光合成を支える明反応、暗反応
 光合成といえば、植物など光合成色素をもつ生物が行う、光エネルギーを化学エネルギーに変換する生化学反応のことである。光合成生物は光エネルギーを使って、水と空気中の二酸化炭素から炭水化物を合成している。また、光合成は水を分解する過程で生じた酸素を大気中に供給している。

 光合成には、光が直接関与する明反応と光が直接関与しない暗反応がある。明反応では、光エネルギーを使って、H2Oから電子を引き抜いてH+を生じ、化学エネルギー分子NADPHとATPを生産する。暗反応では、明反応でできたNADPHとATPを用いてCO2からブドウ糖糖C6H12O6 を合成する。これをカルビン回路ともいう。

 明反応ではどうやって、光エネルギーを化学エネルギーに変換するのだろう?


 明反応は、葉緑体のチラコイド膜上で行われる。このチラコイド膜上には、光化学系(Photosystem: PS、IとIIがある)、シトクロム b6/f 複合体、およびATPシンターゼ というタンパク質複合体が構成されている。光化学反応は、これらのうち光化学系I、IIで行われ、その間の電子移動がシトクロムb6/f 複合体を介して行われている。植物の光合成には、いずれも多数のタンパク質で構成される、「アンテナ装置」と「光化学系」が必要。

 今回、東京大学などの研究チームが、光合成を行う藍藻類(シアノバクテリア)で、これらの光化学系Ⅰとアンテナ装置の超複合体の単離に初めて成功し、超複合体の形成に必要なタンパク質を発見した。 今回発見した超複合体を応用することで、光合成反応を促進する新しい光合成生物や光合成生産システムが創出できる可能性や水素生産への利用などが期待できる。


 光化学系にあるアンテナ装置「フィコビリンソーム複合体」
 光合成は、藻類や植物が太陽からの光エネルギーを使って、空気中のCO2と水からエネルギーの元となる炭水化物を作る反応だ。この自然界で用いられているエネルギー変換の仕組みはクリーンで持続可能なエネルギーを生産できる技術であるため、その仕組みを明らかにすることが重要視されており、光合成の仕組みの解明や、人工光合成の研究が近年盛んだ。

 この光合成は、光を必要とする明反応と必要としない「暗反応」からなり、さらに明反応は「光化学系I」と「光化学系II」の反応の組み合わせで進行する。光化学系Iはその強力な還元力でCO2を還元する電子やATP生産に働き、光化学系IIはその強力な酸化力で水を酸化して電子を取り出す仕組みだ。

 また、光を集めるアンテナ装置がこれら2種類の光化学系に結合して、吸収した光エネルギーを効率的に2つの光化学系に伝える。光合成は外からくる光エネルギーによって駆動されるので、複雑な光合成システムの反応を効率よく進めるには、システムを駆動するエンジンに相当するアンテナ装置や光化学系の設計が重要になるというわけだ。


 窒素固定型藍藻「ネンジュモ」
 微細藻類や植物の光合成による物質生産は、クリーンで持続可能な生産技術として非常に注目されているが、今回の研究は微細藻類と植物に共通的な光合成強化の基盤として、重要な技術開発のポイントになる可能性を秘めているという。

 今回の研究では、窒素固定型藍藻「ネンジュモ」の1種アナベナの細胞から、光エネルギーを集めるアンテナ装置の役割を果たすフィコビリソーム複合体(「フィコビリン色素」を結合したタンパク質複合体)と、集めた光エネルギーを化学エネルギーに変える光化学系I複合体から構成される超複合体の単離に成功し、この超複合体を用いてフィコビリソームから光化学系Iへのエネルギーの効率的な移動を示し、電子顕微鏡によってこの超複合体の詳細な構造が明らかにされた。

 また、超複合体を構成するタンパク質の組成分析から超複合体形成に関わるタンパク質性因子「CpcL」が同定されたのである。超複合体の単離と解析は主に東大が担当し、超複合体の構造解析はフローニンゲン大が担当した。

 これまで、藍藻や紅藻などの光合成生物は、クロロフィル(葉緑素)とカロテノイドと並ぶ重要な光合成色素のフィコビリンを用いて太陽光を吸収し、そのエネルギーを主に光化学系IIに伝える。これまでその仕組みはよく研究されてきたが、光化学系Iがフィコビリンから光エネルギーを受けとるエネルギー伝達の仕組みについてはよくわかっていなかった。


 「光化学系I」にアンテナ装置の証明
 研究チームは、非常に穏和な条件で光合成膜を分画することで、これまで知られていなかったフィコビリソーム複合体と光化学系I複合体の超複合体を取り出すことに初めて成功し、光化学系Iに特化して光エネルギーを伝達するアンテナ装置の存在を実験的に証明することに成功した。

 今回の研究によって、光化学系Iと光化学系IIの2つを持つ光合成生物では、光化学系 I と光化学系IIのそれぞれに光エネルギーを伝えるアンテナ装置が存在し、そのバランスを調整する仕組みは普遍的であり、これによって効率的な光合成を実現していることが示された形である。

 なお、アナベナは光合成によってCO2の固定と共に窒素固定も行う重要な環境生物で、窒素固定のために特殊な細胞「ヘテロシスト」を分化する。このヘテロシスト細胞では光化学系Iだけが働いて、窒素固定反応に必要な大量の「ATP(アデノシン三リン酸)」を供給している。ATPは高エネルギー物質で、ヒトを含めた地球の全生物の働きに必要なエネルギーを供給する、「エネルギーの通貨」などといわれる物質だ。

 また今回の実験では、硝酸を与えないで、アナベナが窒素固定をする条件では超複合体の量とサイズが増加することも見出された。アナベナの窒素固定反応だけを利用して窒素化合物を作らせたり、本来の反応の代わりに水素を発生させたりする研究も盛んに行われているという。

 今回の成果は、これらの研究開発に直接応用できる可能性があるとする。また、光化学系Iによって供給されるATPエネルギーを必要とするさまざまな生物機能の強化に応用できる可能性もあるとした。


 「光合成系IとII」のバランス調整
 ちなみに先行研究では、光合成の光エネルギーを光化学系Iと光化学系IIの間で短時間で再配分する仕組みも知られている。これは、自然環境での刻々と変動する太陽光の変化に応じて光合成を素早く調節する仕組みであり、光合成の明反応のバランスがくずれたときに生じる「光ストレス」の回避に重要だ。

 一方、今回発見されたタンパク質性因子のCpcLによる超複合体の量の調節はゆっくりとしたもので、先行研究で明らかにされた仕組みよりも長い時間スケールで光合成のバランスを調節する仕組みだという。

 この超複合体の量はCpcLタンパク質の量だけで決まっている可能性が高く、CpcLタンパク質の発現量を人為的に操作することによって、光合成の明反応のバランスを改変して、特定の光合成反応を強化した光合成生物を創り出し、光合成を利用した物質生産の強化が可能になると期待されるとしている。


参考 Wikipedia: 光合成 マイナビニュース: 東大など、光合成に関わるこれまで知られていなかったメカニズム発見 


光合成の科学
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