太陽系に最も近い恒星をまわる惑星発見

 2016年8月、英国のクイーン・マリー大学などからなる国際研究チームが、太陽系に最も近い恒星である「プロキシマ・ケンタウリ」に、生命が生存できる環境の可能性のある惑星「プロキシマb」を発見したと発表した。太陽系とプロキシマ・ケンタウリとの距離は4.37光年で、これほど近くの恒星に惑星が発見されたのは初めてのことだ。

 「プロキシマb」が、水や大気の有無も含めてどのような星であるかは、まだ謎に包まれている。将来、E-ETLやジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などを使った観測で、さらに詳しいことがわかると期待されているが、最終的には探査機や有人宇宙船が訪れ、直接探査を行うことになるだろう。

 しかし、いくらプロキシマbが太陽系に最も近い系外惑星だとしても、4.37光年(約40兆km)も離れた場所に行くのは簡単ではない。



 これまで人類が打ち上げた探査機のなかで最も速いスピードで飛んでいるのは、1977年に打ち上げられた「ボオィジャー1」で、秒速約17kmという途方もないスピードを出している。しかし、仮にヴォイジャー1をプロキシマbへ向けて打ち上げたとしても、到着までには約7万年もかかる計算だ。

 現在検討されているなかで、最も現実なものは、「ブレイクスルー・イニシアティヴズ」という団体が研究している「ブレイクスルー・スターショット」という計画である。ブレイクスルー・イニシアティヴズは、ロシアの起業家ユーリィ・ミリネル氏や、世界的な物理学者のスティーヴン・ホーキング氏らによって設立された団体で、地球外知的生命体の探査を目指している。

 同団体が研究中のブレイクスルー・スターショットは、カメラなどを積んだ質量数gほどの小さなチップ状の本体と、セイル(帆)からなる探査機「スターチップ」を打ち上げ、その帆に地球から強力なレーザーを当て、その光の圧力で光速の15%から20%まで加速させ、ケンタウルス座アルファ星を目指すというもので、実現すればわずか20年ほどで到着することができる。


太陽系外惑星へ探査機を送る新手法、科学者が提唱

「プロキシマ・ケンタウリ」という太陽系から最も近い恒星の周りを回る、地球サイズの惑星が見つかったのはほんの数カ月前のこと。今回、ある天体物理学者のチームが、この系外惑星に探査機を送り込んで長期間観測を行う方法を提唱し、宇宙物理学の学術誌『アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ(Astrophysical Journal Letters)』に論文を発表した。

 その方法は、同じく「アルファ・ケンタウリ星系」に超小型の宇宙探査機を送り込もうというホーキング博士らの計画「ブレイクスルー・スターショット(Breakthrough Starshot)」と似ている。ブレイクスルー・スターショット計画では、探査機は地球から照射される強力なレーザーで加速するため、目的地をあっという間に通り過ぎることとなる。そのわずかな間に、探査機は写真を撮影し、データを収集して、地球に送信しなければならない。

 もし、探査機が急ブレーキをかけてプロキシマを周回する軌道に入り、少しの間でも観測することができたらどうだろう?

 天体物理学者のミヒャエル・ヒプケ氏は、「ブレイクスルー・スターショット計画では、ほんの数秒の間に、数枚のスナップショットを撮影することしかできません。ここでカメラが目標をとらえられなければ、一巻の終わりです」と言う。「これに対して、目標を周回する軌道に探査機を投入することができれば、探査機が稼働している間ずっと、そこにとどまることができます」


 止まらない超高速の探査機「ブレイクスルー・スターショット」

 宇宙起業家たちは、プロキシマの周りに地球大の惑星が発見される前から、太陽系に最も近いアルファ・ケンタウリ星系をめざすブレイクスルー・スターショット計画を考えていた。この星系で新たに発見された惑星「プロキシマb」は、4.24光年しか離れていないため、太陽系外惑星としては、人間の寿命内に無人探査機で到達できる可能性が最も高い。

 ただ、ブレイクスルー・スターショット計画ではじっくりと探査をすることができない。計画されているナノサイズの宇宙探査機「スターチップ(StarChip)」は、反射率の高い帆を張り、地球から照射される強力なレーザーの力を借りて、最終的に光速の2割ほどまで加速して宇宙空間を進んでゆく。ただ、このレーザーはまだ開発されていない。

 このスピードでもアルファ・ケンタウリ星系に到達するのに約20年かかるが、減速する手段がないため、スターチップはわずか数分で星系を通過することになる。

 ヒプケ氏と同僚のレネ・ヘラー氏は、恒星の光を利用して超小型探査機を減速し、さらにはプロキシマを周回する軌道に送り込む方法を思いついた。懐疑的な見方をする人がいるものの、二人のアイデアは興味深いものであり、ブレイクスルー・スターショット計画に少なからぬ影響を与える可能性がある。

 ドイツのマックス・プランク太陽系研究所に所属するヘラー氏は、「この方法で探査機をプロキシマbに送り込むのに必要なエネルギーは、これまでのようにロケットを使って地球周回軌道に乗せるのと基本的には同じです」と言う。 「ブレイクスルー・スターショット計画に比べると速度は5分の1になりますが、星間ミッションへの技術的・エネルギー的な要請は格段に小さくなります」


 石けんサイズの探査機にサッカー場14面分の帆で宇宙を帆走

 遠くにある恒星の光をブレーキとして利用するアイデアは、太陽の光で宇宙船を走らせる太陽帆(ソーラーセイル)の原理から生まれた。反射率の高い材料でできた巨大で超薄い帆は、海上の船の帆が風をとらえるのと同じように、太陽の光子をとらえて光圧により宇宙船を進ませる。

 光子を利用して宇宙船を推進することができるなら、風を利用して帆船を加速したり減速したりできるように、宇宙船が目的地に近づいたときに減速させるのにも使えるはずだ。

 ヘラー氏とヒプケ氏が発表した論文によると、宇宙探査機の重さは石けん1個分ほどで、推進力を得るための帆の大きさは9万平方メートル(サッカー場およそ14面分)以上が必要になるという。

 探査機は、太陽の光を巨大な帆に受けながら、アルファ・ケンタウリ星系を目指す。目的地に近づいたら帆の向きを変え、今度はアルファ・ケンタウリから届く光子を利用して、効率的に停止することになる。

 そこで、アルファ・ケンタウリの明るいA星とB星を周回する軌道にとどまってもよいし、2つの星の重力をうまく利用してプロキシマに向かい、その軌道に入ることもできる。

 いずれにせよ、探査機はプロキシマの間近で、慌てることなくデータの収集や撮影をし、それらを地球に送ることが可能となる。 「プロキシマは興味深い存在です。なぜなら、生命が存在できる『ハビタブル・ゾーン』の内側に惑星があることがわかっていますから」とヒプケ氏。


 科学技術の革新「グラフェンの大量生産と、メタマテリアルコーティング」

 ヒプケ氏らのアイデアには説得力があるが、目的地への到達には人間の寿命より長い時間がかかってしまう。太陽光に押されてアルファ・ケンタウリを目指す探査機が太陽系の外に出るときの速度は、光速の4.6%にしかならないからだ。

 この速度では、探査機がアルファ・ケンタウリ星系に近づくまでに約95年かかる。そして、アルファ・ケンタウリからの光を利用して減速した後、プロキシマに到達するのにさらに46年かかるという。つまり、探査機が集めたプロキシマに関するデータを受け取るのは、私たちの子孫ということになる。

 ブレイクスルー・スターショット計画の諮問委員会を率いるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのアヴィ・ローブ氏は、「スターショット計画のコンセプトにとって何よりも重要なのは、人間の寿命内にアルファ・ケンタウリに到達するという点なのです」と言う。「私たちが計画しているレーザーアレイは、太陽の100万倍の光圧で帆を押すことができるのです」

 そんな高速で飛行する探査機は、恒星の光だけで止めることはできないが、はるかに早くたどりつける。ローブ氏はまた、ヒプケ氏とヘラー氏が提案する大型で超軽量の帆は、まだ存在していない材料をあてにしていると批判する。

 とはいえ、材料科学のめざましい進歩は、探査機の軽量化と高速化を実現する極薄の帆を生み出すだろう。 「グラフェンを大量生産して、特殊な光学特性をもつメタマテリアルでコーティングすれば、もう目的地に着いたも同然ですよ」とヒプケ氏。「あとは、センサーや通信用レーザー、スマートフォンに使われているような部品をいくつか追加するだけでいいんです!」


 ケンタウルス座のアルファ星とは?

 ケンタウルス座アルファ星は、ケンタウルス座の恒星。恒星が3個ある三重連星で、ケンタウルス座で最も明るい。実視等級は-0.01等と明るく、(太陽を除く)全天で3番目に明るい恒星である。また、太陽系から4.37光年しか離れておらず、最も近い恒星系でもある。現在も秒速25kmで太陽系に近付いており、およそ25,000年後には3光年まで接近する。2012年に、国際研究チームにより、3個のうちBを公転する、下限質量が地球の1.13倍の重さの惑星が発見された。

 主星(A星)は太陽に似た黄白色の主系列星で、スペクトル型は太陽と同じG2V。表面温度はおよそ5,800K。絶対等級は4.3等となる。太陽と比べて質量は約10%、半径は約23%大きく、太陽よりも少し明るい(太陽は4.8等)。約22日で自転していると考えられている。

 第1伴星(B星)は太陽の0.28倍の光度を持つ橙色の主系列星で、スペクトル型はK1Vで、表面温度はおよそ5,300K。太陽と比べて質量は約10%、半径は約14%小さい。約41日で自転していると考えられている。B星はA星よりも強いX線を放射している。AとBの最短距離は11AUで、公転周期は79.91年。2012年になって、Bに地球サイズの惑星が発見された。太陽系に最も近い惑星である。

 第2伴星(C星)はプロキシマとしても知られており、地球からの距離は4.22光年。プロキシマの名称は、ラテン語で「最も近い」という意味であり、太陽系に最も近い恒星であることから来ている。プロキシマはA/Bのペアから13,000AU(0.2光年)も離れており、公転周期は100万年にも及ぶ。スペクトルタイプはM5Vの赤色矮星。表面温度はおよそ2,700K。質量は太陽の約0.4倍。この星は「ケンタウルス座V645星」というくじら座UV星型の変光星(閃光星)でもある。

 A・Bを合わせた実視等級は-0.27等で、シリウスやカノープスよりは暗いがアルクトゥルスよりは明るい。A星単独だと-0.01等で、-0.04等のアルクトゥルスに次ぐ明るさとなる。なおB星単独では1.33等で、21番目に明るい。

 太陽からA・Bの共通重心までの距離はそれぞれの星までの距離とほとんど変わらないので、これらを単一の天体とみなすこともできる。2012年にHARPSの観測により、ケンタウルス座アルファ星Bを公転する太陽系外惑星が発見された。この惑星は下限質量が地球の1.13倍で、3.2日で主星の回りを一周する。主星に近い軌道を周回しているため、生命が存在する可能性は低いと考えられている。

 2013年にはBbとは異なり、トランジット法による観測でケンタウルス座α星Bにもう1つの惑星、ケンタウルス座α星Bcが存在する可能性があると発表された。ケンタウルス座α星Bcも地球の0.92倍の半径を持つ岩石惑星とされており、Bbの外側、0.1auのところを12.4日で公転していると思われている。


参考 National Geographic news: 太陽系外惑星へ探査機を送る新手法


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