悪魔の兵器

 戦場となった「カンボジア」では1979年以降、地雷や不発弾による死者は2万人近くにのぼり、けが人は約4万4千人に達している。

 カンボジアに住む6才のビジット君。その日も同じように、お兄ちゃんやいとこたちと鬼ごっこをして遊んでいた。そして、お兄ちゃんたちが駆けていった場所を通った瞬間、彼の右足は吹き飛ばされた。

 病院で悲しみにくれる父親と母親だったが、ビジット君本人だけは普段と変わらない様子。自分の右足が事故現場にまだ残っていると思っていた。「お母さん、ぼくの足を探してきて・・・」と言う彼の言葉は、母親を何度も悲しませた。



 地雷の問題は深刻だ。一度戦争が起こると、戦場一面に敷かれてしまう。戦争が終わっても取り除くのが困難だ。世界では正確な数は不明だが、いまだに「7000万個とも1億個とも言われる対人地雷が埋設」されている。

 地雷は別名「悪魔の兵器」とも呼ばれる。その理由は、1個わずか3ドルで手軽にできてしまうこと。他の兵器と違い、あえて「人を殺さないこと」を目的に作られていること。殺してしまうよりも負傷させたほうが敵兵力を奪うことにつながる・・・さらに障害者が増えれば働けない人々が増え、その国の経済力が低下するからである。

 地雷除去の方法は金属探知機により、1個1個人の手で行われる。よく、「機械で一気に撤去したら早いのでは?」という質問がある。

 確かに地雷除去機の開発により格段に作業スピードは上がることになったが、地形・地盤の状況によっては機械が入ることのできない地域は多い。カンボジアも亜熱帯地方なだけに、多くの樹木が茂り密集している。また、地雷撤去後の土地で安心して生活するためには1%の危険もあってはならない。「だいたい撤去したからたぶん大丈夫だろう」と言われた場所に、あなたは入って生活できるだろうか?

 人による慎重なチェックと除去による100%の安全を確保する撤去作業が不可欠なのである。 気温40度に近い猛暑の中ヘルメットとプロテクターを身につけ、一瞬の気も抜けない命がけの作業をディマイナー(撤去隊員)たちは毎日続けている。


 ヒーローラッツがカンボジアを救う

 今回、救世主が現れた。それは「アフリカオニネズミ」だ。人の手では通常1日かかる地雷調査が、訓練されたネズミによると、わずか1時間で調査できる。「アフリカオニネズミ」と呼ばれるアフリカ原産のネズミを訓練し、その優れた嗅覚を活用して、地雷を探知・除去する。厳しい訓練を乗り越え、基準に合格したネズミたちは「ヒーローラッツ」と呼ばれている。

 ベルギーのAPOPOは、ベルギー人社会的起業家、バート・ウィートジェンスによって創設された、タンザニアに本拠を置く社会的企業(NPO法人)である。ウィートジェンスは子供のころネズミを飼っていた経験から、その嗅覚と学習能力の高さを熟知していた。

 カンボジアで地中に埋まった地雷の探知に、アフリカオニネズミが大活躍している。このネズミは、金属探知機を持った人間が数日かかかるところ、わずかな時間で地雷を見つけ出せるという。

 ベルギーの非営利組織(NPO)APOLOにタンザニアから連れてこられ、生後4週間から地雷探知用に訓練されたネズミたちだ。カンボジアの地雷除去兵が手にするロープの先につながれ、草むらに放たれると、地雷に含まれるTNT火薬を嗅ぎ分ける。地雷除去チームの責任者は「彼らは人命救助ネズミだ」と話す。

 カンボジア政府によると1979年以降、地雷や不発弾による死者は2万人近く、けが人は約4万4000人に上る。1970年代のクメール・ルージュによる虐殺など、数十年に及ぶ内戦の名残りで国内には今も地雷が多く埋まり、身体に障害を負う人が後を絶たない。

 ネズミを使う地雷探知の最大の利点の一つは、体重が軽いため、地雷に近づいても爆発を引き起こさないことだという。

 世界最悪レベルといわれる大量の地雷が埋設されているカンボジアで、ネズミが地雷除去の切り札になるかもしれない。同国の地雷対策センターがネズミを使った地雷除去の取り組みを進め、効果を上げ始めている。「人命救助ネズミ」と呼ぶ人もいるという。

 ロイター通信が伝えたところなどによると、このネズミは、優れた嗅覚を持つ「アフリカオニネズミ」という種類で、地中に埋まった地雷の火薬をかぎ分ける能力を持っており、金属探知機を持った人間が数日かかかるところを、わずかな時間で地雷の場所を特定できるという。

 ロイター通信によると、同国では1979年以降、地雷や不発弾による死者は2万人近くにのぼり、けが人は約4万4千人に達しているという。


 ヒーローラッツのアイデア

 APOPOは、ベルギー人社会的起業家、バート・ウィートジェンスによって創設された、タンザニアに本拠を置く社会的企業である。アフリカオニネズミと呼ばれるアフリカ原産のネズミを訓練し、その優れた嗅覚を活用して、地雷を探知・除去する事業を展開している。厳しい訓練を乗り越え、基準に合格したネズミたちはヒーローラッツと呼ばれている。

 ヒーローラッツの特色は、アフリカ地域が抱える人道上の問題に対し、アフリカにある資源を用いながら、アフリカの人間の手によって育成・展開可能な、低コストで、しかし他の地雷探知技術と同レベルの成果を上げることが期待される、全く新しい地雷探査の技術を提供しているという点である。

 近年では、訓練されたネズミの嗅覚を利用して、人々の唾液から結核菌を検出する技術の開発も進められており、既にタンザニアの5か所の病院にて実用段階に入っている。ヒーローラッツは、人間社会が抱える人道的な問題、危険に対して、ネズミの嗅覚という新しい解決を提案するものである。

 APOPOの創業者であるバート・ウィートジェンスは、幼少の頃、ネズミを非常にかわいがり、これをペットとして飼っていた。成人するに従って、ネズミへの関心は薄れてはいったものの、彼らと遊んだ思い出は、常に胸の奥深くにあったという。年を経て、残留地雷が抱える問題の深刻さを知るようになったバートは、幼少の頃に飼っていたネズミのことを強く思い出すようになる。

 というのも、ネズミが持っている非常に鋭敏な嗅覚と、反復運動を通じて訓練を積ませることの容易さを組み合わせれば、訓練されたネズミに地雷に含まれる火薬のにおいを特定させるという方法で、地雷探知・除去事業に貢献できるのではないかと考えたからである。

 当初はベルギーで研究を始めたバートであったが、やがてタンザニアのモロゴロ(ソコイネ大学内)に本拠を移すようになる。残留地雷に苦しむアフリカの人間が、先進国の設備の援助に頼らずとも、自分たちで地雷の発見・除去作業ができないか、ローカライゼーションすることが重要ではないかと考えるに至ったからだと言われる。

 ネズミを使った地雷探知・除去作業は、施設での研究、トレーニングを経て、遂に隣国モザンビークで行われた実地作業において、実際の地雷を発見するに至る。以降、順調に規模を拡大し、これまでに約130万平方メートルの調査を完了し、住民たちに安全な土地を取り戻すことに貢献している。これは、甲子園球場100個分の広さに相当する。

 地雷探知事業での成功を背景に、アフリカが抱える別の問題にも、ネズミの嗅覚を活用する取り組みが進められている。サブサハラ地域において年間200万人が亡くなると言われる結核である。バートが開発した手法は、訓練されたネズミが人間の唾液中から結核菌を発見するというものであり、病院から集められた唾液サンプルの上をネズミが歩いて判断するというものである。

 唾液全体における結核菌のにおいの有無をネズミに判断させるため、一部のみを人間が顕微鏡を使った視覚で判断する場合に比べて、結核菌の見落としが少ないという利点がある。既に実用段階にあり、タンザニアの5つの病院で、ネズミが結核判定の二次検査に用いられている。毎週10~15件の、医師が見落とした結核菌の含まれる唾液サンプルが見つかるという。


 ネズミを使役動物に

 使役動物(しえきどうぶつ)とは、耕作や交通手段などの、人間の作業のために使われる動物である。盲導犬のように家族同然の動物であることもあれば、材木輸送に用いられる象のように半家畜化された動物であることもある。乳の使用もされ、またその動物が死亡すると肉や皮革なども利用される。軍用犬のように戦争で使役する動物もいる。

 動物に軍事訓練を施す、ということは昔から繰り返されて来たが、近年では地雷撤去にネズミを用いる方法が注目を浴びている。ネズミは犬と比べても同等かそれ以上の嗅覚があり、地雷が発するわずかな匂いを的確に捉えることで地雷を発見するとのこと。

 地雷の撤去は現在も手作業が基本であり、莫大なコストと時間がかかるとされているが、ネズミはこの問題を解決できるのだろうか。

 地雷は非常に安価かつ短時間で散布することが可能なうえに、完全な撤去と処理には巨額のコストに長い時間が必要ということで、カンボジアなどの東南アジア諸国や今も紛争が続くアフリカを中心に大きな問題となっている。

 しかし、地雷撤去のための特殊な重機が開発されるなど機械化も進められているが、撤去は基本的に手作業が中心。危険な状況の中細かい操作を求められるため気力・体力ともに大変な作業となり、なかなか効率をあげることができなかった。

 そこで、ベルギーとタンザニアの研究者達によるジョイントベンチャー、APOPOは地雷の撤去にネズミの嗅覚を用いることを提唱、特別な訓練を施したネズミを供給することでこの問題を解決しようとした。

 ネズミの嗅覚はすぐれており、イヌでも探知できない爆発物の匂いをかぎ取ることが可能、万が一地雷に触っても体も軽いので爆発しにくい上に、費用も安く、小さくて持ち運びがしやすい上に環境や飼い主が変っても適用しやすい、とハードな環境で運用されがちな地雷撤去にはまさにうってつけ。速度もかなりのもので、手作業の2日分に相当する100平方メートルを30分でチェックすることが可能とのこと。

 英国で訓練されているネズミは、一日あたり20分間訓練が実施されている。地雷が見つかったらこのようにガリガリとひっかいて知らせる。体重が軽いために地雷が反応しにくい。

 また、その優れた嗅覚を利用して、結核菌などの病原菌を探知するのにも使えないかどうかの研究と訓練が進められているそうだ。効率は確かに上がるのだが、心情的にはかなり残酷な用い方で気がとがめるのもまた事実。

 人間であれ動物であれ命を無駄に失わずに済むような方法が開発されること、また何より地雷のような兵器が使われずに済むような平和な世界になることを祈ってやまない。

 使役動物の歴史は農業よりも古い可能性があり、狩猟採集社会において犬が利用されていた可能性がある。世界中で数多くの動物が飼い主のために働いている。家畜となっている種、特に馬や犬などでは、特別な目的と環境に適するように品種改良が行われることがある。


 アフリカオニネズミとは何か?

 アフリカオニネズミ(Cricetomys emini)は哺乳類(Mammalia)、ネズミ目(Rodentia) アフリカオニネズミ科(Cricetomys Waterhouse)で、サブサハラ・アフリカに生息する。

 体長25~45cm、鱗状の皮膚で覆われた尾の長さは36~46cm、体重は1.0~1.5kgと大型のネズミ類である。

 英名「Giant pouched rat(ジャイアント・ポーチド・ラット)」。ラットと付くがネズミ科のラット類(クマネズミ属)との関連は薄く、むしろアフリカ大陸やマダガスカル島に分布するアシナガマウス科の放散した系統に含まれる。

 大きな頬袋(ポーチ)を持つことからその名が付けられた。 繁殖形態は胎生。メスは年に10回まで出産することが出来るとされる。妊娠期間は27~36日、一度に1~5匹の子供を産む。

 メスの乳房の数は8つ。 夜行性で雑食性。主に植物と無脊椎動物を餌とし、特に椰子の実を好んで食べる。他のネズミやウサギなどと同様に食糞をする。人に懐きやすくペットとして飼うことができる。また、アフリカ諸国では食肉用の動物としても重要な存在でもある。


参考 カンボジア地雷撤去キャンペーン: 地雷の恐ろしさ被害にあった子供たち 産経WEST:カンボジア地雷除去切り札はネッズミ


地雷を踏んだらサヨウナラ (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社
地雷原の子どもたちと共に―カンボジア地雷撤去キャンペーン活動の軌跡
クリエーター情報なし
海鳥社

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