COP21は歴史的な合意「パリ協定」

 昨年末、パリで開かれた国連の会議・COP21は、 地球温暖化防止の新たな枠組み「パリ協定」を採択した。

 これは、京都議定書以来18年ぶりに、今回の合意は、先進国から途上国まで全ての国が参加する初めての枠組みになる。そのための排出削減は、各国が「自主目標」に沿って行うことになる。

 その目標は日本は、2030年度に2013年度比で26%の削減。アメリカは26~28%、EUは40%といった目標だ。一方、中国やインドは、それぞれGDP当りの排出量で、2030年までに2005年比60~65%、33~35%という削減幅をだしている。



 インドは経済成長著しい巨大新興国だが、首都ニューデリーは大気汚染を引き起こす微小粒子状物質(PM2.5)の濃度が世界最悪レベルにある。この深刻な状況に対して危機意識の低い政府や自治体の対策は後手に回り、国民の健康被害が懸念されている。

 世界保健機関(WHO)の2014年5月のリポートによると、PM2.5の濃度は、2013年は平均で1立方メートル当たり153マイクログラムと、WHOが許容できるとする基準の15倍もあった。中国の大気汚染を日本メディアはよく取り上げるが、ニューデリーの濃度は北京の3倍にもなる数字だ。そんな中、子供の呼吸器疾患は増えており、大気汚染が要因の一つであると指摘されている。


 中国よりひどいインドの環境問題

 2014年末にニューデリーを訪れると、道路が自動車であふれてとにかく渋滞がひどいという印象で、目的地に到着する時間がなかなか予測できなかった。渋滞しているときに横を見ると、車やオートリキシャ(3輪タクシー)は灰色の排気ガスをたっぷりとはき出していた。街を歩くと、ディーゼルの排ガスの臭いが漂っていた。

 ホテルから眼下の街を眺めると、至る所に樹木が植えられ多くの緑が広がっていた。しかし、街はうっすらと白くかすみ、遠くまで見通すことができなかった。

 どうしてこんなにひどい状況なのか。ニューデリーにあるインドの公的調査機関「科学環境センター」によると、ニューデリーでは6カ所で大気のモニタリングをしており、毎時、データを計測している。汚染は急激な経済成長に伴って1990年代後半から悪化、街はひどく臭い、歩くと目が痛くなるという。2000年代前半は少し落ち着いたのだが、2000年代後半から急激に深刻化している。

 ディーゼル車が爆発的に増えていることが大きい。汚染源の半分以上が排ガスだ。経済成長に伴ってニューデリーを走る車は2002年からの8年間で倍に増えた。首都圏だけで毎日1400台ずつ車が増えている。120万台を超える車が、ニューデリーとその近隣都市の間を毎日行き来しているのだという。

 これまでニューデリーは、自家用車の台数を減らすため、公共交通機関の強化を進めてきた。計約200キロになる地下鉄路線が建設され、バスの本数を増やすため国営だけでなく民間への委託も進められてきた。メトロ(地下鉄)ができて改善した面もあるが、少しばかり遅すぎた。

 ディーゼル車は相変わらず増えており、新車の半数以上がそうだという。理由は単純に、燃料のディーゼルの方がガソリンよりも安いからだ。

  科学環境センターに勤める、ロイチョードリーさんは、ニューデリーがディーゼルの価格を非常に高価にするか、自家用車での使用を許可しないようにすればいいと提案。また、自動車税や駐車場料金のアップを方策としてあげる。 

「インドの対策は、ヨーロッパよりも10年以上遅れています。車の量を減らしたり、いい燃料を使ったりすればいいのですが、シナリオは物足りません。自動車税や駐車料金を上げるのも手です」と話す。

 ニューデリーは駐車料金が安く、10ルピー(約19円)や20ルピー程度で、「これでは車使用の抑止になりません」と話す。駐車場料金に関しては、高い東京が一つのサンプルだと指摘する。

「自動車産業が、これらの改革に抵抗するかもしれません。ディーゼルには問題がないと主張するかもしれませんし、自動車産業の成長がインド経済の未来のために必要なのもわかります。しかしこれは、人々の命がかかった、負けることの出来ない戦いなのです。それを忘れないでほしい」。ロイチョードリーさんは、言葉を選ぶように語った。


 最も汚染された街、デリー 

 インドの首都ニューデリーを含むデリー連邦直轄地は、面積1500平方キロ弱と日本の香川県より小さい土地に1000万を超える人々が暮らしている。ここは、世界で最も汚染された街の一つと言っていい。

 大気汚染では中国の北京がよくやり玉に挙げられるが、世界保健機関(WHO)が2014年に行った全世界の大気汚染の調査では、デリーの大気にはPM2.5などの粒子状物質が北京の何倍も含まれているという結果が出ている。ほかにもデリーの汚染を示す測定結果は数多い。

 このような環境で、人々はどのように生活しているのだろうか。それを探るため、写真家マチュー・パレイ氏は5日間みっちりとデリーの街を歩いた。彼が撮った写真には、過密な交通や炎を上げるごみなど、行き過ぎた都市化の結末が写し出されている。

 汚染されたデリーの街を歩く。神聖なヤムナー川も例外ではない。ヒンドゥー教徒にとってガンジス川に次いで重要なこの川の水を、全長1370キロの流域に暮らす5700万人が利用している。この川の汚染の80%は、デリー市内を通過する約22.5キロの間にもたらされる。土壌が崩れ、ごみがあふれ、化学物質が流出して水が黒くなっているところもあれば、白い膜が張っているところもある。

 ニューデリーを拠点に活動する科学環境センター(CSE)の所長、スニタ・ナレイン氏は2010年、次のような文章を書いている。「あらゆる汚染の基準からして、この川は死んでいると言えます。まだ正式に葬られていないだけです」。同氏は2016年、環境への取り組みを評価されて米「Time」誌の最も影響力がある100人に選ばれている。

 しかし、流域に暮らす人々にとって、ヤムナー川は生活の中心にある。子供たちは川で遊び、男たちはシャツを洗う。あらゆる年代の人が川に入り、その水を飲む。山のように積まれた廃棄物を糧に生活する人々もいる。パレイ氏は撮影中、ごみ捨て場や川岸に毎日通い、リサイクルできる金属やプラスチック、紙を探し回る人々に出会った。

 男性も、女性も、子供もごみを拾っている。運がよければ1日に1000ルピー(約1600円)ほど稼ぐことができるという。これはデリーの平均的な日給の3倍に相当する額だ。

 インドのナレンドラ・モディ首相は2014年10月、「クリーン・インディア・ミッション」という全国規模の環境キャンペーンを発表した。いいアイデアに聞こえるが、その1週間前には「メイク・イン・インディア」というキャンペーンも発表されている。こちらは国際企業の製造拠点をインドに誘致し、雇用を創出するという内容で、環境の浄化と両立しないと指摘する人も多い。

 科学環境センターはこれらのキャンペーンに反対の立場をとっており、2015年の報告書で、政府の予算を見れば、環境政策を進める意思がないことは明白だと批判した。

 副所長のチャンドラ・ブーシャン氏は「大気汚染であれ、水質汚染であれ、廃棄物であれ、環境の悪化を食い止めるには巨額のインフラ投資が必要なのです」と述べている。

 デリーには下水処理場はあっても、下水を運ぶインフラがない。街中でも公共のごみ箱を置くといった基本的な環境整備がなされていないことに気付いた。


参考 National Geographic news: 最も汚染された街、デリーの写真


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