エイリアンのモデル生物は?

 映画「エイリアン」のモデルは何だろう? それは「寄生バチ」である。「エイリアン」の物語をたどってみよう。

 物語は今から数百年後の宇宙空間で始まる…。宇宙貨物船ノストロモ号は、他恒星系から地球へ帰還する途中、未知の異星文明の物と思われる電波信号を受信した。人類初となる異星人との遭遇のために小惑星に降り立った乗組員たちは、宇宙船と化石化した宇宙人(スペース・ジョッキー)を発見、調査を進めるうちに巨大な卵のような物体が無数に乱立する空間へ辿り着く。航海士のケインがこの物体に近づくと、中から蜘蛛に似た生物が飛び出して彼のヘルメットのゴーグルを突き破り顔に張り付いた。急いでノストロモ号へ帰還する一行。電波信号は解析の結果、宇宙人が発した何らかの警告であることが判明した。

 ケインの顔面に張り付いた生物は、力づくや外科措置では引き剥がせなかったが、やがてはがれ落ちて死んだ。その後のケインに異常は見られず回復したかに思われたが、乗組員たちとの食事中に突然苦しみ出した彼の胸部を食い破って奇怪な寄生生物が出現、逃走する。ケインは体内にエイリアンの幼体を産み付けられていたのである…。



 ここに登場するエイリアンは、人の体に寄生して成長する。いったいどこからこんな恐ろしいアイデアをもってきたのだろう?…と思ったら、寄生バチがモデルであった。寄生バチは他の昆虫や植物などに卵を産み付ける。卵はやがてかえって、生きている宿主を食べながら成長するのだ。

 奇抜なアイデアで映画は大ヒットした。しかし、エイリアンの原作者もここまでは想像できなっただろう...。

 今回、新たな寄生バチが発見された。なんと寄生バチに寄生するハチだ。その悪魔のような生態から、混沌を司るエジプトの神セトにちなんでEuderus setと学名が付けられた。通称はクリプトキーパー。“棺の番人”という意味。


 新種の寄生バチを発見、宿主を操り頭を食い破る

 新たに発見されたクリプトキーパー。どうやって宿主を操っているのかは、まだわかっていない。 

 米国南東部に生息するこのハチは、別の寄生バチであるタマバチの仲間Bassettia pallidaが作った「虫こぶ」に卵を産みつける。虫こぶは、寄生バチの幼虫などが木の一部をふくらませて作る突起で、このタマバチはカシの木に虫こぶを作る。

 虫こぶに産みつけられた卵が孵化すると、クリプトキーパーの幼虫は自力でタマバチに寄生してその体を乗っ取り、木に穴を開けて外へ出ようとする。
 クリプトキーパーがずる賢いのは、宿主が通り抜けるには小さすぎる穴を開けさせることだ。タマバチがみずから開けた穴に引っかかって動けなくなると、クリプトキーパーは内側から宿主を食い破り、その頭から顔を出す。

 このハチの名前の由来となったエジプトの邪神セトは、ハイエナやヘビなどの動物を操ることができると考えられていた。さらに、兄オシリスを棺に閉じ込めて殺害し、その遺体を切り刻んだという。

 クリプトキーパーに関する論文の筆頭著者は、米ライス大学の寄生虫学者、ケリー・ウェイナースミス氏だ。閉所恐怖症だというウェイナースミス氏は、タマバチが見舞われる悪夢に身震いする。「狭い穴に閉じ込められ、動くこともできず、体の中を食い荒らされるのですから」

 ウェイナースミス氏らの研究は、英国の学術誌『英国王立協会紀要』に掲載された。「自然淘汰の中で、このようなクールな方法で宿主を操る力を身につけた寄生虫がいるのです。恐しいことですが、驚きそのものです」


 “棺”の中で何が起きているのか?

 寄生という概念はよく知られている。ヒルやダニなどは、他の生物に寄生する生物の典型だ。

 二重寄生というのは、他の寄生者に寄生することをいう。たとえば、幼虫に卵を産みつける寄生バチに対して別の寄生バチが卵を産みつける場合がこれにあたる。クリプトキーパーの例では、宿主を操る寄生虫(カシの木に虫こぶを作るタマバチ)が別の寄生虫(クリプトキーパー)に操られている。「この研究はとても貴重な発見だといえます」。米ハーバード大学で捕食寄生者とその宿主の関係を研究している米国国立科学財団の博士研究員エミリー・マイネケ氏は語る。

 この研究では、クリプトキーパーが宿主を操るメリットも明らかになっている。マイネケ氏はその点に驚いたという。

 ウェイナースミス氏のグループは、宿主のハチがいない虫こぶにクリプトキーパーを閉じ込め、自力で何ができるかを観察するという実験を行った。結局、宿主の力を借りることができないクリプトキーパーは “棺”から出られずに、死ぬ確率が3倍高くなることがわかった。

 「二重寄生する寄生バチはたくさん存在していますが、宿主を操って複雑な行動をさせ、それによって生存率が高まっていることを記録できたケースはとても珍しいものです」とマイネケ氏は話す。


 新種は目と鼻の先で見つかった

 ウェイナースミス氏のグループは、クリプトキーパーが宿主を操る方法だけでなく、このような行動がどのくらい他の種に広がっているのかも突き止めたいと考えている。

 クリプトキーパーはジャングル奥地などではなく、人口密集地である米国南東部に生息している(研究の上席著者であるスコット・イーガン氏が最初にクリプトキーパーを発見したのは、米フロリダ州のメキシコ湾岸地域だったが、その後、ヒューストンにある大学構内の木でも同じ種を見つけている)。
「クリプトキーパーとその驚くべき生態は、信じられないほど身近にありました。私たちが今まで気づかなかっただけなのです」。研究の共著者で、米アイオワ大学の進化生物学者アンドリュー・フォーブス氏はそう話す。

 「寄生バチの種類は他の昆虫すべての種類を合わせた数を上回るほどだという事実を、私たちはごく最近になって受け入れつつあります。どのくらいの種類が存在するのかは、まだ見当さえついていません」とフォーブス氏。「にもかかわらず、その生態はほとんど何も知られていないのです」


 寄生バチとは何か?

 寄生バチはハチ目のうち、生活史の中で、寄生生活する時期を持つものの総称である。分類学的には、ハチ目ハチ亜目寄生蜂下目 Parasitica に属する種がほとんどであるが、ヤドリキバチ上科、セイボウ上科など、別の分類群にも寄生性の種がいる。

 寄生バチはハチの中のいくつかの群に当たる範疇で、分類群としては、コバチ、コマユバチ、ヒメバチなどがある。幼虫が寄生生活を行うハチを指す言葉で、植物に寄生するものと、動物に寄生するものがある。

 植物に寄生するものでは、卵は植物の組織内部に産まれ、幼虫はその中で成長する。植物のその部分は往々にして膨れて虫こぶを形成する。

 動物に寄生するものは、一匹のメスが宿主に卵を産みつける。卵から孵った幼虫は、宿主の体を食べて成長する。その過程では宿主を殺すことはないが、ハチの幼虫が成長しきった段階では、宿主を殺してしまう、いわゆる捕食寄生者である。

 外部寄生のものは宿主の体表に卵が産み付けられ、幼虫はその体表で生活する。内部寄生のものも多く、その場合、幼虫が成熟すると宿主の体表に出てくるものと、内部で蛹になるものがある。

 宿主になるのは昆虫とクモ類で、昆虫では幼虫に寄生するものが多いが、卵に寄生するものもある。寄生の対象となる種は極めて多く、昆虫類ではノミやシミなど体積の問題がある種を除いて寄生を受けない種はないといわれ、すでに寄生中のヤドリバチやヤドリバエの中にすら二重三重に寄生する。ただし、一部の種には後から寄生してきたハチを幼虫が食い殺す例もあることが発見されている。


 寄生バチが狩りバチに進化

 動物に寄生する寄生バチは、いわゆる狩りバチと幼虫が昆虫などを生きながら食べ尽くす点ではよく似ている。相違点は、典型的な狩りバチでは雌親が獲物を麻酔し、それを自分が作った巣に確保する点である。その点、寄生バチは獲物(宿主)を麻酔せず、またそれを運んで巣穴に隠すこともない。しかし中間的なもの(エメラルドゴキブリバチなど)が存在し、おそらく寄生バチから狩りバチが進化したと考えられている。

 コバチ科、ツチバチ科は、主にコガネムシ上科の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは土や朽ち木にもぐりこんで、コガネムシの幼虫を見つけて産卵する。卵から孵った幼虫はコガネムシの幼虫を食べて育つ。成虫になると土や朽ち木から出てくる。熱帯雨林には、大型カブトムシの幼虫に寄生するものも分布している。

 コマユバチ科は、主にチョウ目の幼虫に寄生する(ウマノオバチはシロスジカミキリやクワガタムシ、キバチの幼虫)。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に大量に卵を産み付ける(ウマノオバチは一つのみ)。卵から孵った幼虫は宿主の幼虫を食べて育つ。大きく育つと宿主の幼虫の死骸から出て繭を作り、蛹になる。代表的な種に、アオムシサムライコマユバチやウマノオバチがいる。

 ヒメバチ科は、主にチョウ目の幼虫に寄生する。交尾を済ませたメスは、宿主の幼虫に卵を産み付ける。卵から孵ると、宿主の幼虫が死なない程度に宿主の体を食べて育つ。宿主が蛹になると、蛹の中身をすべて食べた後、蛹になる。やがて羽化した後、空になった蛹の殻に穴を開けて出てくる。


参考 National Geographic news:新種の寄生バチを発見、宿主を操り頭を食い破る


本当にいる地球の「寄生生物」案内
クリエーター情報なし
笠倉出版社
寄生バチの世界 (動物 その適応戦略と社会)
クリエーター情報なし
東海大学出版会

ブログランキング・にほんブログ村へ 人気ブログランキングへ   ←One Click please