ナノバクテリアの正体
 ナノバクテリアは、アパタイトの殻を形成しながら増殖する新規の極小細菌(通常細菌の100分の1の大きさ)として、1977年にフィンランドの研究グループが初めて報告したもの。ナノバクテリアと呼ばれるが、その正体はバクテリアなのか、生物状の結晶なのかはわかっていない。

 その後、さまざまな研究によって細菌である可能性はほぼ否定されたが、「ナノバクテリアは石灰化を伴う種々の生活習慣病の悪性腫瘍の原因微生物」であるとする論文が発表されるなど、今でも存在に対しての論争が続いているという。

 岡山大学(岡大)は、石灰化しつつ自己増殖する新種の生命体として長く論争が続いている「ナノバクテリア(NB)」の正体を突き止めたと発表した。成果は同大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器病態学分野の公文裕巳教授らの研究グループによるもので、2013年9月9日に国際医学系雑誌「Nanomedicine」の電子版に掲載された。


 同大学の研究では2004年、ナノバクテリア様粒子(NLP)10株を利用したところ、浮遊系と付着系での2相性の増殖様式を示すところまでは成功したが、自己増殖のメカニズムはわからなかったという。

 今回の研究では、NLPに対するモノクローナル抗体群の中で、特定の酸化脂質を認識するIgM抗体を用い、免疫電顕、分析電顕等を駆使してナノバクテリアを解析。その結果、培養系での自己増殖メカニズムおよび動脈硬化モデルマウスの石灰化病変に同酸化脂質が局在することを解明。ナノバクテリアは極小細菌などの生物ではなく、酸化脂質が関与する炭酸アパタイトの結晶であることが明らかとなったという。


 岡大、謎の微生物「ナノバクテリア」の正体を解明 - 長年の論争に終止符
 今回、NLPに対するモノクローナル抗体群の中で、特定の酸化脂質を認識するIgM抗体を用い、免疫電顕、分析電顕等を駆使してナノバクテリアを解析。

 その結果、ナノバクテリアは極小細菌などの生物ではなく、酸化脂質が関与する炭酸アパタイトの結晶であることが明らかとなったという。有機物の関与する炭酸アパタイトの結晶(バイオミネラリゼーション)として、あたかも生物のように自己増殖する仕組みを解明したという。

 また、培養系におけるNLPの自己増殖は、酸化脂質とカルシウムで形成されるラメラ構造(液晶構造)を足場にアパタイトの結晶化が連続的に進展する現象であることが判明。

 その酸化脂質の由来は、フィンランドの研究グループがほかの微生物の混入による実験室内汚染を避けるために推奨した、培養液に添加するウシ胎児血清へのγ線照射(照射による脂質過酸化)が主たる要因となっていたという。桿状の基本正体も球形成熟粒子の同一の結晶であることとラメラ構造が明瞭に捉えられている。

 さらに、感染性で細胞毒性を示すNBが石灰化を伴う生活習慣病の局所病変を惹起するのではなく、炎症性局所病変での酸化ストレスによりNLP形成の足場となる酸化脂質が産生されるものだと考えられるという。研究チームは、NLPが病気の原因ではなく病気の副産物で生じるものだとしている。

 石灰化に関与する酸化脂質に対する抗体は、尿路結石や動脈硬化をはじめとする生活習慣病の病態解析、ならびに診断と治療法への応用を期待できるという。研究チームは今後、診断と治療を同時に実現する新規の標的医療の創出を目指すとしている。(岡山大)


 ナノバクテリアとは何か?
 ナノバクテリア(nanobacteria)は、生物の一種として提唱されている分類名である。具体的には、一般に生命の下限とされる大きさ(細菌の約200ナノメートル)よりもかなり小さな細胞壁を持つ、微生物の単位あるいは種類の名称である。ただし現在では、その正体は非生物の結晶であるとの見方が強い。

 元々は地層(と一つの隕石)において観察されたナノスケール構造に基いており、ナノバクテリアの扱いについては論争の的になっている。一部の研究者らはそれらが放射性標識したウリジンを取り込むことができ、生物の新たな種類であると提案しており、その他の研究者らはそれらをより単純な非生物的性質によるものであるとしている。ある懐疑論者はナノバクテリアを「微生物学の常温核融合」と呼んだ。「石灰化ナノ粒子」(calcifying nanoparticles、略称: CNPs)という用語も、生命体である可能性が低い意味合いで使用されている。

 これまでの研究では、これらの構造が存在し、何らかの方法で複製しているように見えるということが合意されつつある。しかしながら現在、それらが生命であるという考えはほぼ放棄されており、代わりにそれらの粒子は無機物あるいは有機分子の非生物的結晶化であると考えられている。医学分野では、腎臓結石や動脈プラークの形成と関連付けられている。


 1981年~2000年
 1981年、TorellaおよびMoritaは超微小細菌(ultramicrobacteria)と呼ばれる非常に小さな細胞について報告した。1982年にMacDonellとHoodによって300 nmより小さいと特定され、一部は200 nm膜を通過できることが明らかにされた。1989年初頭、地質学者のRobert L. Folkは、後に彼が「ナノバクテリア」(nannobacteria、nの綴りが重なる)と識別したもの、すなわちイタリア、ヴィテルボの温泉のトラバーチン中の地質学的標本から単離されたナノ粒子を発見した。

 当初はトラバーチンの沈殿の原因となる微生物を探索していたが、微生物が検出されない鉱物を走査型電子顕微鏡で調べたところ生物的に見える極めて小さな物体があることが明らかにされた。1992年のアメリカ地質学会年会における発表で、Folkの口から「ほとんど石のような静けさ」と彼が呼んだものが示された。Folkは、ナノバクテリアが、水中で形成される地球上全ての鉱物および結晶の沈殿の主な作用因子であり、鉱物の全ての酸化の原因でもあり、多くの生物学的標本中に豊富に存在する、と提唱した。

 1996年、NASAの科学者David McKayは、南極大陸で発見された火星起源の隕石ALH84001において、ナノ化石(火星のナノバクテリアの化石)の存在を示唆する研究を発表した。

 1998年、ある種の病理学的石灰化(腎臓結石におけるアパタイト)の説明として、フィンランドのクオピオ大学のフィンランド人研究者Olavi Kajanderとトルコ人研究者Neva Ciftciogluは、Nanobacterium sanguineumという学名を提唱した。この研究者らによれば、粒子は微生物培地中で自己複製し、さらに研究者らは染色によってこれらの構造中にDNAを同定したと報告した。

 NIHの科学者John Cisarによって率いられた研究チームによって2000年に発表された論文では、これらの着想がさらに検証された。この論文では、以前に「自己増殖」と表現されていたものは結晶成長の一形態であることが述べられている。Cisarらが用いた標本中で検出された唯一のDNAは、PCR反応における一般的な汚染物質である細菌Phyllobacterium mysinacearum由来であることが明らかにされた。


 2001年~現在
 2004年、Franklin Cockerill、John Lieske、Virginia M. Millerによって率いられたメイヨー・クリニックのチームは、病的ヒト動脈ならびに腎臓結石からナノバクテリアを単離したと報告した。彼らの結果は2004年および2006年にそれぞれ発表された。

 同様の発見は2005年にハンガリー、セゲド大学のDNA研究室László Puskásによって得られた。Puskásは、ヒトアテローム性動脈硬化大動脈壁およびアテローム性動脈硬化患者の血液サンプルから得られた培養物中にこれらの粒子を同定したが、これらの標本中にDNAを検出することはできなかった。

 2005年、NASAのCiftciogluらの研究チームは、宇宙飛行士において腎臓結石が急速に形成される原因と疑われるナノバクテリアを培養するため、低重力状態のある側面を模倣する回転細胞培養フラスコを用いて実験を行った。この環境では、通常の地球重力よりも5倍速く増殖することが明らかとなった。研究では、ナノバクテリアは腎臓結石の形成において潜在的な役割を持っているかもしれず、フライト前の乗組員に対する検査が必要かもしれない、と結論付けられている。

 2008年2月のPLoS Pathogens誌の論文は、ナノバクテリアの包括的な特性解析に重点的に取り組んだ。著者らは、彼らの結果は、生命体としてのナノバクテリアの存在を除外し、その代わりにそれらはユニークな自己増殖体、すなわち自己増殖無機物-フェチュイン複合体である、と述べた。

 2008年4月のPNAS誌の論文でも、血液ナノバクテリアは生物ではなく、「in vitroで調製されたCaCO3沈殿は、均一な大きさ、膜で表現される小胞状の形状、細胞分裂様の形成とコロニーの形での凝集といった点において、うわさされているナノバクテリアと極めて似ている」と報告された。

 こういった「生物の形態に似た」無機沈殿の成長は、2009年のScience誌の論文で詳細に研究され、独特な結晶成長機構によって塩化バリウムとシリカの溶液から原始的な生物に非常によく似た毒重石が産み出されることが示された。著者らは、これらの結晶と推定上のナノバクテリアが酷似していることについて解説し、彼らの結果は生命の証拠は形態学のみに基づくことはできないことを示している、と述べた。

 2013年9月、岡山大学の研究グループはNanomedicine誌・電子版の論文で、ナノバクテリアは生物ではなく、カルシウムを特異的に結合する酸化脂質を足場として成長する炭酸アパタイトの結晶そのものであることを解明した、と発表した。

 自己増殖は、酸化脂質とカルシウムで形成されるラメラ構造(液晶構造)を足場に、アパタイトの結晶化が連続的に進展する現象であるとした。その酸化脂質の由来は、フィンランドの研究グループが他の微生物の混入による実験室内汚染を避けるために推奨した、培養液に添加するウシ胎児血清へのγ線照射(照射による脂質過酸化)が主たる要因となっていた。

 生活習慣病については、感染性で細胞毒性を示すナノバクテリアが石灰化を伴う局所病変を惹起するのではなく、炎症性局所病変での酸化ストレスにより粒子形成の足場となる酸化脂質が産生されるものだと考えられる。すなわち、ナノバクテリアが病気の原因なのではなく、病気の副産物で生じるものだとした。(Wikipedia)


参考: ナノバクテリア マイナビニュース: 岡山大学、謎の微生物「ナノバクテリア」の正体を解明


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