銀河系の中心ブラックホール いて座A*

 ブラックホール (black hole) は謎の多い天体である。極めて高密度かつ大質量で、強い重力のために物質だけでなく光さえ脱出することができない。

 そのため、ブラックホールを直接的な観測を行うことは困難である。しかし他の天体との相互作用を介して間接的な観測を行うことができる。すなわち、近くに恒星などが存在した場合、その成分の一部がブラックホールに向かって落下し、この時X線を周期的に発生することがわかった。

 最近、多くの銀河の中心に巨大ブラックホールが存在することがわかってきた。例えば、いて座A*(いてざエー・スター)は、我々銀河系の中心にある明るくコンパクトな天文電波源である。いて座A*には太陽の370万倍の質量を持った巨大なブラックホールが存在すると考えられている。



 2012年11月、宇宙観測史上最大かもしれない超大質量ブラックホールを2億2000万光年離れた小さな銀河「NGC 1277」の中心部に発見したことを、米天文学者らが発表した。質量は太陽の170億倍で、銀河の7分の1を占めるという。これほど巨大なブラックホールは想定外で、宇宙の形成に関する定説が見直しを迫られる可能性があるという。

 今回、国立天文台などの国際研究チームが、超巨大ブラックホールの周りを取り巻く磁場の様子を初めて観測することに成功したと、米科学誌サイエンスに発表した。磁場がからまったスパゲティのような構造をしており、謎の多いブラックホールの解明に期待がかかるという。


 超巨大ブラックホールの磁場を初観測

 天の川銀河の中心には、太陽の430万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホール「いて座A*(エー・スター)」が存在している。一方その直径は約2600万kmで、約2万5000光年離れている地球から見ると10マイクロ秒角(角度の1度の、3億6000万分の1)の大きさしかない。そのため、いて座A*の周囲の様子を明らかにするには非常に高い解像度の観測が必要となる。

 国立天文台の秋山和徳さんと本間希樹さんを含む国際研究グループは、ハワイとアメリカ本土にある4台の電波望遠鏡をVLBI(超長基線電波干渉法)という技術でつないで直径4000km相当の巨大な電波望遠鏡を構成し、いて座A*を観測した。この手法を用いることで50マイクロ秒角の解像度が得られ、いて座A*の周辺を詳しく調べることができる。今回の観測はとくに、従来より高感度化したことによって偏光の計測が初めて可能になったことが最大の特徴だという。

 観測の結果、いて座A*のブラックホール半径の6倍ほどの領域から出る放射が、直線的に偏光している様子が初めて計測された。また、その偏光の度合いから、いて座A*の周りの磁力線は一部が渦を巻いていたり複雑に絡み合ったりした「絡まったスパゲッティ」のような状態であることもわかった。磁力線は際限なく絡み合っているわけではなく、ブラックホール1、2個分の大きさまで細かく見るときれいに整列している。


 いて座A*の磁場構造が15分間隔で変動

 さらに、磁場構造が15分程度の短い時間で変動していることも明らかになった。ブラックホールの周囲では、降着円盤からのガス流入やジェット生成など活動的な現象がエネルギーを生み出す。

 「ブラックホールエンジン」として働くと考えられており、理論モデルではこうした現象に磁場が重要な役割を果たしているとされてきた。今回の観測は、実際にブラックホールの周辺で磁力線が複雑に絡まりながら短時間で変動している様子を初めてとらえたもので、理論モデルを観測的に裏付けるという大きな意義を持つものだ。

 また、今回の観測は、ブラックホールの姿そのものを撮像するというEvent Horizon Telescope(EHT)の実現に向けても重要なステップとなる。EHTでは、今回組み合わされた望遠鏡群に加えてヨーロッパや南米にある電波望遠鏡も結合させることで解像度をさらに向上させ、ブラックホールの表面ともいえる「事象の地平面(event horizon)」を初めて直接撮影することを目指している。


 超大質量ブラックホールいて座A*

 超大質量ブラックホール(Supermassive black hole)は、太陽の105倍から1010倍程度の質量を持つブラックホールのことである。全てではないが、銀河系(天の川銀河)を含むほとんどの銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在すると考えられている。

 いて座A(Sgr A)は我々の銀河系の中心に存在する電波源の複合体である。天球上ではいて座に位置する。いて座Aは三つの部分からなる。超新星残骸であるいて座Aイースト、渦巻腕状の構造を持ついて座Aウエスト、およびいて座Aウエストの渦巻の中心にある非常に明るくコンパクトな電波源のいて座A*(いてざ・エー・スター)である。

 いて座A*(いてざエー・スター、略号Sgr A*)は、我々銀河系の中心にある明るくコンパクトな天文電波源。より広い範囲に広がるいて座Aの一部分であり、仮説によると多くの渦巻銀河や楕円銀河の中心にあるとされる超大質量ブラックホールが、いて座A*にもあるとされる。

 多くの天文学者は、我々の銀河系の中心には大質量ブラックホールの存在する証拠があると考えている。いて座A*はこの大質量ブラックホールの存在場所の最有力候補と考えられている。

 ドイツのマックス・プランク研究所のライナー・ショーデルを始めとする国際研究チームはいて座A*の近くにある S2 と呼ばれる恒星の運動を約10年間にわたって観測し、いて座A*が非常に重くコンパクトな天体であるという証拠を得た。

 この結果はいて座A*がブラックホールであるという仮説とよく合い、この仮説を支持する強い証拠である。 彼らは S2 のケプラー軌道を解析することで、いて座A*の位置には 3.7 ± 1.5 x 106 太陽質量の質量が半径 17 光時 (120AU) という狭い範囲内に存在していると求めた。


 参考 アストロアーツ:天の川銀河中心の超巨大ブラックホール周囲の磁場構造解明


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