極限環境微生物
 極限環境生物とは、極限環境条件で生きる生物のこと。こんな環境で生物は住めないだろうという場所でも、生育できる生物がいる。 例えば、高温(122℃)、高pH(pH12.5)、低pH(pH-0.06)、高NaCl濃度、有機溶媒、高圧力(1100気圧)、高放射線(16000Gyのガンマ線照射)などの条件で生きる微生物が発見されている。

 例えば体長1mm未満の微小な動物である「クマムシ類」は、私たちのまわりや、深海、高山、極地まで幅広く生息している「緩歩動物」である。このクマムシ、150℃という高温や、‐200℃という低温につけられても、ヒトの致死量の1000倍以上のX線を照射されても、6000気圧もの高圧をかけられても生き延びることができる。

 今回、日本に生息するヒルの一種が零下196度の超低温でも死なないことを、東京海洋大と農業生物資源研究所のチームが突き止めた。凍死を防ぐ未知のメカニズムがあるとみられ、将来、細胞や臓器の冷凍保存など医療技術への応用が期待できるという。米オンライン科学誌プロスワンに論文が掲載された。


 このヒルは淡水にすみ、全長1センチ前後の「ヌマエラビル」。ニホンイシガメやクサガメに寄生している。ヌマエラビルの特殊な能力は、カメを研究する過程で偶然見つかった。研究チームの一人が、零下80度で半年ほど冷凍していたクサガメの標本を解凍したところ、付着していたヌマエラビルが「復活」し、体を動かすのを見つけた。

 どのくらい厳しい寒さに耐えられるか実験したところ、液体窒素で零下196度に冷やした状態で、24時間経過しても死なないことが判明。零下90度では最長で2年半余り生き続けた。

 極めて低い温度に耐える生物としては、クマムシやネムリユスリカなどの例が知られている。いずれも自身の水分をほとんどない乾眠状態に変えることで、体内に氷ができて細胞が壊れるのを防いでいる。一方、ヌマエラビルは、超低温でも体内に水分が残ったまま生き続けた。

 農業生物資源研究所の黄川田隆洋主任研究員は「ヌマエラビルは凍死を防ぐ不思議なメカニズムを持っている。分子レベルで何が起きているのか、なぞに迫りたい」と話す。(asahi.com 2014年1月24日)


 -196℃で24時間凍結しても死なないヒルを発見
 東京海洋大学と農業生物資源研究所は1月23日、正常の生理状態で、液体窒素下(-196℃)で24時間凍結しても、32カ月の間-90℃で冷凍保存しても生存でき、-100℃の凍結と解凍の反復に10回以上耐えることが出来るヒルが地球上に存在していることを確認したと発表した。

 同成果は同大(ならびに京都大学)の鈴木大氏(現在は九州大学 学術研究院)、宮本智子氏、渡邊学 准教授、鈴木徹 教授と農業生物資源研究所の黄川田隆洋氏らによるもの。詳細は米国オンライン科学誌「PLOS ONE」電子版に掲載された。

 地球上の生物はそれぞれに適した温度帯で生息するため、その条件下から外れると正常な生命活動を行えなくなり、最終的には死に至る。一般的な生物では、0℃以下の低温になると生命活動の維持が難しくなり、かつ細胞内外の水分凍結という液相から固相への物理的状態変化および溶質の濃縮といった化学的状態変化が生じるため、細胞や生物自身が凍結障害の影響を受けることとなる。

 今回、研究グループは、研究目的で半年間-80℃の環境で冷凍保管していた爬虫類のカメの1種である「クサガメ」を解凍したところ、カメの生前時より寄生していたと思われる淡水性で、爬虫類のカメ類に特異的に寄生する「ヌマエラビル」が能動的に体を動かすことを確認。改めてヒルのみを凍結および解凍したところ、同様に生存が確認されたことから、詳細な調査を行ったという。

 具体的には、ヌマエラビルと他の5種類のヒル類(ヌマエラビルと同属近縁種でウミガメに寄生するマルゴエラビルやカメ類には寄生しない淡水性ヒル類)を用いて、それらを-90℃のディープフリーザーに保存し、24時間後に解凍して生存率を調べたという。その結果、ヌマエラビルのみが生存し、他種はすべて死亡が確認された。さらに、ヌマエラビルの孵化直後の個体ならびに卵にも同様の実験を行った結果、孵化幼体も生存し、解凍した卵からも孵化が確認されたという。

 また、ヌマエラビルの成体を液体窒素(-196℃)に24間浸漬しても、すべての個体が生きていることが確認され、その結果、実験に用いたヒル類の中ではヌマエラビルのみが耐凍性を持つことが判明したという。

 加えて、孵化直後の何も食べていない幼体についても生存が確認されたことから、ヌマエラビルの耐凍性は生まれつき備わった能力であることが推測されたとする。


 クマムシとは違うシステム
 これらの結果を受けて、さらに-90℃温度条件下における長期保存に対する耐性を調べた所、9カ月までは100% の生存が確認され、その後さらに保存期間が伸びるにつれて徐々に生存率の低下が見られたものの、最大で32カ月の保存に耐えることが観察されたという。

 このほか、凍結と解凍の反復に対する耐性調査では、-100℃の凍結との反復を最大12回まで耐えることができることも確認されたという。

 ちなみに、長期の低温保管に耐えることや、低温下におけるガラス化や凍結保護物質(トレハロースなどの糖類)の蓄積が確認されなかったとのことで、今回の試験で用いられたヌマエラビルの水分は完全に凍結したと考えられるという。

 クマムシやネムリユスリカなどの極低温条件に対して無代謝状態「クリプトビオシス」となる生物が存在するが、同状態になるためには乾燥や凍結保護物質の蓄積が必要で、相応の時間がかかり、かつ生命活動を行う通常の生理状態での低温耐性はクリプトビオシス状態に比べ極端に低下することが知られている。

 しかし、今回のヌマエラビルの高い耐凍性は、通常の生理状態で発揮されているものであることから、研究グループでは、今後、ヌマエラビルを含めた多種多様な生物種における耐凍性メカニズムの機構解明に向けた研究が進むことで、生物学や医学への応用が期待できるとしており、この高い耐凍性が何に由来しているのかを明らかにすることを目指した遺伝子レベルでの研究を進めていく方針としている。(マイナビニュース:2014/01/23)


 くまむしってどんな動物?
 クマムシ類は体長がおおむね1mm未満の微小な動物で、4対の脚を持ちます。通常の市街地のほか、深海、高山、極地まで幅広く生息しています。ゆっくり歩くことから緩歩動物と呼ばれ、分類上独自のグループを形成しています。近縁な動物群としては、節足動物(昆虫やエビ・カニなど)や有爪動物(カギムシ)があげられます。

 陸生クマムシの多くは乾燥耐性を持ち、周囲が乾燥すると脱水して縮まり乾眠と言われる状態になります。この状態では水含量は数%にまで低下しており、生命活動は見られません。驚いたことに死んだわけではなく、水を与えると速やかに活動状態に復帰します。

 乾眠状態のクマムシは様々な極限的な環境に曝露した後も、給水により生命活動を再開することから、マスメディア等では最強動物などと言われることもあります。これは、他の動物が耐えられないような厳しい環境でも生き残る事ができるという意味で最強の部類に入るということで、他の動物と戦って勝てるということではありません。また、こうした耐性はすべてのクマムシが持つわけではありません。

 クマムシの示す耐性能力は、生息環境から考えると明らかに過剰であり、生き残るために必要だったとは考えられません。こうした過剰な耐性能力は、頻繁に乾燥する環境に住み、乾燥耐性を持つクマムシで観察されます。乾燥に耐えるために獲得した様々な保護や修復のしくみが、副産物として過剰な耐性能力を生んだのかもしれません。

 乾燥耐性の仕組みとしては、昔からトレハロースという糖がたくさん蓄積して乾燥から保護しているのだと考えられてきました。しかしながら、クマムシではトレハロースを顕著に蓄積しない種が多く、このような耐性を示すメカニズムについては良く分かっていないというのが現状です。(クマムシ以外では乾燥時にトレハロースを大量に蓄積する生物種も知られています。)

 超低温・超真空・放射線に耐性を持つことから、乾眠状態のクマムシなら宇宙空間に曝露しても耐えられるのではないかと指摘されてきました。この仮説を検証するため2007年秋にクマムシの宇宙曝露実験が行われました。

 穴の空いた箱にクマムシを入れて宇宙空間(高度258 – 281 km)に10日間曝露しましたが、生存率や寿命、繁殖率について特に影響はありませんでした。宇宙空間に曝されて生存した初めての動物になります。一方、紫外線も照射される条件で曝露した場合には生存率は大幅に低下しました。岩石などにくっついて影に隠れるようにすれば宇宙旅行も可能かもしれませんね。(クマムシ研究グループ: クマムシってどんな動物


参考 マイナビニュース:東京海洋大、-196℃で24時間凍結しても死なないヒルを発見


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