 温室効果ガスによる地球温暖化は1年を通して起きていますが、南極のオゾンホール面積は南半球の晩春から初夏にかけて最も大きく変化し、そこで生じた大気循環が夏季のアフリカ南部の気候を左右します。アフリカ南部において夏季の地上気温は、農産物の収穫量や蚊を媒体としたマラリアのような感染症の発生数等地域の生活に、大きな影響を与えるため、南極のオゾンホールのような季節性のある現象とアフリカ南部の気温上昇との関係について、詳細なメカニズムを明らかにすることは重要です。

 本研究の成果から、地域レベルの近年の気候変化について、温暖化のみならず、地域固有の原因も存在する可能性を具体的に示すとともに、今後、南極のオゾンホールの軽減対策が、アフリカ南部の気温上昇を抑える可能性があることを示したものとして、今後の研究の進捗が期待されます。

 南半球環状モードは、南半球の中高緯度に存在する大気の変動現象。南極上空で低(高)気圧性循環、中緯度で高(低)気圧性循環が平年に比べ強く生じるとき、正(負)の環状モードが発達するというしくみである。
 


オゾンホール―南極から眺めた地球の大気環境 (ポピュラー・サイエンス)
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