火星への片道旅行、候補者100人に絞り込み

 火星への「片道旅行」の参加者を募っていたオランダの非営利団体マーズ・ワンは、寄せられた20万人の応募の中から候補者を100人に絞り込んだと発表した。年内にチームワークなどについて審査を行い、24人を選び出す。

 最終選考に残った24人は、それぞれ4人で構成される6グループに分かれて2024年から2年ごとに火星に向けて出発し、定住を目指す。

 マーズ・ワンは現存する技術を使って計画を実現したい意向だが、火星探査は常に困難が付きまとう。これまでの無人探査計画でも成功率は半分前後にとどまる。



 火星到達までにかかる期間は約7カ月。米マサチューセッツ工科大学の推定によれば、たとえ第1陣のチームが火星着陸に成功したとしても、現在の技術では68日しか生存できないという。

 選考に残った100人の中には科学者や学者のほか、ただ究極の冒険をしてみたいという人も含まれる。
英ロンドン在住のアリソン・リグビーさん(35)は高校に勤務する実験助手。「先駆者は常に笑い者にされる。それでも私は、ただ家にいて母親を喜ばせているだけでなく、もっと多くの人のためになりたいと願っている」と意気込みを語る。

 危険を考えると「もちろん怖い」としながらも、「なぜ火星に死にに行くのかと尋ねられると、誰だっていつかは死ぬけれど、死ぬ前に何をするかが大切だと答えている」と話した。

 イングランド在住のクレア・ウィードンさんは27歳の管理職。ありふれた「9時5時」の生活はしたくないという理由で応募した。「歴史に名を残したい。人類の未来を変えたと言えるようになりたい」。

 友人や家族は選考に残ったことを喜んでくれたが、ボーイフレンドだけは反対しているという。それでも火星への片道旅行にためらいはない。「電子メールで連絡はできるから、何もかも終わりじゃない」と笑顔を見せた。

 人類が火星へ移住し、火星の環境の中で生活基盤を形成することには多くの困難が伴う。大気はほとんどが二酸化炭素であり、火星表面の大気圧は、平均750パスカルであり、地球の平均である101.3キロパスカルのおよそ0.75%しかない。

 平均気温-50℃という過酷な環境も大変だが、火星に行ったとして、帰るときに火星の引力に打ち勝って、推進力を得るためのエンジンや燃料をどうするかが、問題である。


 推進剤は火星で製造、最新版「火星の帰り方」

 無事、地球に帰るまでが火星探査。だが、薄い大気がNASAを悩ませる。

 NASAのエンジニアは、映画『オデッセイ』(日本では2016年公開予定)に描かれているような火星の厳しい気候にも耐えうる宇宙船を設計しなければならない。

 NASA(米航空宇宙局)のエンジニアにとって、火星は惑星サイズのハエトリグサだ。

 約束された科学的発見を餌に私たちを惹きつけ、そこに降り立った瞬間、過酷な気候と重力が宇宙飛行士をとらえて離さない。

 だが、それはあってはならないことだ。宇宙飛行士をもうひとつの星に置き去りにするためだけに、数十億ドルを投じることを世間は許さないだろう。NASAの火星探査計画において何よりも重要なパートは、間違いなく火星からの帰還である。

 そのためにNASAが作ろうとしている宇宙船「マーズ・アセント・ビークル」(MAV:火星上昇機)は、手ごわい課題を抱えている。火星表面から上昇するための推進剤をあらかじめ満タンにしておくと、重すぎるために地球から打ち上げて火星に安全に着陸させることができないのだ。

 代案として、MAVを宇宙飛行士が到着する数年前に火星に送っておくという方法がある。一足先に火星に着いたMAVは、その薄い大気から推進剤を作り出す。

 MAVはその後、塵の嵐や過酷な紫外線放射に耐え、運用可能な状態を保たなければならない。そして、ついに離陸を迎えると、数日かけて宇宙飛行士を軌道周回機へと運ぶ。最終的に飛行士らは、軌道上で待つ宇宙船に乗り移り、地球への帰還を果たす。

 つまりMAVのミッションは、地球外の惑星表面から宇宙船を打ち上げて軌道に乗せることだ。

 しかも、チャンスは1度しかない。

 はじめての大規模遠征隊

 火星へのミッションは、人類にとって初の宇宙への大規模遠征隊となる。宇宙飛行士と積荷を火星に運ぶために、5機もの宇宙船が必要になると考えられている。

 一部の積荷は、複数のパーツに分割されており、宇宙飛行士が到着した後に組み立てられる。しかし、MAVはそうはいかない。NASAジョンソン宇宙センターのシステムエンジニア、ミシェル・ラッカー氏は、「塵の舞う火星で、宇宙服を着て、とりわけ手にミトンをはめてエンジンの積載作業をしたい人はいないでしょう」と理由を説明する。

 NASAによると、MAVは同ミッションにおける「分割できない最大のペイロード」であり、重量は18トンになる見込みだ。ちなみに、これまでに人類が火星表面に送った最も重い物体は、1トンの探査車「キュリオシティ」である。

 火星への着陸は、地球のときよりも難しい。特に、何トンもある物体の場合はなおさらだ。その理由は、着陸カプセルが基本的に空気抵抗を利用して減速するからである。

 火星の大気圏の濃さは、地球の100分の1しかない。ラッカー氏に言わせれば、火星への大気圏突入時にカプセルが燃え尽きることはあっても、十分な減速は期待できないのだ。

 火星大気は、摩擦熱が生じるほどには十分濃いが、パラシュートを使ってMAVとその着陸機のような巨大な物体を減速するには薄すぎる。


 極超音速インフレータブル空力減速機(HIAD)

 そのためNASAでは、極超音速インフレータブル空力減速機(HIAD:巨大な円錐状の膨張式熱シールドで、減速システムとしても機能する)などの技術開発に取り組んでいる。

 火星大気突入時にこの熱シールドが配備され、着陸機は極超音速から超音速まで減速する。その後ロケットエンジンを始動して、着陸を制御する。

 膨張式のシールドのおかげで、MAVは音速の2.5倍から3倍まで減速する。その後、シールドは分離。以後、下降モジュールに搭載したロケットエンジンを使いながら高度を下げる。

 宇宙飛行士マーク・ワトニー氏は次のような計算をしている。着陸には、5から7トンの推進剤を必要とする。一方、MAVが火星から離陸して重力圏を脱し、宇宙飛行士と積荷を地球帰還機に輸送するためには、33トンの推進剤が必要だ。

 こんな量を事前に送ることはできない。だから、現地で推進剤を作り出す必要があるのだ。
火星の厳しい環境に耐える


 火星でつくる推進剤(二酸化炭素と水からメタンと酸素)

 火星への旅が成功したなら、次はその環境に耐え抜く必要がある。

 火星で推進剤を作ることで、NASAは初期ペイロード重量を何トンも削減できる。さらに、ミッション終了後、装置を火星に残しておけば、将来の探査活動時に推進剤だけでなく水や空気を製造する施設を作るインフラとして再利用できる。

 MAVのエンジンの推進剤は、燃料であるメタンと酸化剤の液体酸素だ。これを作るために必要な全ての原料―炭素、水素、酸素―は、場所さえわかっていれば、火星で見つけられる。

 理論上、95%が二酸化炭素(CO2)である火星の大気からでも、酸素を得るのは可能だ。また、地中に埋まる液体の水および氷(H2O)からも酸素を得られる。残った炭素と水素を使えば、メタンも作れる。

 初期ペイロード重量を削減するため、MAVは火星到着後に、火星大気(95%を二酸化炭素が占める)から液体酸素を製造する。

 しかし、水の掘削は、ただでさえ難しいミッションに不確定要素を増やすだけである。掘削して処理する工程は、単純に大気から抽出するのに比べるとかなり複雑だ。「地下水から推進剤を生産するには、もう1つ問題があります。それは、水が確実にある場所に着陸しなければならないこと」だとラッカー氏。掘らなければならないのに、「着陸した場所が岩盤の上だったら、すべてがムダになってしまいます」


 現在のプランではメタンの製造は難しい

 火星の水から水素を得られないのなら、プランBとしては、地球から水素を運び、メタンの原料とする方法がある。しかし、初回ミッションでは、これも現実的な選択肢ではない。水素は重くないが、非常に大きなタンクが必要であり、貴重なスペースを消費してしまう。

 「着陸機の上部は設計上、平らなデッキとなっていて、現在、デッキスペースの大半を占めています。そのため、水素タンクを置く余地はありません」と、NASAマーシャル宇宙飛行センターの航空宇宙エンジニア、タラ・ポルスグローブ氏は言う。

 MAVの幅を狭めて背を高くすることで、水素タンクの場所を確保する方法もある。しかし、高くするのはできるだけ避けたほうがいい。なぜなら、あまり高くしすぎると、着陸後に転倒する恐れがある。

 さらに、MAVの背が高いと、宇宙飛行士の身体的な負担になるとラッカー氏。ミッション中に飛行士が動けなくなったりした場合、とてもではないが、高いはしごを登れない。乗り込みやすさはMAVに欠かせない条件だ。

 以上のような理由から、現在のプランでは、MAVには液体メタンを積載したうえで、火星大気から液体酸素を作る化学プラントを装備して、火星に送ることが想定されている。

 このプロセスには、1年から2年の時間が必要だ。そして、MAVの液体酸素タンクが満タンになったとき、火星に人が送られる。


 推進剤の保護は困難

 しかし、それだけではミッションは完了しない。ラッカー氏によると、「推進剤の低温貯蔵が課題の1つです。火星で推進剤を作ったら、実際に使用するまでの約2年間、沸騰させないように冷却状態を保つ必要があります」

 「推進剤が手に入っても、現時点では漏れのないバルブがないことも考慮しなければなりません。ですから、漏れの少ないバルブの開発についても優先して進めなければならないのです」と、ポルスグローブ氏。

 さらに大きな懸案事項が、時間だ。MAVは、推進剤を作るのに1、2年を必要とする。その後、クルーが200から350日かけて火星に向かう。クルーの到着後、最長500日にも及ぶ火星探査が行われる。

 つまり、MAVは最初の火星着陸から4年程度、いつでも離陸できる状態を保たなければならない。「MAVは、火星環境に放置されています。塵や、強力な紫外線放射にさらされているのです。たとえば4年間、あなたの庭に家具を放置するとどうなりますか? それですら地球の場合であり、火星よりもずっと守られているはずです」とラッカー氏は言う。


 飛行士の服装は

 MAV設計時に考慮すべき重要な課題の1つが、宇宙飛行士の服装だ。

 「宇宙ステーションの映像を見たことがあるでしょう。彼らは、短パンTシャツという服装でうろうろしています。大きな宇宙船での安定したフライト中は、それで大丈夫です。しかし、上昇機の中では移動する余地はありませんし、機体に穴が開くことを想定して、宇宙服を着る必要があります」とラッカー氏。

 では、どんな宇宙服を着るべきなのか。火星表面を探査する際に宇宙飛行士が着るもの――船外活動スーツ――は、重くてかさばる。MAV内でそれを着るなら、キャビンを広くしなければならないだろう。

 火星表面で宇宙飛行士が着ることになる宇宙服は、軌道への移動時には大きすぎる。その代わり、「船内活動」スーツを着用する。

 スーツに付着した火星の塵も課題だ。適切な惑星保護プロトコルの策定もなしに、それを地球に持ち帰ってはならないことになっている。

 ラッカー氏は、かさばるスーツは火星に置いて帰り、将来のミッションで回収するのがベストだと考えている。その代わり、火星を発つ飛行士は、「船内活動」(IVA)スーツを着ることになる。これは、スペースシャトルのクルーが打ち上げ時や再突入時に着る、オレンジ色のふわふわの服である。

 IVAスーツは、船外活動スーツに比べて軽く、若干フレキシブルにできている。また、火星の「屋外」にさらさないように保管しておけば、塵も付着しない。飛行士は、ドッキングポートを経由して居住環境から探査車に移動する。MAVに戻るときには、きれいなIVAスーツに探査車の中で着替えてから、専用設計の加圧トンネルを経由してMAVに乗り移る。

 宇宙飛行士は、加圧されたローバー内で、火星の塵が付着していない宇宙服に着替える(地球に汚染物質を持ち込まないための安全策)。その後、トンネルを通ってMAVに乗り込む。

 1度しか使わないトンネルを火星に持っていくと、重量が増えてしまう。しかしラッカー氏は、トンネルは複数回使う可能性があると考えている。

 「(トンネルは)あると便利だと思います。たとえば、大きな居住環境を1つ持つよりも、小さな居住環境が2つあって、それらをトンネルで連結することもできるでしょう。新しい要素を増やすのはいいことではありませんが、その要素がいくつもの課題を解決してくれるなら、それはメリットとなります」


 地球への帰還

 ついに、地球に帰るときがやってきた。

 MAVの内装の重量は、徹底的に抑えられなければならない。MAVは片道宇宙タクシーであって、居住空間ではない。実際、座席すら用意されない可能性がある。その場合、宇宙飛行士らは、輸送中ずっと立っていることになる。

 ロケットによる上昇は7分間。しかし、それで終わりではない。飛行士らは、燃料をさらに使って、地球帰還機(ERV)とランデブーおよびドッキングする軌道まで移動しなければならない。

 ERVが1火星日の軌道(火星の高度250kmから33800kmを回る楕円軌道)にパーキングしているとすると、上昇機の搭乗時間は最長で43時間にも及ぶ可能性がある。しかし、ラッカー氏によると、この問題は火星ミッション計画者の間でも未解決のままだ。 

 クルーは火星表面から打ち上げられ、火星上空のパーキング軌道で待つ地球帰還機とのランデブー飛行を行うまで、最長で43時間MAVに搭乗する。

 「電気推進システムの技術者は、軌道上に浮かぶ巨大な居住空間をできるだけ高い位置に保ちたいと考えています。彼らは、5から10火星日の位置を保ちたい。そして、上昇機にそこまで来てほしいと思っているのです」

 しかし、MAVの搭乗時間が長くなると、必要な施設が増えることになる。

 「43時間であれば、宇宙服を着たままの状態で、温かいスープがなくても耐えられるでしょう。それが3日や5日、あるいは7日にまで延びたらどうでしょう。いろいろな物が必要になり、上昇機のサイズがどんどん大きくなるだけです」

 ドッキングが完了し、クルーや積荷を帰還機に移動したら、MAVは切り離され、未来の火星ミッションと干渉しない軌道に移動し、最後の廃棄作業を終える。人類史における重要な役割を果たした小型宇宙船はこうしてむなしい最期を迎えるのである。


 地球との類似点

 このように、火星から地球に帰還するだけでも大変な困難が伴う。それだけでなく火星には過酷な環境がある。火星はどんな環境なのかあらためて述べてみたい。

 地球のすぐ内側を公転する金星は、その質量や半径などの点では地球によく似た惑星である。しかしサイズ的には地球よりかなり小さい火星の方が、人類移住の候補として注目を浴びている。これには次のような理由がある。

 火星の1日(火星日またはsol)は地球の1日に非常に近い。火星の太陽日は24時間39分35.244秒である。

火星の表面積は地球の28.4%で、地球の陸地(地球表面積の29.2%)と比べてわずかに少ない程度である。

 火星の赤道傾斜角は25.19°で地球の23.44°に近い。そのため、火星の季節は地球とよく似ている。ただし、火星の1年は地球の1.88年相当であるため、各季節は2倍近い期間続く。火星の天の北極は小熊座ではなく白鳥座である。

 火星は大気を持つ。地球大気の0.7%と薄いものだが、多少なりとも太陽放射や宇宙線を和らげる上、宇宙船が空力ブレーキを使うのに利用することもできる。

 NASAのマーズ・エクスプロレーション・ローバーやフェニックス、ESAのマーズ・エクスプレスなどによる21世紀初頭の観測は、火星に水が存在するという主張を裏付けるものとなった。火星には地球型の生命を支えるのに必要な元素がかなりの量存在している可能性が高い。


 地球との相違点

 地球と火星の間には、当然違いもある。火星の表面重力は地球の1/3にすぎない。この重力下で低重力での健康上の問題が発生しないかどうかはよく分かっていない。

 火星は地球と比べて非常に寒く、平均表面温度は-50℃で、最低温度は-140℃である。火星表面に液体の水の存在は最近になって確認された。

 火星は太陽から遠いため、表面に届く太陽のエネルギーの量(太陽定数)は、地球や月に届く量の半分程度でしかない。

 火星の軌道は地球のそれよりも潰れた楕円であるため、太陽との距離の変化が大きく、温度や太陽定数の変化を激化させる。

 火星の気圧は、人間が与圧服無しで生存するには低過ぎる。従って、火星表面に作る居住施設は宇宙船のように与圧式にする必要がある。

 火星の大気は薄いが主成分は二酸化炭素であるため、火星表面でのCO2の分圧は地球の52倍にもなる。(もっとも、このため火星上で植物は生育可能かもしれない。)

 火星は二つの衛星、フォボスとダイモスを持っている。フォボスとダイモスは地球の月と比べてはるかに小さく距離も惑星に近い。これらの衛星を小惑星の植民の実験場として活用することも考えられている。

 火星の磁気圏はとても弱く、太陽風を防ぐのに十分ではない。


 居住適性

 生理学的に見れば、火星の薄い大気は真空同然である。宇宙服などで保護されていない生身の人間であれば、火星の表面ではわずか20秒で失神状態に陥り、1分たりとも生存できないと考えられている。しかし火星の環境は、灼熱の水星や金星、極低温の木星、さらに遠い軌道を巡る外惑星、真空の月や小惑星と比べればはるかに住みやすい環境だとも言える。

 火星よりも地球に近いのは金星の雲の上くらいであろう。また、地球上の人間が探検した範囲内にも、火星と類似した自然環境がある。有人気球が到達した最高高度は、1961年5月に記録された34,668m(113,740フィート)で、この高度での気圧は火星表面と同じぐらいである。南極の最低気温はマイナス90度ほどであり、火星の平均気温よりも少し低い。また、地球の砂漠も火星の地形と類似している。

 2007年3月21日、NASAの Deputy Administrator のシャナ・デールは「地球から4000万マイル離れた火星に人類の第二の故郷が見出されることを期待している」と語った。

 将来的には、火星の環境を、人間を含めたさまざまな生物がそのまま居住可能なように改造することが出来るようになるのではないかと予測されている。とはいえ、火星環境の地球化、いわゆるテラフォーミングが本当に実現可能かどうかは現時点では何ともいえない。特に火星の脱出速度が小さいため、居住可能な大気を維持し続けるのは困難である。倫理上の問題も指摘されており、議論となっている。


 放射線

 火星は地球に見られるような全惑星規模の強い地磁気を持っていない。このことは薄い大気と相まって火星表面に到達する電離放射線の量を増やすことになる。マーズ・オデッセイは、搭載された火星放射線環境測定機器 (MARIE) によって人間への危険がどの程度かを測定した。

 その結果、火星周回軌道上は国際宇宙ステーションと比べて放射線のレベルが2.5倍も高く、平均で22mrad/日(220µGy/日、または0.8Gy/年)であることがわかった。3年間このレベルの放射線に晒された場合、現在NASAが採用している安全基準の限界付近まで到達する。

 ただし、火星表面では大気による吸収によって放射線レベルは多少低くなるだろうし、高度やその地方に固有な磁場によって、大きな地域差が生じている可能性もある。地表に設置される住居や作業場は火星の土を使って保護することができ、屋内で過ごしている間は被曝を大きく減らすことができる。

 太陽フレアに伴って起こる荷電粒子の放出現象(英語版) (SPE) は大量の放射線を発生させる。火星の宇宙飛行士は、より太陽に近い軌道にあるセンサーによってSPEの警告を受け、火星に放射線が到達する前にシェルターに避難すればよい。

 だが、SPEには指向性があるらしく、火星軌道上のMARIEによって観測されたが地球では検出されないものもあった。つまり、太陽から見て地球と火星が違う方向にあるときにSPEが起きて火星の方向へ粒子が放出された場合は地球ではこれを探知できず、火星は何の前触れも無く放射線に襲われることになる。したがって、火星を脅かす全てのSPEを確実に探知するには、太陽の周囲を取り巻くSPE観測機のネットワークを構築する必要がある。

 宇宙放射線について知らなければならないことはまだ多く残っている。2003年、NASAのジョンソン宇宙センターは新たにNASA宇宙放射線研究室 (NSRL) を開設し、ブルックヘブン国立研究所とともに加速器を活用して、宇宙放射線のシミュレーションを行っている。この施設では宇宙線を防護する技術を開発するとともに、宇宙線が生物へおよぼす影響についても研究する。


 通信手段

 地球との通信は、火星の地平線上に地球が存在する半火星日の間は比較的簡単に行える。また、NASAはいくつかの火星周回機により通信を中継しているので、火星は既に通信衛星を持っていると言える。これらは植民が行われる遥か以前に使えなくなると思われるが、その頃にはまた別の通信衛星が使われているはずである。

 会合周期の一部の日、つまり太陽が火星と地球の間に入り一直線になる外合の前後の約2週間は、地球との直接通信は困難になる。また、光の速さには限りがあるため、通信が1往復するまでに、最接近時で6.5分、外合時では44分のタイムラグが発生する。このため、地球とのリアルタイムな音声会話は不可能である。しかし他のコミュニケーション手段、例えばEメールや音声メールを用いることは、若干の不便を伴うにしても可能である。

 普通のトランシーバーは見通し距離以上に届くはずである。火星には電離層があるが、火星表面の遠く離れた地点で電離層を使った長距離の短波通信がどの程度行えるかはまだはっきりしていない。

 どのような手段をとったとしても、外合の間の通信が行いやすくするために地球と太陽のラグランジュ点に中継衛星を用意する必要がある。

参考 National Geographic news: 推進剤は火星で製造、最新版「火星の帰り方」


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