生きている化石「カブトガニ」

 カブトガニというと生きている化石と呼ばれ、4億4500万年前の地層から近縁種が見つかっている。三畳紀(2億3000万年前)からはほぼ同じ形態の化石が出土する。

 約2億年前、カブトガニは現在と変らない姿で、恐竜たちと共に生きていた。様々な環境の変化に伴い、恐竜は絶滅の道をたどり、カブトガニはしぶとく生き残った。なぜカブトガニだけ生き残ることができたのか?それは、恐竜に比べ体が小さく、少量の食料で生きていられること、冬眠する生物であったことが原因であると言われている。更に体脂肪を蓄えることができ、1~2年間も絶食状態で生き抜けるという。

 そんなしぶといカブトガニが日本では絶滅の危機に瀕している。日本国内の生息分布は過去は瀬戸内海と九州北部の沿岸部に広く生息したが、現在では生息地の環境破壊が進み生息数・生息地域ともに激減した。日本では佐賀県伊万里市、岡山県笠岡市の繁殖地が国の天然記念物に、愛媛県西条市の繁殖地が県の天然記念物に指定している。 



 現在の繁殖地は岡山県笠岡市の神島水道、山口県平生町の平生湾、山口市の山口湾、下関市の千鳥浜、愛媛県西条市の河原津海岸、福岡県福岡市西区の今津干潟、北九州市の曽根干潟、大分県中津市の中津干潟、杵築市の守江湾干潟、佐賀県伊万里市伊万里湾奥の多々良海岸、長崎県壱岐市芦辺町が確認されているが、いずれの地域も沿岸の開発が進み最近では生息できる海岸が減少しほとんど見ることができない。

 今回、カブトガニの国内最大の生息地、曽根干潟(北九州市小倉南区)で、今年1月以降、400匹以上のカブトガニが大量死した。年間に確認される死骸は平均で50~60匹。急増した原因は不明だが、猛暑による海水温の上昇を指摘されている。


曽根干潟で400匹超死ぬ 海水温上昇影響か

 環境省が絶滅危惧種に指定するカブトガニが、国内有数の生息地となっている北九州市の干潟で、ことし、例年のおよそ8倍にあたる500匹近く死んでいるのが確認された。

 日本カブトガニを守る会福岡支部の高橋俊吾支部長によると、沿岸に流れ着いた死骸は子供のカブトガニも多く、寿命では大量死の説明がつかない。2004年に約300匹が死んだことがあったが、その時も原因はわからず、それ以来の大量死という。

 原因について、福岡県沿岸のカブトガニを調査している九州大大学院工学研究院の清野聡子准教授(生態工学)は「猛暑続きによる海水温の上昇と、台風による海水のかく乱が少ないことが重なり、海底の酸素が不足したと考えられる」と推測する。福岡県水産海洋技術センター豊前海研究所によると、干潟の沖合の豊前海の5~8月の海水温は、平年より0.9~1.6度高い状態になっている。

 曽根干潟のカブトガニ生息数は推定約2000匹。高橋支部長は「沿岸海域の環境が変化している可能性もあり、詳しい原因を調査してほしい」と語る。


 カブトガニとは何か?

 カブトガニ(甲蟹、兜蟹、鱟、鱟魚)とはカブトガニ科に属する節足動物である。学名は Tachypleus tridentatus。お椀のような体にとげのような尻尾を持つ。

 カブトガニは甲殻類ではなく、カニよりはクモやサソリに近い。 幼生は三葉虫に似ていると言われ、三葉虫型幼生の名もある。実際に三葉虫と系統的に近いと思われたこともあるが、今では否定されている。カブトエビと混同されることがあるが、全く別の生き物である。

 カブトガニは背面全体が広く甲羅で覆われ、附属肢などはすべてその下に隠れている。名前はこの甲羅に由来し、またその姿の類似からドンガメ、マンゴエイなどの地方名もある。

 日本では古くは瀬戸内海に多かった。取り立ててなんの役にも立たず、図体がでかく漁では網を破るなど嫌われたようである。しかし古生代からその姿がほとんど変わっていない生きている化石であり、学術的な面から貴重であるとして天然記念物の指定を受けた場所もある。近年では環境汚染によって各地でその数を激減させている。また、埋め立ての影響なども激減の原因にもなっている。

 カブトガニは、この仲間では日本に産する唯一の種であり、またこの類の現生種のうちでもっとも大型になるものである。全長(甲羅の先端から剣状の尾の先端まで)は雄で70cm、雌では85cmに達するが、普通はもう少し小さく、それぞれ50cm、60cm程度。

 体は頭胸部と腹部、それに尾からなる。

 頭胸部は甲状になっており、両側後方にやや伸びる。背面はなめらかなドーム状で、前方背面に一対の複眼がある。腹面には附属肢などが並ぶ。最前列には鋏状の鋏角があり、先端は後ろに折れ曲がって口に近く、これが口器である。その後ろには五対の歩脚状附属肢があり、その最初のものは触肢であるが、特に分化した形ではない。いずれも先端が鋏になっているが、雄では第一・第二脚の先端が雌を把持する構造に特化している。

 腹部は後ろが狭まった台形で、その縁に沿って6対の棘がある。雌ではこのうちの後方3対が小さくなっている。


 カブトガニの生態

 干潟の泥の溜まった海底に生息する。カブトガニはその体形から泥に沈むことはない。ゴカイなどを餌にする。夏に産卵期を迎え、産卵された卵は数ヶ月で孵化し十数回の脱皮を経て成体になる。カブトガニの幼生は、孵化する以前に卵の中で数回の脱皮を行いながら成長し、それに合わせて卵自体も大きくなってゆく特徴がある。

 メスの第一脚と第二脚は鋏状となっているのに対しオスの第一脚と第二脚は鈎状になっていて、繁殖期にはこの脚でメスを捕縛し雌雄繋がって行動する姿が見られる。繁殖期以外にもオスはメスやメスと錯覚したカブトガニのオスや大型魚類、ウミガメなどに掴まる習性を持ち、その捕縛力も極めて強い。なお、メスの背甲部の形状全体が円を描くような形なのに対し、オスの背甲部は中央先端部が突き出ていることで区別できる。腹部の棘(縁ぎょく)の付き方もメスが後の方の棘の発達が悪くなるというのも特徴である。これはオスがメスの背中につかまる際に邪魔にならないように適応した結果と思われる。

 瀬戸内海の干潟に生息するカブトガニは、夜間の満潮時に最も活発に活動する。カブトガニの行動は、「休息」、「背を下に向ける反転」、「餌探し・探索」、「砂掘り」の4タイプに分類でき、 1日のうち9割の時間は休息し、断続的な活動の大半はゴカイなどの餌探しに費やす。

 日本国内の生息分布は過去は瀬戸内海と九州北部の沿岸部に広く生息したが、現在では生息地の環境破壊が進み生息数・生息地域ともに激減した。

 現在の繁殖地は岡山県笠岡市の神島水道、山口県平生町の平生湾、山口市の山口湾、下関市の千鳥浜、愛媛県西条市の河原津海岸、福岡県福岡市西区の今津干潟、北九州市の曽根干潟、大分県中津市の中津干潟、杵築市の守江湾干潟、佐賀県伊万里市伊万里湾奥の多々良海岸、長崎県壱岐市芦辺町が確認されているが、いずれの地域も沿岸の開発が進み最近では生息できる海岸が減少しほとんど見ることができない。

 日本以外ではインドネシアからフィリピン、それに揚子江河口以南の中国沿岸から知られている。東シナ海にも生息している。インドネシアには後述の二種も生息している。 

 日本以外では東アジア、北アメリカに同科の動物を見ることができ、特に北アメリカ東海岸の一部ではアメリカカブトガニを無数に見ることができる。アメリカカブトガニはカブトガニよりも一回り小さく50cmほどであり、メスに比べオスの比率が高い種でもある。しかし最近ではカブトガニほどではないとはいえ、産卵場所の減少と水質悪化による減少傾向も出ている。

 東南アジアにはマルオカブトガニとミナミカブトガニの2種が分布しているがミナミカブトガニは体長が最大でも30cm、マルオカブトガニは20cmほどと小型である。これら2種はペットとして輸入されていた時もあった。


 医療、その他の利用

 カブトガニ類の血液から得られる抽出成分は、菌類のβ-D-グルカンや細菌の内毒素と反応して凝固することから、これらの検出に用いられる。本種から得られる成分はTAL (Tachypleus tridentatus amebocyte lysate) と呼ばれ、アメリカカブトガニ由来のLAL (Limulus polyphemus amebocyte lysate) とは反応性が異なることが確認されている。

 最近では、カブトガニの血球成分からつくられた薬によって、エイズウイルスの繁殖がおさえられ、その活動が弱まるというすばらしい研究も進んでいる。

 日本では数が少なくて考えられないが、米国の東海岸には無数に存在し、カブトガニから採血し医療に利用されている。血液は1リットルあたり約15000ドルで取引され、市場規模は米国だけでも年間5000万ドルに上る。

 年間の捕獲数は25万匹ほどで、全血液量の約30%が採取される。生産者は死亡率を3%程度と推定しているが、近年の調査では10-15%が死亡しているという結果が得られている。血液量は1週間後には元に戻り、細胞数は2-3か月で回復することが示されている。 血中の酵素は国際宇宙ステーションで細菌のコンタミネーションを防ぐために用いられている。

 日本においては田畑の肥料や釣りの餌、家畜の飼料として使われていた。アメリカでも飼料としての利用が行われている。中国やタイ等の東南アジアの一部地域ではカブトガニ類が普通に食用にされている。中国福建省では「鱟」(ハウ)と呼び卵、肉などを鶏卵と共に炒めて食べることが行われている。日本でも山口県下関など一部の地域では食用に用いていたこともあったが、美味しくはないと言われている。


 日本の繁殖地と文化

 佐賀県伊万里市伊万里湾は、日本最大の生息・繁殖地とされており、当地の方言では「ハチガメ」と呼ばれる。伊万里市街地から程近い湾内の多々良海岸周辺296,250平方メートルの繁殖地の個体が、市の天然記念物として指定されていたが、平成27年6月に市の指定地を含む約58万2千平方メートルの範囲が、新たに国の天然記念物に指定された。

 毎年6月から8月の大潮日の満潮時に、カブトガニがつがいで浜にやってきて産卵する姿を見ることもできる。7月中旬から8月上旬の大潮日の後1週間が産卵のピークとされており、毎年伊万里市では、「カブトガニの産卵を観る会」が開催されている。市内には牧島のカブトガニとホタルを育てる会が運営する伊万里湾カブトガニの館もあり、カブトガニを飼育しており見学が通年可能。

 岡山県笠岡市も国内の代表的な生息地・繁殖地で、平成27年までは日本で唯一、国の天然記念物に指定されていた。方言では「ドン亀」と呼ばれていたが、笠岡湾の干拓の影響もあって同地での生息状況は絶滅寸前である。同地には、笠岡市立カブトガニ博物館がある。また、JR西日本山陽本線笠岡駅では接近メロディに「がんばれカブトガニ」を使用している。また、ご当地ゆるキャラとしてかぶにくん、かぶ海(み)ちゃんが存在する。

 愛媛県西条市では、カブトガニはオスとメスが重なっているところから、夫婦仲がよく縁起の良いものとされる。年初めの漁で網にカブトガニのつがいがかかるとその年は豊漁となると伝えられ、神棚に酒を供えて祝う風習があったという。現在では伊万里市や笠岡市同様に干拓が進んだ結果、生息数が激減し絶滅寸前であるが、西条市では「東予郷土館」にてカブトガニを飼育しているほか、河原津海岸で幼生を放流したり、市民向けに幼生の飼育ボランティアを募集するなどの取り組みを行っている。また、ご当地ゆるキャラとして、カブトガニがモチーフとなったカブちゃんがPRに努めている。


参考 NHK news: カブトガニが大量死 猛暑が原因か北九州


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