有毒な一酸化炭素を取り除くには?
 一酸化炭素には、酸素の約250倍も血液中のヘモグロビンと結びつきやすい性質がある、有毒な気体だ。

 ヘモグロビンは、全身の細胞や組織に酸素を送り届ける役目をしているから、一酸化炭素を吸い込むと、酸素より先にどんどんヘモグロビンと結びついてしまい、ヘモグロビンが運ぶ酸素の量が減り、全身の細胞や組織が酸素不足におちいり、ついには窒息死する。

 一酸化炭素は、タバコの煙や自動車の排気中にも含まれている。また、いろいろなものが不完全燃焼をおこした際にも発生する。家庭では、これらの一酸化炭素を吸い込む中毒事故に注意が必要だ。

 これまで環境に存在する一酸化炭素は、白金触媒により空気中の酸素と化合させて二酸化炭素にするか、ゼオライトや活性炭など「多孔性物質」に吸着させる方法が用いられてきた。だが、これらの古くから用いられてきた材料は構造が単純なため、一酸化炭素だけ選択的に取り除くことはできない。


 排ガスから一酸化炭素を高選択的に分離・回収できる多孔性材料を開発
 京都大学(京大)は12月13日、混合ガスの中から一酸化炭素(CO)を高選択的に分離・回収できる多孔性材料の開発に成功したことを発表した。

 同成果は、同大 京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)拠点長の北川進 教授、同 松田亮太郎 特定准教授、同 佐藤弘志 助教らによるもの。詳細は米国科学誌「Science」のオンライン速報版(Science Express)に掲載された。

 環境負荷の低減技術として、酸素や一酸化炭素、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などのガス分子を効率よく分離・除去する技術が求められている。

 中でもCOは、炭素を含む物質が不完全燃焼する際に生じ、一酸化炭素中毒を引き起こすことで知られている。また自動車などの乗り物から出る排ガス中にも含まれているが、そのほとんどは白金などをベースとした触媒を用いて二酸化炭素(CO2)へと変換され、大気中に放出されているほか、鉄鋼業の製鉄プロセスにおいてもCOが副生ガスとして発生しており、こうした排ガスに含まれるCOの化成品材料への転用により、COおよびCO2排出問題の解決などにつなげようという取り組みが各所で進められてきた。

 従来、ガス分子などを効率よく分離するためには、ナノオーダーの細孔(ナノ細孔)を有する「多孔性物質」が用いられてきた。ゼオライトや活性炭などはその典型例だが、そうした古くから用いられてきた材料は構造が単純なため、分子レベルでの高機能化が困難という課題があった。

 こうした課題の解決に向け近年、金属イオンと有機配位子との複合化によって作られる「多孔性金属錯体(PCP/MOF)」と呼ばれる新しい物質が開発された。この物質は、分子レベルで細孔の大きさや形状、化学的性質を精密に設計することができるという特徴がある。

 しかし、COを混合ガスから分離する場合、空気や排ガスに大量に含まれる窒素(N2)とCOが、似たような性質を有しているため、一般的な材料では区別することが難しく、新たなメカニズムに基づく分離材料の開発が求められていた。


 銅イオンを配位した多孔性材料(PCP) 
 今回の研究では、生体内のヘモグロビンが持つ効率よく酸素を取り込んだり放出したりする仕組みを模倣することで、これまでになかった多孔性材料が開発できるのではないかと考え、新たな物質の開発に挑んだ。

 具体的には、COと弱く相互作用する銅イオン(Cu2+)と、有機配位子である5-アジドイソフタル酸(aip)とを反応させ、目的のPCPを合成した。 

 合成の結果、同PCP内部には、1次元のトンネルのような形状をした直径0.9nmのナノ細孔(L)と0.4nmのナノ細孔(S)があり、ナノ細孔(S)の表面には銅イオンが規則正しく配列されていることを確認。COの取り込みに対して効果的に働く可能性があることが示されたほか、特定種類の分子の出し入れが起こるとナノ細孔のサイズ・形状が変化することが確認されたという。

 また、ナノ細孔へのガス分子の取り込まれやすさを調べる目的で、一般的に区別することが難しいCOとN2の吸着等温線測定を行ったところ、過去に報告された物質には見られなかった非常にCOを取り込みやすいという現象が確認されたという。

 そこで研究グループでは、この仕組みの原理の解明に向け、COを取り込む前後のPCPの構造決定に向け、理化学研究所放射光科学総合研究センター量子秩序研究グループの高田昌樹グループディレクターと協力し、大型放射光施設SPring-8の放射光X線(粉末回折ビームラインBL44B2)を用いて粉末X線回折測定を行ったところ、COを取り込む前の銅イオンが整列したナノ細孔(S)は、実は銅イオンと有機配位子に含まれる酸素原子が結合することで細孔サイズが小さくなった閉じた構造をとっていることを確認したほか、COを取り込んだ後はこの結合が切断され、代わりにCOが銅イオンと結合していることが判明した。


 効率よくCOだけ回収、資源化へ
 これにより孔の大きさが少し大きくなり、銅イオンの上に取り込まれたCOに加えて、ナノ細孔の中央部分にさらにCOが取り込まれていることが示された一方、N2分子は銅イオンとほとんど相互作用しないため、構造変化を引き起こすことがなく、ナノ細孔に取り込まれないという仕組みが示された。

 さらに研究では、同PCPが効率的にCOを分離・回収できるかの調査として、さまざまな比率で混ざり合ったN2とCOの混合ガス(COの比率:10~80%)をPCPによって吸着(捕捉)させ、回収したガスの中にどのくらいCOが含まれるかの確認を行った。その結果、どのような比率の混合ガスであっても、非常に高い効率でCOを回収できることが判明したという。

 なお、このCOが取り込まれることによって、さらに多くのCOを次々に細孔内部へ呼び込むといった仕組みは、既存の銅イオンを含むPCPでも生じないものであったことから、研究グループではこのような現象について「Self-accelerating sorption process(自己加速的な吸着プロセス)」と命名したとするほか、この材料を実用化することで排ガスからのCOの効率的分離による資源化や、シェールガスなどから水蒸気改質プロセスで発生させたCOガスの精製などを通じて社会に大きなインパクトを与えることが期待できるようになるとコメントしている。 

科学技術振興機構:一酸化炭素を高効率に分離回収する新素材開発


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