アメリカオオカミの絶滅と再導入

 オオカミ(wolf)は、イヌ科イヌ属に属する哺乳動物。広義には近縁種も含めることがあるが、通常はタイリクオオカミ(ハイイロオオカミ、Canis lupus)一種を指す。多数の亜種が認められている。同属の近縁種としてアメリカアカオオカミ、コヨーテ、アビシニアジャッカルなどがいる。

 従来はオオカミの近縁種とされていたイヌ(イエイヌ)は、近年ではオオカミの一亜種 Canis lupus familiaris とする見方が主流になりつつある。ただし、日常語としての「オオカミ」には通常、イヌは含まれない。イヌはオオカミが飼い馴らされて家畜化したものと考えられている。

 オオカミは雌雄のペアを中心とした平均4~8頭ほどの社会的な群れ(パック)を形成する。群れはそれぞれ縄張りをもち、広さは食物量に影響され100~1000平方キロメートルに及ぶ。縄張りの外から来た他のオオカミはたいてい追い払われる。稀に、仲間とうまくコミュニケーションがとれなかったり、群れのリーダーを決める争いに敗れ群れから孤立し単独で活動しているオオカミもおり、これが「一匹狼」の語源にもなっている。



 オオカミと人間との共存は難しく、家畜を襲う動物として駆除の対象となっていた。オオカミ駆除は長年の習慣だ。これが一因となって、米国西部のオオカミは1930年代に根絶に至った。ところが、そのために問題が起こった。

 その後、オオカミの獲物となっていたワピチ(アメリカアカシカ Cervus canadensis)や他の動物が増加し、その結果、植生に被害が出た。オオカミが果たしていた捕食者としての役割の一部はコヨーテが果たすことになったが、成獣のワピチはコヨーテの捕食対象にはならず、またオオカミと並びイエローストーンの生態系の頂点を成していたハイイログマは雑食性でありワピチを捕食する割合は低く、いずれもワピチの増加を制御できなかった。

 そこで、生物学者は再びオオカミを再導入しようと提案した。再導入のアイデアが議会に最初に提出されたのは1966年である。それらの生物学者は、イエローストーンのワピチが危機的状況まで増加していると心配していた。しかしながら、牧場主たちは、家畜が襲われることの問題をオオカミを疫病に喩えて、再導入に強く反対した。

 合衆国政府は、オオカミ再導入の作成・条件整備・実行について責任を負い、妥協点を探し出すのに約20年間をかけて努力を続けた。1974年にオオカミ回復チームが任命され、1982年には意見を集めるために最初の公式の回復計画(Recovery Plan)を公表した。その後、1990年代半ばにオオカミが再導入されて以来、オオカミは再び家畜を襲い始めた。公的機関や牧畜業者は家畜を守ろうと何度となく駆除を行ってきた。殺したオオカミは、2013年時点で2000匹を超えている。

 しかし、オオカミの駆除が本当に家畜保護に役立っているのか検証する大規模な調査は全く行われていなかった…。


 家畜を襲うオオカミ、駆除は逆効果か

 今年8月下旬、ワシントン州東部の木々に覆われた山腹で、上空をホバリング中のヘリコプターから狙撃手がオオカミ1匹を射殺した。駆除されたのは、「ハックルベリー・パック」と呼ばれる群れを率いるつがいのメス。この群れが家畜のヒツジを襲い、少なくとも24匹が犠牲になっていたことから、被害を抑えようと州が駆除に踏み切った。

 しかし長期的には、このような駆除は事態を悪化させるだけかもしれない。オオカミを殺すと、皮肉にもその後にオオカミが家畜を襲うリスクが高まる可能性があることが、新たな研究で分かった。

 ワシントン州立大学の生態学者ロブ・ウィールグス(Rob Wielgus)氏らによる研究結果は、家畜を脅かすオオカミに対処する最も早く確実な方法は銃による駆除だという一般的な認識と食い違う。一方で、こうした社会性動物を動かしている複雑な動態に人間が与える影響や、時に発生する予期せぬ結果についての解明がさらに進んだとも言える。

 オオカミが米国西部全域に広がるにつれ、家畜のヒツジやウシとの接触も増加しており、2つの州では季節を限ってオオカミ駆除が許可されている。新たな研究結果が出たことで、オオカミへの対応をめぐる政治論争がこれまで以上に激化しそうだ。

 牧畜の世界では、オオカミ駆除は長年の習慣だ。これが一因となって、米国西部のオオカミは1930年代に根絶に至った。1990年代半ばにオオカミが再導入されて以来、公的機関や牧畜業者は家畜を守ろうと何度となく駆除を行ってきた。殺したオオカミは、2013年時点で2000匹を超えている。

 しかし、オオカミの駆除が本当に家畜保護に役立っているのか検証する大規模な調査は全く行われていなかった。


 オオカミ再導入の弊害

 この問題に目を向けたのがウィールグス氏だ。同氏は、捕食動物管理の取り組みに関して従来の認識を覆した実績を持つ。2008年に、ピューマを駆除すると家畜への襲撃がかえって増えるという調査結果を発表して耳目を集めたのだ。

 2008年にオオカミがワシントン州に入り込み、2013年時点で群れが13にまで増えたのを受けて、ウィールグス氏はこの「新顔」の肉食動物に注目。オオカミの再導入が最初に行われたアイダホ州、モンタナ州、ワイオミング州について、過去25年間のオオカミ駆除とウシ・ヒツジの襲撃事件の状況を詳しく調べた。

 その結果、オオカミが1匹駆除されると、翌年に同じ州で家畜がオオカミに殺される確率は、ウシで5~6%、ヒツジで4%上昇することが分かった。オオカミの駆除数が増えると、家畜が襲撃に遭う確率もさらに上昇していた。この傾向は、1年間に1州のオオカミのうち最低でも25%が駆除されるまで覆らず、家畜の損失が減り始めるのは駆除が25%を超えてからだった。

 なぜわずかなオオカミ駆除がかえって多くの家畜の死につながるのか、ウィールグス氏は明確な結論に至っていない。しかし推測として、群れの行動の変化と関係があるのではないかと考えている。オオカミは通常、繁殖を行う1組のつがいが群れ(パック)を統率する。このつがいの片方または両方が殺されると、群れが分裂し、繁殖ペアがいくつもできるため、オオカミの数が増える。家畜の被害は、オオカミの駆除がその繁殖能力を上回るペースで実施されて初めて減少する。


 駆除以外の方法はあるのか?

 当然ではあるが、この研究結果への反応は立場によって分かれている。オオカミの保護活動家はこの知見を、家畜を守るための駆除が多くの場合無意味である証拠だと指摘した。

 動物保護団体「ディフェンダーズ・オブ・ワイルドライフ」の北西部上席代表スザンヌ・ストーン(Suzanne Stone)氏は、オオカミの営巣地を避けて放牧する、番犬や強い照明でオオカミを追い払うといった対策の方が、狙撃手をヘリコプターに乗せて配備するより低コストだと説く。

 アイダホ羊毛生産者協会の執行役員スタン・ボイド(Stan Boyd)氏は、同協会では射殺以外の方法でオオカミ被害を防げるよう協会員を支援していると話す。しかし、銃も依然として欠かせない道具だという立場だ。

 このような中、注目を集めているのはハックルベリー・パックの動向である。最上位のメスを失うという災難の後、ヒツジへの襲撃は減るのか、それとも増えるのだろうか。

 今回の研究成果は、オンライン科学誌「PLOS One」に12月3日付で掲載された。(Warren Cornwall for National Geographic News December 8, 2014)


 オオカミの再導入とは何か?

 アメリカ合衆国のロッキー山脈の北部に位置するイエローストーン国立公園(ワイオミング州)とアイダホ州では、約30年間の計画の見直しと関係者の話し合いを行った後、オオカミの再導入を行い、オオカミの群れを回復することに成功した。アメリカ合衆国の別の2-3の地域やヨーロッパの国々でも、再導入は検討され続けている。

 過去の例でも現在検討中のものでも、対象地域の人々は、家畜の敵である肉食動物(捕食者)の再導入に、反対することが多い。しかしながら、欧米では、オオカミや他の捕食者への見方は、過去のもの(狼に関する文化を参照)から変わってきている。

 つまり、捕食者が生態系に存在することで環境が維持されることに対して、理解を示すようになってきている。再導入を成功させた2つの地域では、この理解の広がったことが、再導入を開始するために最も重要であった。

 イエローストーン国立公園とアイダホ州で再導入が開始されたのは1995年である。アリゾナ州とニューメキシコ州でも、北部とは別の亜種・メキシコオオカミの再導入が1998年から始まっている。

 日本においても、シカやイノシシ、サルが増え、生態系が破壊されている場所も多く、再導入を提唱する人々がいるが、生息域の確保の問題・人間と接触する可能性などが指摘されており、2008年時点では多数意見ではない。


 オオカミの絶滅から再導入の提案まで

 イエローストーン国立公園で野生のオオカミが殺された最後の公式記録は1926年であった。その後、オオカミの獲物となっていたワピチ(アメリカアカシカ Cervus canadensis)や他の動物が増加し、その結果、植生に被害が出た。オオカミが果たしていた捕食者としての役割の一部はコヨーテが果たすことになったが、成獣のワピチはコヨーテの捕食対象にはならず、またオオカミと並びイエローストーンの生態系の頂点を成していたハイイログマは雑食性でありワピチを捕食する割合は低く、いずれもワピチの増加を制御できなかった。さらには、コヨーテの個体数が増加したことによって、コヨーテより小さな動物、特にアカギツネが減少してしまった。1978年に生物学者ジョン・ウィーバーはイエローストーンのオオカミは絶滅したと結論を下した。

 地元牧場主たちと環境保護団体は、再導入について何年も討論を続けてきた。生物学者によって再導入のアイデアが議会に最初に提出されたのは1966年である。それらの生物学者は、イエローストーンのワピチが危機的状況まで増加していると心配していた。しかしながら、牧場主たちは、家畜が襲われることの問題をオオカミを疫病に喩えて、再導入に強く反対した。

 合衆国政府は、妥協案の作成・条件整備・実行について責任を負い、妥協点を探し出すのに約20年間をかけて努力を続けた。1974年にオオカミ回復チームが任命され、1982年には意見を集めるために最初の公式の回復計画(Recovery Plan)を公表した。オオカミ再導入に対する一般的な不安があったため、州政府および地方政府の判断を加えやすくするように、魚類野生生物局は計画を変更した。そのようにして、意見を集めるための2番目の回復計画が1985年に公表された。

 同じ年に行われたイエローストーン国立公園の訪問者へのアンケートでは、74%の人がオオカミが公園の改善に必要かもしれないと回答し、60%の人が再導入に賛成した。再導入に承認を与える前の最終段階として、実施した場合の影響の事前評価(環境アセスメント)があった。連邦議会は、環境アセスメントへの支出をする前に更に研究が必要であるとして、計画を差し止めた。


 再導入直前の民事訴訟

 1987年に牧場主たちは、再導入提案者に経済的負担に対する補償を要求した。それに対してDefenders of Wildlife(アメリカ合衆国の自然保護団体)は、オオカミによる被害で失われる家畜の市場価格を牧場主たちに補償するために、「オオカミ補償基金」を準備した。その同じ年、最終的な回復計画が発表された。その後、研究・公的な教育・意見募集を行い、公開検討を加えるために1993年に環境影響評価書(環境アセスメントの結果報告書:Environmental Impact Statement)の草稿が発表された。この環境影響評価書には15万以上の意見が寄せられ、1994年5月に成立した。

 元の計画には3つの回復地域(イエローストーン国立公園含むワイオミング州・アイダホ州・モンタナ州)が含まれていたが、モンタナ州は北西部に小さいながら繁殖している群れが確認されたので回復地域から外された。現在は再導入されたオオカミ群はモンタナ州とも往来しているため、モンタナを含む3州が回復地域として設定され、モニタリングされている。回復地域に再導入されるオオカミは、絶滅危惧種法に規定する「実験的な個体群」分類に区分されている。

 1994年の後半の2つの民事訴訟によって、回復計画は危機にさらされた。1つはワイオミング州農業局連盟(Farm Bureau)による提訴であったが、1995年1月3日に棄却。もう片方は環境保護団体の連合体による提訴であった。内容は未確認の目撃情報を元に、北側からイエローストーンにオオカミが既に移住している証拠があり、同じ地域に実験的な群れを再導入するのは既存のオオカミにとって脅威となると主張していたが、訴えは退けられた。これらの訴訟があったものの再導入の障害とはなっておらず、1995年1月から再導入が開始された。


 再導入とその後の経過

 1995年1月連邦政府は、カナダアルバータ州から野生のオオカミの輸送を始めた。しかしながら、1月9日にFarm Bureauから差し止め請求があったため、それが同年3月19日に棄却されるまでオオカミを放すことができなかった。そして3月21日、オオカミの檻の扉は開けられた。また1996年1月にも追加のオオカミが放された。再導入されたオオカミは順調に増え、2009年末にはアイダホ州、ワイオミング州、モンタナ州の3州の個体数は約1700頭になり、そのうちイエローストーン国立公園には約100頭が生息している。

 この頭数は、当初の計画が予定していたものを上回って推移している。現在、十分に個体数が回復したので絶滅危惧種法の対象から外すべきだという議論が起きており、2009年に一度外されて狩猟が解禁されたものの、同法の対象からまだ外すべきではないという訴訟が起こり、2010年8月の判決によって再び絶滅危惧種法の保護対象となり狩猟禁止に戻った。

 イエローストーン国立公園では、再導入によって生物多様性が増えたことが報告されている。それはワピチの個体数の減少によって植生が増えたためであると考えられ、アカギツネや公園内では絶滅状態であったビーバーの個体数の増加が観察された。この動物層の変化は、オオカミがコヨーテの個体数を制御しているためであろうと考えられる。なお再導入後に、オオカミが家畜を襲う事件と、人がオオカミを殺傷する事件が起きるようになった。家畜被害のうちオオカミによることが確認されたものについては、政府および前述の「オオカミ補償基金」によって補償されている。(Wikipedia)


参考 National Geographic news: 家畜を襲うオオカミ、駆除は逆効果か

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