社会生活をする昆虫たち 

 社会生活をする昆虫にはシロアリ、アリ、スズメバチ、マルハナバチ、ミツバチ、ハリナシミツバチの類がいる。これらの昆虫では、集団をつくり、そのなかに階級を生じ分業が行われる。階級の分化や分業の程度は昆虫の系統的位置とはあまり関係がない。

 社会性の発生は母虫が子虫を哺育(ほいく)することから始まり、母虫の寿命の延長とともに大家族が形成され、ついで巣内の個体間に分業が生じたものであろう。ハチ類には孤独性の種類、単に集団をつくる種類、分業を生じた種類、形態分化がおこり階級を生じた種類があり、社会性の進化をうかがうことができる。

 社会性昆虫は階級の分化によって形態や習性の異なる社会的多形が生じ、普通は女王(雌)、雄(王)、働き虫に分けられるが、アリ、シロアリではこれに兵虫があり、シロアリではさらに副女王、副王という代用生殖者の階級がある。また、アリのなかには働きアリと兵アリの間に中間型をもつものがある。



 2016年2月、北海道大学の長谷川 英祐准教授らの研究チームは、アリのコロニーで、普段働かないアリと、働くアリがいるのはなぜなのかを研究。そして、普段働かない昆虫がワーカーが、他の全てのワーカーが疲れて働けないときに代わりに働くというシステムと、全員が一斉に働くというシステムを、疲労の存在下でどちらが長く存続するかを比較した。

 疲労が存在しないときには、2つのシステムの存続時間に差はなかったが、疲労が存在すると、働かないワーカーがいるシステムの方が長続きした。こうなるのは,普段働くワーカーが疲れて働けなくなるときに、疲れていない普段働かないワーカーが、誰かがこなしていないとコロニー全体が致命的なダメージを受ける仕事を代わりにこなすことで,危機的な瞬間を逃れることができるからだということが示された。

 今回、東京大学の研究グループが、働きアリが卵や幼虫など幼く脆弱な子供と同居させると、本来の活動リズムをなくし、24時間働き通しになることを明らかにした。同成果は、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 修士課程 藤岡春菜氏、岡田泰和助教、国立情報学研究所/JST ERATO 阿部真人特任研究員らの研究グループによるもので、2017年2月1日付けの英国科学誌「Biology Letters」に掲載された。


 卵や幼虫を世話する働きアリは24時間活動し続ける

 ヒトを含めた地球上のほぼすべての生き物は、体内時計(概日リズム)を持っている。概日リズムは、光などの環境要因の影響を受けやすいが、子や他個体など社会的な要因にも影響を受け、ヒトだけでなくイルカ、シャチなどでも、生後間もない子を持つ親は活動パターンを変え、昼夜問わず育児をすることが知られている。

 また、アリをはじめとする社会性昆虫では、幼虫などの未成熟個体は自力ではエサをとったり、カビや病原菌から身をまもったりできない脆弱な存在で、手厚い育児が必要となる。しかし、家族や仕事といった社会環境をアリがどの程度認識し、働き方や時間の使い方をどう決めているのかは、これまでよくわかっていなかった。

 今回、同研究グループは、アリに卵・幼虫・蛹という異なる成長段階があることに注目。沖縄産のトゲオオハリアリを用い、成長段階の異なる個体を養育することで、働きアリの活動時間が変化するかどうか、動画とコンピュータ解析で自動的に個体の位置を取得する自動追尾システムを開発し、働きアリの活動量、活動時間を定量化することで調べた。

 この結果、トゲオオハリアリはもともと昼行性だが、卵や幼虫を世話する働きアリは昼行性から24時間活動し続けるようになる一方で、蛹を世話する働きアリは昼間活動性のままであることが明らかになった。同研究グループはこの違いについて、蛹には餌を与える必要がないことや、蛹は繭に包まれており、病原菌などから守られているため世話があまり必要ないことが要因であると考察している。

 今回の実験は、1匹のアリを1匹の子とペアにするものだったが、同研究グループは今後、自動追尾システムを活用・発展させることで、さまざまな個体と仕事内容が混在する実際のコロニーに近い状況において、働きアリたちがどのように育児を分担し時間と労力を割り振っているのかを調べていく方針だ。


 驚異のアリ世界

 昆虫は世界で100万種以上が知られている。この時点であらゆる生物の中で最大の一群だが、実際にはさらにその数倍は存在すると言われている。このうち約2万種がアリのなかまだという。

 種というのは生物を認識する重要な単位で、基本的に種が異なれば、姿形や生活環境、習性が異なる。昆虫の場合、それが100万種も200万種も存在するのだから、それだけの数の生活があるということだ。そして、その莫大な多様性の結果として、私たちヒトが思いつくような行動、文化的な行いは、たいてい昆虫のどれかが行っているという事実がある。

 そもそもアリとはなんだろうか?実はアリはハチのなかま。翅を失ったハチが歩行という手段でさまざまな生息環境に適応し、地球上のあちこちに繁栄していった。

 世界に2万種以上のアリがいるとされていて、しかも、生物量というのだが、生物すべてをかき集めた重さが、ある地域では、全脊椎動物、すべての哺乳類やトカゲよりも、圧倒的にアリのほうが多いことがわかっている。

 とくに熱帯の森林ではそれが顕著で、実は熱帯の森林はアリに支配されているといっても過言ではない。そのような環境では、アリはさまざまな生物の捕食者であり、同時にそれぞれの巣が強固ななわばりを持つ強い存在だ。


 農業をするアリ

 さて、ヒトの文明を支える文化的な行動の一つに農業がある。もともとは狩猟採集を糧としていたヒトですが、約8000年前に農業を開始し、いまや地球上の大部分のヒトが農業にたよって生きているといっても過言ではない。その農業だが、実はアリのなかには明らかに農業としか言いようのない行動をとるものがいる。

 よく知られているものにハキリアリというアリがいる。ハキリアリは植物の葉を刈り取り、巣に運びこみ、巣の中で葉をかみ砕いて発酵させ、そこに菌を植え付ける。

 そして、そこに生じたキノコ状のものを餌としている。しかもハキリアリは、ほかの雑菌が繁殖しないよう、体に共生する菌が出す抗生物質のようなものを畑にまき、自分たちの餌となる菌だけが育つようにしている。餌となる菌は その抗生物質で死んでしまうことはない。

 ここで思い浮かぶのは、われわれ人間が、畑に雑草を枯らす除草剤を散布し、その除草剤に耐性のある作物を植えるという農法だ。環境に負荷をかけるなど問題もあるが、人が近代に入ってようやくたどりついたのが、この方法。それをハキリアリは何千万年も前から行っていて、しかも自身にも自然にも問題なく完成された形でやっているのですから驚きである。


 牧畜をするアリ

 また、アリのなかまには牧畜をするものもいる。ミツバアリというアリは、地下でアリノタカラというカイガラムシのなかまを牧畜する。アリノタカラはミツバアリの巣のなかで地中に張り出した植物の根から汁を吸う。アリノタカラはセミと同じカメムシ目に属するので、セミが木の汁を吸う様子を想像してみよう。

 植物の根は栄養が豊富で、アリノタカラは余分な栄養分、とくに糖分をおしっことして排泄する。実はミツバアリはこのおしっこを唯一の栄養源として生活している。いわばヒトの乳児が母乳に100%依存しているのと同じだ。

 アリノタカラもミツバアリの用意した巣の中でしか生活できず、危険が迫るとミツバアリに運んでもらう。つまり、両者は切っても切れない共生関係にある。

 アリの巣は規模が大きくなると、翅のある雌アリと雄アリが出てくる。ある季節になるとこれら翅のあるアリが巣から飛び出し、ほかの巣の雄アリや雌アリと交尾し、交尾後に雌アリが一匹で巣を作り、新女王となる。

 ミツバアリの場合、雌が巣から飛び出すときに一匹のアリノタカラを咥えて飛び立つ。新女王はこの一匹のアリノタカラを増やして、新たに牧場を作る。この1頭のアリノタカラは、まさに嫁入り道具といってよい。


 奴隷制を採用するアリ

 生物の一番の目的は自分の子孫をいかに多く残すか、いかに効率的に残すかということ。そのときに一番手っ取り早いのは、他人に寄生して、栄養分などを得る方法である。

 アリの場合も、巣が丸ごと他のアリの巣に寄生することがある。それを社会寄生というのだが、その方法はアリによってさまざまである。

 一番顕著な方法は奴隷制。サムライアリの働きアリは夏の暑い日になると、クロヤマアリの巣に集団で侵入して、クロヤマアリの蛹や幼虫を奪っていく。そしてサムライアリの巣の中で成虫になったクロヤマアリは、自分がサムライアリの巣の仲間だと思って働いてしまう。サムライアリの場合、自分で餌をとることも食べることもできない。ただクロヤマアリの巣から蛹を奪うことだけが仕事なのだ。


 化学物質でコミュニケーション

 アリというのは基本的に目があまりよく見えない。しかし、外でも真っ暗な巣の中でも、仲間どうしで交信しあって、上手く集団生活を行っている。それはどのようにやっているのだろうか。

 最近では音も使うことがわかっているが、アリは化学物質を出すことによって、それが言葉となる。体中のあちこちにさまざまな化学物質を出す分泌腺があって、それを言語のように扱って、敵が来たことや幼虫がいる場所など、仲間どうしでやりとりしている。

 アリの巣は基本的に他の生物を寄せ付けない。同じ種のアリでも、巣が違えばなわばりを争う敵である。しかし、アリの巣の中にはさまざまな生物が居候していることがある。

 たとえばアリヅカコオロギはアリに気付かれずに餌を奪う。アリスアブというハエの幼虫は巣の中で平然とアリの幼虫を食べてしまう。クロシジミというチョウの幼虫はアリから口移しに餌をもらって生活する。

 いずれも化学物質をアリが使っているものに似せることによって、アリに気付かれずに巣の中で生活している。

 アリとキリギリスの話のように、アリの巣は安全で餌がたくさんあって、上手く入り込んでしまえば天国のような場所なのだろう。しかし、アリにとって、こうした昆虫の存在はほとんど意味がないか、迷惑な存在だ。まさに居候といえるだろう。


 アリは人間社会の鏡

 アリに関する面白い話は尽きない。アリの社会というのはヒトでいう家族のようなもので、ヒトの社会とは異なるが、観察すればするほど、ヒトの社会の鏡に見えることがある。農業のような文化的に見える部分はもちろん、今日話した奴隷制などもそうだ。

 そんなとき、ヒトが起こすさまざまな問題も自然の成り行きによるものではないかと考えることがある。もちろん、ヒトには理性がありますから、さまざまな問題を解決していかなくてはいけない。そのときに虫を見て、生物たるヒトの行動の本質がわかれば、少しは客観的に問題の実態について理解できるのではないかとも思う。今日はアリだけの話をしたが、身近な昆虫全般にもまだまだ面白いことがたくさんある。これから虫がたくさん現れる季節になるが、みなさんも身近な昆虫をじっくりと観察してみてみよう。きっと面白い発見があるだろう。


参考 マイナビニュース: 卵や幼虫を世話する働きアリは24時間活動し続ける


アリの社会: 小さな虫の大きな知恵
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