自然界で最強の毒素は?

 ボツリヌス菌のつくる「ボツリヌス毒素」の致死量は体重70kgのヒトに対しA型毒素を吸入させた場合、0.7〜0.9μgと考えられており、1gで約100万人分の致死量に相当する(ちなみに青酸カリは経口投与の場合5人/g)。自然界に存在する毒素としては最も強力である。

 ボツリヌスの語源はラテン語のbotulus(腸詰め、ソーセージ)であり、19世紀のヨーロッパでソーセージやハムを食べた人の間に起こる食中毒であったためこの名がついた。ハムやソーセージに発色剤として添加される硝酸塩は、発色作用よりもボツリヌス菌の繁殖を抑える目的で使用されている。1896年、ベルギーの医学者エミール・ヴァン・エルメンゲム (Emile van Ermengem) により発見・命名された。

 ボツリヌス菌が作り出すボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン)は毒性が非常に強く、約0.5kgで世界人口分の致死量に相当するため、生物兵器として研究開発が行われた。炭疽菌を初めとする他の生物兵器同様、テロリストによる使用が懸念されている。



 ボツリヌス症は、ボツリヌス毒素を含んだ食物を食べることで起こる。傷口にボツリヌス菌が感染して起こることもあるが、それほど多くはない。 腸管外科手術後や大量の抗生物質を服用し腸内細菌が著しく減少している場合は発症しやすくなることがある。

 今回、東京・足立区の生後6か月の男の子が、離乳食として与えられた蜂蜜が原因と見られる乳児ボツリヌス症で死亡した。乳児ボツリヌス症の死亡例は全国で初めてで、東京都は1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないよう注意を呼びかけている。


 乳児ボツリヌス症で全国初の死亡例 蜂蜜が原因か

 死亡したのは東京・足立区の生後6か月の男の子。東京都によると、ことし2月、都内の医療機関から「入院している男の子に神経症状が出ていて、離乳食として蜂蜜を与えられている」と保健所に連絡があった。男の子はけいれんや呼吸不全などの症状が見られ、3月30日に死亡した。

 男の子は発症する1か月ほど前から離乳食として蜂蜜を混ぜたジュースを与えられていて、男の子の便と自宅に保管していた蜂蜜からボツリヌス菌が検出されたという。

 保健所は3月7日、男の子の死因は乳児ボツリヌス症と断定した。乳児ボツリヌス症は、腸内の環境が整っていない1歳未満の乳児だけに見られ、東京都は1歳未満の乳児には蜂蜜を与えないよう注意を呼びかけている。

 蜂蜜には「1歳未満の乳児には与えないで下さい」と表示があったが、離乳食を与えていた家族は把握していなかった。「栄養があると思った」と話したという。

 ボツリヌス毒素について研究している東京農大の丹羽光一教授(病態生理学)によると、菌は土や川など自然界に広く存在。成人でも辛子レンコンなどでの食中毒が報告されている。蜂蜜の場合、酸素が苦手な菌が自分を守るために殻を作り出した「芽胞(がほう)」という形態で存在し、低酸素状態になると発芽して強い毒を出す。121度で一定時間加熱すれば死滅するとされるが、家庭の調理では難しい。1歳までは腸内の菌の種類が大人と違い、消化吸収の機能も未熟なため、腸内で増殖しやすく、重症化すると呼吸困難や呼吸停止に至ることもあるという。 (朝日新聞デジタル 2017年04月11日 04時01分)


 1歳未満の乳児がハチミツを食べてはいけない理由

 ボツリヌス症はボツリヌス菌 Clostridium botulinum が産生した菌体外毒素の摂取により発症する。ボツリヌス菌はグラム陽性、偏性嫌気性の芽胞菌で土壌や湖沼の泥の中で育ち、菌のいる土壌に生える植物は芽胞で汚染される。

 ミツバチは芽胞の付着した花粉を運ぶので、しばしばミツバチは芽胞で汚染され、ハチミツもまた汚染されることになる。また、いろいろな芽胞により汚染された植物を食べることによって、芽胞から感染する可能性があるが、通常は大腸の正常細菌叢により増殖できない。

 ボツリヌス症には食品の中で増殖した菌の産生したボツリヌス毒素によって起こるボツリヌス食中毒、乳児の大腸で増殖した菌が産生する毒素によって起こる乳児ボツリヌス症、深部の傷にボツリヌス菌が感染し産生する毒素で起きる創傷ボツリヌスの3病型がある。

 通常のボツリヌス症は汚染された缶詰や真空パックの保存食を食べることによって起こり、潜伏期は12~36時間。乳児ボツリヌス症は生後3週~6ヶ月の乳児に見られる。1歳を越えると、正常な大腸細菌叢が形成され、発症しなくなる。


 症状と経過と原因

 ボツリヌス症は神経麻痺症状が主で、対称性に麻痺が起こり、呼吸筋の麻痺にまで進行することがある。突然の発症から、数日かかって徐々に発症する場合もある。

 乳児ボツリヌス症はボツリヌス芽胞を摂取し、腸管内で産生された毒素による発症で潜伏期間が3~30日と長いのが特徴。原因として菌または芽胞に汚染されたハチミツを飲み込むことで起こる。初期に便秘、活気がない、哺乳不良、泣き声が弱い、さらに筋緊張性低下、よだれが多い、首のすわりが悪くなった、眼球運動の麻痺、無呼吸などがでてくる。

 疑わしい場合、食品、便、血液からボツリヌス毒素を検出することで診断がつく。(衛生研究所に検査を依頼)

 治療としては、呼吸筋麻痺を起こすことがあるので、呼吸管理が必要。ボツリヌス多価抗毒素血清を過敏症がないことを確かめて、できるだけ早期に投与する。

 内閣府食品安全委員会によると、菌が土ぼこりなどで巻き上げられてハチや巣箱につき、混入するとみられる。過去には、自家製の野菜スープや井戸水が感染源とみられる例も報告され、コーンシロップや缶詰も混入の可能性があるとされる。


 「常識」が変わることもある

 とは言え、はちみつにボツリヌス菌が混入しているなんて、一般にはあまり知られていないのではないだろうか?

 業界団体の一般社団法人「全国はちみつ公正取引協議会」の担当者は「蜂蜜に関する注意をラベルに表示する義務はないが、表示している業者が大半。さらに周知徹底していきたい」と話した。

 離乳食に蜂蜜を使わないことは母子手帳にも書かれ、乳児健診でも指導されている。ただ料理情報サイトには、蜂蜜を使った離乳食レシピも。投稿形式の大手サイト「クックパッド」(東京都渋谷区)では4月10日現在、「ハチミツ」「離乳食」で検索すると100件以上表示され、中には離乳食初期用としての投稿もある。同社では、問題があると判断したレシピは投稿者に連絡し、非公開にすることもある。投稿者が「蜂蜜は1歳以上から」などと書いていない場合は、注意点について書かれたリンクを末尾に貼るなどしていたという。4月9日にはサイト上で改めて注意喚起した。

 厚生労働省も4月7日、改めて乳児に蜂蜜を与えないよう通知を出した。同省は1987年に、1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように求める通知を出していたが、子育て経験者でも、世代によっては知らない人も多いようだ。

 祖父母と親世代の子育ての「常識」の違いについての著作がある小児科医、森戸やすみさんは「子育てでは、以前やっていたことがだめとされていることもある」と指摘する。例えば、今は口うつしで食べ物をあげると虫歯菌がうつるとされ、うつぶせ寝も突然死のリスクがあるとされる。「かつてたまたま大丈夫だったとしても、その後の研究で危険性がわかったこともある。子育てに関わる人は、行政など信頼できる機関が出した最新の情報を見てほしい」


参考 THE HUFFINGTON POST: はちみつ食べ乳児ボツリヌス症で死亡 危険な食品ほかにも


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