日本では珍しい炭酸泉

 天然炭酸泉とは、炭酸ガスが溶け込んだ状態で天然に湧き出た温泉のことを言う。炭酸ガスには、高温のお湯に大量に溶けないという性質があることから、泉温が高い日本の様な火山活動が活発な国では、高濃度に炭酸ガスを含んだ天然の炭酸泉に出会うことは非常に少ない。

 しかし、その中でも大分県竹田市直入の長湯温泉や白水鉱泉や、青森県にあるみちのく温泉は、日本で最も良質な天然炭酸泉が湧き出ることで有名だ。



 なぜ、ラムネのように炭酸が沸く水が存在するのだろうか?

 理由は簡単。火山ガスの主成分が二酸化炭素だからだ。火山ガスには他に水蒸気、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)も含まれる。また、通常は少量の水素ガス、一酸化炭素、硫化水素、塩化水素が含まれる。

 日本の温泉は高温なので炭酸ガスを高濃度に含むことはできないが、世界ではけっこう多い。泉温の低いヨーロッパ(特にドイツ)で、高濃度の炭酸泉が多く湧き出しており、古来から「心臓の湯」と呼ばれ、伝統的医療として人々に広く親しまれてきた。

 なかには、炭酸ガスが大量にたまり、大爆発を起こす場合もある。これを「湖水爆発(Limnic eruption)」と言う。そして、火山湖から二酸化炭素が流れ出ることにより、周辺に甚大な被害を与える。カメルーンのニオス湖で発生したものが有名である。


 ニオス湖

 ニオス湖(Lake Nyos)はカメルーンの北西州に所在する火口湖である。カメルーン火山列上の活火山であるオク山の頂上に位置する。

 火山岩が形成した天然ダムが湖水を堰きとめている。 湖底の地下にはマグマ溜まりがあり、湖水中に二酸化炭素 (CO2) を放出している。このような形で二酸化炭素を含有する湖は、ニオス湖のほかには、同じくカメルーンのマヌーン湖(英語版)とルワンダのキブ湖の2例しかない。

 オク火山帯に位置するニオス湖の外周はほぼ円形のマールであり、溶岩流が地下水によって急激に冷やされたことによる爆発孔が元となっている。

 ニオス湖のマールは400年ほど前の噴火の際に形成されたと考えられており、周囲長1,800m、深さ208mである。この地域では数百年前から火山活動が活発であり、プレートテクトニクスによって南アメリカとアフリカが分断された約1億1千年前から、やや緩やかではあるものの西アフリカもまた少しずつ浮き上がりつつある。

 この動きはムベレ地溝帯として知られており、地殻の膨張のため、カメルーンを貫く一本の線に沿ってマグマが地表に湧き出してくる。カメルーン山もまたこの断層にある。ニオス湖は古い溶岩流と火砕流の残骸に囲まれている。

 湖水は火山岩からなる天然ダムによってせきとめられている。もっとも狭隘なところでは、壁面の高さが40m、幅が45mほどである。


 ガスの飽和

 ニオス湖は二酸化炭素で飽和していることが確認されている世界で3つの湖の中の1つである(他2つは、ニオス湖から100kmほど離れた場所にあるマヌーン湖(英語版)と、ルワンダにあるキブ湖)。

 この地帯の地底に存在するマグマ溜まりからは大量の二酸化炭素が発生しており、これが湖底から染み出してニオス湖の湖水に9千万トンの二酸化炭素となって溶け込んでいる。

 ニオス湖は温度によって分けられる複層構造を持っており、水面に近い層の水ほど密度が低く、湖底に近い層の水ほど冷たく密度が高い。長期間にわたって染み出し続けた大量の二酸化炭素は湖底付近の水に溶け込んでいる。

 平時、湖は安定しており、二酸化炭素は深層に溶け込んだ状態でとどまっている。しかしながら、時が経るにつれて湖水は二酸化炭素で過飽和しはじめ、地震や噴火などの出来事をきっかけとして、大量の二酸化炭素が突発的に噴出してくる可能性を持ち始める。


 1986年の災害

 二酸化炭素の突発的な噴出は1984年にマヌーン湖でも発生し、地元の住民37人が死亡したが、同様のケースがニオス湖において発生しうるとは予見されていなかった。しかしながら、1986年8月21日、ニオス湖で湖水爆発が発生し、それが引き金となって160万トンの二酸化炭素が大気中に放出された。

 二酸化炭素は近隣の2つの渓谷に勢いよく流れこみ、20km 圏内にいた約1,800人と家畜3,500頭が二酸化炭素中毒または窒息で死亡した。また、約4,000人の住民がこの地域から避難したが、その多くがガスを原因とする呼吸障害や火傷、麻痺などを訴えた。

 何が原因となってこれほどに大規模なガスの噴出が起きたかは不明である。大部分の地質学者は地すべりが原因と推定しているが、中には小規模な噴火が湖底で起きたためと考えている学者もいる。第三の説として、湖の片側に偏って雨が降ったことが湖水の対流を引き起こしたという説もある。

 いずれの説を採るにせよ、その結果として二酸化炭素が飽和した湖底付近の水が上層の水と急激に混ざり合って水圧が低下し、それまでの水圧によって湖水中に封じ込められていた二酸化炭素が発泡し、大気中に放出された。

 噴出したガスは1km3にのぼると考えられる。二酸化炭素は空気よりも重いため、山の斜面に沿って流下しながら周囲の空気を追い出し、放散するまでの間に住民と家畜を窒息死させた。

 通常時、湖水の色は青く見えるが、ガスが噴出した直後は湖底部の鉄を多く含んだ水が水面近くに上昇して空気に触れ酸化したため、赤く変化した。水位が約1m下がったのは、それだけの量のガスが放出されたことを示す。ガスの噴出は同時に湖水の氾濫をも引き起こしたものと思われ、近くの樹木はなぎ倒されていた。


 ガス抜きの試み

 災害規模の大きさから、どうすれば同様の災害を防止できるかという研究が大いになされた。湖水に含まれる二酸化炭素の推定量から、ガスの放出は10年から30年のサイクルで発生すると考えられた。もっとも、近年の研究では天然ダムの決壊にともなう湖水の流出がもし起きた場合、湖水中に二酸化炭素を封じ込めている水圧が減少し、ガスの放出がもっと早い時期に起きる可能性があることも指摘されている。

 そこで、湖の深層に5本のパイプを通し、コントロール可能な規模でのガスの放出を継続的に促すという対応策が考案された。国際的協力により1本が完成し、湖の深層の水をこのパイプを通して水面近くに吸い上げることにより人為的に発泡させ、湖水の二酸化炭素が少量ずつ放出されるようになった。将来的には、二酸化炭素の最大量を減少させることで湖水爆発を完全に防止することが期待されている。ガス抜きは2001年から順調に続けられている。

 ニオス湖の惨劇の後、アフリカの湖で他に似たような現象を引き起こす可能性があるものがないかどうかが調査された。その結果、ルワンダのキブ湖という、ニオス湖の約2000倍もの広さがある湖もまたガス過飽和状態にあることが発見され、地質学者たちは約1000年ごとにガス災害がおきている痕跡を発見した。

 近隣のニーラゴンゴ山が2002年に噴火し、その溶岩流が湖に流れ込んだとき、ガス噴出の恐れが高まったが、幸いにも、二酸化炭素が溶け込んでいる層に到達する前に溶岩が冷えて固まったため、大事には至らなかった。


 天然ダムの劣化

 2005年8月18日、ヤウンデ大学の地質学者であるイサーク・ニィラは、湖水を堰きとめている火山岩の天然ダムが近い将来に崩壊する恐れがあることを発表した。ダムは湖水の侵食を受けており、上部では穴や空洞ができており、下部ではすでに水漏れがはじまっていた。

 かつてニオス湖形成の原因となった地震活動が、今度は湖の外壁を崩壊させる可能性があり、それに伴って流出する5千万立方メートルの水が洪水となって下流地域であるカメルーンの北西州、ナイジェリアのタラバ州とベヌエ州に襲い掛かる結果となる。ニィラの推定によれば、被害想定地域に住む人々は1万人を超す。

 カメルーン政府は、地質鉱山研究所のグレゴリー・タンユィの談話を通じてダムの劣化を認めたが、それが今日明日の脅威をもたらすものではないと発表した。 オラフ・ヴァン・ドゥインとニサ・ナーモハミッドが率いる国際連合の調査チームは、2005年の9月に3日以上かけて調査を行い、ダムの縁が傷んでいるのを確認した。ヴァン・ドゥインは10年から20年の間にダムの崩壊が起きると考えている。

 ダムの崩壊を回避する方法のひとつは、ダムを補強することである。もっとも、これはかなりの時間とかなりの費用が必要とされる。また、工学技術者は水路の掘削を模索している。湖水の水位を20m下げることができればダムにかかる水圧は劇的に減少する。


参考 JICA: 湖水爆発の謎に挑む


湖水爆発の謎を解く カメルーン・ニオス湖に挑んだ20年
クリエーター情報なし
岡山大学出版会
本当にいい!炭酸泉―医療・美容・介護の現場で大活躍。スポーツ界でも愛用 (B・B MOOK 464 スポーツシリーズ NO. 339)
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ベースボール・マガジン社

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