ブラックホールに新説
 ブラックホール (black hole) とは、極めて高密度かつ大質量で、強い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができない天体である。

 ブラックホールはその特性上、直接的な観測を行うことは困難である。しかし他の天体との相互作用を介して間接的な観測が行われている。

 1971年、今から40年ほど前に「はくちょう座X-1」という、X線で明るく光る不思議な天体が発見された。X線強度が秒以下の短い時間で変動することや、太陽の数倍以上の質量を持つこともわかった。短い時間でX線が変動することは、X線を出す領域、すなわち天体が極めて小さいことを意味する。こうして、「はくちょう座 X-1」 はブラックホール候補天体となった。


Living-in-black-hole

 物質がブラックホールへ落下するときに発する「X線」で、ブラックホールの存在は確認できる。しかし今なお、その正体ははっきり捕らえられず、謎に満ちており、いろいろな仮説が百花繚乱、咲き乱れている。

 今日はそのうち幾つかの説を紹介しよう。まず、われわれの宇宙がブラックホールからはじまったというものである。

 過去数十年 の間に、多くの理論物理学者が、宇宙は、われわれが暮らす宇宙1つだけではないと考えるようになった。この 宇宙は、無数の別々の宇宙からなる「マルチバース(多宇宙)」の中の1つかもしれないということだ。

 1つの宇宙が別の宇宙とどのようにつながるのか、あるいはそもそもつながっているのかという問題は、大きな論争を呼んでいる。すべては非常に思弁的な議論で、現時点では証明はまったく不可能だ。しかし、もし植物の種のように、「宇宙の種」があり、基本物質が高度に圧縮され、保護殻の中に隠された塊となっているとしたらどうだろうか?

 この記述は、まさにブラックホールの内部で作られるものの説明と同じだ。そのブラックホールの中で鍛え上げられた種が、138億年前にビッグ・バンを起こした可能性がある。われわれの宇宙は以後ずっと急激な膨張を続けているが、それでも今なお、われわれはブラックホールの中にいるのかもしれない。


 われわれはブラックホールの中にいる?
 時計を巻き戻して、人類が生まれる前、地球が形成される前、太陽が輝き始める前、銀河が誕生する前、光さえまだ輝くことのできなかった頃に遡ってみよう。そこにあったのはビッグバン、138億年前の出来事だ。

 だが、その前は? 多くの物理学者は、「何もなかった」と答える。しかし、そう考えない異端の 物理学者も、わずかながらいる。彼らの説によれば、ビッグバンの直前には、生まれようとしている宇宙のすべ ての質量とエネルギーが、信じ難いほど高密度だが、有限な大きさを持つ1つの粒の中に押し込められていたと いう。この粒を「新宇宙の種」と呼ぶことにしよう。

 では、その種はどのようにして生まれたのか。 数年前から議論になっている1つの考え方は、われわれの宇宙の種は、自然界でおそらく最も極端な環境である 究極の炉、すなわちブラックホールの内部で作られたというものだ。とくに、ニューヘイブン大学のニコデム・ ポプラウスキー(Nikodem Poplawski)氏の説がよく知られる。


 “マルチバース”という考え
 過去数十年 の間に、多くの理論物理学者が、宇宙は、われわれが暮らす宇宙1つだけではないと考えるようになった。この 宇宙は、無数の別々の宇宙からなる「マルチバース(多宇宙)」の中の1つかもしれないということだ。

 1つの宇宙が別の宇宙とどのようにつながるのか、あるいはそもそもつながっているのかという問題は、大きな論争を呼んでいる。すべては非常に思弁的な議論で、現時点では証明はまったく不可能だ。しかし、宇宙の種は植物の種のようなもので、基本物質が高度に圧縮され、保護殻の中に隠された塊となっているという考え方には説得力がある。この記述は、まさにブラックホールの内部で作られるものの説明と同じだ。

ブラックホールでは、重力があまりにも大きく、光でさえ逃げ出すことができない。ブラックホールの内側と外側を分けるその境界を、事象の地平線と呼ぶ。

 ブラックホールの底で起こっていることを確認するためにアインシュタインの理論を用いると、計算上、密度が無限大で大きさが無限小の「特異点」という仮説的概念に到達する。しかし、通常自然界では、無限というものは存在しない。アインシュタインの理論には、このような不調和がある。宇宙の大半については見事に計算できるが、巨大な力の前では破綻しがちなのだ。巨大な力とは、たとえばブラックホールの内部や、宇宙の誕生の瞬間に存在したような力である。


 ビッグバンはブラックホールから始まった?
 ポプラウスキー氏らは、ブラックホール内の物質は、実際に、それ以上は押しつぶされない段階にまで到達すると主張する。この「種」は、信じ難いほど小さく、太陽の10億倍もの質量を持つかもしれないが、特異点とは異なり、現実に存在する。

 ポプラウスキー氏によれば、ブラックホールは自転しているため、圧縮のプロセスは引き止められる。自転は極めて速く、光速に近い可能性もある。この自転が、圧縮された種に巨大なねじれを与える。種は小さく重いだけでなく、ねじれ、圧縮されている。ばね仕掛けで飛び出すびっくり箱のヘビのような状態だ。

 それは突然、爆発するように飛び出すことができる。これがビッグバンだ。ポプラウスキー氏は「ビッグバウンス(大反跳)」という表現を好む。

 言い方を変えるなら、ブラックホールは2つの宇宙の間の導管、「1方通行のドア」である可能性があると、ポプラウスキー氏は話す。つまり、あなたが銀河系の中心のブラックホールに落ち込んだとしたら、あなた(少なくとも、かつてあなただった断片の粒子)は、最終的に別の宇宙に現れると考えられるのだ。その宇宙は、われわれの宇宙の中にあ るわけではないとポプラウスキー氏は説明する。ブラックホールは連絡路にすぎない。2本のヤマナラシの木をつなぐ地下茎のようなものだ。

 では、この宇宙の中にいるわれわれはどうなのか。われわれもまた、別の古い宇宙の産物なのかもしれない。それを母宇宙と呼ぼう。その母宇宙のブラックホールの中で鍛え上げられた種が、138億年前にビッグバウンスを起こした可能性がある。われわれの宇宙は以後ずっと急激な膨張を続けているが、それでも今なお、われわれはブラックホールの事象の地平線の裏に隠れて存在しているのかもしれない。


 ホーキング博士「ブラックホールは存在しない」
 スティーヴン・ホーキング博士は、『arXiv』に公開した短い論文で、「光が無限に抜け出せない領域という意味でのブラックホールは存在しない」と主張している。

 著名な物理学者のスティーヴン・ホーキングは、『arXiv』に1月22日付けで公開した短い論文で、「(これまで考えられてきたような)ブラックホールは存在しない」と主張している。この現象は定義され直す必要があるのだと同氏はいう。

 論文のタイトルは「Information Preservation and Weather Forecasting for Black Holes」(ブラックホールのための情報保存と天気予報)。古典理論では、エネルギーと情報はブラックホールの「事象の地平面」を抜け出せないと主張されるが、量子物理学はそれが可能であると示唆されるというパラドックス(ブラックホール情報パラドックス)を取り上げている。

 この難題に対するホーキング氏の答えは、ブラックホールは情報とエネルギーを消滅させるのではなく、新しいかたちでまた空間に開放するというものだ。同氏は、事象の地平線に替わる新しい境界として、量子効果で変動する「見かけの地平面(apparent horizon)」を提案している。

 ピアレヴューを受けていないこの論文では、「光が無限に抜け出せない領域という意味でのブラックホールは存在しない」と結論されている。

 しかし、ほかの物理学者たちからの反応は慎重だ。カリフォルニア大学バークレー校の理論物理学者、ラファエル・ブソーはNature Newsで次のように語っている。「ブラックホールを抜け出せなくなる地点は無い、という考え方は、ある意味、ファイアウォール(ブラックホールへ落ち込む観測者が事象の地平線、もしくはその近くで、高エネルギーな量子の壁に出くわすとされる仮想的な現象)よりも、さらに根源的で問題をはらんだ提案だ」


参考 National Geographic news:われわれはブラックホールの中にいる? ブラックホールは存在しない?


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