山中伸弥氏「ヒト細胞の初期化」 
 12月10日、スウェーデンのストックホルムで、2013年のノーベル賞授賞式があり、質量の源となる素粒子「ヒッグス粒子」の存在を予想した英エディンバラ大名誉教授のピーター・ヒッグス博士(84)らがスウェーデン国王から物理学賞を授与された。

 昨年、2012年ノーベル医学・生理学賞で、京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授(50)が授与されたことが思い出される。

 山中教授は、皮膚細胞に4種類の遺伝子を入れることで、あらゆる組織や臓器に分化する能力と高い増殖能力を持つ「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を作り出した。拒絶反応のない再生医療や難病の仕組み解明、新薬の開発など、医療全般での応用が期待される。最初の成果が米科学誌に掲載されてから6年あまりという異例のスピード受賞だった。


 今回、そのiPS細胞を使って、京都大学iPS細胞研究所では、ヒトのES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、増殖の盛んな赤血球の基となる細胞(赤血球前駆細胞)を作る技術を開発したと発表した。安定的な赤血球の輸血供給システムの確立に役立つ可能性があるという。

 また、熊本大学は12月13日、マウスES細胞およびヒトiPS細胞から糸球体と尿細管を伴った3次元の腎臓組織を作成することに成功したと発表した。腎臓の再生医療研究や腎臓病の原因解明、新薬の開発などが進んでいくことが期待されるとコメントしている。(マイナビニュース 2013年12月13日)

 iPS細胞は、これまでに網膜、心臓、すい臓、軟骨の前駆細胞の作成が報告されており、臨床試験に向けて、さらに大人の細胞を同じような機能を有した細胞をどうやって成熟させていくか、という研究が進められている。


 iPS細胞で赤血球量産の技術開発
 京都大学iPS細胞研究所の江藤浩之教授や高山直也助教らの研究グループは、ヒトのES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)から、増殖の盛んな赤血球の基となる細胞(赤血球前駆細胞)を作る技術を開発したと発表した。安定的な赤血球の輸血供給システムの確立に役立つ可能性があるという。

 赤血球は、鉄分子を含むタンパク質(ヘモグロビン)によって体中に酸素を運ぶ働きをしているが、“核”をもたないため、自己増殖することができない。研究グループは、iPS細胞とES細胞それぞれに特定の2種類の遺伝子を入れることで、6カ月以上にわたって安定的に増殖し続ける赤血球の基となる細胞を作り、これを「不死化赤血球前駆細胞」と名付けた。

 不死化赤血球前駆細胞は未熟な「赤芽球」だが、2種類の遺伝子の働きを人為的に止めると7日後には、成熟した赤芽球に変化した。赤く色づいたことから、酸素運搬に重要な“ヘム合成”も起きていることが分かった。この状態の赤芽球を、放射線照射で貧血にしたマウスに注入したところ、数日後にマウスの血液中で循環している赤血球のほとんどが、核のない最終段階のヒトの赤血球となっていることが確認されたという。

 研究論文“Immortalization of Erythroblasts by c-MYC and BCL-XL Enables Large-Scale Erythrocyte Production from Human Pluripotent Stem Cells”は米科学誌『ステムセル・リポーツ』(オンライン版)に掲載された。


 ヒトiPS細胞から3次元腎臓組織を作成
 熊本大学は12月13日、マウスES細胞およびヒトiPS細胞から糸球体と尿細管を伴った3次元の腎臓組織を作成することに成功したと発表した。 同成果は、同大発生医学研究所 腎臓発生分野の太口敦博(医学教育部博士課程 大学院生)、同 西中村隆一 教授らによるもの。

 詳細は科学雑誌「Cell Stem Cell」オンライン版に掲載された。 腎不全による人工透析患者数は増加傾向にあり、医療費増大の一因となっている。しかし、腎移植の機会は限られていることもあり、再生医療による治療への期待が高まっている。

 ヒトの体内の臓器はそれぞれ複数の種類の細胞が集まってできているが、そのほとんどの細胞は胎児期に多能性を持つ「前駆細胞」が形成され、成長に伴う増殖、分化(成熟)を経て臓器を形成しており、臓器の再生を実現するためには、各臓器ごとの前駆細胞の作成が必要となる。

 これまでに網膜、心臓、すい臓、軟骨の前駆細胞の作成が報告されており、臨床試験に向けて、さらに大人の細胞を同じような機能を有した細胞をどうやって成熟させていくか、という研究が進められるようになっている。

 しかし、腎臓における当該する前駆細胞「腎臓前駆細胞」の作成においては、その発生過程そのものが未解明であったことから、その作成が難しかった。

 そこで今回、研究グループは、腎臓前駆細胞の発生過程の解析を実施した。具体的には、"どのような細胞"に、"どの成長因子"が働くことで目的の細胞(腎臓前駆細胞)に向かって分化(成熟)が起こるのか、ということを解明することを目指し、将来腎臓前駆細胞になる予定の細胞とされている「中間中胚葉」が緑に光る遺伝子改変マウス(Osr1-GFPノックインマウス)を作成し、中間中胚葉細胞にさまざまな成長因子を加えて腎臓前駆細胞の作成を試みた。

 しかし、いずれもうまくいかなかったが、その代わり、初期段階でOsr1を発現しない細胞群の中に腎臓前駆細胞の元になる細胞が存在している可能性が示めされた。

 これまで胎児はごく初期の段階で全身のおおよその形が形成され、それがそのまま大きく成長していくものと考えられてきた。


 下半身専用の「体軸幹細胞」
 しかし近年の研究では、胴体の下半身は頭部・胸部ができ上がった後に、下半身専用の細胞「体軸幹細胞」から作られるという説が提唱されるようになってきた。

 そこで、実際にこの体軸幹細胞を含む領域に発現する遺伝子改変マウス(T-GFPノックインマウス)を用いて解析した結果、腎臓前駆細胞は下半身専用の細胞、「体軸幹細胞」から発生することが判明したという。

 腎臓前駆細胞の元になる細胞の同定により、同細胞を実際にマウスの胎児から回収し、試験管内で「どのような成長因子」を加えれば腎臓前駆細胞になるかの検討を行った結果、3つのステップに分けて、計5種類の成長因子(アクチビン、Bmp、Wnt、レチノイン酸、Fgf)をそれぞれ組み合わせと濃度を適正化して加えると効率的に腎臓前駆細胞を試験管内で作成できることが判明したという。

 この結果を受けて、さらにマウスES細胞を用いて、どのような成長因子を加えれば腎臓前駆細胞の元となる体軸幹細胞が作成できるかを検討したところ、2つのステップで誘導できることを確認。

 実際に同細胞に、上述のの成長因子を加えたところ、計5ステップを経て腎臓前駆細胞ができることが確認されたとする。 さらに研究グループではES細胞から前駆細胞ができたことを受け、腎臓が機能するために必要な糸球体と尿細管という3次元構造の再構築を挑戦。

 その結果、これまでにマウス胎児の腎臓前駆細胞から3次元構造を作成する際に用いられていた方法(Wntを分泌する細胞、もしくは胎児の脊髄と一緒に培養する)で糸球体と尿細管の両方が形成されることを確認。

 これにより、マウス胎児に存在する腎臓前駆細胞と同等の能力を持つ細胞がマウスES細胞から作成できたことが確認された。加えて、ヒトiPS細胞でも同様の方法で、腎臓前駆細胞ならびに3次元の腎臓組織の作成にも挑戦した結果、見事に作成に成功したという。

 なお、研究グループでは、今回の成果は再生組織を移植することで血管を含む3次元構造までを形成することに成功したものだが、実際にそこから尿を産生する程度に機能的に成熟させるには至っていないとしており、今後はこの成熟化をいかにして試験管内もしくは移植組織で実現するか、また尿が産生されたとしてその尿を排出するための組織(尿管芽)をどのようにして作成するかといった課題の解決を目指したいとしている。

 また、それらが実現できたとしても、そこから大人の体を維持するのに必要な大きさの腎臓にまでどのように大きく成長させるのかを含めて相応の時間が必要になってくることが考えられるとはしながらも、今回の知見を活用していくことで、腎臓の再生医療研究や腎臓病の原因解明、新薬の開発などが進んでいくことが期待されるとコメントしている。(マイナビニュース 2013年12月13日)


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