次世代エネルギー「水素」

 水素というと、水素は全宇宙で最も豊富に存在する元素であり、宇宙の質量の3/4を占め、総量数比では全原子の 90 % 以上となる。しかし、地球上では、ほとんどは海水の状態で存在し、単体の水素分子は天然ガスの中にわずかに含まれる程度である。地球の大気中での濃度は 1 ppm 以下とほとんど存在していない。

 水素は、エネルギー変換効率が高く、燃焼後に二酸化炭素を排出しない利点もある。また、現状では主に化石燃料を使って製造しているものの、将来的には、水の電気分解やバイオマス・ごみ等を利用により、化石燃料に拠らないで製造できる可能性がある。このため、次世代のエネルギー源やエネルギーの輸送及び貯蔵手段として期待される。

 有望なエネルギー資源である水素だが、周期表上ではアルカリ金属の列の最上段にある。アルカリ金属というと、Li,Na,K などのことだ。水素は通常は気体であり金属ではない。しかし、木星、土星や新しく発見された太陽系外惑星の内部では、重力による圧縮により、金属水素が大量に存在すると考えられている。木星の磁場が非常に強く、地表面近くにあるのは、金属水素の存在が一因だとも言われている。



 1935年、ユージン・ウィグナーとHillard Bell Huntingtonは、25GPa程度の超高圧で、水素原子は電子を保持できなくなり、金属的な性質を示すことを予測した。それ以降、金属水素は、「高圧物理学の聖杯」と呼ばれるようになった。

 必要な圧力についての当初の予測は、後に低すぎたことが証明された。ウィグナーらによる最初の研究以降、様々な理論計算が行われ、高いが実現可能な程度の圧力が示された。水素の金属化のために、地球の中心部よりも大きい500GPa以上の圧力を作り出す技術が開発された。

 1968年、Ashcroftは、金属水素は、既知の候補金属よりもずっと高い室温程度で超伝導性を示し得ると主張した。この説は、音速が非常に速いこと、伝導電子とフォノンの結合が強いと思われることから考えられた。

 Egor Babaevは、水素や重水素が液体金属状態を取る場合、それらは磁壁の中で安定に整列し、超伝導とも超流動とも分類できない2つの新しいタイプの量子流体「超伝導超流動」か「金属超流動」の状態を取りうると予測した。このような流体は、外部磁場と回転に高い反応性を持つと予測され、Babaevの予測を実証することができると考えられた。

 また、磁場の影響下では、水素は超伝導から超流動、また逆に超流動から超伝導に相転移を起こすことが予測された。2017年1月、ハーバード大の研究者アイザック・シルベラ博士とランガ・ディアス博士が、ダイヤモンドアンビルセルにより 495 GPa という地球の中心部よりも高い圧力をかけ、生成した固体の反射率を測定したところドルーデモデルにより予言される値と一致する値を得たため、金属水素と同定したとする論文を発表した。


 ハーバード大、「金属水素」の生成に成功

 ハーバード大学の研究チームは、水素に超高圧をかけることによって「金属水素」と呼ばれる状態を作り出すことに成功したと発表した。金属水素は、超高圧をかけられた水素が、金属光沢や導電性といった金属特有の性質を示すようになるもの。金属水素は、常温で超伝導体として振舞うと理論的に予想されていることもあり、高圧物理の分野では長年にわたり金属水素を作る実験が続けられている。研究論文は、科学誌「Science」に掲載された。

 水素は通常、水素原子2個がそれぞれの軌道上にある電子を共有し合って結びつく共有結合によって、水素分子H2を構成している。この状態の水素は、分子間での電子の受け渡しができないため電気を通さない絶縁体である。しかし、水素に極めて高い圧力をかけた場合には、分子同士がぎゅうぎゅうに押しつけられることで分子の共有結合が解離し、電子1個を持つ水素原子がびっしり並んだ状態が出現する。このとき水素のバンド構造は金属状態となり、導電性を持った金属水素になると考えられる。

 こうした理論予想は、1930年代に物理学者ユージン・ウィグナーらによってすでに行われており、ウィグナーは金属水素を作るのに必要な圧力を25GPa(ギガパスカル)と計算していた。25GPaというと約25万気圧の超高圧状態であるが、その後の実験によって金属水素を実際に作るには25GPaでは足りず、これを大幅に上回る超高圧力が必要であることがわかってきた。

 例えば、ローレンス・リバモア研究所が1996年に行った実験では、140GPa・3000Kという超高圧・超高温状態をガス銃の衝撃波によって発生させることで、液体水素が導電性を示したとされている。ただし、これは衝撃波による瞬間的な現象であり、金属水素とみられる状態が持続したのは100万分の1秒以下という短い時間だった。今日の理論では、金属水素への変化に必要な圧力は400~500GPa程度だろうと予測されている。

 今回の実験では、高圧実験でよく使われるダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いて、低温で固体化した水素分子に超高圧をかけた。その結果、圧力335GPaまでは透明だった水素が、この圧力を超えると黒色に変わり、さらに495GPaに達したところで金属光沢を示すことが確認された。このときの反射率は0.91であった。この反射率をもとに理論モデルから計算したプラズマ振動数は約32.5eV(電子ボルト)、キャリア密度は約7.7×1023/cm3であり、金属水素の原子密度の予測値と一致した。このことから研究チームは、超高圧下で固体の金属水素が現れたと結論している。

 通常このような超高圧をDACにかけると、装置自体が破壊されてしまい、実験にならない。研究チームは破壊回避の対策として、DACのダイヤモンド表面5μmを反応性イオンエッチングによってきれいに削ぎ落とし、その後にアルミナ薄膜による保護層を作って水素の進入による劣化を防ぐなどの処理を施した。こうした工夫によって、495GPaという超高圧条件を実現できたという。

 超高圧下で生成された金属水素は、理論的には準安定状態であるため、生成後に常温・常圧に戻しても金属水素の状態を保つことができる可能性がある。また、金属水素が室温以上で超伝導状態を示す高温超伝導体である可能性も指摘されている。

 今後これらの理論予測が実験的に確認された場合には、室温超伝導という夢の技術が現実のものとなるかも知れず、期待が膨らむ。電気抵抗ゼロの状態で電流を回し続ける画期的なエネルギー貯蔵技術や送電網の超低損失化、超伝導リニアなどの磁気浮上式移動システム、超高効率電子デバイスの実用化など、室温超伝導の実用化が社会に及ぼすインパクトは計り知れないものがある。


生み出された「金属水素」、さて何の役に立つのか?

 理論物理学が存在を予想していた「金属水素」が、ハーヴァード大学の2人の研究者の研究により現実のものとなったようだ。物理学者たちは、80年以上前から金属水素の存在を証明しようと試みてきた。水素に非常に高い圧力をかけることで生成されるとされる金属状の水素は、理論上、エネルギーとして転換点となりうる性質をもっているとされている。

 数多くの理論や実験がなされてきたが、水素分子が金属として振る舞うことを証明できた者は誰もいなかった。しかし、いま、ハーヴァード大学の2人の研究者が、この企てに成功したようだ。実験により証明されたばかりだが、その詳細が『サイエンス』で発表されている。

 研究の著者たちは、ユージン・ウィグナーとエルズワース・ハンティントンの理論研究へと立ち戻った。2人の物理学者は、20世紀前半に、高圧条件下、つまり約25GPa(ギガパスカル)で、水素分子(H2)が金属原子(H)に変化するという仮説を立てた。近年、さまざまな実験が、2人の計算が完全に間違っていたことを証明したが、水素に圧力をかけて金属に変化させるというアイデアそのものは決して退けられることはなかった。

 論文筆者のランガ・ディアスとアイザック・シルベラは、混合物を-268℃の温度にして、ウィグナーとハンティントンが理論化した圧力の20倍の圧力、495GPaをかける実験を行なった。そして、分光法による測定によって、標準的な水素分子が別々の金属原子に分離したことが記録された。

 しかし、まだ多くの問題が未解決のままとなっている。特に、推定される金属水素の状態に関する要件がそうだ。論文筆者たちは、元素の金属相が恐らくは固体状態にあると推定している。しかし、この状態と液体状態を判別できる実験的証拠は何もない。もし固体状態の金属水素が得られれば、そのとき、この物質の相の変化が実証されるだろう。

 「この30年の間に、超高圧研究の分野において、実験室での金属水素の作成に関して数多くの発表がありました。しかし、全てその後否定されました」と、エディンバラ大学物理天文学部のユージン・グレゴリアンツは公式声明のなかで説明している。彼は昨年、理論物理学の予想する水素の純粋な原子・金属状態の作成に近付いた。著者のディアスとシルベラは語る。「この目標にたどり着いたいま、次の挑戦は、さまざまな温度での水素の安定性をテストすることと、大量につくり出すことのできる方法が存在するかを調べることでしょう」

 金属水素は高い温度で超流動、超電導だと推測されている。そして通常の水素より密度が高いので、一度通常の形に変わると、莫大な量のエネルギーを生み出すことができるとされている。一般的な液体水素より5倍効率的な推進剤となるほどだ。しかし、その能力を全てテストするには、まだ時間がかかる。(WIRED 2017.02.14 )


参考 マイナビニュース: ハーバード大、「金属水素」の生成に成功


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