中国、天津の大規模な爆発事事故

 テレビの画面からの凄まじい爆発の映像に驚かされた。激しい爆発は、気象庁(Japan Meteorological Agency)の人工衛星でも様子がとらえられた。

 日本時間の8月13日未明、中国・天津の港の近くにある倉庫とその周辺で大規模な爆発が起き、これまでに確認された死者は85人に上り、入院した721人のうち33人が重体だという。

 現場上空から撮影された映像では、爆発で出来たとみられるクレーターのような巨大な穴が確認できる。爆発は少なくとも2回起き、その規模について中国当局は、TNT火薬に換算して、1回目が3トン、2回目は21トンに相当するとしていて、日本の気象庁によると、マグニチュード3から4の地震と同じ程度の規模だという。



 天津市は爆発の原因は分かっていないとしつつも、現場には水に反応して爆発する化学物質があるおそれもあるとして、水を使わず、砂や消火剤などで消火活動を行ったということで、そうした化学物質に放水したのが事故につながったのではないかと思われる。


 爆発原因の化学物質は?

 高度経済成長を遂げた中国。しかし、経済優先で、化学物質による環境破壊が生じているのが問題となっている。大都市の大気汚染、化学物質工場からは河川に有害物質の垂れ流しによる水質汚濁。中国産野菜の残留農薬や中国製商品の安全性の問題等、中国の化学物質管理に関する社会的懸念も増している。今回のケースも杜撰な化学物質の管理がもたらした事故といえる。

 気になる原因物質だが、これまでの情報では、爆発現場である倉庫には、爆発物の原料にもなる硝酸ナトリウムや硝酸カリウム。これに、危険物に指定されている有機化学物質メチルエチルケトンなどを保管。また毒性が強く、放置すると大きな健康被害が出るシアン化ナトリウムも置かれていたという。

 よくもこれだけ、爆発性のある物質を集めておくものだと思う。今回の場合、シアン化ナトリウムが酸にふれ、シアン化水素(いわゆる青酸ガス)が発生。これに放水があり、50℃程度で重合反応が起きた。さらに184℃以上で急激に重合反応が加速したと思われる。

 重合の際には熱を発生し、体積も大きく変化するので爆発事故の原因になる。さらに、爆発性の高い硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、メチルエチルケトンに引火したのであろう。

 今回の事件では、2014年5月14日の東京都町田市の工場で起きた爆発火災を思い出した。このとき、建物内にあったマグネシウムが水による消火活動を阻んだ。駆け付けた消防隊は延焼しないように周辺の建物に放水するしかなかった。

 「水をかけると爆発の危険がある。消防隊は直接放水ができない状態」。業界団体によると、燃焼中のマグネシウムに水が触れると、水が分解され水素と酸素が発生。爆発を起こしたり、マグネシウムの燃焼を加速させたりすることがある。このため、水による消火は厳禁だった。

 ひょっとしたら水と反応して、水素を発生し発熱する金属マグネシウムなどもあったかもしれない。他には、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなども、水と反応し発熱する金属である。


 シアン化ナトリウムとは何か?

 シアン化ナトリウム(sodium cyanide)、あるいは青酸ナトリウムは青酸ソーダ、青化ソーダとも呼ばれ、工業的に最も主要なシアン化アルカリである。化学的および生理的性質はシアン化カリウム(青酸カリ)に類似する。シアン化水素と水酸化ナトリウムの中和反応によって生成し、水溶液中ではシアン化物イオンとナトリウムイオンに電離する。

 シアン化ナトリウムの用途は、鍍金ほか、工業的に広く用いられる。

 毒性は、脊椎動物がこの物質を摂取するとシアン化物イオンがヘモグロビンの鉄イオンに配位して細胞呼吸を阻害し、さらには細菌以上の動物ミトコンドリアのシトクロム酸化酵素 (COX) 複合体と結合・封鎖し、電子伝達系を阻害することでATP生産量を低下させ細胞死を引き起こすとされる。この点で植物ミトコンドリアはシアン耐性経路であるAOX酵素 (alternative oxidase) を備えるため耐性を持つ。

 毒物及び劇物取締法で毒物に指定されている。経口致死量は成人の場合 200~300 mg/人 と推定されている。

 亜硝酸アミルは、シアン化合物中毒を治療するために処方される。この薬品が気化しやすいことを利用して吸い込ませる方法が主にとられる。15秒おきに15秒間かがせることを、5回繰り返すことにより、シアンはメトヘモグロビンと結合しシアンメトヘモグロビンとなり無毒化される。亜硝酸アミルは、ヘモグロビンをメトヘモグロビンに変えることによって、メトヘモグロビンがシアン化合物と結び付き、毒性のないシアノメトヘモグロビンを形成する。


 シアン化水素とは何か?

 シアン化ナトリウムは酸と反応し、シアン化水素を発生する。シアン化水素は猛毒の気体であり、無色で、「アーモンド臭」を持つ。これは普段口にするナッツ(スイートアーモンド)や杏仁豆腐に使われるアーモンドエッセンスなどの甘い匂いではなく、収穫前の果実または花のものであり、甘酸っぱい匂いである。

 可燃性の気体であり、爆発範囲 (5.6~40.0%) を持つ。毒性、引火性ともに高い。気体のシアン化水素は青酸ガスといい、液体は液化青酸という。水溶液は弱酸性を示し、シアン化水素酸と呼ばれる。気体、液体、水溶液のいずれについても、慣習的に青酸(せいさん)と呼ばれる。この語は紺青に由来する。シアン酸は異なる物質である。

 沸点が常温付近のため、気温が低いと液状、高いときは気体になる。非常に揮発性が高く、低温でも中毒の原因となる。水溶液のシアン化水素酸になった場合は、水分子との高い親和力により液化青酸よりも気化しにくくなる。

 分子は高い極性を有するため液体は比誘電率が非常に高く18℃で118.8であり、イオン性物質に対し優れた溶媒となるが、毒性のため溶媒としての取り扱いは困難である。

 強熱すると高温炎を上げて燃え、窒素と二酸化炭素と水になる。炎色は桃色(『化学辞典普及版』森北出版)・青色(『化学辞典』東京化学同人)・紫色(『実験化学ガイドブック』丸善)と各種の表記があるが、現実には赤紫色と呼べる。このため原子吸光分析で燃料ガスとしてシアン化水素ガスボンベを使用する事がある。

 4 HCN + 5 O2 → 2 H2O + 2 N2 + 4 CO2シアン化水素 + 酸素 → 水 + 窒素 + 二酸化炭素

 純粋な物は安定だが、純度の低い物を長時間放置すると黄色や黒色に変化し爆発性の重合体を生成する。特に水分が10%程度混じっていると50℃程度で重合しやすくなり、またアルカリが混ざっていると室温でも重合する。重合防止剤がない場合は184℃になると急激に重合する(重合時に発熱し、加速される)。これを防ぐには銅粉や硫酸を入れる。

 逆に水の方が多い場合は、加水分解し、ホルムアミドを経てギ酸とアンモニアになる。


 硝酸化合物とは何か?

 「硝酸化合物」は 硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸アンモニウム(NH4NO3)などがあり、酸化剤、火薬の原料として知られている。

 硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸カリウム(KNO3)は、それ自体に火をつけても燃えることはないが、分解して酸素を放出しやすいという特徴がある物質。また、衝撃などで爆発する危険があるので、取り扱いに注意する。

 硝酸カリウムにほかの物質(有機物など)やごみが混ざった状態で加熱すると爆発することがあり、たいへん危険。実験する前に、ビーカーなどの容器にほかの物質やごみがついていないかよく調べ、きれいな容器を使用する。

 放出された酸素が、周りにある可燃物に触れると起きる燃焼反応は、爆発的なものになり大変危険だ。ただ、硝酸ナトリウム(NaNO3)、硝酸カリウム(KNO3) それ自体は燃えないわけだから、まわりから可燃物をなくしてしまえば 燃焼反応を避けることができる。

 また、硝安(硝酸アンモニウム)は、身近にある薬品を混ぜると、爆薬になるので 注意が必要。(肥料の純度でも可能)

 不用意に混ぜると危ない。硝酸アンモニウムは化学肥料として使用されると同時に爆薬の原料である。ナトリウムやカリウム塩よりも爆発力は大きい。

 ある会社で昔、硫酸とアンモニアを反応させて、硫安を作っていたが、反応の過程で、一緒に硝酸アンモニウムも少しだけ出来てしまう。(わずかに入れる触媒の影響)

 あるときに、異常反応が起きて(硝安が原因)で、硫安を造る工場が、大爆発で建物全てが吹き飛んでしまい更地に変わった。もちろん人間も、多人数がバラバラにちぎれてしまった。

 以前、北朝鮮での事故では、貨物列車の衝突事故でなんらかの発火源があり、硝酸アンモニウムに着火して爆発したもので、搭載量が大量にあったので大惨事になったと思われる。

 また、第5類危険物として指定されている ニトログリセリンといった硝酸エステルの種類は、それ自体に含まれた酸素を使って燃焼反応を起こすので いったん火がつくとカンタンには消化することができない。 大変危険だ。

 「硝酸化合物」はむかしの火縄銃の発射薬と同じである。当時の火薬は硝酸カリウム(KNO3)・硫黄・木炭粉を混ぜたもの。これは黒色火薬と呼ばれるもので 着火しなければ何もなく安全だが着火すると爆発を起こす。

 むかしの日本で硝酸カリウム(KNO3)を どうやって作ったかというと尿と土を混ぜて、床のしたの敷いてあとは硝酸ナトリウムに変化するまで長い時間まつという方法をとっていた。


 メチルエチルケトンとは何か?

 メチルエチルケトン(methyl ethyl ketone、MEK)は、ケトンに分類される有機溶媒の一種。示性式は CH3COC2H5、IUPAC命名法では 2-ブタノン (2-butanone)、もしくはエチルメチルケトン (ethyl methyl ketone) と表される。

 消防法による危険物(第四類 引火性液体、第一石油類(非水溶性液体)(指定数量:200L))に指定されている有機化学物質。引火点 -9 ℃、沸点 79.5 ℃、発火点 404 ℃。 無色の液体で、特異な匂いがある。水にかなり溶けるが、水との混合物は均一な外観を維持しない。塗料溶剤や合成樹脂の原料となる。

 メチルエチルケトン(MEK)は、透明、無色、揮発性で引火性の高い、アセトン様の臭気を有する液体である。それは常態では安定であるが、長期保管では爆発性の過酸化物を生成する。また、MEKは、空気と爆発性の混合物をつくる。

 MEK水にきわめてよく溶け、多くの有機溶剤と混和し、水および多くの有機液体とアゼオトロ ープ(共沸混合物)を生成する。大気中のMEKは遊離基をつくり、光化学スモッグ 生成に導く。大気・水・生物学的試料・廃棄物・その他の物質中のMEKの環境内濃度の測定にはいくつかの分析方法が存在する。

 より鋭敏な方法では、MEKは固形吸着剤上、あるいは2,4‐ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)の誘導体として捕捉濃縮される。吸着されたMEKおよび他の蒸発性有機化合物類は脱着され、ガスクロマトグラ フィーで分離され質量分析計あるいはフレームイオン化検出器により測定される。

 誘導されたMEKは高速液体クロマトグラフィーにより関連化合物類から分離され、紫外部吸収法により測定される。固形廃棄物および生物学的試料のような媒体中では、 MEKは溶液抽出あるいは蒸気蒸留などの方法により、最初に基質(substrate)から分離されねばならない。大気中の高濃度のMEKは赤外吸収法により継続的なモニタ ーが可能である。

 その検出限界は、空気中では3μg/m3、飲料水中では0.05μ g/l、その他の種類の水では1.0μg/l、全血中では20μg/l、尿中では100μg/lである。


参考 NHK news: 中国 天津の爆発 化学物質に放水がきっかけか


らくらく突破 改訂新版 乙種第4類危険物取扱者 合格テキスト
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中国新化学物質環境管理弁法―改正のポイントと実務対応の基本
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