炭素と炭素を結びつける反応

 2010年のノーベル化学賞に、日本人2人が受賞した。受賞したのは、鈴木章・北海道大名誉教授(80)、根岸英一・米パデュー大特別教授(75)、リチャード・ヘック・デラウェア大名誉教授(79)ら3人。授賞理由は有機合成の「クロスカップリング反応」であった。

  「クロスカップリング反応」は「カップリング反応 」の一つ。つまり、2つの化学物質を選択的に結合させる反応のこと。特に、化学物質は炭化水素で、それぞれの物質が比較的大きな構造(ユニット)を持っているときに用いられることが多い。結合する2つのユニットの構造が等しい場合はホモカップリング、異なる場合は「クロスカップリング」という。一般式としては以下のように表される。

  ホモカップリング : R-X + R-X → R-R  クロスカップリング: R-X + R'-Y → R-R'  R・R'は炭化水素

 さて、1950年にノーベル化学賞を受賞した「ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応」もまた、炭素-炭素結合を つくる反応である。クロスカップリング反応とどこが違うのだろうか?



 鈴木カップリングでは、原料の炭素-水素結合を炭素-ハロゲン結合や炭素-ホウ素結合などに化学変換(目印の導入)し、その後、目印を利用して「パラジウム触媒」などでクロスカップリングさせる。根岸カップリングでは、有機亜鉛化合物と有機ハロゲン化物を「パラジウムまたはニッケル触媒」でカップリングさせる。いずれにせよ、カップリングには触媒と複数工程が必要であった。

 ところが、ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応では、触媒や複数工程が必要ない。濃度や圧力、温度によって反応が進む。

 ディールス・アルダー反応は、共役ジエンとアルケンが結合して「シクロヘキセン」骨格を生じる「環化付加反応」のことで、最も単純なDiels-Alder反応は、1,3-ブタジエンとエチレンの反応である。

 この反応では、いったん環化しても戻ることもある、可逆的な反応である。共役ジエンに電子供与性基、求ジエンに電子吸引性基が付いてる方が反応は進みやすい。1928年にオットー・ディールスとクルト・アルダーによって発見される。この発見によって2人は1950年にノーベル化学賞を受賞した。


 ディールス・アルダー(Diels-Alder)反応とは何か?

 有名な有機反応のひとつに、Diels-Alder(ディールス・アルダー)反応というものがある。これは、共役ジエンにアルケンが付加して不飽和 6 員環構造を形成する、[4+2]付加環化反応。

 図には、共役ジエンであるブタ-1,3-ジエンと、アルケンであるエチレンとの反応を示している。2 つの化合物が、矢印で示した電子の移動により、6 員環を形成している。

 この反応においては、①基質の共役ジエン ②基質のアルケン ③生成物のシクロヘキセン誘導体 のそれぞれに知っておくべき特徴がある。

 まず①については、共役ジエンは s-trans 配座ではなく、s-cis 配座で反応が進行する。というのも、分子模型を組み立てるとはっきりするが、s-trans 配座の状態では 6 員環を形成する際のひずみが大きすぎて、結合させるのが不可能。一方の s-cis 配座であればアルケンとの結合を作りやすく、簡単にシクロヘキセン構造を取ることができる。

 続いて②について、アルケンは sp2 炭素に電子求引性基があると、Diels-Alder 反応が進行しやすくなる。なぜかというと、上記の反応式をみてもわかるように、この反応では電子豊富な共役ジエンが求核剤となってアルケンを攻撃している。

 その際、アルケンが電子不足であるほうが電子の受け渡しがスムーズにいく、という理屈である。この考え方から一歩進めば、共役ジエンには電子供与基が付いているほうが反応は進みやすい。(実際には、アルケンは電子求引性基が付いていることが多い一方、ジエンには電子供与性基がない場合もしばしばある。)

 最後に③について。これは生成物の立体がテーマであり、ここが一番重要なところ。生成物の立体については具体的には 2 つのことを考えなくてはならない。

 まず最初は、「立体の保持」ということについて。出発物質のアルケンに 2 つの置換基(-COOH)が cis の位置で付いていれば、その時、生成物においても置換基が cis の位置関係になる。これが「立体の保持」である。

 生成物の立体について大事な 2 つめのことは、「endo(エンド)則」について。Diels-Alder 反応では、生成物が2種類考えられる。
 それぞれendo(エンド)付加、exo(エキソ)付加というが、生成物を比較するとわかる通り、exo 付加体のほうが置換基が equatrial 位にあるため安定。つまり、熱力学的支配に従っているといえる。

 ところが、Diel-Alder 反応は一般的に速度論的支配が優先され、その結果として endo 付加体ができる。Diel-Alder 反応については生成物の安定性に逆らって endo 付加が進行する場合が多く、これを「endo則」または「endo rule」と呼ぶ。

 ただ、置換基の部分があまりにも大きかったりすると、さすがに立体障害が大きすぎてendo 則に従わないこともある。


 オットー・ディールス

 オットー・パウル・ヘルマン・ディールス(Otto Paul Hermann Diels、1876年1月23日・ハンブルク - 1954年3月7日)はドイツ人化学者である。ベルリン大学の文献学の教授の息子であり、ベルリン大学のエミール・フィッシャーのグループで化学の博士号を得た。

 1916年まではベルリン大学で、1916年から1945年まではキール大学で教鞭をとった。2人の息子は第二次世界大戦によって死亡している。

 1950年に彼の生徒であるクルト・アルダーとともにノーベル化学賞を「ジエン反応の発見とその応用」によって受賞している。これはディールス・アルダー反応として知られている。

 ベルリンで研究をしていた1906年、二酸化三炭素、(C3O2)を発見。これをマロン酸(プロパン二酸)の五酸化リンにより脱水で、合成した。1907年、「有機化学教科書(有機化学入門)」の初版を出版。また、化合物コレステロールについての研究を1906年に始めた。

 胆石から純粋なコレステロールを分離、ディールスの酸に変換した。1927年セレンとともに300℃に加熱し、コレステロールの脱水素を行い、ディールスの炭化水素を得ることに成功。1935年には、C18H16化合物を合成、ディールスの炭化水素であることを証明した。

 ディールス炭化水素生成反応は、ある化合物がステロイドであることを確証する手段として用いられ、また1932年のステロイド構造決定に貢献した。

 また、助手のアルダーと共同研究を行い、ジエン合成の発展に力をつくすが、1928年に最大の業績、ディールス・アルダー反応(ジエン合成)を発見した。この反応には二つの化合物を結合させて原子の環をつくる方式が含まれ、この反応を用いて多くの化合物を合成し、他の化学者によってアルカロイド、重合体、その他複雑な化合物を合成するのに利用された。これらの功績に対して、アルダーとともにノーベル化学賞が贈られた。


 クルト・アルダー

 クルト・アルダー(Kurt Alder, 1902年7月10日~1958年6月20日)はドイツ帝国ケーニヒスヒュッテ(現ホジューフ)出身の化学者。1950年、師のオットー・ディールスとともにノーベル化学賞を受賞した。

 工業地帯で生まれ、そこで初等教育を受けた。第一次世界大戦にドイツが敗北したため、ケーニヒスヒュッテを離れ、移住した。1922年から化学をベルリン大学で学び、後にキール大学へと移った。1926年、同大学でオットー・ディールスの下で博士号を得、1930年に助手、1936年には講師となった。講師となったその都市、レバークーゼンのIG・ファルベンに移り、合成ゴムの研究に携わった。

 1940年、ケルン大学の実験化学・化学技術の教授及び化学研究所の所長となった。それ以降有機化学に関する研究を続け、150の論文を発表した。最も大きな成果といえるのがディールス・アルダー反応の発見である。彼の功績を称え、月のクレーターにアルダーの名が付された。ケルンで没。

 キール大学で博士号を取得した後、アルダーはディールスとの共同研究に従事し、1928年にディールス・アルダー反応を発見し、ジエン合成を創始した。

 単結合によって隔てられた、二つの二重結合(共役ジエン)を持つ化合物(親ジエン試薬)を加えるこの反応は、環式化合物の合成、共役ジエン類の確認、また、各種の重合に非常に重要で、有名になった。

 ディールスのもとを離れた後も、ジエン合成の一般的条件と、合成法としての全般的見通しの研究を続けた。また、立体化学にも卓越し、ジエンへの付加はシス配置で、つまり二つの基が反対側にあるトランス異性体とは逆に、二重結合のある置換基が同じ側になるようにおこることを示した。

 マレイン酸は反応するがフマル酸は反応しない理由がここにある。このことからもディールス・アルダー反応の立体的特異的性質は、共役二重結合を見いだすための構造的研究に特に有用になった。これらの業績に対し、1950年ディールスとともにノーベル化学賞が贈られた。

 彼の研究によって、薬品、殺虫剤、潤滑油、合成ゴム、プラスチックなどさまざまな化合物が市販されるようになった。合成有機化学の技術と科学が大きな変革を成し遂げつつある時期に大きな貢献をしたのである。


引用元 Wikipedia:カップリング反応 ディールス・アルダー反応 オットー・ディールス クルト・アルダー YAKU-TIK:ディールス・アルダー反応


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