死なないクマムシの不思議

 極限環境生物とは、極限環境条件で生きる生物のこと。こんな環境で生物は住めないだろうという場所でも、生育できる生物がいる。 例えば、高温(122℃)、高pH(pH12.5)、低pH(pH-0.06)、高NaCl濃度、有機溶媒、高圧力(1100気圧)、高放射線(16000Gyのガンマ線照射)などの条件で生きる微生物が発見されている。

 例えば体長1mm未満の微小な動物である「クマムシ類」は、私たちのまわりや、深海、高山、極地まで幅広く生息している「緩歩動物」である。

 このクマムシ、「クリプトビオシス」という特別な状態になると、150℃という高温や、‐200℃という低温につけられても、ヒトの致死量の1000倍以上のX線を照射されても、6000気圧もの高圧をかけられても生き延びることができる。



 クマムシは周囲が乾燥してくると体を縮める。これを「樽(tun)」と呼び、代謝をほぼ止めて乾眠(かんみん)と呼ばれるクリプトビオシスの状態の一種に入る。

 クリプトビオシスは無代謝の休眠状態のこと。緩歩動物はクリプトビオシスによって環境に対する絶大な抵抗力を持つ。

 通常は体重の85%をしめる水分を3%以下まで減らし、極度の乾燥状態にも耐える。また、151℃の高温から、ほぼ絶対零度(0.0075ケルビン)の極低温まで耐え、真空から75,000気圧の高圧まで耐える。高線量の紫外線、X線、ガンマ線等の放射線にも耐える。X線の半致死線量は57万レントゲン(ヒトの致死線量は500レントゲン)。

 乾眠個体は、このような過酷な条件にさらされた後も、水を与えれば再び動き回ることができる。この現象が、「一旦死んだものが蘇生している」のか、それとも「死んでいるように見える」だけなのかについて、長い論争があった。現在ではこのような状態を、クリプトビオシス(cryptobiosis '隠された生命活動'の意)と呼ぶようになり、「死んでいるように見える」だけであることが分かっている。

 乾眠(anhydrobiosis)は他に線虫、ワムシ、アルテミア(シーモンキー)、ネムリユスリカなどがクリプトビオシスを示すことが知られている。


 「最強生物」クマムシ、衝撃のDNA構成が判明

 なぜ、クマムシはクリプトビオシスにより、「死なない」というスーパーパワーを身に着けたのだろうか?

 11月23日付の科学誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された論文によると、クマムシには全体の17.5%にも相当する大量の外来DNAが含まれているという。この多くのDNAがクマムシの強さのもとになっている。

 研究チームはドゥジャルダンヤマクマムシ(Hypsibius dujardini)という種のゲノム配列を解析した。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校の生物学者ボブ・ゴールドスタイン氏いわく、「極めて過酷な環境でも生き抜ける動物の秘密を解明するため」だ。

 ゲノム解析の結果、全く異なる複数の生物界に由来するDNAが含まれることが判明した。その大部分は細菌(16%)のものだが、菌類(0.7%)や植物(0.5%)、古細菌(0.1%)、ウイルス(0.1%)のDNAもあった。

「動物のゲノムにこれほど多くの外来遺伝子が組み込まれているとは全くの予想外でした」とゴールドスタイン氏は述べている。

 クマムシは遺伝子の「水平伝播」によって外来DNAを獲得する。通常は親から子にDNAが受け継がれるが、水平伝播は異なる生物の遺伝物質が直接取り込まれる現象だ。

 ゴールドスタイン氏の同僚にあたるトーマス・ブースビー氏は今回の発見について、「実に特異」なことだと述べている。「遺伝子の水平伝播は人間も含め多くの動物で少しは起きているようですが、クマムシのゲノムで判明した割合(約6分の1)には遠く及びません」


 水平伝播により外来DNAを獲得する

 では、クマムシはどのように外来DNAを獲得しているのだろう? それにはクマムシのある生存能力が関係しているかもしれない。乾燥した環境では自身も水分も乾燥して休眠状態になり、水分を得ると活動を再開する能力だ。

 細胞が水分を失うと、DNAが断片化する。そして、「細胞が水分を取り戻すと、細部膜は一時的に物質を通しやすい状態になります」とブースビー氏は説明する。

 タンパク質や外来DNAの断片といった大きな分子も通過できるようになり、その後、断片化したDNAが修復される。「損傷したゲノムを修復する際、外来DNAを組み込んでいる可能性があります」

 ドゥジャルダンヤマクマムシを含む一部のクマムシが無性生殖することも1つの要因だ。今回の研究に使われたドゥジャルダンヤマクマムシは「すべて、20年以上前に英国の池で採取した1匹のメスの『娘』にあたります。クマムシは、基本的に自身のクローンをつくって繁殖するのです」とブースビー氏は話す。

 無性生殖は外来遺伝子を安定させる。父親の遺伝子を受け継ぐことで失われる遺伝子がなく、同じ遺伝子が2組つくられるためだ。

 ブースビー氏はさらに、「過酷な環境を生き抜くクマムシの能力の一部は、強化された外来遺伝子によって得たものかもしれません」と述べている。例えば、研究に使用したクマムシたちが獲得した遺伝子の中には、ストレス耐性にかかわるものがあった。これが渇水に耐える能力を高めているのかもしれない、とブースビー氏は分析している。


 緩歩動物「クマムシ」とは何か?

 緩歩動物(かんぽどうぶつ)は、緩歩動物門に属する動物の総称である。4対8脚のずんぐりとした脚でゆっくり歩く姿から緩歩動物、また形がクマに似ていることからクマムシ(英名はwater bears)と呼ばれている。

 また、以下に述べるように非常に強い耐久性を持つことからチョウメイムシ(長命虫)と言われたこともある。 体長は50マイクロメートルから1.7ミリメートル。熱帯から極地方、超深海底から高山、温泉の中まで、海洋・陸水・陸上のほとんどありとあらゆる環境に生息する。堆積物中の有機物に富む液体や、動物や植物の体液(細胞液)を吸入して食物としている。 およそ1000種以上(うち海産のものは170種あまり)が知られている。

 緩歩動物はクリプトビオシスによって環境に対する絶大な抵抗力を持つ。周囲が乾燥してくると体を縮める。これを「樽」と呼び、代謝をほぼ止めて乾眠(かんみん)と呼ばれるクリプトビオシスの状態の一種に入る。

 樽(tun)と呼ばれる乾眠個体は、下記のような過酷な条件にさらされた後も、水を与えれば再び動き回ることができる。

 ただしこれは乾眠できる種が乾眠している時に限ることであって、全てのクマムシ類が常にこうした能力を持つわけではない。さらに動き回ることができるというだけであって、その後通常の生活に戻れるかどうかは考慮されていないことに注意が必要である。

乾燥 : 通常は体重の85%をしめる水分を3%以下まで減らし、極度の乾燥状態にも耐える。
温度 : 151℃の高温から、ほぼ絶対零度(0.0075ケルビン)の極低温まで耐える。
圧力 : 真空から75,000気圧の高圧まで耐える。
放射線 : 高線量の紫外線、X線、ガンマ線等の放射線に耐える。X線の半致死線量は57万レントゲン(ヒトの致死線量は500レントゲン)。

 この現象が、「一旦死んだものが蘇生している」のか、それとも「死んでいるように見える」だけなのかについて、長い論争があった。現在ではこのような状態を、クリプトビオシス(cryptobiosis '隠された生命活動'の意)と呼ぶようになり、「死んでいるように見える」だけであることが分かっている。

 乾眠(anhydrobiosis)はクリプトビオシスの一例である。他にも線虫、ワムシ、アルテミア(シーモンキー)、ネムリユスリカなどがクリプトビオシスを示すことが知られている。

 なお、クマムシはこの状態で長期間生存することができるとする記述がある。例えば、「博物館の苔の標本の中にいたクマムシの乾眠個体が、120年後に水を与えられて蘇生したという記録もある」など、教科書や専門書でもそのように書いているものもある。

 ただし、この現象は実験的に実証されているわけではなく、学術論文にも相当するものはない。類似の記録で、120年を経た標本にて12日後(これは異常に長い)に1匹だけ肢が震えるように伸び縮みしたことを観察されたものはあるものの、サンプルがこの後に完全に生き返ったのかどうかの情報はない。

 通常の条件で樽の状態から蘇生して動き回った記録としては、現在のところ10年を超えるものはない。また、蘇生の可否は樽の保存条件に依存し、冷凍したり無酸素状態にしたりすると保存期間が延びることがわかっている。

 また、宇宙空間に直接さらされても10日間生存できることが実験で確かめられ、動物では初めての発見となった。太陽光を遮り宇宙線と真空にさらしたクマムシは地球上で蘇生し、生殖能力も失われていなかった。太陽光を直接受けたクマムシも一部は蘇生したが、遮った場合と比べ生存率は低かった。


参考 National Geographic news:「最強性物」クマムシ、衝撃のDNA構造が判明


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