再生医療とは何か?

 再生医療とは人体の組織が欠損した場合に幹細胞などを用いることによりその機能を回復させる医療行為である。この医学分野を再生医学(Regenerative medicine)という。

 例えば、カンボジアでは、戦争中に埋められた残存地雷のために、多くの人々が手足を失っている。現在の医学では一度失われた手足は二度と戻らないが、将来的には再生した手足を蘇らせることができると期待されている。

 再生医療を行う手法として、クローン作製、臓器培養、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)の利用、自己組織誘導の研究などがある。



 自己組織誘導については、細胞と、分化あるいは誘導因子(シグナル分子)と、足場の3つを巧みに組み合わせることによって、組織再生が可能になるとみられており、従来の材料による機能の回復(工学技術にもとづく人工臓器)には困難が多く限界があること、臓器移植医療が移植適合性などの困難を抱えていることから、再生医学には大きな期待が寄せられている。

 今回、米国オハイオ州立大学で、ほぼ完全な人間の脳、実験室で培養することに成功した。これは自己組織誘導の方法で皮膚細胞から作成した。極小の人間の脳をほぼ完全な形で実験室での培養に成功したとの研究結果で、神経系疾患の治療に大きな進歩をもたらす可能性もあるという。

 この分野では2014年6月には、米ジョンズホプキンス大学医学部で、培養皿内で幹細胞を誘導し、光を感知する極小の網膜を作製することに成功している。

 また、2014年10月には、米シンシナティ小児病院医療センターが、幹細胞から人間の「胃」作製に世界で初めて成功したとの報告がある。


 ほぼ完全な人間の脳、実験室で培養成功

 米オハイオ州立大学(Ohio State University)の報告によると、小さな脳の培養に成功したのは、同大のルネ・アナンド(Rene Anand)教授。脳の成熟度は、妊娠5週の胎児に相当するという。「それは発生中の脳のように見えるだけでなく、多様な細胞型、1個の脳に匹敵するほぼ全ての遺伝子の発現もみられる」と同教授は述べている。

 オハイオ州立大によると、シャーレの中でエンドウ豆ほどの大きさになったこの脳には、多種多様な細胞や脳と脊髄の主要部位の全てが含まれているが、脈管系は存在しないという。人間の皮膚細胞から培養されたこの小さな脳については、これまでに培養されたもののなかで、最も完全型に近い脳だと主張されている。

 重大な研究成果は、査読学術誌に論文が投稿され、主張の内容に対して独立した評価がなされてから公表されるのが通例となっているが、アナンド教授は、8月18日に米フロリダ(Florida)州で開催された軍の保健関連イベントで、今回の研究成果を発表した。

 同大によると、アナンド教授は、脳や神経系の疾患に対する治療法を開発する過程で、培養された脳を用いることにより、薬剤が精神に及ぼす影響をより簡単で倫理的な実験で調べることができるようになることを期待しているという。同教授と共同研究者は、脳培養システムを製品化することを目的とした新興企業をオハイオ(Ohio)州に共同で設立している。

 アナンド教授は、自身の研究に関する同大の報告書の中で「この脳モデルの効力は、人間の健康に非常に明るい未来をもたらすものだ。なぜなら、治療法を試験・開発するための選択肢として、齧歯(げっし)動物を用いる以外の、より的確で関連性の高い選択肢が得られるからだ」と指摘している。

 また、これは神経科学研究全般にとっても恩恵となる可能性がある。この脳を利用することで、ゲノム研究においては、現在用いられているコンピューターモデルではない実践型のアプローチを実行できるからだ。このことについては、「数学的相関法や統計的手法はそれ自体、因果関係を特定するには不十分だ。実験システム、つまり人間の脳が必要なのだ」と説明している。(AFPBB News)


 培養皿で「ミニ網膜」作製に成功、米研究

 培養皿内で幹細胞を誘導し、光を感知する極小の網膜を作製することに成功したとの研究報告が2014年6月10日、発表された。この成功で、退行性の失明の回復に向けた取り組みがまた一歩前進したという。

 研究を行った米ジョンズホプキンス大学医学部(Johns Hopkins University School of Medicine)などの科学者チームによると、今回の研究は、2006年に発見されて以来大きな関心を集めてきた「再プログラム化された細胞」の利用における重要な技術的功績の1つだという。

 同大のバレリア・カント・ソレル(Valeria Canto-Soler)氏は「網膜の構造組織を持つだけでなく、光を感じる能力も有する小型のヒト網膜を培養皿内で作製した」と述べている。

 研究は、眼球の最も内側にある、光を感受する網膜への損傷を回復するための移植用細胞作製という目標に向けた最新の進歩となった。

 幹細胞とは、人体のさまざまな組織に進化または分化する未発達の細胞で、2006年までは、この早期の胚から採取される幹細胞に大きな注目が集まっていた。ただ非常に多用途である一方、倫理面での問題では賛否両論となっていた。

 しかし、いわゆる人工多能性幹細胞(iPS細胞)が日本の研究で発見されて以降、状況は一変した。iPS細胞は、様々な組織や臓器の細胞に分化することのできる、再プログラム化された成熟細胞だ。

 今回の研究では、光を吸収して処理する特定の光受容細胞の複合層を形成するよう、iPS細胞を誘導して網膜に適した構造を作らせた。

 これらの細胞がどのようにして信号を脳に伝えるかを理解するためには、今後さらなる研究を重ねる必要がある。培養皿での実験では目覚ましい成果となったが、人間に対する臨床試験で有効性を確認してからでなければ、これらを医療行為に組み入れることはできない。

 カント・ソレル氏は、プレスリリースの中で「培養皿で作製した網膜は、脳が解釈して画像化できるような視覚信号を作り出すことができるだろうか。おそらくはできないだろう。ただ、これは申し分ない滑り出しだ」と述べている。(c)AFP


 幹細胞から人間の「胃」作製に成功、米研究

 幹細胞を使って、ヒトの胃組織の小さな塊である「ミニ胃」の作製に世界で初めて成功したとの研究論文が2014年10月29日、英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。この成果により、がん、潰瘍、糖尿病などの研究に拍車がかかる可能性があるという。

 米シンシナティ小児病院医療センター(Cincinnati Children's Hospital Medical Center)などの研究チームによると、実験室のペトリ皿で培養された「胃オルガノイド(組織構造体)」と呼ばれるこの組織は、「胃のミニチュア版」ともいえるもので、未成熟な細胞で構成されているという。

 論文によると、これらは胃細胞に進化するように誘導された多能性幹細胞でできているとされる。多能性幹細胞を「分化」させる、すなわちある細胞をある臓器になるよう誘導するには、その分化する期間である「胚発生過程」で生じる化学的段階を特定する必要がある。

 この化学的段階をペトリ皿で再現したところ、多能性幹細胞は、気道と消化管を形成する細胞の「内胚葉細胞」へと変化した。そして内胚葉細胞を生化学的に誘導し、粘液やホルモンを分泌する胃領域の「前庭部」の細胞が現れた。

 ただ今回作製された胃オルガノイドはまだ予備的な段階にあり、移植用の組織や完全な機能を備えた胃からは程遠いものだという。それでもマウスを用いた初期試験は、胃オルガノイドが消化性潰瘍で生じた胃の穴をふさぐ「継ぎ当て」として機能する可能性があることを示唆している。

 胃オルガノイドはまた、立体構造を形成するよう幹細胞を誘導する方法において重要な前進をもたらしたと研究チームは指摘している。さらに「ミニ胃」として、がん、糖尿病、肥満症などの疾患を研究するための試験台として利用できると、研究チームは声明で述べている。

 シンシナティ小児病院医療センターに所属する発生生物学の研究者、ジム・ウェルズ(Jim Wells)氏は「人間の胃の病気を研究する良い方法はこれまで存在しなかった」「人間の胃は、他の動物の胃と大きく異なっている。今回、ペトリ皿内で作製した胃組織の異種細胞およびその構造と配置は、胃の中で通常みられるものと全く同じだと言える」と述べている。(c)AFP


 世界で初めて臓器を自己再生させることに成功

 分裂・分化することでさまざまな細胞に成長する可能性を秘めた幹細胞から人工的に臓器を作り出す研究が進む中で、正常に機能するよう臓器を自己再生させることに世界で初めてイギリスの研究チームが成功した。

 世界初の臓器再生に成功したのはイギリス・エジンバラ大学の研究チームで、この成果は2014年8月24日のNature Cell Biologyで発表されている。

 エジンバラ大学Medical Research Council centreのクレア・ブラックバーン博士の研究チームは、マウス胚性線維芽細胞(MEF細胞)を遺伝的に改変してFOXN1タンパク質を発現させ免疫作用を持つ胸腺というリンパ器官の幹細胞様組織に導入することで、衰えた胸腺を再生させることに成功した。この再生した胸腺はT細胞を作り出し正常な臓器として完全に機能したとのこと。

 これまでもオーストリアの研究チームがES細胞や皮膚細胞を使って人間の脳細胞を増殖させ成長させることに成功するなど、幹細胞から人工的に臓器の細胞を作ることには成功していたが、臓器を正常に機能させることはできていなかった。そのため、今回、エジンバラ大学の研究チームが作り出した胸腺は世界で初めて「正常に機能する」人工の臓器ということになる。

 世界で初めて臓器を自己再生させることに成功したブラックバーン博士は「とてつもなくエキサイティングなことです」と感想を述べた。

 胸腺は臓器の中では比較的単純な構造を持つものだと言えるが、この再生技術を他の臓器や人体で用いるためには、細胞の増殖プロセスを制御して癌細胞化することを防ぐ仕組みの開発などが必要であることから時間がかかるとのこと。

 しかし、機能の衰えた胸腺を人工的に再生できれば、老齢に伴い胸腺が縮小し免疫機能が低下する症状を克服できたり、生まれながら胸腺が機能しない子どもが骨髄移植をせずに済んだりするため非常に大きな期待が寄せられている。

 ブラックバーン博士は今回の成果について、「非常にエキサイティングな進歩であり、再生医療の広い分野に応用できる可能性がある」と述べており、再生医学のさらなる進歩が期待できそうだ。


 再生医療の現状と未来

 再生医療とは人体の組織が欠損した場合に幹細胞などを用いることによりその機能を回復させる医療行為である。この医学分野を再生医学(Regenerative medicine)という。

 再生医療を行う手法として、クローン作製、臓器培養、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)の利用、自己組織誘導の研究などがある。

 将来的には遺伝子操作をした豚などの体内で人間の臓器を養殖するという手法も考えられている。

 自己組織誘導については、細胞と、分化あるいは誘導因子(シグナル分子)と、足場の3つを巧みに組み合わせることによって、組織再生が可能になるとみられており、従来の材料による機能の回復(工学技術にもとづく人工臓器)には困難が多く限界があること、臓器移植医療が移植適合性などの困難を抱えていることから、再生医学には大きな期待が寄せられている。

 胚性幹細胞(ES細胞)の作成には受精卵を用いるといった倫理的な問題も伴うことから、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らによる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究成果が、世界から注目されている。

 現在、病気は薬や手術などで治療されているが、完治するには限界がある。ところが再生医療は病気を完治させる可能性があることから、最近大変注目されている。

 例えば、国内の29万人に上る腎透析の患者さんは、もはや薬や手術などで治療できないほど腎臓の機能がひどく障害を受けているが、腎臓を再生することができれば、健康な方と同様の腎臓の機能を長い年月に渡って発揮することができるようになる。


 再生医療で注目される細胞

 それでは、再生医療の最近の実例について紹介する。 最初に、再生医療に使われる細胞の説明をする。

 現在、体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞の3種類の細胞があり、いずれもどういう細胞になるかまだ決まっていない大元の細胞、すなわち幹(かん)細胞と呼ばれている。

 体性幹細胞は皆さんの骨髄の中にいる幹細胞である。骨髄から取り出した体性幹細胞を体内へ投与すると、障害を受けている臓器へ届いた後、その臓器と同じ細胞へ変化(分化といいます)して増え、臓器が再生される。

 ES細胞は受精卵から作ることができる幹細胞で、試験管の中で肝臓や心臓など様々な細胞へ分化させて、場合によっては組織や臓器まで作って、患者さんに移植する。


 世界をリードする日本のiPS細胞

 iPS細胞は、皮膚などの細胞に遺伝子などを入れて作る幹細胞で、ES細胞と同じように様々な細胞へ分化させることができる。

 まず体性幹細胞の実例だが、肝硬変の患者さんの骨髄の中にいる幹細胞を取り出し、点滴で体内へ投与すると、線維化などで障害を受けている肝硬変部位へ届いた後、正常な肝臓の細胞へ分化して増え、肝臓が再生される。

 肝臓の機能の指標であります血清アルブミンは移植後から上昇しており、機能性をもった肝臓の細胞が確かに再生していることが明らかとなった。

 次に、iPS細胞を利用した再生医療の先行事例である。加齢黄斑変性は高齢化社会の進行に伴い、患者さんが急増している病気である。眼底の光を感じる網膜の中心のもっとも鋭敏な場所である黄斑部が、加齢(老化)によって出血や水がたまり、視力が低下する進行性の病気だ。

 加齢黄斑変性症の患者さんの皮膚細胞を取り出し、遺伝子などを入れてiPS細胞を作る。その後、試験管の中で網膜色素上皮細胞へ分化させる。この網膜色素上皮細胞をシート状に作製し、加齢黄斑変性症の患者さんの網膜へ移植する。現在、理化学研究所で開発が進められており、2013年に臨床研究が開始予定だ。

 さらに、iPS細胞は医薬品の候補となる化合物の有効性や毒性の評価にも応用されている。例えば、難病の患者さんの皮膚などの細胞に遺伝子などを入れてiPS細胞を作製した後、病気の原因となる病態細胞へ分化させることができる。

 また、正常な方からも同様の方法でiPS細胞を作製した後、正常な肝臓の細胞や心筋細胞へ分化させる。これらの細胞に医薬品の候補となる化合物を加えて、病態細胞に対する有効性の評価や、正常な肝臓細胞や心筋細胞に対する毒性の評価を行う。

 その結果、研究の初期段階で、ヒトの細胞を用いて、医薬品候補物質の有効性や毒性の評価が可能となり、医薬品の開発促進と安全性向上が図られる。

 iPS細胞の研究は世界中で激化しているが、京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞基本特許が日本および欧州で成立、また平成23年末における日本からのiPS関連特許出願件数は約180件、このうち12件が特許として成立していることから、日本のiPS細胞研究は世界をリードしている。

 再生医療を臨床応用するための今後の課題としては、均一性や安全性等の品質の確保、がん化の可能性の排除、また、特にES細胞においては生命倫理上の課題が残されているが、品質確保とがん化の可能性の排除については、2013年から臨床研究が始まっている。


参考 AFPBB news: ほぼ完全な脳実験室で培養に成功 内閣府科学技術政策:再生医療の現状と未来


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