春ホルモンを分泌する受容体を発見

 多くの生物は、日照時間(日長)の変化に応じて季節変化を感じ取り、体内の生理機能を調節して環境変化に適応している。この日長の変化に伴う現象のことを「光周性」と呼び、動物では、生殖腺の発達や冬眠、渡りなどが光周性に起因していることが知られている。

 つまり、動物は感覚器官である目で光をとらえ、神経細胞の活性化を電気信号に変え、脳で認識しているわけだが、日照時間の変化も認識する機能が存在する。2010年12月、理化学研究所の研究グループは、体内の生理機能を季節変化に適応させる「春ホルモン」の司令塔となる遺伝子を突き止めている。

 春ホルモンとは、日照時間が長くなると、下垂体正中隆起部で誘導される甲状腺刺激ホルモン(TSHβ)のこと。日照時間が短い状態から長い状態になることは、季節変化によって冬から春になることがイメージされるので、ここではTSHβを「春ホルモン」と呼称する。



 2014年7月、名古屋大学の研究グループでは、鳥類の脳の奥深くで、神経細胞が光を直接感知して、恋の季節である春の訪れを知る光受容器を備えていることを発見した。この受容体により、下垂体から「春ホルモン」が分泌される。目とは異なる光の感知システムが繁殖活動に関連することを実証する研究として注目される。7月7日付の米科学誌カレントバイオロジーに発表した。


 この神経細胞の細胞膜には、「オプシン5」という

 哺乳類以外の脊椎動物が脳深部で光を感じることは100年以上前から知られていたが、脳深部の光受容器の実体は謎だった。今回、研究グループはウズラの脳深部に存在する「脳脊髄液接触ニューロン」が光に応答することを突き止めた。他の神経細胞からこの神経細胞への入力を遮断しても、光に対する応答性は消失しなかったため、直接光を感知していることがわかった。

 この神経細胞の細胞膜には、「オプシン5」という光受容タンパク質が発現している。オプシン5の働きをRNA干渉法で阻害すると、脳に恋の季節の春を告げる「春告げホルモン」の誘導が抑制された。研究グループは実験結果から「オプシン5を発現する脳脊髄液接触ニューロンこそが、脳内で光を直接感知し、繁殖活動を制御する脳深部光受容器である」と結論づけた。外部の光はわずかだが、脳の組織をすり抜けて、千分の1 程度は内部まで届き、明るさは判定できる。

 熱帯以外の地域に生息する動物は、光による日照時間の変化をカレンダーとして利用し、季節の変化に適応している。多くの動物は、子孫が温暖で食料が豊かな時期に生息できるように、特定の季節に繁殖する「季節繁殖」という生存戦略をとっている。春は繁殖にふさわしい。哺乳類は目が唯一の視覚だが、哺乳類以外の鳥類などは脳で光を直接受容して、日照時間の変化を感知している。今回の研究で、その「脳内の目」といえる光受容器の実体がオプシン5とわかった。

 また、目の網膜細胞と脳脊髄液接触ニューロンはともに繊毛をもつ。発生学的に見ると、目は脳の第三脳室から膨らんで形成されることも、光受容器としての共通性があった。吉村崇教授らは「目を含む光受容器の進化という視点から興味深い。ヒトでも、このオプシン5というタンパク質がある。その機能も調べたい」と話している。(提供:吉村崇名古屋大学教授)


 春の訪れ知る仕組み突き止める  夜明けの光で季節感知(2011年2月20日午後5時03分)

 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、春ホルモンの司令塔となる遺伝子Eya3を同定し、このEya3が明け方の光によって発現することで、春ホルモンを誘導することを世界で初めて明らかにした。

 理研 発生・再生科学総合研究センター(竹市雅俊センター長)システムバイオロジー研究プロジェクトの上田泰己プロジェクトリーダー、升本宏平客員研究員(近畿大学医学部 助教)らと近畿大学医学部 重吉康史教授らによる共同研究の成果。

 2008年、研究グループは名古屋大学の吉村崇教授らとともに、日照時間(日長)が長くなるとウズラの下垂体正中隆起部で誘導され、体内の生理機能を季節変化に適応させる春ホルモン「TSHβ」を発見した。

 今回、研究グループは、このTSHβの制御機構を解明するために、マウスを対象にした遺伝子発現解析をゲノムワイドに行い、日長の変化に応じて発現変動する遺伝子を包括的に探索した。

 具体的には、長日条件下(明期16時間、暗期8時間)、短日条件下(明期8時間、暗期16時間)で飼育したマウスを用いて、下垂体正中隆起部の発現遺伝子をそれぞれ比較したところ、長日条件下で強く発現する長日遺伝子を246個、短日条件下で強く発現する短日遺伝子を57個、同定した。

 さらに、春ホルモンの誘導には短日条件下の明け方の光が重要であることを見いだした。明け方の光によって発現上昇する遺伝子を探索したところ、光に反応してすぐに発現が上昇する34個の遺伝子を同定し、このうち、「Eya3」が春ホルモンを誘導する司令塔遺伝子であることを発見した。このEya3は、副司令塔的な遺伝子とともに働くことで春ホルモンを誘導し、さらに、補佐官的な遺伝子の働きによって春ホルモンの誘導を一層促進することが分かった。

 季節変化に伴う日長の変動は、ヒトの季節性情動障害、双極性障害や統合失調症といった疾患に関係していると考えられている。Eya3は脊椎動物の多くに保存されている遺伝子であることから、これら日長変化に起因する疾患の治療に寄与することが期待される。

 本研究成果は、米国の科学雑誌『Current Biology』(12月21日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版(12月2日付け:日本時間12月3日)に掲載された。


 サイエンスポータル: 鳥は脳で光を直接感知し恋の春を知る 理化学研究所: 明け方の光が春をもたらす


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