宇宙の始まりはどうなっていたのだろう?
 観測によれば、宇宙はおよそ138億年前に誕生した。それ以来宇宙は3つの段階を経過してきている。未だに解明の進んでいない最初期宇宙は今日地上にある加速器で生じさせられるよりも高エネルギーの素粒子からなる高温の状態であり、またほんの一瞬であったとされている。そのためこの段階の基礎的特徴はインフレーション理論などにおいて分析されているが、大部分は推測からなりたっている。

 次の段階は初期宇宙と呼ばれ、高エネルギー物理学により解明されてきている。これによれば、はじめに陽子、電子、中性子そして原子核、原子が生成された。中性水素の生成にともない、宇宙マイクロ波背景が放射された。

 そのような段階を経て、今から約130億年ほど前、星が大量に誕生し、銀河、銀河団、超銀河団は形成された。そして、恒星の中では核融合により様々な元素が生み出されることになる。鉄などの重元素は、星の中で合成された後、その星の最後である超新星爆発により周辺の空間に拡散したと考えられている。


 しかし、これまで超新星爆発で生まれた重元素が、いつどの程度まで広がったのかについてはよく分かっていなかった。今回、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とスタンフォード大学は、X線天文衛星「すざく」を用いた観測から、100億年以上前に、鉄などの重元素が宇宙全体にばらまかれた時代があり、それが現在の重元素の起源であることを発表した。

 同成果は、スタンフォード大学カブリ素粒子宇宙論研究所(Kavli Institute for Particle Astrophysics and Cosmology)のNorbert Werner研究員、JAXAインターナショナルトップヤングフェローのAurora Simionescu研究員らによるもので、詳細は英科学誌「Nature」の2013年10月31日号に掲載された。

 マイナビニュース「鉄などの重元素の起源は100億年以上前の宇宙にあったl」から引用する。


 鉄などの重元素の起源は100億年以上前の宇宙
 鉄などの重元素は、宇宙の始まりであるビッグバンの時点では存在せず、星の中で合成された後、その星の最後である超新星爆発により周辺の空間に拡散すると考えられている。今から約110億年ほど前、星が大量に誕生し、銀河がたくさん生み出されたと考えられている。星々で生まれた重元素が銀河の外まで運ばれることはこれまでの研究から知られていたが、同時代の重元素がどの程度まで広がったのかについてはよく分かっていなかった。

 今回、研究グループは、我々の身の回りにある銀河の大集団「銀河団」を観測し、個々の銀河の周辺や、銀河間空間の全体に大きく広がるガスの中の重元素の割合を調べることで、そのバラつき、特に銀河の分布との関係に基づき、そうした謎の解明に向けた手がかりを得ることに挑んだ。

 具体的には、X線天文衛星「すざく」を用いてペルセウス座銀河団の1000万光年におよぶ範囲における鉄の割合を調べたところ、鉄の割合がほぼ一様であることを確認。このことから、鉄のほとんどは、銀河団が形成された時代よりも前に、宇宙に広がり、よく混ざっていたと考えられるとの結論を得たという。

 銀河団の誕生は、約100億年以上前と考えられていることから、少なくともそれまでに鉄などの重元素が星々から大量にまき散らされ、宇宙中に拡散したこと、ならびに現在の宇宙に広がるほとんどの重元素はその時代にまき散らされたものであることが示された。また研究グループでは、そうした銀河から宇宙空間に重元素が吐き出された仕組みとしては、当時の星生成とブラックホール成長によるエネルギー拡散によって生じた強い風によるもの、と説明している。

 なお研究グループでは今後、すざくやより高感度を実現した次期X線天文衛星「ASTRO-H」などを用いることで、ほかの銀河団でも同様な現象が見られるのか、さらには複数の銀河団を含む大規模構造全体ではどうなのかなどの調査が行われ、その結果として、重元素の生成とその拡散の歴史に関する理解が進むことが期待されるとコメントしている。(マイナビニュース 2013/10/31)

 現在は大望遠鏡時代を迎えており、より遠くの宇宙を探る成果があがっている。


 観測史上最遠、131億光年先の銀河
 地球から131億光年の距離に銀河が発見され、これまで確認された中で最も遠い銀河となった。
 この太古の銀河「z8_GND_5296」が放つ弱い赤外線の光は、ハッブル宇宙望遠鏡と、地上望遠鏡としては世界最大級の1つ、ハワイ島マウナケア山頂にあるW・M・ケック天文台の口径10メートルの望遠鏡によってとらえられた。

 今回観測された光が、この生まれたての銀河から放たれたのは、宇宙誕生から約7億年後、最初期の霧のかかったような状態から宇宙が抜け出し始めたころだと、研究主著者の1人で、テキサス州カレッジステーションにあるテキサスA&M大学の天文学者であるケーシー・パポビッチ(Casey Papovich)氏は述べる。

 これまで最も遠い銀河とされていたのは、同じく若く、非常に暗い銀河で、地球との距離は今回の銀河より1億光年ほど近い。

 過去にきわめて遠方にある銀河とされた天体は、いずれもハッブル宇宙望遠鏡がとらえた深宇宙の画像から見つけ出された。しかし、こうした候補の多くは、当初考えられたよりずっと近くにあることが判明していると、パポビッチ氏は話す。「候補に挙がったうちのいくつかは、地球と同じ銀河にある非常に冷たい天体、褐色矮星であることがわかっている」。


 赤方偏移で明らかに!大質量星の時代
 しかし、候補に挙がった銀河の正確な距離を突きとめるには、さらなる測定を行って、銀河が放つ光のスペクトルを分析するしかない。それによって銀河の赤方偏移が求められる。赤方偏移とは、天体が放つ光のスペクトルが赤のほうへずれることであり、そのずれの大きさによって、天体の距離が割り出される。

 赤方偏移は、地球から遠く離れた銀河ほど、その光の波長が長くなって観測される現象だ。つまり、赤方偏移の値が大きいほど、その天体は地球から遠いことになる。

 パポビッチ氏のチームは、この暗い銀河の赤方偏移が7.5であることを突きとめた。これまで最遠記録を保持していた銀河の赤方偏移は7.2だ。

 「赤方偏移がある限り、銀河の正確な性質に関しては、常にいくらかの疑問がつきまとう」とパポビッチ氏は述べる。「“最も遠い銀河”とされる他の天体は、いずれも画像から選び出された候補にすぎず、我々が今回行ったような分光学的な確認はなされていない」。

 今回の発見によって、宇宙のいわゆる“再イオン化(再電離)”時代の解明が進むことが期待される。ビッグバン直後の10億年間、宇宙は不透明な水素の霧に満たされていたが、生まれたての高温で質量の大きい恒星とその銀河によって、不透明な霧が現在のような透明な銀河間空間へと変化したのが再イオン化時代だ。

 「(この時代の宇宙の)銀河は、それ自体が形成直後の大質量星の集まりであり、その多くは質量が太陽の1000倍に達したと考えられる」とパポビッチ氏は述べる。「しかし、これら“第一世代”の恒星が、これほど遠い銀河にも存在するという決定的な証拠はまだ得られていない」。


 さらに過去へ遡る旅へ
 記録をさらに塗り替え、ビッグバンにより近い過去までさかのぼることは可能だろうか?

 それは絶対に可能だと、カリフォルニア州パサデナにあるカリフォルニア工科大学の天文学者リチャード・エリス(Richard Ellis)氏は話す。ただし、現時点ではそれができるほど強力な望遠鏡が存在しないという。

 「原理上、我々には赤方偏移10以上まで観測する能力がある。これは宇宙が誕生してわずか3億5000万年後、すなわち現在の年齢のわずか3%にしか達していなかった時代に相当する」とエリス氏は述べる。同氏は今回の研究に参加していない。

 研究者にとっての難題は、時間を過去にさかのぼるには、より遠方を観測しなければならない点だ。それはすなわち、宇宙誕生とビッグバンの時代に近づくほど、銀河はさらに暗くなることを意味する。

 「ハッブルがこれまでに観測した初期銀河のほとんどは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡や30メートル望遠鏡(Thirty Meter Telescope:TMT)のような強力な新設備が登場しない限り、その距離を分光学的に確認できる見込みはほとんどない」とエリス氏は述べる。「最終的に、このような初期宇宙の詳しい地図を作成するには、次世代の設備が必要になる」。

 今回の研究は、10月23日付で「Nature」誌オンライン版に発表された。(Andrew Fazekas,National Geographic News October 24, 2013)


 宇宙の歴史を探る
 137億年前にビッグバンで宇宙が生まれました。その火の玉の宇宙誕生から約40万年後の姿がマイクロ波宇宙背景放射として現在観測されていますが、これは、10万分の1のゆらぎしかなく、その時代の宇宙がきわめて一様なのっぺりしたものだったことを示しています。

 その後、宇宙の温度はどんどん下がり、光のない真っ暗な時代になりましたが、そのなかで、いつか最初の星が生まれ、それが集まって銀河ができ、それがさらに集合し変化し、現代の多様な宇宙、さまざまな銀河や星、そして生命を宿す惑星を含む多様な宇宙に進化してきたのです。

 最初の星、最初の銀河がどのようなものだったのか、いつ生まれたのか、というは、天文学における最も根源的な問いですが、現代の天文学は、まさにその答えに手がとどきかけるところまで来ています。すばるを初めとする巨大望遠鏡や宇宙望遠鏡によって宇宙年齢10億年(赤方偏移7)ぐらいのところの銀河が見えてきました。

 そして、それらは現在の銀河とずいぶん異なったものであることも分ってきました。しかし、いままでのやり方は限界に来ています。この限界を乗り越え、最初の銀河、最初の星を、現在ある観測装置(数年後に出来る30メートル望遠鏡や次世代宇宙望遠鏡ではなく)観測できる可能性を提供するのがガンマ線バーストなのです。

 たった一個の星が爆発するだけで観測可能になるガンマ線バーストならば、数多くの星が集合する銀河が形成される前の、最初の星ぼしの時代を直接観測できるのです。


 太古の宇宙を読み解く
 ビッグバンで生じた熱い宇宙が次第に冷却し、ガスが集まって宇宙最初の星(初代星)が生まれた。この事件はビッグバンの2億年後から10億の間(この期間を本研究では太古の宇宙と呼ぶ)で起きたと思われるが、いつ、どのように起きたのかわかっていない。手がかりとなるのは、以下の三つの現象である。

 1.宇宙の再電離:ビッグバンの38万年後にいったん中性化した宇宙空間の水素ガスは、初代星の紫外線によって再電離された。すなわち、宇宙が再び電離した時期が初代の星の誕生を示す。

 2.星の死:大質量の恒星が燃え尽きて核融合反応が停止すると、核が中心に向かって崩れ落ち、ブラックホールを形成する。その過程で莫大なエネルギーが放出される。

 3.重元素汚染:ビッグバンでは水素とヘリウム、それに微量のリチウムしか作られない。炭素以降の重元素があれば、それ以前に恒星が生まれ、死んだことを示すことになる。


 ガンマ線バーストという手段
 この3つの手がかりを読み解く鍵を提供するのがガンマ線バースト(GRB)である。GRBは、大質量星が死ぬときに発生する数十秒間の強烈なγ線放射であり、数日間以上かかって減衰するX線や可視光の残光を伴う。

 GRBは極めて明るく、生まれて2億年の宇宙(すなわち135億光年の彼方)で発生したとしても、観測可能である。そして、太古の宇宙で発生するGRBの残光スペクトルには、その時代の水素の電離度や重元素の存在などの情報が刻みこまれているはずである。

 本領域は、それぞれ、衛星によるX線ガンマ線観測、地上からの可視赤外残光の観測、および理論研究の3つの計画研究からなる。

 計画研究Aについていえば、現在、Swift衛星が年間100個の割合でガンマ線バーストの位置を通報しており、今後4年間の稼動が期待される上、GLAST, MAXIなどGRB研究に役立つ新しいミッションがこの1,2年の間に打上げられるので、これらを用いた観測を行なう。

 可視光では国内の小望遠鏡による自動観測をすすめる。宇宙遠方の観測に必要な1メートル級赤外望遠鏡は世界的にまだ数が少ないので極めて重要である。こうして見つけた遠方と思われるバーストを、すばる望遠鏡で分光観測に結び付ける。

 理論研究では、X線ガンマ線観測に基づいたガンマ線バースト宇宙論、および最遠方バーストをつくる初代の星について研究する。(東京工業大学河合研究室:ガンマー線バーストで読み解く太古の宇宙


始まりの科学 宇宙、銀河、太陽系、種、生命、そして人類まで (サイエンス・アイ新書 36)
クリエーター情報なし
ソフトバンククリエイティブ
時空の起源に迫る宇宙論 (別冊日経サイエンス 149)
クリエーター情報なし
日経サイエンス

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please