植物は隣の植物と会話する?

 植物を育てるのに、一株よりも数株寄せ植えにした方が、よく生育する。これは、別の植物との関係でも成立するらしい。研究によると、隣の植物の音を「聞いた」植物は、自ら成長を促進させるという。音響信号を利用してコミュニケーションを取っているという。

 研究チームの一員で、西オーストラリア大学の進化生態学者モニカ・ガリアーノ(Monica Gagliano)氏は、「植物が“良き隣人”を認識することを実証した。このコミュニケーションは音響的な信号の交換に基づくと考えられる」と話す。

 つまり、植物は化学物質のにおいをかぐ「嗅覚」や、隣人に反射した光を見る「視覚」に加え、周囲の音を聞く「聴覚」も備わっている可能性があるというのだ。「植物は、私たちの想定よりもずっと複雑な生物体だ」とガリアーノ氏は話す。



 一方、植物は害虫に対して、防御反応を示すことが知られている。

 シロイヌナズナは可憐な花を咲かせるアブラナ科の植物で、英語ではネズミの耳になぞらえてマウスイヤー・クレス(mouse-ear cress)とも呼ばれる。この植物はモンシロチョウの幼虫が葉を食べる際の振幅の大きな振動に対して、堅固な防御反応を示していることが、ミズーリ大学の2人の研究者によって明らかになった。

 この研究は、音響分析と化学分析を組み合わせて、植物が周辺環境の音のうち、生態学的に重要なものに反応していることを初めて明らかにしたものであると、ミズーリ大学植物科学科の上級研究員を務めるヘイディ・アペル(Heidi Appel)氏は言う。


 植物は虫の咀嚼音を“聞いて”いる? 

 植物が環境の変化に反応していることは古くから知られている。光や気温に反応を返すほか、触られると反応するものもある。さらにこのほど、シロイヌナズナは音を“聞いて”いるとする研究結果が発表された。

 シロイヌナズナは可憐な花を咲かせるアブラナ科の植物で、英語ではネズミの耳になぞらえてマウスイヤー・クレス(mouse-ear cress)とも呼ばれる。この植物はモンシロチョウの幼虫が葉を食べる際の振幅の大きな振動に対して、堅固な防御反応を示していることが、ミズーリ大学の2人の研究者によって明らかになった。

 この研究は、音響分析と化学分析を組み合わせて、植物が周辺環境の音のうち、生態学的に重要なものに反応していることを初めて明らかにしたものであると、ミズーリ大学植物科学科の上級研究員を務めるヘイディ・アペル(Heidi Appel)氏は言う。

 アペル氏は同大学生物科学科のレックス・コクロフト(Rex Cocroft)教授と共同で研究を行い、レーザーとひときれの反射素材を用いて、チョウの幼虫が葉を食べる際の振動を記録した。これはシロイヌナズナの葉を、1万分の1インチ程度上下させるにすぎないわずかな振動だ。その後、実験用のシロイヌナズナを2グループに分け、一方には2時間分の振動の記録を聞かせ、他方は静かな環境に置いた。

 すると、咀嚼の振動の記録にさらされたシロイヌナズナでは、辛味成分を含む油の分泌量が増加した。これは虫の攻撃に対する防御反応と考えられる。

 振動が「引き金となって、その後の攻撃に対する備えを促した。咀嚼の振動という情報をあらかじめ得ていれば、いち早く堅い守りを示せる」とアペル氏は言う。

 またシロイヌナズナは、特定の振動にしか反応を返さない。最初の実験のすぐ後に、アペル氏らは似たような振動に植物をさらしている。風や、シロイヌナズナにとって害をもたらさない虫による振動では、特に反応は得られなかった。

「特定の周波数の音、つまり特定の高さの音にだけ効果があるといった単純な話だとは考えていない。(シロイヌナズナは)咀嚼の振動に反応する一方で、同じ周波数でも虫の鳴き声には反応しなかった。このことから、植物の音響受容は、特定の音高に反応するというような単純なものではないことが窺える」とコクロフト教授は言う。


 小さな植物に大きな“耳”

 今回の研究は、特定の植物とそれを食べる特定の虫の関係に焦点を当てたものだが、その結果は他の植物にも広く当てはまるのではないかとアペル氏らは予想している。研究の次の段階は、別の種類の植物とそれを食べる動物でも同じ現象が見られるかを確認することだ。今回の発見の農業分野への応用を検討するには時期尚早だと2人は言う。

 植物にとって何が有益かを私たちは完全には理解していないということを裏づける興味深い情報は近年増えており、アペル氏らの研究結果もそれに連なるものだとウィスコンシン大学マディソン校のジョン・オロック(John Orrock)准教授(動物学)は言う。

 オロック准教授は、植物とそれを食べる動物との間の「恐怖の生態学」を専門としており、カタツムリのぬめりが植物の防御系におよぼす影響について研究を発表している。オロック准教授は今回のミズーリ大学の研究が、植物行動学の分野において「興味深く多彩な一連の設問を新たに切り開く」ものと考えているとのことだ。

 「植物が反応を示すと分かっている情報の形はたくさんある。光に注意を向けていることは分かっているし、周辺の土壌や大気に含まれるさまざまな化学物質に注意を向けていることも分かっている。(中略)植物はいかなる瞬間にも、さまざまな情報を考慮している。今回の研究によって、音による情報も、植物が考慮するもののひとつであると分かった」とオロック准教授は言う。

 「つまり植物も、ある意味で音を“聞いて”いるのだ」。咀嚼音へのシロイヌナズナの反応に関する今回の研究は、「Oecologia」誌オンライン版に7月2日付けで掲載された。(National Geographic)


 植物の防衛策「二次化合物」

 今日は植物全般に枠を広げて、彼らが外敵から身を守る防衛策を見てみよう。

 植物は日光、大気、土壌中の水といった基本的な素材から炭水化物、タンパク質、脂質、ホルモン、ビタミン、酵素など、成長や傷の修復、繁殖などに必要なあらゆるものをつくりだす。

 植物は、これら通常の一次代謝のための化学物質に加えて、明らかな代謝目的のないいわゆる二次化合物も合成している。この二次化合物の注目すべき点は毒性と薬理性を備えていることで、いうなれば自然界の巨大な薬倉を形成している。

 これまでに見つかった二次化合物はおよそ10万種類にのぼる。

 これらの化合物は、植物が身を守るための防衛物質だと考えられている。動物と同様に植物も、細菌、ウイルス、真菌類から身を守らなければならない。多くの二次化合物はこれらの病原体に対して強力な作用を持っている。植物は病気になると、人間の免疫反応にあたる特別な防御タンパク質もつくることができる。

 病気との戦いに加えて、植物は様々な捕食者(草食性の昆虫や哺乳類や鳥類)から身を守らなくてはならない。何しろ捕食者にとって植物は文字通り動かぬ標的なのだ。このため剛毛や突起、とげやいがなどの物理的、構造的な防御力だけでなく、摂食を防ぐ二次化合物も進化させてきた。

 摂食を防ぐ化学物質のうち最も古くからあるものは濃縮されたタンニンで、植物はこれによって恐竜から身を守っていたと考えられている。

 それは非常に渋く、舌を萎縮させ、口内の粘膜と喉を乾燥させる。いったん食べると渋みがいつまでも残り腸内の重要な微生物や酵素の環境を混乱させ消化をはばむ。このため、タンニンの多い植物はふつう草食動物が避ける。タンニンは渋柿などに含まれる。

 多くの有毒な二次化合物は苦い味がし、大部分の動物は少ししか食べない。例えば、サポニンはカタツムリ、昆虫、菌類、細菌の攻撃から植物を守る。サポニンは細胞膜を通過する分子の動きに影響を与え、赤血球を破壊することさえある。

 顕花植物のおよそ20%が作るアルカロイドもやはり苦い。アルカロイドは非常に反応性の高い化合物で、ごく少量でも動物に強い生理的反応を引き起こす。植物は体の表面部分、つまり樹皮や葉や果実に蓄積している。

 アルカロイドのなかには人間や動物の中枢の神経伝達物質にそっくりな構造を持ったものがある。ドーパミン、セロトニン、アセチルコリンなどがそれで、多用途防御物質といわれ幅広い活性を持っている。その多くは昆虫と哺乳類に有毒であり、バクテリアの成長と他の植物の発芽を抑制する。


参考 National Geographic: 植物は隣の植物の声を聞く 植物は虫の咀嚼音を聞いている 生物史から自然の摂理を読み解く: 植物の防衛策


環境中の腐植物質―その特徴と研究法
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