海洋生物大量死の原因は?

 海は地球最後のフロンティアである。地球表面の70%は海であり、地球の海の平均水深は約3,800 m なので、深海は海全体の約95 % を占める広大な世界である。そのほとんどが知られていない。

 研究することも多種多様である。地球の気象に与える影響や温暖化に関すること、海流、深層海流、表層に住む魚類などの生物や深海に住む特殊な生物、地震の原因であるプレートの調査、海底火山、海底鉱物資源、海底ケーブル、海底通信、深海調査技術、超臨界流体、メタンハイドレートなどなど不思議なことがたくさん残されている。これらを解明していくのが科学の役割だ。

 そんな海で不思議なことが起きている。ここ数年、北米大陸の西岸沖の海域では、海洋生物の死が目立つようになっていた。カリフォルニア州からアラスカ州に至る各地の潮だまりでは、何百万匹ものヒトデが死んだ。



 ウミガラスやウミスズメなど数十万羽の海鳥が死に、海辺に打ち上げられた。カリフォルニア州では、餓死するアシカが例年の20倍になった。アラスカ州のホーマーで研究者がそりにラッコの死骸を積んでいるのを目にしたが、その数は1カ月で79頭を数えたという。2015年には一帯で300頭以上のラッコが死んだ。2015年末までに、アラスカ湾西部で死んだクジラの数は、実に45頭に達した。

 2015年には、10億匹の青いクラゲ「カツオノカンムリ」が米国西海岸で打ちあげられた。陸へ打ち上げられて大量遭難死するカツオノカンムリの姿は珍しいことではない、3年~6年ごとに起きる現象だ...というが、これらの原因については分かっていなかった。

 今回、その原因が分かってきた。太平洋北東部で、水温が異常に高い海域「暖水塊」が出現し、有毒な藻類の大量発生との関連が疑われている。これが、生物の大量死などの異変をもたらしたようだ。それは未来の海が直面する悲劇の前兆なのだろうか?


 巨大な暖水塊が太平洋に出現

 山火事が力のない生き物を葬り、森の再生に向けて道を切り開くように、生物の大量死は自然の摂理ともいえる。だが各地で起きた生物の死には、一つの共通点があった。いずれも北米西岸の海水温が、観測史上最も高い値を記録した時期に起きているのだ。

 アラスカ湾では2013年末から、「暖水塊」と呼ばれる水温の高い海域が出現。そこに高気圧が居座ったことで、通常なら海面の熱を吹き飛ばすはずの嵐が起こらず、熱を蓄えたまま暖水塊は成長し、北米西岸沿いに広がっていった。海水温は、場所によっては平年より4℃以上高くなり、一部では観測史上最も高い値を記録した。この暖水塊は、最盛期にはメキシコからアラスカまで広がり、その面積は米国の国土面積に近い約900万平方キロにまで達した。

 そして2013年から16年の初めにかけて、北米西岸の海域では生物の分布に異変が生じ、有毒な藻類が長期にわたって大発生するなど、かつてない異常な事態の数々に見舞われたのだ。

 2015年5月の太平洋海面の異常な高温と、2002年から2012年までの平均温度との差を色で示す地図。赤いほど高温で、最も高いところでは3℃高い。紫に近い海域ほど低温で、最も低いところでは3℃低い。近年の暖水塊は「ブロブ」と呼ばれている。

 2013年の終わりに、科学者たちはアラスカ湾で奇妙な現象が起きていることに気づきはじめた。海面温度が、例年に比べてかなり高かったのだ。

 2014年初頭には、米国西海岸の沖合約200kmのところにも暖水塊が出現し、どんどん広がっていって、秋には海岸に到達した。2015年のほとんどの期間と2016年にかけても、カリフォルニア州沿岸や太平洋の他の海域で、海面温度が高い状態が続いた。場所によっては、平均より5℃以上も高かった。科学者たちは、この暖水塊を「ブロブ(the Blob)」と呼んで、解明に取り組みはじめた。

 このほど、暖水塊の形成から消滅までを宇宙から観測した詳細な地図が完成した。研究者たちは、数カ国の複数の人工衛星からのデータを使って、2014年から2016年までの太平洋の海面温度と風の吹き方の変化を追跡した。この分析の結果が、上の暖水塊の画像とともに、地球物理学の専門誌『Geophysical Research Letters』1月号に発表された 。 


 太平洋のラッコの大量死との関係は?

 米アラスカ州ホーマーの海岸で苦しみもがくラッコたちが発見されたとき、研究者たちは驚いた。以前は、海岸に打ち上げられるラッコの死体は年間75頭程度だったが、2015年には300頭以上にのぼった。ラッコの大量死は、太平洋で大規模な暖水塊が形成されたことと関連があるのだろうか?

 論文の筆頭著者である米国地球宇宙研究所の自然地理学者シェル・ジェンテマン氏は、「これは新しい現象です」と言う。ジェンテマン氏は、今回の暖水塊の温度を1910年以降の海面温度の記録と比較して、同じような現象が起きていないか調べた。

 「私が調べたかぎりでは、今回の暖水塊は大きさの点でも持続期間の点でも、これまでにない規模のものでした」と彼女は言う。

 2013年から2016年にかけては、海洋生物の異常が相次いだ。アシカやオットセイ、ウミガラス、アメリカウミスズメが大量死したほか、米国西海岸全域で有害な藻類が大発生(下の衛星画像参照)し、イワシやカニ、マテガイの漁業に影響が及んだ。暖水塊の新しい地図は、こうした大量死の原因を解明するのに役立つかもしれない。


 「カリフォルニアの風」が弱かった

 ジェンテマン氏のチームは、人工衛星のデータを用いて海岸沿いの海面温度と風の吹き方の変化を注意深く調べることによって、暖水塊の関与を解き明かす手がかりを得た。新たに始まった国際協力により、数多くの人工衛星からのデータを組み合わせることで、海の異常を詳細に把握することができたのだ。

 通常は、米国西海岸沿いに吹く風が海岸線から表層水を運び去り、深層の冷たい水が湧き上がってくる。湧き上がってくる海水は、沿岸の食物網の維持に重要な硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩などの栄養素を含んでいる。プランクトンから海洋哺乳類、鳥類まで、多くの生物種がこうした栄養素に依存している。

 けれども今回は、カリフォルニア沿岸で、いつもとは違ったことが起きていた。気圧のデータを調べると、沿岸の風がいつもどおり吹いているように思われたが、それにもかかわらず海面温度が下がっていない時期があったのだ。

 この時期に何が起きていたかを知るため、ジェンテマン氏のチームは衛星データから得られる、海面から放射される赤外線とマイクロ波を分析した。赤外線データで海面温度を、マイクロ波データと数学モデルを用いて風の吹き方を推測した。その結果、カリフォルニア沿岸の風が弱かったため、表層にある高温の海水を運び去ることができず、下から冷たい海水が湧き上がってこられなくなっていたことが判明した。

 こうした発見は、暖水塊が海洋生物に及ぼす影響を生物学者たちがよりよく理解するのに役に立つ。ジェンテマン氏は、水温や湧水の小さな変化が、深海の栄養素に依存する生物種に大きな影響を及ぼす可能性があると指摘する。「タイミングは非常に重要です。この海域の食物網の全体、生態系の全体が、深層水が湧き上がってくるタイミングに合わせて進化してきたからです」 


参考 National Geographic news:太平洋「死の暖水塊」の原因があきらかに


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