月とは異なる火星の衛星

 火星の衛星は、フォボスとダイモスである。地球の衛星である月とは似ても似つかないいびつな形の衛星だ。これらは小惑星が火星の重力場に捕獲されたものだと考えられているが、はっきりしたことはまだ分かっていない。

 火星の表面から見るフォボスとダイモスは、地球の衛星である月の運動とは非常に異なっている。フォボスは西から上って東へ沈み、11時間後に再び上る。ダイモスは火星から見た静止軌道のわずかに外側を回っており、東から上るがその運動は非常に遅い。ダイモスの公転周期は30時間だが、西の地平線に沈むまでには2.7日もかかる。これはダイモスの公転が火星の自転から少しずつ遅れるためで、平均して約5.4日後には再び上る。

 どちらの衛星も火星の潮汐力によって自転と公転が同期しており、常に火星に同じ面を向けている。フォボスは火星の自転よりも速く公転しているため、潮汐力によってフォボスの軌道半径はゆっくりと、しかし確実に小さくなっている。未来のある時点でフォボスはロッシュ限界を超え、潮汐力によって破壊されると考えられる。火星の表面に残る多くのクレーターは、過去にフォボスのような小さい衛星がいくつかあったことを示唆している。一方ダイモスは軌道が充分に遠いため、その公転軌道はゆっくりと遠ざかっている。



 火星の赤道付近から見てフォボスの角直径は8分(出没時)から12分(天頂付近)で、地球から見た満月の3分の1ほどの大きさである。赤道から離れたところからはさらに小さく見える。また極付近からは地平線の下に隠れて見えない。ダイモスの角直径は約2分で、地球から見た金星よりわずかに大きい程度である。

 今回、火星や太陽系の成り立ちに迫ろうと、火星の周りを回る2つの衛星「フォボス」と「ダイモス」に探査機を送り込み、表面にある物質を採取して地球に持ち帰ろうという世界でも初めてのプロジェクトに、日本とフランスが協力して挑戦することになった。

 火星の周りを回る2つの衛星「フォボス」と「ダイモス」は、火星とどのような関係で生まれたのか解明されておらず、表面にある物質の成分を調べれば、火星や太陽系の成り立ちを探るヒントを得られるのではないかと考えられている。

 このため、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、「フォボス」と「ダイモス」に探査機を送り込み、表面にある物質を採取して地球に持ち帰ろうという世界でも初めてのプロジェクトに、フランスと協力して挑戦することになった。


 日本の火星衛星探査計画でフランスと協力

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)とフランス国立宇宙センター(CNES)は4月10日、JAXAが進めている火星衛星サンプルリターンミッション(MMX)に関して協力する取り決めに署名した。日本の火星探査計画にフランスが参加する格好だ。

 MMXは先のニュース記事の通り、探査機が火星の衛星「フォボス」「ダイモス」に接近して観測した後、着陸してサンプルを採取、地球へ帰還する、JAXAの計画だ。なおMMXのWebページにある説明では「フォボス」に着陸するとあるが、現時点では「ダイモス」の可能性もあるとのこと。現在の予定では、MMXの打ち上げは2024年9月。往復それぞれ1年弱の飛行と火星での3年間の観測を経て、2029年9月に地球へ帰還する。成功すれば、火星衛星からのサンプル回収は世界初となる。

 JAXAの奥村直樹理事長は、MMXを含む太陽系探査の目的は「地球生命がなぜ誕生したのかを解き明かすこと」と説明した。また今回の署名式のために来日したジャン=イヴ・ル・ガルCNES総裁は「宇宙大国はいずれも火星探査に強い関心を持っており、MMXは今後10年間で最も重要なミッションだ」と語った。

 JAXAの説明によれば、MMXが解き明かそうとしているのは地球にどうして水があるのか、という太陽系の謎だ。太陽系のうち火星より内側の惑星は太陽に近いため、誕生時に乾燥してしまったと考えられる。そのあと太陽系の外側から水がもたらされた痕跡が、火星の衛星「フォボス」「ダイモス」に遺されている可能性が高い。

 フランスのCNESは彗星探査機「ロゼッタ」と、搭載された着陸機「フィラエ」による探査をした経験がある。この経験を活かし、MMXが火星衛星へ接近するための軌道計算と、MMXに搭載する小型着陸機の開発、そして水分を正確に計測できる近赤外線分光計(赤外線カメラ)の開発でJAXAに協力する。彗星も地球に水をもたらした可能性のある天体で、「ロゼッタ」「フィラエ」とJAXAのMMXは、太陽系の水の謎を解き明かす壮大な研究の一環だ。

 フランス宇宙天体物理学研究所(IAS)のジャン=ピエール・ビブリング教授は「今日はフランスの科学者にとって歴史的な日だ。これから10年間、最も野心的な火星探査計画に日仏の科学者と技術者が取り組むことになるだろう。太陽系の惑星の研究は革命的に進みつつある」述べた。


 フランスのセンサー技術と日本のサンプルリターン技術

 ビブリング博士によれば、探査機のセンサーは予定通りの観測ができる性能だけでは不足だという。目的の天体に到着して観測を開始すると、それまでとは全く別の新しい疑問が生まれてくるので、それにも対応してチャレンジを乗り越えられる観測機器を開発しなければならないというのだ。フランスはこれまでの装置とは原理が異なる、小型で画期的な性能を持った分光計を新たに開発してMMXに搭載する。

 またビブリング博士は、MMX計画での協力は「科学にとどまらず、日仏両国が模範とするべきだ」と述べ、「多くのフランス人を日本が受け入れ、多くの日本人をフランスに迎えて仕事をしたい。…大学院生の科学研究でも協力を深めたい」と、MMXが日仏両国の幅広い協力関係につながることについて、情熱的に語った。

 JAXA宇宙科学研究所(ISAS)の常田佐久所長はMMX計画を「JAXAの宇宙探査が大きく変わる」転換点だと語った。

 小惑星探査機「はやぶさ」に代表されるこれまでのJAXAの宇宙探査は、「メイドインジャパン」の技術で宇宙探査をやり遂げようとするものだった。しかしMMX計画では「日本製にこだわらず、世界で一番良い機器を搭載する」方針に転換した。日本の呼び掛けにフランスが応じ、最新技術を使ってMMX計画に参加するのは、日本の宇宙探査技術が認められた証だ。フランスにとっては「ロゼッタ」「フィラエ」に続く太陽系探査計画を日本の探査機に預けることになるからだ。

 日本の技術で宇宙探査ができることを証明してきたこれまでの計画から、日本が独自に計画し世界が参加する国際宇宙探査へ。MMX計画へのフランスの参加は、日本の宇宙探査が次の段階へ進むことを象徴する出来事と言えるだろう。


 MMXとは何か?

 MMX(Martian Moons eXploration)は、2020年代前半の打上げを目指している火星衛星探査である。

 火星は、フォボスとダイモスと呼ばれる2つの衛星を持っています。MMXは、地球から打上げ後、約1年をかけて火星圏に到着し、火星周回軌道へ投入される。その後、火星衛星の擬周回軌道(QSO: Quasi Satellite Orbit)に入り、火星衛星観測・サンプル採取を行う。観測と採取を終えたMMXは、サンプルを携えて地球に帰還するというシナリオを描き、検討を行っている。

 MMXの探査によって、火星圏への往還技術や天体表面上での高度なサンプリング技術、さらには深宇宙探査用地上局を使った最適な通信技術と、これからの惑星や衛星探査に必要とされる技術の向上も期待される。また、火星衛星の起源や火星圏(火星、フォボス、ダイモス)の進化の過程を明らかにし、太陽系の惑星形成の謎を解く鍵を得ることができると考えられる。

 『生命に至る惑星等の起源と進化を知ること』は重要な科学目標。そのために、生命を持つ地球と似た表層環境をかつて保持していた火星は重要な探査対象である。

 火星衛星には、数十億年に渡って火星から放出された堆積物が存在し、それらを観測することで火星表層の進化の情報も得ることができる。もし火星衛星が巨大衝突によって生じたものならば、火星の起源物質や形成過程を理解できるし、小惑星捕獲によるものならば、地球型惑星の揮発性成分(水など)などの運搬過程が明らかになる。

 つまり、火星衛星探査は、単に衛星を知ることだけでなく、今後の惑星科学の中で重要な意味を持っている。

 現状は2024年打上げ、2025年火星周回軌道投入、2029年地球帰還を想定している。

 火星の衛星が小惑星が捕獲されたものなのか、火星への大激突によって生じた破片が集積し形成したものなのかを明らかにし、火星そして地球型惑星の形成過程に対する新たな知見を得ること、火星衛星および火星表層の変遷をもたらすメカニズムを明らかにし、火星衛星を含めた”火星圏”の進化史に新たな知見を与える。

 MMXチームでは、火星衛星の起源や火星圏の進化史について調べるために、以下のような観測機器を考えている。

ガンマ線・中性子分光計:地下の物質分布、特に氷が存在の有無を調査
広角分光カメラ:7つの画像センサを用いて、7色の画像を同時に取得
近赤外分光計:表層の水分子や水を含む鉱物を観測 
望遠カメラ:20 km離れたところから40 cmの岩石を見つけることが可能
レーザ高度計:表面の凹凸を調査
ダスト計測器:ダストが浮遊しているかを観測
イオンエネルギー・質量分析計:衛星周辺の粒子を調査


参考 JAXA: 日本の火星探査計画でフランスの機関と協力

人類を火星に!火星探査の時代―NASAの最重要ミッション (ニュートンムック Newton別冊)
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