絶滅の危機にあるユキヒョウ
 ユキヒョウ(Uncia uncia)は、哺乳綱ネコ目(食肉目)ネコ科ユキヒョウ属(ヒョウ属に含める説もあり)に分類される食肉類。中央アジア、アフガニスタン東部、インド北部、ウズベキスタン東部、ヒマラヤ山脈などに生息する。

 パキスタン北部の山中に、カメラトラップ(自動撮影装置)を設置したところ、ユキヒョウをとらえることができた。設置したのは、ノルウェー生命科学大学で、生態調査のため、ノー・レパード・ファンデーション・パキスタン(Snow Leopard Foundation Pakistan)の協力を得て行われている。

 中国西部からアフガニスタン、ロシア南部などにおよそ4000〜6500頭が生息し、国際自然保護団体(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されている。人間の前にはめったに姿を見せないという。研究チームはカメラトラップのほか、糞を採取してDNA分析を行うなど、非侵襲的な調査方法で研究を続けている。


 カシミア人気でユキヒョウが危機に?
 カシミアの世界的な需要拡大が、思いもよらない“ファッションの犠牲者”を生んでいる。おしゃれなブティックが流行のセーターを売って稼ぐ一方、地球の反対側ではユキヒョウがその影響をこうむっているのだ。

 野生生物保護協会(WCS)とスノー・レパード・トラストが行った最新研究によると、カシミアの取引量拡大を受けて、中央アジアの牧畜業者はもっと利益を得ようとヤギの飼育数を増やす傾向にあるという。

 カシミア人気は望ましい経済成長を生む一方で、ユキヒョウやフタコブラクダ、チルー(チベットカモシカ)などの希少種や絶滅危惧種がその犠牲になっている。野生動物は急激に数を減らし、人間や家畜との対立を深めつつある。

 世界のカシミアの90%は、中国とモンゴルで放牧されているヤギから取れるものだ。そして今、ヤギの飼育数は需要拡大に応じて増えている。今回の研究によると、こうしたヤギの数は、モンゴルだけで1990年の500万頭から2010年には1400万頭近くにまで急増しているという。

 「牧畜業者はよい暮らしをしたいだけだ。われわれと同じようにお金を儲けたいだけだ」と、研究共著者でWCSおよびモンタナ大学のジョエル・バーガー(Joel Berger)氏は述べる。「彼らと同じ立場だったら、誰もが同じように考えるだろう。だから、牧畜業者やファッション業界の人々と一緒にこの問題を考え、よりよい方策を見出さなければならない」。


 エサの奪い合い、家畜を襲うユキヒョウ
 家畜のヤギが土地の植物を食べつくしてしまうと、在来の草食動物の多くは食べるものがなくなると、研究共著者であるスノー・レパード・トラストのチャルダット・ミシュラ(Charudutt Mishra)氏は述べる。「野生の有蹄類(ゆうているい)の数が減少するのに伴い、その土地でエサを確保できるユキヒョウの数も減少する。(そこで)ユキヒョウは家畜を襲ってエサにすることが増え、家畜を襲われた土地の人々はユキヒョウを殺す」。

  このまま放牧家畜の数が増え続ければ、放牧地の質は低下し、カシミアが取れるヤギ自体も、その土地で生息可能な数が減ってしまう可能性があるとミシュラ氏は述べる。

  現時点で影響をこうむっている動物の一部は、その地域を象徴する存在でありながら絶滅の危機に瀕している。野生のユキヒョウはわずか6000頭ほどだ。野生状態で現存する唯一のラクダであるフタコブラクダは、個体数がおそらく1000頭を切っている。

 ファッションのために動物が絶滅の危機、または絶滅に追いやられた例は、これが初めてではない。

 19世紀には、装飾的な鳥の羽が、おしゃれな女性たちの帽子やドレスを飾るようになった。野生の鳥の羽毛が取引された結果、1918年にはアメリカでユキコサギなど数十種の鳥が絶滅の危機に瀕した。そこでアメリカは1918年に渡り鳥条約法を制定して取引を制限し、その後、一部の種は個体数が回復した。


 動物にやさしいカシミア?
 WCSとスノー・レパード・トラストは、地元住民、ファッション業界、およびカシミア需要を増やしている欧米諸国の消費者と協力して解決策を見出し、持続可能で、なおかつすべての人に有益なバランスを確立したいと考えている。「そこに悪者は誰もいない。純粋にシステムの問題だ」とバーガー氏は言う。

 次のステップは、ファッション業界からエコロジーに関心の高い人を集め、この問題を話し合うことだとバーガー氏は述べる。「人が生活の糧を得る手段を大きく変えることは誰も望まない」。

 収入源の多角化を推進するのも1つの手だと、スノー・レパード・トラストのミシュラ氏は言う。同氏のチームが調査した結果、複数の収入源をもつ個人や共同体は、オオカミやユキヒョウなどの捕食動物に対して、より寛容な態度を示す傾向がみられるという。

 また研究では、女性のほうが捕食動物に対してより否定的な態度を示す傾向にあることが明らかになった。「生活の糧を得ることに関するプログラムは、内容によっては特に女性向けに作成することが重要だ。その一例であるスノー・レパード・トラストのプログラム『スノー・レパード・エンタープライズ』では、女性たちと協力し、また女性を通じて地域全体と協力することで、ユキヒョウの保護に取り組んでいる」とミシュラ氏は述べる。

 ミシュラ氏はまた、持続可能で、野生動物にやさしいカシミアの生産システムを整備することが、ファッション愛好者にカシミアを供給しつつ、同時に野生動物を保護し、牧畜業者の利益を確保する上で重要だと考えている。

 「そのようなプログラムでは、家畜の密度を調整し、野生の有蹄類に草を食べる土地を提供したり、ユキヒョウやオオカミを迫害せず、進んで共存する牧畜業者には金銭的な報奨を与えるようにすべきだ」とミシュラ氏は述べる。(Brian Handwerk for National Geographic News August 5, 2013)


 ユキヒョウとは何か?
 ユキヒョウ(Uncia uncia)は、哺乳綱ネコ目(食肉目)ネコ科ユキヒョウ属(ヒョウ属に含める説もあり)に分類される食肉類。

 アフガニスタン東部、インド北部、ウズベキスタン東部、カザフスタン東部、キルギス、タジキスタン、中華人民共和国西部、ネパール、パキスタン北部、ブータン、モンゴル、ロシア南部のアルタイ山脈、天山山脈、ヒマラヤ山脈、ヒンドゥークシュ山脈、パミール高原などに生息。

 ユキヒョウはヒョウよりも体躯は小柄で、体長100~150センチメートル。尾長80~100センチメートル。肩高60センチメートル。体重オス45~55キログラム、メス35~40キログラム。尾は太くて長く、斜面や雪上でバランスをとるのに適している。尾も含めた全身は長い体毛で被われ、冬季には特に伸長(例として腹部は夏季5センチメートル、冬季12センチメートル)し温度の低い高山帯に適応している。体色は背面が淡灰色や淡黄色、腹面は白い。体側面には大型で不明瞭な黒や暗褐色の斑紋で縁取られた褐色の斑紋がまばらに入り、正中線に沿って黒い筋模様が入る。

 耳介は小型。眼は上部に位置し、岩陰に隠れながら獲物を探すのに適している。虹彩は灰黄色で、瞳孔は丸い。鼻孔は幅広く、これにより冷たい空気を吸い込んでも温めて湿度を与えることができる。足裏は体毛で被われ、防寒や接地面積が大きく雪面でも滑りにくくなっている。

 出産直後の幼獣の体重は0.4~0.5キログラム。標高600~6,000メートルにあるステップやハイマツからなる針葉樹林、岩場などに生息し、大型のネコ科動物として、また、食肉目としては最も高い場所に生息する。獲物や積雪にあわせて夏季は標高の高い場所へ、冬季は標高の低い場所へ移動する。夜行性で、昼間は岩の隙間やヒゲワシの古巣などで休む。

 食性は動物食で、主に中型の哺乳類を食べるが、小型哺乳類、鳥類なども食べる。また家畜を捕える事もある。主に夜間に狩りを行う。

 繁殖形態は胎生。1~5月に交尾を行う。妊娠期間は90~105日。岩の隙間や洞窟、樹洞に体毛を敷いた場所に、1回に2~5頭(主に2~3頭)の幼獣を産む。授乳期間は2か月。生後2~3年で性成熟する。寿命は10年以上、21年に達するとする説もある。


参考 National Geographic: カメラに興味、パキスタンのユキヒョウ Wikipedia: ユキヒョウ


雪豹 Snow Leopard [DVD]
クリエーター情報なし
コニービデオ
NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2008年 06月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
日経ナショナルジオグラフィック社

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please